まだ年が明けてまもない、1月11日のこと。およそ100人の大企業の投資家達がボストンのMIT(マサチューセッツ工科大学)の「教員クラブ」にあつまり、2日間に渡る会議をおこなった。

 1日め、会議は夕食とともにはじまった。参加者達はサーモンの照り焼きと冷えた白ワインを楽しみつつ、株式市場の話しに花を咲かせていた。やがてウェイターがデザートとコーヒーを運んできた。開催にさいして、すらりと背の高い会議の主催者、MITのリチャードサミュルズ教授が参加者にこう呼びかけた。「さあ、皆さん。ようやく日本を買うときが来ました。か」まるで石原慎太郎の氏の次作の小説の書き出しようだが、これはもちろん小説ではなく、実際にあったシーンである。会議のテーマは、「いじめから買いへー日本への投資機会」つまり、「いまだ不況から脱せずもがき苦しむ日本に金を投資すべきか話し合おう」という会議だったのだ。

 いま、外国の投資家にとって。1200兆円といわれる日本の個人資産を奪うチャンスがきたというわけだ。「不況で資産価値が下落した日本を、海外の投資家が買いあさりにくる、これはアメリカの陰謀だ」とノストラダムスばりの警告をつづける石原氏なら、「現実に「日本買い」の会議でが開かれているではないか」と胸を張るところだろう。

 会議の参加者はフィデルティ・インベストメントやウェリントン・マネージメント、ドレスナー・クライオント・ボストンといった有名な投資機関をはじめ、フォーチュン500社に名をつらねる、フォード、コダック、ジェネラル・エレクトニックを、さらにいろいろなハイテク産業の燦燦たる幹部だった。

 参加料はたか、2日間で700ドル。エコノミストや経済学者、経営コンサルタントも出席して、日本への投資がどこまで利益になるのか、議論がかわされた。

 会議で配られたパンフレットにはこうかかれていた。「日本の構造改革によって、その巨大な市場は、世界のビジネスまで重要な位置を占めるようになりました。変動する経済状況のなか、日本のどこへ、どのように投資をするべきかを、知るのは重要です。 これでは、まるで、「日本を買え」と進めているように見える。

 米政府は長年、閉鎖的と言われてきた日本市場を開放させる努力をしてきた。その結果、ついに外国企業や投資家が日本という“城の中”に入り込めるチャンスがめぐってきたー。会議のテーマはまさに、そこにあるようだった。

 すでにメリルリンチは山一證券を一部買収し、トラベラーズ・グループは日興證券と提携。GEキャピタルは1月23日に日本リースを買収し、大々的に発表している。

 こういう外国企業の「日本買い」はさらにすすみそうだ。MITの会議主催者は「ダイムラークライスラーが日産自動車の株を買収か」といウォールストリート・ジャーナル紙の記事を持っていたほどである。

 実際、会議の主催者の中には、「日本買い」に前向きなように見える人々がいた。例えば、大手航空関連機器メーカー、ユナイテッド・テクノロジーの役員は「日本が不況だからこそ、日本のビジネスパートナーと、クーラーやエレベーター製造での提携事業が拡充できました。」と語っていた。

 ハイテク産業、カデンス・デザイン・システムの社長も同様。「日本が不況なので、ソフトウェアのデザイン分野で日本企業に手を差し伸べることができ、ビジネスの機会が増えました。」と発言した。

 会議でもっとも「日本買い」に積極的な見方をしていた企業は8000億円で日本リーを買ったGEキャピタルである。「日本の金融機関への投資は、利益をあげる可能性が十分にあります。」といってのけたのだ。

 前出のリチャード・サミュウエル教授は2日間の会議中、しきりに「(対日投資は)暗雲の中に射す光だ」と繰り返していた。また、会議の参加者のほとんどは「日本には相変わらず有能で勤勉な労働者が多い」と指摘していた。

 しかし、会議に集まった企業幹部の多くは、日本を買うチャンスがあっても、即座に手を伸ばしたがっているようには見えなかった。

 参加者達は、日本の魅力とリスクの両方を指摘している。魅力の方は「日本への投資は、理屈では納得がいく」というものだった。アメリカ企業は、投資するだけの資金を持っている。いまアメリカやヨーロッパ市場への投資は、すでに根が上がりすぎていて面白みがない。その点、日本は魅力的な投資先である。

 一方、日本の不況はまだまだ続くという悲観論は根強い。円ドル相場は今後どう動くのか予測がつかないし、日本市場にはいまだ、規制が多い。

 ある製造業のトップは、「確かに日本で新しい投資機会を探せるでしょう。でも急ぐ必要はありません。機が熟するまで待ったほうがいい。」と時期については慎重だった。別の幹部は、「自分の業界以外の分野で、日本に投資はしない」と語りある不動産投資家も「投資した初日から利益が出ない限り買わない」と、発言した。

 東京大学の野口教授が指摘する通り、日本の金融システムは外国人を除外するように作られているようだ。つまり、日本には、最初から外国人投資家を誘致しようという考えがない。

 国連が、発表した統計によると外国から日本への直接投資額はGDP比で0.5%にも満たない。フランスでは6.2%、ドイツは7.3%、アメリカは8.5%、イギリスは30%という効率である。ただ、今回の会議では「日本の外国投資率は5年後に4%に達する。」という発表があった。日本も少しずつ変化しており「日本買い」に進むのが自然な流れであろう。

 会議では最初、スイスの大手金融機関、チューリっヒ・ケンパーの主任エコノミスト、ディビット・ヘイル氏が基調講演をおこなった。そこで氏は「日本が不況から脱するのはまだまだ先です。」という分析を明らかにした。

 へイル氏は「日本政府の景気浮揚作は効き目がなく、99年に回復することはなさそうだ。」と断言。「回復どころか2%のマイナス成長さえもある。来年もその傾向は続く」といったのだ。「日本は財政危機の真っ只中にある国です。財政赤字はGDPの10%-―11%にまで達している。不況は税金も無駄にする結果になっています。日本は第二のイタリアになる道を転がり落ちているんですよ」 多額の金を投資するのだから、参加者の日本経済への分析は冷静だ。

その氏が、会議で日本よりを批判された。すると日本政府の規制緩和が予定より大幅に遅れていることに不満を漏らし「生産性が向上して純粋に経済再建がおこなわれるのは早くて2001年から2002年になる。」と突き放したのだ。

 さらに厳しいのは「エコノミスト」誌の子会社で日本経済の報告書を四半期ごとに出版しているロバート・マッドセン氏。彼は前出のヘイル、コール両氏を「まだ、楽観的」とまでいった。マッドセン氏の予測は、「日本経済は今後2年間で4%のマイナス成長になる」というものだ。

 日本はまだまだ倒産する企業が増え、金融機関の資産はデフレで価値が下がる一方。皮肉な話しだが「日本を買おう」という投資家が増えない限り日本の繁栄はお預けだということだ。

 多くの参加者からもれたのが「日本の不良債権はどうなっているのか」というこえだった。不良債権処理と経済システムの改革がおこなわれない限り、日本への投資は増えないであろう。その話題について、日本の外務官僚とJETRAの職員が、必死でメモを取っていた。また、モルガン・スタンレー・ジャパンのアレキサンダー・キンモント氏は会議の席で「日本企業のビジネス慣習こそが、今の経済危機の最大の問題ですと指摘し、こう続けた。「日本企業の部長クラスは、資本主義のことをなにも知らないですね。資本主義には犠牲と出費が必要だということをわかってないのです。」キンモント氏によると東芝や花王などの一部の会社を除き日本の大企業は、本当の意味の株式会社ではなく「公社」なのだという.彼らが目指すのは、できるだけ多くの配当を供与することではなく利益を社会保障制度などに配分すること。「日本企業は年間四兆円ペースで資産を食いつぶしている。」と厳しく指摘する。

 ブルッキングス研究所の研究員で、モンデール前駐日大使の経済問題担当官だったエドワード・リンカーン氏は、それを受けてこう発言した。「日本は法治国家ですが、公式と非公式を使い分けています。外国人が日本市場で特別目立つ投資活動をすると、日本の財界、官僚、利益団体などが目を光らせますから」 ただ、氏はこうも語った。「日本政府が日本経済を破綻へと導くようであればわれわれはもうなすすべもない」

 いま、日本の失業率は悪化し、一般消費者は貯蓄を銀行に預金するだけで、他へ投資することを恐れている。銀行は、不良債権がこれ以上に悪化することを怖がるあまり、貸し渋りが目立つ。

 外国投資を受け入れれば、こうしたジレンマは少しでも解消するはずだ。日本の金融機関や投資家が、海外からの投資に過剰反応する必要はない。同時に日本企業は外国の株主が求めている労働者のより高い可動性や、厳格な財務報告書の提出を実現させていくべきである。

 日本と外国の投資家の緊張関係が今後どう和らぐのか、想像するのは難しい。ただ、少しでも日本の景気が回復の気配を見せれば、投資は今よりも一段と増えることになるだろう。そうなれば財界人達はわざわざ会議など開かなくても「日本買い」に走ってくるに違いない。