軽く、速く

 

以前、クレヨンしんちゃんを見てました。ひまわりちゃんが生まれる前のお話で、「お上品はキュークツだゾ」というのがありましたが、みさえさんはしんちゃんに上品に振舞うように指導します。単語に「お」をつければ上品になると思ったしんちゃんは、夕飯のおかず「メンチカツ」を彼なりに丁寧に表現しようと「おカチメンツ」というのですが、これでは「おかちめんこ」のようになってしまいます。と、それに気がついた私は大笑いしました。ルームメートは急に激しく笑い出した私にビックリです。

 

音楽の表現方法はいろいろあります。その中で「速さ」も大切な要素の一つです。「速ければ速いほどいい」というわけでもありませんが(やたらと「お」をつけても丁寧に聞こえないのと同じですね)、それでも速く弾けると気持ちいいですよね。というわけで、こんな練習法もある、程度にお読みください。

 

これはグランドピアノのほうが見やすいと思いますが、ピアノは打鍵楽器で、ハンマーが弦を打つことによって音を出します。とりあえず、鍵盤の底につくように何か音を出してみましょう。ハンマーが弦を打ちましたね。さて、打鍵が終わったハンマーはどこにありますか?弦にくっついていますか?それとも弦から離れていますか?

 

私の経験で申し上げると、このときハンマーは弦から離れていると思います。つまり、打鍵をする際にハンマーが実際に弦を打つ点は鍵盤の底よりも少し高い点にあるということが言いたいんです(ピアノによって違うと思いますが、たいてい半分よりも少し下ぐらいでしょうか)。つまり、その点にある程度の速さで届きさえすれば音は出るんです。これがいわゆる「軽く」弾くということなんですね(楽語ではleggieroと呼ばれています)。

 

底に到達するまで打鍵する代わりに、その6割から8割の深さで打鍵するわけですから、この弾き方が身に付けば速く弾く能力につながります。たとえて言うなら、つま先立ちで歩くか足をべったりとして歩くかということでしょうか(ただ、足の場合体重をすべて支えなければならないので、その負担は比較にならないぐらい酷ですが)。「ドスンドスン」と「コロコロ」の違いともいえますね(わかりにくい例えでごめんなさい)。

 

フランスのピアノ奏法にこの考え方が取り入れられています。ショパンの作品に多く見られますが、右手で小さめの音符がたくさん並んでいるときにはたいてい「鍵盤の底まで到達しないでいいよ、音さえ出ていれば」ぐらいのイメージになると思います。レガートにはなりにくくなりますが、ペダルを上手に使ってつなげているように聞こえるようにします。

 

私が子供のころこの弾き方の練習を指導されたとき、「スタッカートで練習して」と言われました。そのとき私は「スタッカート」を「切って」弾くというように理解していましたので、「打鍵の際、底まで到達して、できるだけ早く離鍵する」と練習してました。残念ながら「軽く」弾く方法は身に付きませんでした。今の私だったら下のように指導します。

 

  1. 日本語では「軽く」となってるけど、むしろ「浅く」という方がわかりやすいと思います。
  2. 普通は一つの音だけ軽く弾くということはあまりないので、連続した2つの音を浅く弾いてみましょう。できるだけ2つの音の間隔を小さくするようにしてくださいね。
  3. 次に、2つ目と3つ目の音も同じように浅く弾きます。どちらも浅い音になっていたら、今度は初めの音から3つ目の音まで浅く弾いてみます。
  4. 同じように音を一つずつ足していきます(脳のどこかで、「こうすればいいのか」と理解するので、初めから終わりまでやらなくてもいいかもしれません)。できないところだけ練習しましょう(できることを確認することも楽しいのですが、できないところをできるようにするのも大切な目的の1つです)
  5. このとき、音と音がレガートに聞こえなくても、大丈夫です(ペダルなどをあとで使うでしょうから)。

 

こう考えると、スタッカートの指示が出ているところも、実際には「レガートじゃなくても可」という意図で使用されているところもあるかもしれませんね。腕を使った物理的な動きをマスターされた方で(最小限の努力で最大限の効果を得られるようになったら)、もしも練習されている曲が速く弾けないという方は、この方法を試してみてください。