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天才計算術師オイラー

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\begin{document}

\title{天才計算術師オイラー}

\date{}

\maketitle

 

 

 複雑な級数を第17項まで計算した二人の学生の答が、小数点以下50桁目だけが違っていた。やむなく師匠のレオンハルト・オイラーが暗算で検算したという。暗算?そう、オイラーは若い頃右目を失明し、59歳の時に左目も白内障で失って全盲だったのである。

 

 1909年、スイス自然科学協会は、500ほどもあると言われるオイラーの全論文・著作を集めて全集として刊行する計画を立てた。ところが調べてみるとペテルスブルグから新たに400のオイラーの著作があらわれ、予定はすっかり狂ってしまった。恐るべき多作なのである。1年平均800ページ。数学者の著作としては桁外れなのである。並の数学者の一生分以上を毎年書きまくっていたことになる。しかもそのペースは全盲になった後の17年間も変わることがなかった。

 

 1707年、スイスのバーゼルに生まれたオイラーは当時最高の数学者であったベルヌーイにその才能を見いだされた。カルヴァン派の牧師であった父親は自分の跡を継がせたがったが、ベルヌーイに説得されてオイラーが数学者の道を進む事を認める。20歳の時ペテルスブルグ王立学士院に職を得て、以後死ぬまでここから給料をもらい続ける。1740年から1766年までの間はプロシア王フリードリヒのベルリン王立学士院に滞在するが、その間もロシアからの給料が途絶えることはなかった。1760年ロシア軍がブランデンブルクに進軍してオイラーの農園を略奪した際も、ロシア将軍及び皇后エリザベートは損害額以上の賠償金及び見舞金を送っている。

 

 オイラーの数学的業績は、あまりに多くてここに書き尽くすことが出来ない。あらゆる数学の分野に手を染め、一旦手を付けたからには必ず素晴らしい結果を得た。フェルマーの最終定理の$n=3$の場合を解決し、無限級数の美しくて不思議な公式

$$\frac{1}{1^2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\frac{1}{4^2}+\cdots=\frac{\pi^2}{6}$$も発見し、$e^{ix}=\cos(x)+i\sin(x)$ という有名な公式も見つけた。因みに、$\pi$も$i=\sqrt{-1}$も$e$も$\sin$も$\cos$も全てオイラーが発明した記号である。それまで秘術とされていた計算術がオイラーの著書によってヨーロッパ中に知られるようになり、みながオイラーの記号を使うようになったのである。

 

 オイラーの豊かな数学の源泉の一つは物理だった。古典物理を確立したニュートンが1727年になくなったばかりで、時代はまさにオイラーのようなアルゴリスト、つまり計算方法を見つけだす天才を必要としていたのである。意外なことに「$f=ma$」というニュートン力学の基本公式を初めて書き下したのはオイラーであった。ニュートンは全てを幾何の言葉で述べていたのである。オイラーはニュートンの物理学を幾何から解析に翻訳し、その道具によって次々と物理の問題を解決していく。変分法、剛体の力学、流体力学、音響学、航海術、船舶の設計。驚くべき事に、難解な式変形を必要とする月の運動の理論、今で言う三体問題(太陽と地球と月)、に史上初めて計算可能な近似解を与えたのは視力を失った後のオイラーだった。複雑な計算を全て暗算で行ったのである。

 

 オイラーによって新たに始まった数学の分野もある。曲率を発明して微分幾何学を生み出し、またトポロジー理論の先駆的研究を行っている。トポロジーでの成果は、「トポロジー・クエスト」をお読みいただきたい。また整数論の成果が「いまどきの暗号」で使われている。

 

 牧師にこそならなかったものの、終生敬虔なカルヴァン派の信者として過ごしたオイラーは、その数学力でもって神学にも貢献している。フランスの哲学者ディドローがペテルスブルグを訪れ、廷臣達に無神論を吹き込んでいたので、女帝エカテリーナはディドローを追い払う役目をオイラーに命じた。「高名な数学者が神の存在の代数的証明を発表する」と聞かされたディドローはもちろんその場にやってきたが、オイラーはおもむろにディドローの前に立ち、重々しい声で宣言した。「$(a+b^n)/n=x$、故に神は存在す。これ、如何。」勿論この数式はでたらめで何の意味もないのだが、意味が分からず当惑したディドローはしどろーもどろーになり、その様子に場内は爆笑に包まれた。ディドローは真っ赤になってフランスに帰る許可を求め、エカテリーナはにっこり笑ってそれを許したそうである。

 

\end{document}

 

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