目次

  序文           2

 第1章 現状分析     3

 第2章 問題点      7

 第3章 政策       10

 第4章 事後的政策    12

 第5章 結論       14

 6章 スペシャルサンクス    15

 補論  EUの通貨統合  16

 参照・資料    17

  

序 文

 

 19977月1日歴史的な出来事として香港返還が行なわれた。香港をはじめ、アジアの諸国はその感動に酔いしれていたといっても過言ではない。

 ところがその翌日から、タイ・バーツの下落が始まった。それまで奇跡といわれ、「世界の成長センター」といわれたアジアの通貨危機は何が問題だったのか、98年、「ニューエコノミー論」まで出たアメリカ経済はこのまま不況の波に呑まれてしまうのか、ヘッジ・ファンドの活躍は世界の経済成長において、善なのか悪なのか、EUの登場は何をもたらすのか、そういったさまざまな問題がある国際経済の現状を論じる。

 そこで、この論文のヴィジョンを「国際資本移動に適した通貨体制の確立」とする。このヴィジョンをもとに、@、キャピタルフローの流れ A、アメリカ経済 B、アジアの通貨危機という問題の解決への政策とその後の世界経済の安定成長を促す体制作りを提言する。

 第1章では、現状分析として、近年ヨーロッパ、メキシコ、アジア、ロシアで立て続けに起こった通貨危機を、また、短期資本の流れをヘッジファンドと関連づけて論じる。さらに、メキシコとアジアの通貨危機を比較し、IMFの問題点をだし、そして、覇権国アメリカの現状とバブル崩壊後の日本とアジアの関係、通貨統一を目指すユーロの現状を論じ、その問題点浮かび上がらせている。

 第2章では、現状分析で明らかになった、固定相場、IMF、短期資本、エマージングマーケットの発展の問題点を明確化しその解決への道筋をつける。

 第3章では、第1章及び第2章から政策の方向性として、「キャピタルフローの拡大にともない、通貨危機の危険性が増大する国際経済を安定させ、安定成長を促す新国際通貨秩序を創造する。」それにそって、政策を出し、さらに第4章では、政策の事後的政策として、その政策の欠点を明確化し、第5章の結論につなげる。

 第6章では、はじかみとして(魚の焼き物についている赤い生姜のやつです、つまりおまけです)、参考文献や、われわれ毛馬内ゼミナールゼミ員がお世話になった人を紹介します。(アト、前期好評につき?ゼミ員紹介をします。)ちなみに6章は飛ばすことができます。っていうか暇な人は読んでください。

 なお、この論文の中心は第3章と第4章および第5章であるので、その他は飛ばすことができます。(できれば読んでほしいです。)そして、補論として、EUの通貨統合への分析を載せました。

 最後に、未熟なわれわれをご指導してくださった毛馬内先生にこの場を借りて感謝の意を表したいと思います。

  

第1章 現状分析

T 通貨危機、債務危機

@ 欧州通貨危機

マーストリヒト条約のデンマーク拒否により、ポンドやリラなどの不況の国々の通貨が大量に売られ、またドイツでは統一により、巨額の財政赤字を発生させ、インフレ圧力が高まった。このため、突然、金融引き締めを行い金利を上昇させた結果外貨が流入し、マルク高になった。不況の国々は、通貨を維持するには、金利を引き上げなければならないというジレンマに陥り、これが、機関投資家や、ヘッジファンドへの通貨投機に機会を与え、結果として、ポンドの離脱、北欧の変動相場制への変更、リラ切り下げが行われた。

この通貨投機は、EMUの安定をもとに、金利の安い国で資金を調達し、金利の高いリラなどに投資するコンヴァージェンス・プレイによるもので、EMUの信任が崩れると通貨投機が起こるのは明白である。

A メキシコ通貨危機

9412月後半、米ドルを中心とした短期資金が海外へ流出した。メキシコは82年の債務危機以降、積極的な経済改革を実施し「債務危機の優等生」と言われていたが94年には再び経常収支赤字が300億ドルにまで膨らみ、米国からの短期資本でそれを賄っていた。さらにメキシコ証券投資の過剰感が高まってきたうえ、94年は年初めから米国の金利上昇で資金が米国へ回帰していった。政治の面から見てもチアパス州での先住民組織との和平交渉への懸念など不安材料が出てきた。通貨当局は最終的に自由変動相場制への移行を余儀なくされた。

これを受け日欧米の主要国は融資を決め、更に米国による融資保障なども行われた。NAFTAにおける輸出の拡大もメキシコにとって救いとなった。

B アジア通貨危機

ドルとペッグしていたアジアは、実質固定相場制であった。この時には資金は、金利の高い国へと流れる。この資金をもとに、廉価で勤勉な労働市場という利点を生かし発展した。93年までは、企業の直接投資などの長期資本であったが、タイのオフショア市場の整備等から、短資資金が大量に流入した。またさらにタイでは、メキシコの通貨危機を受け、アメリカとの利子率の差を明確にするために利子率を高めに誘導したことも短期資本を流入させた。この資金が不動産投資などに廻り、バブルを発生した。また、94年の元の切り下げ、96年の円安、資産インフレや、賃金上昇など、実質実効為替相場の上昇により競争力の低下を招いた。そのため、タイで累積債務問題が表面化すると、短期資本の流出を招きそれが、外貨準備高を減少させ、ドル・ペッグが崩れた。更に、似たような状況にあった、マレーシア、インドネシア、フィリピン、韓国へと伝播した。

C ロシア通貨危機    

92年以来、エリツィン政権はインフレ抑制、極端な通貨発行制限を行った。その結果、GNP半減、税収低下、賃金支払いの延滞。さらに新興財閥は資本を海外へ逃避させ、国庫収入は激減し、財政赤字は拡大していった。そこでロシア政府は短期国債の増発で赤字をファイナンスしていた。その債務は返済能力を大きく上回るところまで膨らみ、投資家は大量の債券、ルーブルを売却した。

U 短期資本の流動性拡大 

 現状では、デリバティブなどの金融商品が開発され、資金の流動性と、その規模が大幅に増大している。(97年で取引残高は40兆ドル)それは、先進国がみな高齢化社会を迎え、個人が老後のために貯蓄をし、それが、資金の拡大へともつながっているといえる。(世界全体で20兆ドルともいわれている)また、ヘッジファンドや機関投資家などの存在により、通貨や株が投機の対象となって暴落をしている。その手法は、空売りであり、固定相場において、通貨が実質よりも高いと見れば、その通貨を空売りしその通貨の下げ圧力を高め、実際に下がれば、その通貨を安い状態で買いなおし、莫大な利潤を得ることができる。(逆にいえば、政府や通貨当局が買い支えしたとしても同じ値段で買い戻せば言い訳であるから損することはないのである。)代表的なヘッジファンドのジョージ・ソロス氏の会社、クウォンタムファンドでは、アジア通貨危機前は、年率16%前後だったのが、通貨危機後27%に跳ね上がった。また代表的なヘッジファンドのロング・ターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)も、ロシアの通貨危機で損失を出す前までは、配当は年率30%を超えていた。

 また、長銀株が一気に売られたのも外国投資家が空売りをしたからだといわれている。しかしながらアメリカでは、空売りをしても売ったときの価格でしか買い戻しできなくなっている。

V IMF機能の低下

 現状では、IMFの融資可能額が底をつきつつある。通貨危機の発生によってタイ、インドネシア、韓国、フィリピンなどへの融資額が膨らんだからである。(マレーシアは要請せず)また、アメリカでは、通貨危機を起こした国のモラルハザードを考え、IMFへの資金の支出を拒む意見も出ている。

 そのため、NAB,GABによる緊急融資が必要である。実際、アジア通貨危機では、先進国が資金を出し合った。また、日本は単独でアジアに資金援助をしたが、その資金には、コンディショナリティは採用されておらず、かならずしもIMF主導ではないのが、現状である。

 さらに、IMFのコンディショナリティへの疑問がある。中南米における債務危機、通貨危機解決におけるIMFの処方箋は成功したといえる。その理由は、@、中南米の債務は主にソブリンローンである、A、財政赤字である、B、貯蓄率が低い、という原因があり、それに対しては、金融セクターの健全化策、財政・金融政策による総需要抑制、さらに経常収支縮小は有効であるといえる。しかしながら、今回のアジア通貨危機では、短期資本は民間企業に投資されていた。さらに、財政は赤字ではなく黒字であったし、貯蓄率も高い。そうしたことを考えると、IMFのコンディショナリティは不適当であったといえるのではないか。この問題は第2章で述べる。

W アメリカ経済

 

 これまでアメリカ経済は、世界経済の中で「1人勝ち」の状態であった。景気低迷にあえぐわが国とは対照的に、アメリカはバブル景気に沸きたっていった。1991年頃から、経済は年率3%で成長し、株価も上がり続けた。それに伴い、10%前後で推移していた失業率は4%台まで下がり、大幅な赤字に悩んでいた財政は29年ぶりに黒字になった。

 長く低迷していたアメリカ経済の復活を疑うものはいなかった。日本やアジア各国をはじめ、世界的に経済が低迷する中、アメリカだけが“一人勝ち”の状態を続けていたのである。さらに、この状態が21世紀まで続くとする「ニューエコノミー論」まで登場した。

 確かにアメリカは大胆な規制緩和を実施したり、徹底的に政府支出を削減するなど、多くの犠牲を払いつつ努力を積み重ねてきた。また、情報通信分野をはじめ各産業が生産力を向上させたことも事実である。

 しかし、それらによって覆い隠されてはいるが実はアメリカは極めて大きな問題を抱えている。それは膨大な貿易赤字である。

 1985年以降、アメリカは毎年のように1000億ドルを上回る経常赤字を続けている。1998年には赤字額は2000億ドルにも達するであろう。その結果、対外純借金は1兆4000億ドルを超えると考えられる。これはあまりにも大きな数字である。

 普通の国ならここまで国際収支の赤字を放置しておくことは不可能である。輸出量を増やすなり、輸入量を減らすなりといった打開策が早々に取られるはずである。

しかし、アメリカの場合は違う。それはひとえに世界で唯一の基軸通貨がドルでありいまのところは世界から抜群の信頼を得ているからである。

 日本をはじめ、各国はこぞってアメリカへ輸出をしてドルを得ている。そして手に入れたドルをアメリカに投資している。こうしてアメリカから海外へ流出したドルはアメリカに還流し、株価を上昇させ景気の上昇に結びついているのである。

 つまりアメリカはドルのおかげで海外からいくらでも借金ができ、それを元にして海外からモノを買うことができる。一方、わが国をはじめ世界の各国は景気を低迷する中、アメリカへの輸出によってかろうじて経済を支えている。これが現状である。

 しかし、このような状況は、終焉を迎えつつあると考えられる。借りた金は返さなければならない。それが困難になるのではないかとの疑念が生じるとドルへの信頼は大きく揺らぎ、逆流をはじめる。それは各国に大きな影響を及ぼすことになるであろう。つまり、「アメリカ発・世界大恐慌」のはじまりである。

 また、メキシコの通貨危機では、アメリカがNAFTAによってドル圏参加への道筋を作ったために、その危機を最小限で押さえたといえる。さらに、メキシコ、カナダとその経済的、文化的つながりを考えると、アメリカ大陸においては、アメリカの経済力は発展に欠かせないといえる。

X 日本の不況

 「ルックイースト」というマハティール首相の言葉にあるように、アジア諸国は、アメリカにキャッチアップすることで、世界第2位の経済大国へとのし上がった日本を見本にしてきた。それは、まさに雁行形態の経済構造であり、輸出志向型の経済成長であった。しかしながら、比較生産費構造が同質化していなかったときは良かったが、日本がバブル崩壊をさせ、その動きを止め、さらに、中国などの低開発国(LDC)が急速に発展し、同質化すると、資本は、労働コストの低いところへと流れる。タイなどのアセアン諸国がこれから発展していくには、いかに比較生産費構造の転換をはかるかが課題になってくる。

 また当初、垂直貿易だった日本と東アジアの貿易も水平貿易に変わりつつあり、これからますます域内貿易が盛んになるものと思われる。そのためには、国内市場を整備し、内需の拡大がこれからのアセアンの課題であるといえる。

Y EUの登場

 ユーロは、92年の通貨危機やポンドの離脱などの問題を抱え、アメリカや世界第2位の外貨準備高を持つ中国などは当初冷ややかな態度を取っていたが、最近になって、その態度に変化が見られるようになった。それは、近い将来EUはドルの機軸通貨の立場を揺るがす通貨になるという考えである。また、EU参加に消極的だったイギリスも2002年ごろまでの統合への動きを見せており、その動向に注目が集まっている。

 EU参加国のGNPは、日本とアメリカを超える単一通貨経済圏となることと、さらに、旧フランス領である、アフリカのフラン圏もその域内に取り込まれることも含めるとその力は強大なものとなる。なお、EUについては補論で論じる.

 

第2章 問題点

 

T 固定相場の問題点

 通貨危機を起こしたアジアの国々は、ドルとペッグしていた。また、EUはリラなどの通貨はマルクとペッグしていた。(当初は、パリティー・グリッドであったが後にマルクペッグへと移行)つまり実質、固定相場だったわけである。では、固定相場の利点と問題点はどこにあるのだろううか。まず、利点は固定相場では(ここではドルペッグ、マルクペッグも含め)為替リスクが回避されること、ペッグしている国が低インフレならば、インフレを抑制することができることである。また、利子率が他の国よりも高ければ、資本が国内に流入してくる。固定相場においては資本が大量に流入してくるためにマネーサプライは上昇する。それにより、自国の利子率は下がるのである。しかしながら、アセアン諸国は、外資に依存した成長を取っていたため、利子率を海外(ここでは、アメリカ)よりも高く誘導していた。そのために、過剰流動性を引き起こしバブルを招いた。固定相場は、資金がさほど流入していない状況ではうまく機能するが、資本が大量流入したときには、逆効果になる。ここに問題点が存在する。(固定相場の問題ISLM分析参照)

 また、ペッグにしても、貿易相手国や競争国がアメリカならばさほど影響しないが、アジアにおいては、日本や中国などさまざまであり、ドルが相対的に高くなると輸出競争力は低下する。

 ユーロなどの域内貿易が盛んな国々ならば、固定相場制(通貨統合も含め)を採用することはメリットが多いが、比較生産費構造が同質化した状況ならば、そのメリットは消える。

 次に、固定相場において経常収支赤字がいかに為替通貨下落圧力を高めるかを論じてみたいと思う。ポートフォリオモデルによると、

e=g+1/θ〔(r−πe)−(rw −πew)〕−β/θ

e・名目為替相場、g・均衡為替レート、θ・為替レート調整速度、r・自国利子率、πe・自国物価上昇率、rw・世界利子率、πew・世界物価上昇率、β・経常収支

ここでβがマイナスになればなるほど、eとgが乖離する。乖離幅が大きくなり、自国の名目為替レートの先高感が生まれると、通貨売りが激しくなり、均衡為替レートを下回る、オーバーシュートを起こす。したがって、持続的で巨額の経常収支赤字は自国為替レートを維持する義務のある固定相場制においては、通貨危機を起こす可能性をはらんでいる。そのため固定相場制においては巨額の経常収支赤字は望ましくない。

U 変動相場制の問題点

 ミスアラインメント(中期的な均衡為替レートから大きく乖離すること)主に、経常収支の変動によって起こる。

 ボラティリティ(短期間に為替レートが乱高下すること)現状の日本の対米ドル・レート(一日に10%以上の変化をしていた)である。

 オーバーシューティング(過剰反応)為替レートがいったん上がると(下がると)市場が過剰反応し、大幅に変動する。具体例、96年の日本の円高、97年のアジア通貨危機などである。 

 まず、ミスアラインメントであるが、これはポートフォリオモデルを見るとわかるように、経常収支赤字が為替の下落圧力を高める。(特に、他の通貨にペッグしているとき下落すると、市場が過剰反応し、オーバーシュートするのである)また、短期間に為替レートが乱高下するのは、まさに今起きている事実であり、これは、機関投機家などによるところが大きい。

V IMFコンディショナリティの欠点

 IMFは最後の貸し手としての機能を持っている。通貨危機を起こした国々を支えることにより、国家のデフォルトを回避し、さらに世界経済の安定を支えてきた。

 中南米は先に見たように、財政赤字で貯蓄率が低いために、増税と歳出削減による財政赤字削減と高金利と信用収縮による金融引締めを行ったのは、


X−M=(S−I)+(T−G)  @

から考えると当然といえよう。しかしアジア危機においては、財政は黒字であり、貯蓄率も高い。したがって、『伝統的処方』でもって対応すると、経済が縮小均衡してしまう。そこでアジア通貨危機の場合は、


 X−M=Y−(++) ただしYは国内総生産  A

から、Yを上昇させるために、政府支出を上昇させればよいのではないだろうか。なぜなら、アジア通貨危機では、@式において民間投資超過であり、財政は黒字であるからであるため、A式においてG(政府支出)を拡大させることが可能である。Gを上昇させれば政府支出乗数を通じて、δY>δGとなり、経済を縮小均衡に向かわせずに経常収支を改善させることが可能となる。また、通貨危機による通貨切り下げから生じる貿易量と額(自国通貨での)の伸びは経常収支の改善にも期待できよう。

 現状分析でも述べたが、中南米とアジアの通貨危機は状況が違っている。政府債務と民間債務である。この点を考慮に入れるならば、融資条件であるコンディショナリティも若干変化があっても良いのではないだろうか。そのため、アジアにはアジアのアメリカ大陸にはアメリカの通貨基金が必要ではないだろうか。

W 国を破壊した短期資本

 中南米、アジア諸国でも資本移動により経済を発展させ、そして破綻させた。特に、ロシア、アジアと立て続けに起きた、通貨危機では、ヘッジファンドが大きく取り上げられた。短期資本を取り込むということ事態にその資金の足が速いということを考えなければならなかったのではないか。短期資本は、為替リスクやその国のインフレを考えた結果である。そこで、成長に陰りが見えたり、為替リスクが大きくなれば、その資本は流出するのは明確である。

 さらに、短期資本を有効に使っていたかという問題がある。アジアでは、不動産投資に資金が回り、バブルを招いた。また、中南米では、特に、メキシコでは、アメリカから流れた資金が逆流し、アメリカの不動産投資に回っていたという事実がある。特に、ロシアでは、国のGNPの40%をマフィアの活動がしめていること、さらに、企業のほとんどが納税していない、国民の5%に満たない「ニュー・リッチ」と呼ばれる新興裕福層が貯蓄の75%を占めていること、モスクワの周辺以外は、共産主義時代から比べて逆に衰退していることなど、とても短期資本を呼び込める状況ではなかったのではないかといえる。

 また、短期資金は足が速いために、利益を出しやすい重要産業への投資へ回るためにインフラの整備が遅れ、その結果として裾野産業の育成が立ち遅れたといえる。たしかに、外国資本なしでは、これらの国々は発展できない。しかしながら現状を考えると、短期資本を有効利用できる環境を整える必要はある。また、短期資本に関しても何らかの対策を講じなければならないのではないか。

X エマージングマーケット

 上で、ロシアの経済状況を述べたが、他の諸国ではどうだったのか、特に、エマージングマーケットと呼ばれる新興成長国を見てみることにする。メキシコなどの中南米はどうであろうか。メキシコは、80年代前半オイルマネーを使い急成長を遂げたに思えた。ソヴリンローンで政府債務をファイナンスしていた。しかしながら、レーガノミクスによる高金利政策によって、資金がアメリカへと移動した。ここで問題なのは、メキシコでは流れてきた資金がアメリカの不動産投資へと流れインフラ整備に使われなかった、または、有効活用されなかった。(すべてではないが半分近くが流れていた)これらのことはほぼ同じことがアジアの国々も含めすべての国にいえるのである。そういう反省点を考え、チリでは、資本規制を行い必要以上の資本の流入を防いでいる。流入してくる資本の30%を政府に無利子で預けなければならないのである。これによって投機色の濃い資本をブロックしているのである。

 新興国は入ってくる資本をすべて受け入れるのではなく必要な量だけを利用する手段を講じなければならないのではないだろうか。

 またさらに、インフラの整備と国内市場の開拓をどのようにしていくか。これにより、初めて安定した成長を望めるのではないだろうか。

 

第3章 政策

T 政策の方向性

 エマージングマーケットにおいては、資本は経済発展のためには必要である。しかしながら、その資本によって経済を破壊されたもの事実である。そこで、政策の方向性を「キャピタルフローの拡大にともない、通貨危機の危険性が増大する国際経済を安定させ、安定成長を促す新国際通貨秩序を創造する。」とする。これからはこれに沿った手段を講じたいと思う。

U 政策への手段

@ IMFの機能強化

 現在、IMFの機能は低下しているのは明白である。そこで、各通貨圏内、貿易圏内でのセーフティー・ネットの機能を持つ機関を創設する。アジア基金などがその具体例である。

A 相場制度の柔軟性確保

 固定相場において、資金が大量流入するとマネー・サプライは増大する。特にアジアでは、メキシコの通貨危機を受け、利子率を高めに誘導した。資本移動を促すために、固定相場を維持することは大切ではあるが、1国とのペッグは他国とは変動すること(つまりドルペッグにおいては、ドル高になればその国の通貨も円に対して高くなる)なので、実質実効為替相場は変動する。つまり、貿易相手国との通貨レートが他国の経済状況に依存せざるを得なくなるのである。そこで、通貨相場制度の柔軟性確保のため、アジアにおいては、将来的な変動相場制への移行を考え、通貨バスケット制をひき、円との加重ペッグを目指すべきである。

B 短期資本規制

 短期資本規制の手段としては、4つの手段が考えられる。トービン・タックスと、チリの準備金、マレーシアのような直接規制、ブラジルやタイのような課税方式である。つまり、為替取引きに0.05%0.1%の税金をかける方法と、チリのように必要以上の資本の流入を防ぐため、短期資金の30%を政府に準備金として無利子で納めなければならないという手段である。または、政府が銀行の外国為替取引や、居住者の外貨預金を直接規制を行う方法、これは日本が伝統的に行ってきた中央集中主義である。または、印紙税などの税金をかける方法である。

 トービン・タックスは、ヨーロッパやアメリカでは現実味を帯びて議論されているが、短期資本を必要としている国々の多くは、先進国ではなく発展途上国であることが問題である。またチリのように、短期資本を内側から規制し、安定成長を目指す方法があるが、チリのような小さな国では(経済力において)適応されるがある程度発展した国では適応されるかが問題である。また、短期資本を動かしているヘッジ・ファンドへも規制も必要なことではないだろうか。規制といっても、各金融機関が情報開示を義務付けられているのに対して、ヘッジ・ファンドは透明性にかける。ヘッジ・ファンドに融資しているのは金融機関ということも考えると、ディスクロージャーは必要ではないだろうか。

C エマージングマーケットにおいての規制

 通貨危機を最小限に防ぐ手段として、空売り規制と不動産融資規制を導入する。今回の通貨危機の原因として、アジアでは、バブルの発生が1つの要因であることはさきほど述べた。日本でも、バブルは、不動産価格の値上がりとともに拡大していったことも含めると、不動産融資規制は必要である。また、投資が国内のインフラや産業へ向かうためにも、この規制は必要ではないだろうか。

 次に、EUの通貨危機のきっかけや、長銀株の極端な値下がりの原因でもある、空売り規制をアメリカ並にすることが大切である。つまり、売った値段よりも低い価格での買い戻しの規制である。

D 変動相場制の安定

 Aの為替相場の柔軟性の確保で、将来的な変動相場への移行を提案したが、では、変動相場制の問題を解決するにはどうしたら良いか。問題点のところで出た、2つは、経常収支赤字の拡大と、過度のホットマネーの活動が招いている。そこで、短期資金のある程度の抑制と、発展途上国の経常収支の改善を提案する。また、マサチューセッツ・アベニュー・モデルからも変動相場に移行すべきであるといえる。

V 政策

 @、A、B、C、Dから、われわれは、IMFの機能を強化し、新興経済国を含めた新秩序を創造のため、地域経済通貨基金の創設を提案する。現在の国際経済は地域経済圏が確立されている、アジア、NAFTA、EUである。この地域にそれぞれ、通貨基金を創設し、Safety Netの役割を果たさせ、さらに通貨危機が起きたときに最小限度に防ぐことを目的とする。そのために、アジアでは、円への加重ペッグを目的とした通貨バスケット制を確立し、将来的には変動相場制への移行を目指すべきである。(新国際金融システムのイメージ図参照)

 次に、短期資金(ホット・マネー)の規制についてである。4つの手段を出したが、現状を考えると、トービン・タックスは制度そのものよりもその導入が困難である。直接規制は、グローバルスダンダードを考えると時代遅れであり、通貨危機を起こした国の一時的な対策でしかないと思われる。そこで、現状では一番なのが、準備金制度ではないか。(準備金制度のイメージ図参照)

 そこで、国際金融監督機関の設立を提案する。その機能は、低開発国(LDC)や、エマージングマーケット向けの短期資金に対してある一定の額を準備金として無利子で預け(1年後には返還)させる。また、ヘッジファンドへのディスクロージャーを義務づけさせ、各国の金融制度の監視と改革のへ助けをする。一定の準備高はそれぞれ国によって必要な額が違い経済状況(好景気か不景気かである)によっても変化するので、話し合いによってその比率を決定する。

 つまり、国際金融監督機関を頂点とし、各経済圏にそれぞれ、セーフティーネットとしての地域経済通貨基金を創設するのである。

 

4.事後的政策

T 政策の問題点

 まず、最大の問題点は短期資本を規制できるかということである。タイなどはオフショア市場を整備し、短期資金を自ら導入したのである。つまり、短期資金は、大量にあり、いつでもより有利な投資先を探し回っているし、短期資本がなければ、経常収支赤字や、政府債務をファイナンスできない国、経済発展が遂げられない国が多くあるということである。

 第2の問題点は、通貨危機の伝播を防げるのかということである。つまり、今回のアジア通貨危機においても、IMFの資金はつき、NAB,GABの緊急融資に頼らざるを得なくなったし、日本が特別融資をした。今回の通貨危機では、1000億ドル以上をIMFは支出し、さらに日本が融資したことを考えると、地域経済通貨基金を創設したとしたら、資金力は低下するのではないか、という疑問が生じる。また、コンディショナリティの緩和により安易に資金提供するためにモラルハザードを発生させる可能性がある。

 第3に為替相場をどうするかである。資金が大量に流入する状況での固定相場は、デメリットのほうが大きいということは述べた。では、アジアで変動相場に移行したらどうなるであろうか。通貨切り下げ圧力に耐えられないのではないだろうか、または、為替リスクが大きくなって外国投資が流出するのではないであろうか。そうなると、われわれの政策の方向性に反するわけである。

 さらに、資本に移動規制に対して資金がエマージングマーケットにまわらなくなるのではないかという懸念がある。またさらに、流動性の減少が利子率の上昇を招きかねない。

U トービン・タックスと準備金制度の比較(p27参照)

 トービン・タックスと準備金制度の違いは、トービンタックスは、為替取引きの税金をかけるものであり、その税率は、0.05%から0.1%といわれている。一日の取引が1兆ドルともいわれる世界為替取引きにおいては、資金の流動性を抑制し、投機的な取引を減少させるのには有効な手段である。特にデリバティブなどにおいてはその有効性は高い。しかしながら、税率が高すぎると世界の為替取引きの健全性が崩れる可能性があり、低すぎると、ヘッジ・ファンドなどは、トービン税を無視し、投機に走るだろう。準備金制度の仕組みは、IMFに短期資金の準備金を預け入れ、それを一年後に返還するものである。準備金制度の利点は、準備金比率を変化させることが容易にでき、経常収支赤字が改善された場合は準備金制度を撤廃させることができ、国際資本移動の拡大を妨げない。また、準備金を各国中央銀行に預けないのは、多国間で不適切な準備金比率の切り下げを行わせないためである。

 また、この準備金比率は、エマージングマーケットだけではなく、短期資本の過剰流入がしている先進国にも課せられる。(資本の均衡を取るためなど)

V 問題の解決方法

 まず最初の問題は、支払能力や経常収支の赤字以上の短期資本流入は、バブルの発生や、デフォルトの危険が高くなり、結果として、資金流出を招くのは、今まで論じてきた通りであるから短期資本の規制は可能である。さらに、第2の問題であるが、IMFの資金は日本に頼っている現状を考えると、資金面は心配ない、そして、もし通貨危機が拡大するならば、地域の枠を超えて、危機を押さえ込めばいいのである。為替リスクヘッジをどうするかであるが、これは金融システムを改革し、先物取引や、為替スワップを取引できる環境を整えればいいのである。また、変動相場への移行は、長期的視野に立っているためさほど影響はないものと思われる。

 では、変動相場制への移行時期であるが、OECDへの加盟条件を満たす経済成長をアジア各国が迎えたころが適当であるが、現状では、時期尚早であるといえる。資本の移動規制に対して、エマージングマーケットへの資金の流れが遮断されるという懸念については、エマージングマーケット、特にアジアでは、通貨危機は起こったが実体経済のファンダメンタルズは良好であるので、金融不安を取り除けば、経済成長は回復するだろう。また中南米においては、資本規制がうまく言っていること、NAFTAによる、アメリカの経済協力を考えると心配はないと思われる。

 結 論

 総括として、短期資本の一部を準備金として預ける機関をIMF内に作り、IMFの補完機関として、地域経済通貨基金を創設する。さらに、金融体制の強化と国際経済及び国際資本移動のチェックための国際金融監督機関を創設する。さらに、資本の適正な融資のため、不動産融資規制と、空売り規制を、各国に義務付ける。

 つぎに、今回通貨危機の起きたアジア、ロシア、メキシコなどの中南米である。まず、アジアでは、財政などのファンダメンタルズの良さ(他の通貨危機を起こした国と比べ)を考慮して、ドルへのペッグを改善する方法として、通貨バスケットの導入と、それに伴う、円圏の拡大を提案する。そして将来的には、変動相場に移行すべきである。さらに、金融システムの改革と健全化を目指すべきである。

 次に、ロシアでは、市場経済の導入は、失敗ではなかったが、国全体にまだ市場主義というものは浸透していない、特に、地域格差、職業格差、などの格差が後進国並であり、また、マフィアの力は強大であるために、まずは、政府主導の統制経済改革(ここでいう統制は、共産主義ではなく)をすべきである。具体的には、地域を経済特性からを3分割する。東西に長いロシアを東、中央、西と分割し、広大な領土に点在する資源を海外企業の直接投資を呼び込み外資による発展を遂げるべきである。

 西では、モスクワを中心として比較的発展をしており、EUの影響が大きく、EUの通貨統合を目指していることもあり、EU市場内での発展を遂げるべきである。次に、中央では、天然資源の豊富さを生かし、外資を導入し、それにより外国通貨を稼ぐべきである。最後に、東側は、日本や韓国などは資源を輸入する加工貿易によって、発展を遂げている。ロシアは、その資源を輸出していき発展を遂げるべきである。そして、中央政府は、安易に拡張的財政政策をするのではなく、マネーサプライのコントロールに気を配るべきである。さらに、金融機関や、企業の税務体制などの改善をし、資本主義の根幹を成すルール作りを押し進め、それを徹底させるべきである。また、地域格差、職業格差を軽減するために、教育システムの改善をし、所得格差を縮小させるべきである。

 最後に、中南米ではアメリカ主導のNAFTAによって、通貨危機を乗り越えられたことも考慮すると、中南米でのアメリカ主導による開発を推し進めるべきである。また、中南米は、資本取引規制がうまく機能している国でもあるので、国の債務を削減すれば、力強い成長を遂げるであろう。

 したがって、地域経済圏の活性化と、国際資本の適切な管理を行なえば、その結果として、通貨危機の国際的伝播を未然に防ぎ、世界経済の安定成長ができる通貨体制ができるであろう。

6. スペシャルサンクス

T 参考資料

「入門マクロ経済学」 中谷 巌 日本評論社

「マクロ経済学」 スティグリッツ 東洋経済

「ミクロ経済学」 スティグリッツ 東洋経済

「ゼミナール国際経済入門」 伊藤 元重 日本経済新聞社

「アメリカの経済」 春田 素夫・鈴木 直次 岩波書店

「国際通貨システム」 山本 栄治 岩波書店

「グローバル・キャピタル革命」 勝 悦子 東洋経済新報社

「通商白書」

「イミダス98」

「アジア通貨危機」 滝井 光夫・福島 光丘 日本貿易振興会

「国際金融のしくみ」 秦 忠夫・本田 敬吉 有斐閣アルマ

「ドル大崩落」 水谷 研治 PHP研究所

エコノミスト、東洋経済、読売新聞、日本経済新聞

U 参考ホームページ

検索サーバー

電猫(経済企画庁、大蔵省、FRB、IMF、OECD、アジ研、野村総研、さくら総研、日本総研etc.)

補論 EUの通貨統合

 ここでは、補論として、欧州の通貨統合について論じる。欧州の現状での問題点はどこにあるのだろうか?通貨統合の必要性や、ハードユーロになるかソフトユーロになるかを考えながら進めていく。まず、ヨーロッパの現状分析からであるが、ヨーロッパにおいての最大の問題点は、失業率の高さ、高齢化社会、構造転換の遅れではないだろうか。失業率はアメリカや日本に比べ限りなく高く、EU平均で10%を超えている。これは、高福祉と、労働市場の硬直性が原因ではないだろうか。イタリアなどでは、失業手当が最低賃金と同程度であり、労働者が、再就職するインセンティブを失う要因の1つである。また、硬直性の要因は労働組合の力が強いこと、アルバイトなどのパート・タイム制が浸透していないことがあげられる。さらに、失業手当などの財政圧迫が、非賃金労働コストを上昇させ、企業の雇用マインドを喪失させている。また、高齢化社会の到来は、企業の非賃金労働コストの上昇を招き、結果として、失業率を押し上げる。

 次に構造転換の遅れについてでは、情報産業などのハイテク産業の立ち遅れは、日本やアメリカと比べると顕著に表れている。構造転換をどうするかということは、ヨーロッパのこれからの課題ではあるが、情報産業の採用は、熟練労働者とのトレードオフの関係であり、すんなりと導入できるかということが問題である。

 しかしながら、EUでは、水平貿易が成り立っており、市場統一が完成し、マッキノンが提唱する最適通貨圏の条件を満たしており、通貨統合のメリットは高いといえる。また、統合により、単一通過の市場規模は、アメリカ、日本を向き世界最大となり、その通貨の力は、強大となり、決済手段としての為替リスクは大幅に減少する。しかし、通貨統合における問題点を挙げるとすると、まず、通貨統合によって、市場内の同一産業が競合し、競争力の無い企業は倒産の憂き目に遭うだろう。また、さまざまな政府によって成り立っており、政策の統一性をどうとるかである。EUは小国で成り立っているとはいえ、ドイツやフランスのようなG7に加盟しているような国際的な影響力が大きい国がある。さらに、ドイツ、フランスは歴史的に見て、戦争を繰り返してきており、通貨統合においては協力しているが、いつ争いが起きるかわからないのである。ここ2国がEUの成功を握っているともいえるわけであり、この問題は重要である。

 したがって、EUの通貨統合の問題点は、失業率の減少と構造改革をいかにダイナミックにおこなうかであり、また、政治的争いをいかに避けるかである。しかし、EUの経済力、各国の現状での動向を見る限り、EUが世界的な取引通貨になるのは明白である。

参照・資料

 

固定相場のIS‐LM分析

 


 r 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


  〇                      Y 国民所得

 

IS:Y=C(Y−T)+I(r)+G+NX(Y−T,e)

LM:Y=M/P=L(Y,r)

利子率:r=rw

 

 固定相場の元で、世界金利(rw)よりも、均衡利子率(ro) が高い場合、資本流入が起こる。結果、マネーサプライが増加し、LMは右方シフトする。そして、均衡する。つまり、アジアでは、金利差を出した結果資本が流入したが、その後も利子率を高めに誘導したために、過剰流動性を招いた。

 

新国際金融システムのイメージ図 

 


   

                                毛馬内ゼミナール作成

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    モラルハザードの監視、IMFのコンディショナリティへの提言、各国金融改革への手助け、ヘッジ・ファンドの情報開示。一定比率の金額を納める。

  規模の大きな通貨危機に対してのみ資金援助、コンディショナリティを課す。

  IMFの現状の役割を担う、通貨危機が発生した場合、規模が小さければこの地域通貨基金のみで処理、そのため、コンディショナリティは地域内での話し合いによって決まる、モラルハザードに関しては、国際金融監督機関が監視。

  現状の資金をここに納めることに変更する、納める通貨は現状通りとする。

 

  

 

準備金制度のイメージ図

 

 

 

 

 



   短期資金と市場の間にIMFが存在し、準備金比率のコントロールにより、経常収支赤字や、金利差などで生じる通貨危機、短期資金の過剰流入を防ぐ

 


 


 


 


 


 

 


 


 


 


 


トービン・タックスと準備金制度の比較