哲学以前におけるギリシアの世界観

フェニキア人は、BC13世紀には自分たちの文字を用いていた。ギリシア人は、この文字に、母音を表す3個の文字を加えてアルファベットを使い出した。これは、8~9世紀のことであると推測されている。ホメロスのものとされている、二つの叙事詩が書かれたのは、8世紀頃とされていれ、アルファベットの成立によるものである。(それ以前に線文字が使われていたが、記されている内容は「誰に穀物がいくら」などのように記録を記したもので、文学とか歴史には無関係であった)これは、暗黒時代に明るい光をともすものであった。当時の人々に、ホメロスはヘシオドスとともに倫理と叡智の宝庫であった。この「前八世紀ルネサンス」と呼ばれる文化現象こそ、ギリシア文明の決定的な分岐点になり、ポリスの成立が続く。素朴な世界観は次の(1)から(3)に現れる。

(1)主に、ホメロス、ヘシオドスが出典の素朴な世界観

①ウラノス(天空)、タルタロス(奈落の底)

資料、ホメロス「イリアス」(17ー425)「青銅の天空に達した」
資料、ホメロス「イリアス」(5ー504)「青銅の蒼穹に向けて」
資料、ホメロス「オデュッセイア」(3-2))「大いなる青銅の蒼穹へ」
資料、ピンダロス「ネメイア祝勝歌」(6-3~)「青銅の座たる天空が不動に存している」
資料、ホメロス「オデュッセイア」(15-329))「黒鉄の天」
資料、ホメロス「オデュッセイア」(3-2))「黒鉄の天」
資料、ホメロス「イリアス」(14ー288)「モミの木がアーエール(中空)を抜けてアイテール(高天)に達している」

ウラノス(天空)は、地上に、半球の形をして、青銅(鉄は、ミケーネ時代ではめずらしく、暗黒時代ころ一般的に使われた。)という表現から輝きそして堅牢なものであることを示しているようである。下記のオケアノスに関する資料等により、大地は、円盤状のものと考えられていたようである。

②タルタロス(奈落の底)

資料、ホメロス「イリアス」(8-13)
それともその者を引っ捕らえて靄(もや)深きタルタロスへ投げ込んでやろうか。
はるかに遠く隔たったところ、そこには底の果てなる穴倉があり、鉄の門を備え青銅の床張りがされていて
ハデス(冥界)よりも下方に隔たること、天空が大地から隔たるに等しいところ
資料、ヘシオドス「神統記」(726)
タルタロスのまわりには青銅の牆(かき)がめぐらされ、それを取り囲んで闇夜が、喉口のあたりを三重にたゆたっている。
また上方には大地と香料たる海の根とが伸び来たっている。

従って、青銅という言葉よりウラノスと対称的とも考えられるが、半円球という指摘がなく、よくわからない部分がある。

③オケアノス・・・円盤状の大地の周りには、大地を取り巻く河としての、水の源としてのオケアノス

ヘシオドスにみる神話的宇宙生成論。もしくは「世界のはじまりの物語」のほうが適切か。のちにイオニアに引き継がれるものか。

「年代」BC700頃
「作品」「仕事と日々」「神統記」
「生涯」ギリシア本土、ボイオティア地方のヘリコン山のふもとに近いアスクラの村で、農業を営む。農民詩人
「業績」下記の資料のように、ゼウスを中心にした神々の系譜を語るだけではなく、それによって統一ある宇宙の生成を語った。(資料2)
その意図は資料1に現れる。

資料1「神統記」(108~)
語りたまえ まずはじめに 神々と大地が
また諸河と大浪荒れる涯しない海が
また輝きわたる星辰 高く広がる天空が
いかにして生まれたもうたかを。
また神々がどのように富を配り いかに特権を分かちあい さらにまた
どのようにして はじめに山襞たたなずくオリュンポスの高嶺を手中に納めもうたかを。
資料2「神統記」(116~)
まず原初にカオスが生じた さてつぎに
胸幅広い大地(ガイヤ)、雪を戴くオリュンポスの頂に
宮居する八百万の神々の常久に揺るぎない御座なる大地と
路広の大地の奥底にある曖々たるタルタロス
さらに不死の神のうちでも並びなく美しいエロスが生じたもうた
この神は四肢の力を萎えさせ、神々と人間ども、よろずの者の
胸うちの思慮と考え深い心をうち拉ぐ。
カオスから、幽冥(エレボス)と暗い夜が(ニュクス)が生じた、
つぎに夜から、澄明(アイテル)と昼日(ヘメレ)が生じた、
夜が幽冥と情愛の契りして身重となり、生みたもうたのだ。
さて大地は、まずはじめ彼女自身と同じ大きさの
星散乱える天(ウラノス)を生んだ。天が彼女をすかっり覆いつくし、
幸う神々の常久に揺るぎない御座となるようにと。
また大地は、高い山々を生みもうた、
緑蔭濃い山々に棲む女精(ニュンペ)たちの楽しい遊山の場所を。
また(大地は)大波荒れる不毛の海
ポントスを生んだ、喜ばしい情愛の契りもせずに。さてつぎに
天に添寝して生みたもうたのは、深渦のまく大洋(オケアノス)

このように、ヘシオドスは時間的に秩序よく述べている。、平面的には、大洋とその中心の大地、垂直的には、大地の上に天、大地の下にタルタロスと空間的にも秩序だてている。なおカオスとは、「裂け目」であり、後の、オウィディウスの「変身物語」において「混沌」の意味に用いられている。ゼウスは、ティタン族との戦いに勝利し、ゼウスらオリュンポスの神々の支配される。神々は、よく知られているようにそれぞれの機能を与えた。さて、このゼウスは、人間の秩序、倫理的な面にもあらわれる。ヘシオドスの「仕事と日々」のテーマは「ディケ」(正義)である。それゆえ、ヘシオドスは、ゼウスの神々の系譜をのべ、これにより秩序ある宇宙の生成、さらに、それを率いるゼウスを仰いでいる。これは「だが、不滅のゼウスは 事の次第を察知し 企みに気づきそこなうことはなかった」(550~)、「ゼウスが果敢な行為の数々を示され」(710)、「ゼウスはいま その力を奮い起こし」(853)とゼウスの全知全能、威力について述べていることからも分かる。社会の倫理的な面に関する資料は、「仕事と日々」において語られている。「神統記」(901)には、人間社会の倫理に関する神が、生まれる記述がある。

資料、「神統記」(901)
ゼウスは輝かしいテミスを娶られた。
彼女は 季節女神たち すなわち
秩序(エウノミア) 正義(ディケ) 咲き匂う平和(エイレネ)を生まれたが
このからがたは、死すべき身の人間どもの仕事に 心を配られる

宇宙の秩序から、人間社会への秩序へ。これに関してもゼウスがその基準となる

資料、「仕事と日々」(1~9)
ピエリの詩歌女神(ムウサ)たち、歌によって誉めたたえるものたちよ
ここに来てゼウスを語れ、あなたたちの父神を讃め歌って。
このお方によってうつせみの人間どもは、あるいわ名を揚げ、あるいわ揚げない
あるいわ謳われ、あるいわ謳われないのだ、大いなるゼウスの御心のままに。
このおかたはいともたやすく人を強くし、また、またたやすく強者をうちひしぐ。
抜きんでた者を蔭薄くし、人目につかぬ者を興すのもたやすいのだ、
曲がった者を真直にし、驕る者を萎えさせるのもたやすい
高舘におわし、高みに鳴りわたるゼウスは。
(ゼウスよ)目と耳によって注目なされよ、正義によって判決を真直になしたまえ。
資料、「仕事と日々」(227~235)
かの人々との市は繁盛し、民びとらはそこに栄え、
子らを養う平和は国中に遍く、この者たちにけっして
辛い戦争の徴を定められはしない、遠くを見はるかすゼウスは。
正しく真直な人びとには、けっしてつきまとうことはないのだ、飢饉も破滅も。
この者たちのために大地は多なる糧をもたらし、
山々では?が梢に実をつけ、なかごろに蜜蜂どもを群れつどわせる。
羊らはふさふさと毛で覆われて重く、
妻女たちは両親に似た子らを生む。

ホームへ戻る