神人、超能力持った人、奇跡を起こす人と描かれるピュタゴラス(その2、輪廻転生について)

輪廻転生について,・・・ピュタゴラスは自分の前世を語り、それを自ら示したとされる。変身物語の始まり。

エンペドクレス「浄め」(断片129)に関連して

まず、断片129では次のように述べられている

資料、エンペドクレス「浄め」(断片129)
彼らの中に並はれた知識をもつひとりの男がいた。
その人は智恵の最も豊かな富をわがものとして、
ありとあらゆる賢い業に比類なく通じていた。
まことに彼がひとたびその全精神をあげて自分をさしのべるときは
彼はおよそ存在するすべてのものの一つひとつを、やすやすと見てとった
十たびも二十たびも繰り返された人間の生涯におい

エンペドクレスはピュタゴラスの名を挙げていないが、ディオゲネス・ラエルティオスはティマイオスを引用してピュタゴラスのものとしている。しかし、ディオゲネス・ラエルティオスはこれをパルメニデスであると言う人もいるとしている。

注、次のディオゲネス・ラエルティオスが伝える、エンペドクレスとほぼ同時代のキオスのイオン(BC5世紀の劇作家)の証言は輪廻転生については語っていないが、死後の魂について述べている
資料、DL1-120
この人(ペレキュデス)はあのようにも男らしい勇気と慎み深さをそなえていて、身は滅びても、魂は喜ばしい生を送っているのだ。いやしくも賢者ピュタゴラスがまことにあらゆる人の考えを知っていて、それを見抜いたのであれば。

資料、ディオゲネス・ラエルティオス(DL8-54)
ティマイオスは「歴史」第九巻のなかで、彼(エンペドクレス)はピュタゴラスの弟子であったと記しているが・・・・エンペドクレス自身も次のように語って、ピュタゴラスに言及しているのだと記している。
あの人たちのなかには、並はずれた知識を持つ一人の男がいた。
その人こそは、精神の最大の富を獲得していたのだ。
と。ただし、彼がこの詩で言及しているのは、パルメニデスのことだと言っている人たちもいる。

イアンブリコス及びポルピュリオスは、エンペドクレス断片129を引用して、天の音楽を聴けるなど、人並みにはずれた能力をピュタゴラスが持っていたと解釈している。

資料 ポルピュリオスVP30〜31
ピュタゴラスみずからは、諸天球とこれに従って動かされる星々との、遍満する音階を覚知しつつ、万有の音階に耳をすませて。これはわれらには、本性の卑小ゆえに聴けぬものである。エンペドクレスもかかる事の次第を証して、ピュタゴラスについて言う。断片129・・・見る・聴く・考える点で人に比べて選り抜きの、精妙な、ピュタゴラスの通力をここに表す。

資料 イアンブリコスVP65〜67
ピュタゴラスみずからは、諸天球とこれに従って動かされる星々との、遍満する音階と和音に聴き入りを覚知していた。・・・エンペドクレスも次のごとく言うとき、かの人と、選り抜きの、凡俗を超えた、神授の天耳について謎めかしているのは明らかである。断片129・・・見る・聴く・考える点で人に比べて選り抜きの、精妙な通力をここに表現しているからだ。

ディアルコス(アリストテレスの弟子でBC4世紀に活躍)のようなやや古い資料にも輪廻転生の教義が見られる。

資料 ポルピュリオスVP18〜19
ディアルコスの言うには・・・ピュタゴラスが会衆になにを説いたかは、一人として確かに示すことは出来ない。門下の無言戒が並のものではなかったからだ。しかしながら皆にもっとも知られるようになったのは、まず、魂は不死なる言葉、次には、魂が他の異類に転生し、くわえて、ある周期ごとに、かつて生起した出来事はまた生起し、まったく新しいものはなにもないという教え、さらに生まれた生き物は皆同族とみなすべしという教えである。伝えでは、ギリシアにかかる教説をはじめて請来したのがピュタゴラスであるからだ

*ピュタゴラスはかつてエウポルボスであったという伝承

ピュタゴラスはこの教説を公に広めたとされている。そしてみずから自分の前世を語ったとされる。また、以下の資料にはエウポルボスの名が頻繁に現れ、さらにエウポルボスを通してアポロンに結びつく。次のヘラクレイデスがこの伝説の一番古い証言、しかし疑問は残る。まず、その資料を示す。

資料 ヘラクレイデスの証言(DL8−5)
ポントスのヘラクレイデスがのべているところによれば、この人(ピュタゴラス)は自分自身のことについて、つねづね次のように語っていたとのことである。すなわち彼はかつてアイタリデスという名前の人間としてこの世に生まれたのであるが、ヘルメス(神)の息子だと信じられていた。そしてヘルメスは彼に、不死以外のことなら何でも、望みどおりのことを選んでよいと言ったので、そこで彼は、生きている間も死んでからも、自分の身に起こった出来事を記憶を保持できるようにしてもらいたいと頼んだ。こうして彼は、生きている間は、あらゆることをはっきりと記憶にとどめることができたし、また死んでからも、その同じ記憶を保っていたのである。しかしその後、時が経って、彼(の魂)はエウポルボスという人の中に入って生まれ変わったのだが、あるときメネラオスによって傷つけられた。ところで、このエウポルボスは、自分はかつてアイダリデスという名前の人間であったことや、ヘルメスからどんな贈物を授かったかということ、また、自分の魂の遍歴(転生)がどのようにしてなされて、どれだけ多くの動物や植物に自分は生まれ変わったかということ、さらには、自分の魂はハデス(冥界)においてどれだけの苦難を味わったことや、他の人たちの魂もどんな苦難を耐え忍ぼうとしていたかということなどを、つねづね語っていたのだった。しかし、このエウポルボスが死ぬと、その人の魂はヘルティモスという人の中に移って行った。そしてこの人自身もまた、自分の記憶が保持されている証拠を示そうとして、(アポロンの信託所を管理する)ブランキダイ一族のところ(ディデュマ)へ出かけて行った。そしてアポロンの神殿に入って行って、メネラオスが奉納していた楯を証拠として示したのである。ーーーというのも、その楯は、メネラオスがトロイアからの帰港の折に、アポロンに奉納したものだと彼は言っていたからである。ーーーただし、その楯はもうすっかり腐食してしまって、ただ象牙の外装だけが保たれているにすぎなっかたのであるが。ところで、このヘルモティモスが死ぬと、その人は今度は、デロス島の漁師のピュロスとしてうまれ変わった。そしてこの人もまたすべてのことを記憶していたのである。つまり、自分はかつてはアイタリデスであったこと、それからエウポルボスに、ついでヘルモティモスに、さらにはピュロスに生まれ変わった次第を覚えていたのである。そして、ピュロスが死ぬと、その人はピュタゴラスに生まれ変わったのであり、そしてこのピュタゴラスは、これまで述べられてきたことのすべてを記憶していた、というのである。

注、ディアルコスの資料では、エウポルボス、ビンドロス、アイタりデス、美しい娼婦のアルコ、ピュタゴラスであり、気まぐれで空想的な話である。おそらくディアルコスの追加であろう(Burkert p138、139)

注、アテナイオス「食卓の賢人」(108e)には、アンティパネスの喜劇「ひよこ」の一節が引用されているそれは「人並みはずれて幸に恵まれたかのピュタゴラス様が」である。Burkert(p139)によれば、この劇はBC342年頃アテネで上演された。ここで、幸にあたるギリシア語は、τρισμακαριτηζにおいて、アンティパネスはτρισμ(3回)と、ακαριτηζ(この言葉は、死んで天国にいる)の二つの単語をむすびつけた。つまり、だじゃれである。これは、ピュタゴラスが三回死に、三回生を受けたと解釈できる。つまり、この当時のアテネの人々の間では、ピュタゴラスの生まれかわりはよく知られた事であった。おそらく、アンティパネスはヘラクレイデスに依っている。

注1、アイタリデスには、次のように独立した資料がある。「ペレキュデスの言うところによれば、アイタリデスはヘルメスから、ある時には自分の魂がハデスにあり、またある時には地上のいくつかの場所にある力を、贈り物として賜ったという」(DKB-8)、Dielsは、「おそらくペレキュデスがアイタリデスに言及しているために、ヘラクレイデスにあるような、ピュタゴラスに関する話が作りあげられたのであろう」と推測している。

注2、プルタルコス「MORALIA」7巻(LCLp475注)にはクラゾメナイのHermodrusの伝説が残されている。「Hermodrusの魂は、昼も夜も体から抜けだし、離れた所で話されていることや、行われていることを見聞きしていた。そして、魂が離れているとき、妻にだまされ、敵対者の焼き払われた。」これは、他の伝説では、クラゾメナイのHermodrusではなく、クラゾメナイのヘルティモスとされている。(LCLp475注)これも、ヘラクレイデスから独立しピュタゴラスの名は出てこない

注3、Burkert(p138)は、ピュロスとビンドロスは同一の人物であると推測している。そして、デロスの漁師とはその当時よく知られていた(次の二つの資料に現れる)デロス島の潜水夫のことであるとしている。

資料、DL2-22
この書物はデロス島の潜水夫を必要とするね
資料、DL9-12
この書物の中で溺れないようにするためには、誰かデロス島の潜水夫を必要とするねと語っていた

従って、ヘラクレイデスは、自分の想像力を発揮し、ピュタゴラスが現れない伝承をピュタゴラスに結びつけたと考えられる。しかし、この話は以下の資料のように様々な形で語られた

資料、オウィディウス「変身物語」(15巻)
このわたし(ピュタゴラス)にしても、トロイア戦争の時代には、パントウスの息子エウポルボスだったのだ。・・・霊魂もつねに同じものでありながら、いろんな姿のなかへ移り住む・・・それがわたしの説くところだ。


資料 ポルピュリオスVP26
ピュタゴラスはあいまみえた人の多くに、自分たちの魂が肉体に?縛される以前、かつて生きていた前世を、思い起こさせた。みすからもパントスの息子エウポルボスなりしを、反駁の余地なき証拠によって明らめていた。それでホメロスの詞藻で、わけても頌え、竪琴を伴奏に比類なく麗しい調べで朗詠しすること常であったのはかのくだり(以下「イリアス」17歌51-60を引用している)

、エウポルボスはパントオウス子で、メネラオスによって討ち取られた。「イリアス」(岩波文庫)また、次の章句からエウポルボスはアポロンとつながる「ヘクトルよ、いくらでも威張るがよい。クロノスの御子ゼウスとアポロンがおぬしに勝利を授け下さったのだものな。・・・わたしの武具を肩から剥いだのも、あの神々であったのだから。・・・わたしを討ち取ったのは凶運とレトの御子(アポロン)であり、人間ではエウポロボスであった。」「イリアス」(岩波文庫)つまりヘロトドスにとってはエウポルボスとアポロンは同一なものと考えることも可能だが(ピュタゴラス伝P63)断言できない(「イリアス」16歌777-817では別人として描かれている)。さらに、エウポルボスの父親パントオウスはアポロンの神官であった。

資料 ポルピュリオスVP45
ュタゴラスは、自分の前世に遡源して言った。第一にはエウポルボスだった、第二にはアイタリデス、第三にはヘルモティモス、第四にはピュッロス、そしてピュタゴラスである。これによって、魂は不死で、浄められた者にあっては、魂は前世の記憶まで達するという条理を示していた。

資料 イアンブリコスVP63
ピュタゴラスはあいまみえた人の多くに、自分たちの魂が肉体に?縛される以前、かつて生きていた前世を、思い起こさせた。みすからもパントスの息子パトロクロスに槍をつけたエウポルボスなりしを、反駁の余地なき証拠によって明らめていた。よってホメロスの詞藻で、わけても頌え、竪琴を伴奏に比類なく麗しい調べで朗詠し、声高らかに吟ずること繁くあったのはかのくだり、おのれみずからの討ち死にの段であった。(以下「イリアス」17歌51-60を引用している)ミュケナイで、トロイアの戦利品に交じってアルゴスのヘラに<奉納された>、このプリュギア人エウポロボスの楯にまつわる伝承は、云ったて周知ゆえ詳細にはおよばぬ。ただかような逸話の一つひとつをとおして、われわれが示したいのはかの業、すなわち、かの人(ピュタゴラス)自身おのが前世を知見し、ここから人への配慮を始め、人々におのれの前世を思い起こさせた次第である。

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