究極の「行政評価システム」


 このホームページは、三重県のホームページ上にあるe−デモ会議室「検証・みえ政策評価システム」会議室の議論と並行して内容を投入してきました。会議室は2003年10月16日に開始し、当初の予定を1カ月延長し、2004年2月末をもって終了する予定です。
 思いつく様々な提案をして、会議室参加メンバーからご意見を頂きました。締めくくりに当たり、究極の「行政評価システム」とはどんなものなのかを考えてみたいと思います。「みえ政策評価システム」の導入目的は「マネジメントサイクルを回す」「アカウンタビリティを果たす」となっており、極く的を得たものだと考えられます。そして、前者は主として首長と行政職員が活用するための目的であり、後者が納税者・選挙民・住民のためのもの、そして何より民主主義を進化させ深化させるものであると思います。
 「アカウンタビリティ入門」(碓氷悟史 中央経済社)によると、「真の民主主義に必要不可欠なものとは、日本人が世界で通用するための条件とは、いま日本の政治にも企業経営にも欠けているものは、それはアカウンタビリティです」というコピーがあります。
また、「アカウンタビリティとは、力の付与または力の行使に関して課された責任を果たしたかどうかを説明する責任です」とあります。
「力を与える者」が、力を付与すると、「力を持つ者」から見返りに「アカウンタビリティ」を受け取るのです。「力の影響を受ける者」は「力を持つ者」から「力の行使」と「アカウンタビリティ」を受け取るのです。日本の場合は、市民が政治・行政に税金と権限
という力を付与するばかりで、見返りの受け取り分としてのアカウンタビリティが少ないから、不祥事も起こりやすく、憲法を踏みにじる結果になりやすいのだと思います。

 ここでは、大多数の納税者・選挙民・住民のための「アカウンタビリティ」をより十全にするための究極の「行政評価システム」を考えてみたいと思います。

1.行政評価システムの「究極」とは、どのくらいを目指すのか
 一般市民は、所得税を払い、消費税を払い、市町村民税等の地方税も払っています。企業は法人税等を支払い、それらの税金で中央・地方の行政運営が行われています。この支払ったお金に見合う行政運営がされているかを、すべてについて明らかにし、公表することが「アカウンタビリティ」であろうと思います。
 そうすると、中央は直接使用する外交・防衛費等と一旦集めておいて再配分する地方への補助金の流れまで明確にしなければならないことになります。また、地方格差を調整するための交付税についても同様です。さらに、現在の「構造改革」の目玉になっている特殊法人等に流されてムダに使われ、借金の山を築いていると言われる特別会計の内容、破綻に近いと言われる年金資金の運用実態、など等、すべてが一元的に分りやすく知ることに出来るシステムが必要になります。
 次に、それらの税金を使って行われている事業のすべてについて、事業内容が平易に理解しやくす記述されていなければなりません。そのうえで有効性・効率性・経済性等の評価が自己評価、監査委員等による第3者評価、外部専門家等による外部評価が定量的に示され、さらには住民も参加した評価が付加され公表されることが望まれます。
 「行政評価システム」は、行政運営を評価することを主眼にしているので、そこまで要求するのは筋違いかも知れません。従って、例えば「アカウンタビリティ・システム」等と命名してもいいかも知れません。三重県等の多くの自治体の評価システムの目的には殆ど、「アカウンタビリティを果たす」ことが入っているので、このシステムの究極の姿として理念的に考えてみたのです。


2 .第1段階「NPMの先進事例」による次のステップへ
 究極の行政評価システムの想定から現在のシステムを比べると、まだ第一歩を踏み出したばかりのものであるという思いが強くします。いきなり「究極」になることは不可能なので、次のステップはどの程度のものを想定すればよいか考えて見ます。
 その参考として、本間正明・斉藤慎「地方財政改革」(有斐閣)の第U部「抜本的改革に向けて」2項「NPMの先進事例(P157〜158)」から引用させて頂きます。

 米英をはじめとしたNPM適用の先進国では、初期段階で抱えた課題のいくつかを克服するシステムづくりを進めており、その核心は次の3点に集約される、として次の3項目があげられています。(⇒は、引用部分に対する筆者の感想等です。)

 (1)戦略計画を核にした情報開示システム
 米国州政府・自治体が典型的であるが、戦略計画をベースにした政策目標のベンチマーク化とこれを達成するための手段である施策と事業へのリンクを図っている。(中略)ベンチマークづくりの段階で住民ニーズを反映させ、業績/成果をみやすいかたちで数値目標化して提示している。これにより、首長や議会のみならず住民も、政策目標の達成状況を客観的な指標をもとに対比
(ベンチマーク)し監視することができる

 ⇒ このホームページの「ベンチマーキングの試み」では、県民一万人アンケートの県民意識ワースト3項目である「雇用・勤労者福祉」「地域商工業の活発化」「患者本位の医療体制」をベンチマークスにする試みを提案しましたが、将に施策・事業等とのリンクと対比・監視が可能となるシステムが求められると思います。

(2)予算へのリンク
 政策目標とプログラム・プロジェクト(あるいはタスク)との関係が明示できれば、かりにアウトプットからアウトカムへの因果関係評価が不十分であっても予算編成との形式的なリンクは可能である。政策の重要度とのリンクの理念型はRAB(Resource Accounting Budgeting)である。特に、組織の目的・目標ごとに、インプット(コスト)、アウトプット、アウトカムを統一的に把握し管理しようとするOPA(Output and Performance Analysis)が適正に機能すれば、マネジメント・サイクルの形成、つまりフィードバック・ループを強化することが期待される。

⇒ これは、このホームページの「事務事業のリソース等情報の充実改善提案」で提案していることと合致する。現在の評価システムには、予算額は示されているが、それがつも付補助金なのか、パフォーマンスとして適正なのか過大なのか判断できない。
これらが補助金や交付税等との中央・県・市町村の相互関係構造を分りやすく公表され、各事業成果とのパフォーマンス表示がなされることが次の大きなステップになるものと考えられる。

(3)自治体へのベンチマーキング導入
 これは、行政サービス分野にサービス水準について自治体間で比較しうる基準を設け、これに基づく業績評価を公表することで競争メカニズムが機能するようなシステムづくりを行うことである。英国では地方自治監査委員会がシティズンズ・チャーター・インディケーターにより、70余りの指標群ですべての自治体間のサービス水準を客観的に比較しうるようなフレームを作成している。
(後略)

⇒ これは(1項)とも関連するが、「行政にはライバルがおらず、競争が働かない」ことを補完する方法ではないかと考えられる。確かに三重県庁は一つであり、第二三重県庁や第二四日市市役所はないが、他の同規模の自治体と様々な指標で比較することにより擬似競争が成立することが想定される。
この考え方は、ティボーの「足による投票」に通底する。これは、人々が各地方自治体間を自由に移動することで、各地方自治体が公共財の供給をめぐって競争し、結果として資源の最適な配分が達成できることを示す仮説である。あまり現実的ではないが、ティポーは、「人々は各自治体間を自由に移動できる」「人々は、すべての地方自治体の公共財の供給やその財源負担の方式について完全な情報を持っている」等の7項目の前提としたものである。

みえ政策評価システムは、まだ第一段階にあると考えれば、次のステップをこのような項目を目標として設定し、進展を目指して頂きたいと思います。そして、いずれは「究極のシステム」を目指すべく継続した努力を継続して貰いたいと思います。

3.行政評価を超えて
 行政評価システム導入の動機は、少子高齢社会に適応するための行政改革であり直接的には行き詰まっている財政改革であるとも言われています。したがって、行政評価システムというツールのみですべてが解決する訳ではない。そのような視点から参考として、上記に続いて「地方財政改革」(有斐閣)の第U部「抜本的改革に向けて」4項「日本版NPM改革を飛躍させるために (P165〜169)」から引用させて頂きます。

○米英の自治体改革の基本は、「計画・予算・業績」のリンクを志向することにある。その際、重要なベクトルは上位のビジョンの確定から始まり、それを各政策領域にブレイクダウンし個々の具体的な政策目標の設定(ベンチマーク)を行う。(中略)
このように、戦略計画の本質は、州政府・自治体運営の明確なビジョンの策定とこれを具体化するための戦略体系にあり、上位目的からのトップダウン的なフレームなのである。
 計画から予算編成(資源配分)へのリンクは、戦略計画を策定する際の政策のプライオリティづけによる。(中略)つまり「事前評価」(業績評価)をもとにした予算配分がなされる。これが可能なのは首長のリーダーシップ(しばしば選挙公約に基づく)と住民参画のフレーム(コンセンサスづくり)があるからである。
 次にマネジメント・サイクルからみたフィード・バック・システムは、個々の政策領域ごとに業績測定を実施することで、プログラムの有効性・効率性を評価しながら次のマネジメント・サイクルへフィードバックされていくことが求められる。つまり、事後評価(業績目標との対比、ベンチマーキング)による予算査定である。(後略)

○日本版NPMの飛躍のために<「住民参画」と「首長のリーダーシップ」が鍵>
 (前略)しかしながら、総合計画へのリンクがなされることで、予算編成をめぐる2つのサイクル(業績目標をもとにした予算配分、ベンチマーキングによる予算査定)が機能するとは考え難い。(中略)その後の発展形態が見えてこないのである。
 これは、日本の自治体改革が「マネジメント(経営)」ではないことによる。言うまでもなくマネジメントは「戦略志向」あるいは「目的志向」であり、戦略あるいは目的実現のために道具(施策・事業)の活用がなされねばならない。このような基本的な発想が自治体のみならず中央政府改革にもにも欠落しているのである。
 では、マネジメントに到るブレイクスルーはなにか。すでに日本の自治体の中にも「行政評価システムの精緻化」とは別のアプローチが芽生えている。(中略)「住民参画」をてこに自治体運営の方向性を定めようとする自治体が登場している。その典型例として三鷹市、日野市の取り組みは注目に値する。(中略)
 三鷹市が進めている「住民参加型行政」は次の点で特徴があるという。
 第1に、自治体の基本構想・基本計画への住民参加である。第2に、参加メンバーは限定されずその自治体の住民であれば完全自由参加できる。第3に、住民と行政はパートナーシップ協定といった約束を公式の文書でもって結んでいる。第4に、その住民参加活動が行政評価システムと容易にリンクする段階まで進んでいる。


 ここに引用した内容は、現時点での先進事例であり、「究極の行政評価」を目指す場合の通過点ではないかと考えられる。これらの推進のためのキーワードとしては「首長のリーダーシップ」「住民参画」「外部からの視点」「計画・予算・業績のリンク」「ベンチマーク」等である。今回のe−デモ会議室での試みが少しでも、実を結ぶ契機の一つになれば、と切に願うものである。