手の「上下」運動

 

今の時代(これを書いているのは20076月です)、女性蔑視ととらわれてしまいそうですが(というかあまり見る風景でもないですけど)、こんな状況を思い浮かべてください。

 

女性がある男性に一目ぼれしました。女性と男性には面識がありません。女性が一方的に男性を知っているだけです。通勤(通学)途中で見かけるだけかもしれませんし、公園でお弁当を食べていたら、お友達とキャッチボールをしているのを見かけたのかもしれません(そういうことも最近はないでしょうけど)。女性は、男性と話すきっかけを作るため、ある作戦に出ます。古来からよく知られている「落し物」作戦です。

 

女性はきれいなハンカチを準備し、男性の目の前でそれを「自然に」落とすように練習します。その男性ががめつくないことを祈りながらですが。このとき、ハンカチをポケットから出してくずかごに使用済みのティッシュを入れるように落としたら、雰囲気は台無しです。なんとか、歩きながら「あら、いやだ」という感じで(落としたことに気がつかない振りができればもっといいですね)、お目当ての男性の目の前で落とせればとりあえず第一段階は終了です。男性は、「あの、これ・・・あなたのですか?」とハンカチを拾って駆け寄ってくださることでしょう(責任はもてませんけど)。

 

手の「上下」運動はこの話に通じるものがあります。ピアノを弾くとき、わたしたちは3次元の世界に住んでいるので縦、横、高さと3つの次元で一番効率がいい方法を考えるべきですが、縦(この場合上に)に動くときにも「ついで」という形で打鍵することができます。手や腕を動かすことは日常生活でいう食塩の摂取のようなもので、取りすぎても体によくないですが、まったく取らないと体に支障をきたしてしまうというものに近いのです。それではどのようなときに腕を「上下」すればいいのでしょうか?

 

打鍵をする際には、強さではなく速さが問題です。速さが大きければ、それだけ音は大きくなりますし、速さが小さければ音は小さくなります。ピアノを弾くということはこのときのスピードをコントロールするということにもつながります。以前インチキ物理学のお話をしましたが、打鍵をする際の鍵盤と指との距離にこの鍵が隠されています。すなわち、指と鍵盤の距離が離れていれば、加速度を使ってより大きな音を出せますし、近ければよりデリケートな音を出すことができるわけです。ということはどういうことでしょうか?

 

どの音を他の音よりも大きく出すか検討すればいいということです。と、ここで楽典の知識が必要になってきます。

 

音価が長い音符を弾く際には、途中で聞こえなくならないようにある程度の速さで打鍵する必要があるし、音価が短い(=速い)音符を弾く際には、とりあえず聞こえればいいのでそれほど神経質にならなくてもいいのです。もちろん、これは強弱記号にも左右されますが、大体この法則に従っていれば大丈夫だと思います。これらを組み合わせて好みの音を出すのです。

 

たとえば、ショパン作品10のハ長調、右手について考えてみましょう。初めはフォルテですから早く打鍵する必要があります。というわけで、ある程度鍵盤から離れて打鍵します。初めの音さえ出してしまえば、その次の音にはアクセントなどがないので鍵盤の近くに手があっても大丈夫です。私の場合は、オクターヴが上がったとき手の勢いを使いたいので、少しずつ鍵盤から上がっていくようにします。とても浅い放物線(下に凸)を手首で描くような感じで弾くようにします (これは好みの問題です)。

 

いかがでしょうか?一度大げさにやってみて要領がつかめたら動きを小さくしていきます。限りなく直線に近い曲線(数学の世界では直線は曲線の一種と考えられますけれども)を描いていくようにしていきます。動作が大きすぎるのは体力の無駄遣いですが、まったく使わないのももったいありません。ちょうどいい大きさというのは一人一人違うのでここでは言及できませんが、使えるものは何でも使うという意識で試してみてくださいね。