県民によるベンチマーキングの試み


ベンチマーキング方式とは

 ベンチマーク方式とは、下水道普及率とか、ねたきり老人率とか道路舗装率等の行政目標を設定して、その達成度で自治体の業績評価をしていく方式であると言われています。アメリカの行政評価システムは、州ではベンチ・マーク方式が主流であり、オレゴン・ベンチマーク等が有名です。 日本でも滋賀県や青森県で実施されているが、主流は、事務事業の評価であり、三重県でも政策・施策・事務事業を階層化して実施されています。
 ベンチマーキング方式は目標が住民にわかりやすく訴求力がある反面、組織や業務との関連性が不明確であるため、行政運営の改善につなげていくことが必ずしも容易ではない。一方、現在の主流である事務事業評価は、組織や業務に則した目標設定を行うため行政運営の改善につなげやすい反面、目標設定が既存の業務体系に依存するために、思い切った発想の転換が生まれ難い面があります。この両者を結合させることができれば、住民にわかり易く、かつ、行政運営の改善も期待できることになります。
 三重県の行政評価システム(最初は「事務事業評価システム」と呼称していた)が全国で最初に公表されて、全国の自治体や中央省庁から注目され6年を経過しているが、それは行政の世界に留まり、納税者・有権者・生活者としての県民から具体的な意見や提言らしきものが見当たらないのも関心の低さとともに、分り難さもあるように感じられます。
 そこで、今回e-デモ会議室で議論する機会に、ベンチマーキングの試みをしてみたいと考えました。
  

1.「三重のくにづくり1万人アンケート」による不満意識ワースト3

 15年6月に三重県の実施した上記の1万人アンケート報告書は、三重県のホームページに公表されています。多くのアンケート質問項目の中に、「満足度(不満意識順)」(同報告書の「調査のあらまし」27ページ)があります。そのワースト3は、「雇用・勤労者福祉」(不満意識47.8%)「地域商工業の活発化」(不満意識42.8%)「患者本意の医療体制」(不満意識41.2%)となっています。三重県の行ったアンケートなので、この結果は行政運営に反映される筈です。こういう項目に達成目標を設定してベンチマークスとして、県民が注目してみたら如何でしょうか。
 また、このアンケートは、三重県の圏域別の分析がなされていますので、このワースト3について引用すると以下のとおりです。

    

        表1  三重のくにづくり1万人アンケートの不満意識ワースト3                                                                         数字は不満意識度 単位:%

ワースト 三重県
全体不満意識
桑名・
員弁
四日市 鈴鹿・
亀山
伊賀 津・久居 松阪・
紀勢
伊勢志摩 尾鷲 熊野
雇用・勤労者福祉 47.8% 40.7 46.9 45.6 44.8 46.9 51.6 53.3 58.1 56.9
地域商工業の活発化 42.8% 35.9 47.7 37.8 37.4 43.2 44.3 46.9 51.6 45.3
患者本意の医療体制 41.2% 37.4 41.7 43.2 46.5 37.7 42.5 40.0 42.3 48.3

  短評・感想
 ○「雇用・勤労者福祉」   北勢に比べて南勢の不満意識が高い。三重県の緊急雇用対策もこれらの地域に重点がある。
 ○「地域商工業の活発化」 雇用の厳しい南勢地区は商工業活発化にも不満が高く、雇用問題と連動性があるように見られる。
 ○「患者本意の医療体制」 伊賀・熊野の不満意識が高い。これはハード・ソフトごとに分析する必要があると考えられる。

2.自己評価・監査委員監査(評価)及び「しあわせプラン(案)」の対比

 三重県の事務事業は、第3者的として監査委員により評価され、行政監査(評価)報告書ではこれらの不満意識ワースト3に対応する施策をどのように評価しているかを引用すると次のとおりです。

        表2   不満意識ワースト3に対応する施策等の14年度行政監査(評価)結果
  

施策名 総合
判定
基本事業 事業
妥当性
目標
達成度
有効性 経済性
効率性
品質
十分性
公平性
計画性
行政
活動

雇用・勤労者
福祉
働く場の確保と
勤労者生活支援
 C @就労ニーズに
応じた雇用支援
A雇用の創出と
失業なき労働移動
B就労環境等の
整備
4.0 2.0 3.0 2.0 3.3 2.9 3.5

地域商工業
の活発化
自立的企業
活動への支援
 C @地域産業・地場
産業の振興
A商業の振興
B経営基盤の確立
C経営支援機能の
充実
4.0 3.0 2.0 2.3 2.5 2.7 2.4

患者本意の
医療体制
医療提供体制の
整備
(注)
@患者本位の医療の
推進
A県立病院の医療 
サービス提供
B救急医療体制の 
整備等6基本事業
14年度は、行政監査(評価)の対象外であった

 次に、監査委員評価と評価システムによる評価結果、「しあわせプラン(案)」を対比すると次のとおりです。
 (注)「医療提供体制の整備」は、15年度行政監査(評価)で扱われています。
        
 表3  県民不満意識ワースト3に関する施策の一次・二次評価及び「しあわせプラン」との対比 

不満意識項目 施策名 一次(自己)評価 二次(監
査)評価
しあわせプラン(案)の扱い
雇用・勤労者
福祉
働く場の確保と
勤労者生活支援
「勤労者のゆとり実感度」目標
40%に対し37.7%「未達成
「地域の実情に応じた多様な雇用支援」
2002年失業率4.4%を2006 3.9%目標
地域商工業
の活発化
自立的企業
活動への支援
中小企業製造品出荷額全国順位
15位目標を「達成
「自立的産業集積の推進」出荷額の全
国順位2002年 11位を 2006年 10位目標
患者本意の
医療体制
医療提供体制の
整備
医療に対する県民満足度88%目
標に対して89.9%で「達成
(1万人アンケートでは、満足意識
9.5%、不満意識41.2%と大差が
ある)
「医療提供体制の整備」
実績・目標ともに「調査中」

 対比結果の考察・感想
上表の対比により、判明したこと、考えられること、感想等は、次のとおりです。
(1)雇用・勤労者福祉
・数値目標は「勤労者のゆとり実感度」であり、未達成とはいえ目標40%に対する37.7%はアンケートの誤差の範囲とも考えら れます。しかし、1万人アンケートの不満意識ワースト1が、このような評価方法では実態把握に適しているとは思えず、e-デモで議論したように失業率が実態把握に相応しいと考えられます。しあわせプラン(案)の数値目標が「失業率」に変更されたことは評価できると思います。
・雇用事業は、主流と思われるハローワークが国の事業であり、県や市町村としてどのように連携していくかの課題と、目標が達成できたとしても、その成果のうち県の貢献度がどの程度なのか評価することは難しいと考えられます。このことは大部分の事業にも共通の課題になると考えられます。
・二次評価である監査委員評価では、5段階評価の下から2番目である「C」評価としています。表2に示すように特に目標達成度、経済性・効率性を5段階評価の「2」として厳しく評価しています。監査委員は実施計画の事業の結果や内容を検討する必要のあること等を指摘しています。

(2)地域商工業の活発化
・数値目標は「中小企業製造品出荷額全国順位15位」であり「達成」しているが、1万人アンケートでの県民の不満意識はワースト2であり、施策と県民意識に大きな乖離が感じられます。
・「しあわせプラン(案)」は、全製造品出荷額に変更されるようですが、全国順位を目標に設定するという考え方は変えないようです。「地域商工業の活発化」は、シャッター街の解消や倒産企業の減少、創業率の向上等を目標設定した方が県民意識に合致するようにも感じられます。
・ここでも監査委員の評価は「C」と低く、表2によると特に有効性、行政活動の評価が低くなっています。一次評価の「達成」評価と監査委員評価の乖離をどのように捉えて今後の事業に反映するかも課題だと考えられます。

(3)患者本意の医療体制
・一次評価は「医療に対する県民満足度」88%と「達成」したことになっているが、1万人アンケートでは県民の不満意識ワースト3という正反対の結果になっています。双方ともにアンケート調査によるものであり、調査時期やアンケートの文言に違いがあるとは思われるが、同じ県民がこれほど正反対の反応を示すということは考え難い。
あえて、想定すれば1万人アンケートが国立・県立・民間のすべての医療機関を想定して回答し、当該事業のアンケートが県立の医療機関を対象にして大差が出た等ということもあるかも知れない。
しかしながら、アンケートという社会調査方法は、このように感想を尋ねるような設問の場合、文言の表現によりかなり大差が出ることが知られており、この数値で達成・未達成を判定すると政策順位の決定や今後の事業展開を誤る怖れが感じられます。
・監査委員評価は、3年かけて全事業を対象に実施されるため、本施策は15,年度分となっています。
・「しあわせプラン(案)」では、数値目標の実績・目標ともに「調査中」となっています。

3.不満意識ワースト項目をヒントとするベンチマーク(案)の提案  

現在の評価システムに「活動指標」「成果指標」の概念を導入し、ベンチマークを次のような指標で設定することを提案します。
ベンチマークの目標値については、三重県の実績値や全国平均等から勘案して決める必要があります。

活動指標 成果指標 ベンチマーク(案)
雇用・勤労者
福祉
企業への雇用要請数
就業希望者研修量等
企業の雇用増件数
就業希望者スキルアップ
失業率
就業率(新卒・中高年)等
地域商工業
の活発化
ベンチャー支援件数
融資支援件数等
空店舗・空地活用件数
創業増・廃業減件数等
空き店舗・空き地率
創業件数/倒産・廃業件数等
患者本意の
医療体制
苦情内容分析
救急出動回数
苦情解決件数
救命件数
患者等の苦情件数
救急医療の救命率等

                
4.参考事例

(1)しがベンチマーク

滋賀県の評価システムである「しがベンチマーク」における三重県民不満意識ワースト3に対応する指標は次のようになっています。

しがベンチマーク
指標名 単位 13年度 全国順位
全国平均
目標値 目標年 到達度
雇用・勤労者
福祉
希望者全員が65歳まで雇用されて
いる企業の割合
23.1 28.0
(13年)
100.0 22年 23.1
企業に雇用されている障害者の割合 1.86 1.49
(13年)
2.00 14年 93.0
地域商工業
の活発化
新たに事業所を開業した割合
3.8 3.3
(13年)
5.5 16年 69.1
従業員1人当たりの県内事業所が新
たに生み出した額
(付加価値額)
万円  − 1位
1200
(12年)
1593 15年 103.8
技術開発型事業所の数
(製造業1000事業所当たり)
41.2 3位
25.4
(13年)
23.4 16年 176.1
患者本意の
医療体制
県内病院の一般病床数
(人口1万人当たり)
81.6 42位
99.6
(12年)
100.0 22年 82.1
救命救急センターの数(人口30万人
当たり)
個所 0.67 2位
0.38
(13年)
1.00 22年 67.0


(2)新「豊かさ」指標の体系
 
 且O菱総合研究所が1998年に発表した「新「豊かさ」指標」(小野達也/田淵雪子『行政評価ハンドブック』東洋経済新報社
2001年)は、生活全体の満足は10側面の満足から構成されるとして次のように分類している。ベンチマーキングの指標を決める場合の参考になると思われる。
@住まい(住宅、家賃、下水、ゴミ処理等の住居向け公共サービスなど)
A交通(道路、歩道、バス・鉄道路線、交通量、交通安全、駐車、駐輪など)
B仕事(仕事の内容、やりがい、就業・就職の機会、就業条件、職場環境など)
C所得・消費(給与・事業所得、年金等の収入、消費生活全般、物価など)
D貯蓄・資産(預貯金やその他の資産、住宅ローン等の負債など)
E健康・家族(健康、家族との暮らしなど)
F教育(地域の教育施設やその教育内容など)
G余暇・休暇(余暇・休暇の過ごし方、娯楽、レジャー・文化施設、地域活動など)
H医療・福祉(医療や老人・障害者福祉、乳幼児向けの施設とサービス内容など)
I生活環境(気候、自然環境、環境保全、防災、公害、治安、土地柄、文化・伝統など)