第32章 蛇の年、赤の月、イラナの旬(5)

「それはそれは、素敵な発表会だったのよ、リノ」

新作ブランド発表会の翌日の王太子宮。

爽やかな朝の風には、花の甘い香りがかすかに漂っている。

リンダはテラスで、ゆったりとお茶を楽しんでいた――ちなみに、お相伴はスニだ。

朝食も兼ねているため、ケーキ・サレという塩味のケーキの盛り合わせと、熱い紅茶をリノが瀟洒な小卓の上に置く。

ニナとアンの二人の姿が見えないが、昨日の心労がたたったわけではなく、もとから非番で休みなのだった。

パティシエールとして仕えているリノだが、年齢が近く控えめなところがリンダに気に入られ、彼女つきの侍女のような立場になりつつあった。

「さようでございますか、リンダ様」

リノはひっそりと笑みを浮かべる。

「素敵なドレスがたくさんあったのよ」

「よろしゅうございましたね、リンダ様」

「本当に夢のような時間だったわ。寸劇仕立てになっていて、登場人物全員が新作ブランドの衣装をまとっているの。私も急遽、舞台に立ったのだけれど、緊張したわ」

と、昨日の興奮がさめやらぬまま、リンダは滔々とまくしたてる。

「まぁまぁ、それは」

穏やかなリノの相槌に、リンダは紅茶を一口飲み、その薫りを楽しみ、うっとりする。

「夢のような舞台だったわ。あなたにも、スニにも見せてあげたかったわ」

「アーイ、姫様」

「本当に、さようでございます、リンダ様」

いつも自分を賞賛してくれるスニと、差し出がましい口をきかないリノは、リンダの格好の話し相手――正確には話の聞き手であるが――だった。

「そうだわ、リノ。昨日のドレスを記念にもらったのよ、着替えて見せてあげるわ」

「はい、リンダ様」

突然のリンダの思いつきにも、リノは動じる様子もない。

「私にしか着られない寸法だからって、デザイナーがくれたの」

「リンダ様はほっそりとなさっていらっしゃいますので」

それも事実ではあるが、胸元を詰めすぎたことが“リンダにしか着られない”一番の理由であることは言うまでもない。

「まぁ、口が上手ね、リノ」

さっさと部屋に戻るリンダをリノとスニが慌てて追い、着替えを手伝う。

リンダのドレス姿は、たとえ胸が小さくても――そう見えないように配慮されていたが――素晴らしいもので、リノとスニはため息をつく。

「何てお似合いなのでしょう、リンダ様」

「姫様、きれい、きれい」

二人の賞賛にリンダは気をよくする。

「そうだわ、リノ、あなたに好きなドレスをあげるわ」

衣装部屋にずらりと並ぶドレスをリンダを示す。

「リンダ様、私ごときに怖れ多いことでございます」

「いいのよ。誰にも着られずに飾られているだけよりも、その方がドレスのためになるわ。はい、これなんてどうかしら? ほら、まぁ素敵だわ」

リンダは身近なドレスを取って、リノにあてがう。

「リンダ様、滅相もございません」

「遠慮はいらないのよ、リノ。あなたの髪の色に似合うのは、どの色かしら? この濃紺もいいわね……私には少し大人びていたけれど。それとも、フリルやレースがたっぷりの、この薄紅はどうかしら? 純白のパティシエール姿も似合っているけれど、たまには、こういうドレスも着てみたいでしょう?」

“女性は恋愛やドレスに興味があるもの”というリンダの決めつけだったが、あながち、はずれてはいなかった。

「それは……興味がないといえば、嘘になりますが」

やんごとなき事情により“女性らしい楽しみ”を封印しているリノは、言葉を濁す。

「詳しくは知らないのだけれど、黒竜戦役で両親を亡くし、病がちの弟さんの面倒もみているのでしょう? ねぇ、少しぐらいは自分のことを考えてもいいのではなくて? きれいなドレスをたまには着ても、罰はあたらないわよ」

「は、はい」

「誰も来ないから、さぁさぁ、着てみて」

「……かしこまりました、リンダ様」

せき立てられるようにして、リノはカーテンの奥で下着姿になり、サテン生地のワンピースドレスに袖を通す。

「リンダ様、少しきついようでございます」

「そう? 早く見せてちょうだい、リノ」

そっとカーテンの陰から姿を現したリノは、背中の釦こそとまっていないが、腰周りはちょうどよさそうだった。

「少し補正すれば大丈夫だと思いますが……」

「そうでしょう? あなたもすらりとしているから、ピッタリだと思ったのよ」

「……は、はい、リンダ様」

実はこのドレス、胸の部分に厚く布があてがわれていたのだ。

それを外せばちょうど良さそうだ、とはリノは口が裂けても言えなかった。

「そうだわ。私はこれからカリナエに出かけようと思うの。いつ戻るかわからないから、今日の仕事は済ませたことにして、もう帰ってもいいわよ、リノ」

「リンダ様、それではまるで仕事をさぼるような……」

「私が許すのだから、いいのよ、本当に。あまり休みもとっていないのだから、たまには弟さんのそばにいてあげたらどうなの? 私もカリナエでゆっくりと過ごすから」

「は、はい……」

庭師に命じて花を切らせ、リンダがカリナエに出かけるのを見送ると、リノは素直に帰宅の途についたのだった。

 

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喜び勇んでカリナエを訪問したリンダだったが、思わぬ抵抗にあっていた。

家令のガウスがナリスに会わせようとしないのだ。

「ですからリンダ様、先ほどから何度も申し上げておりますように、ナリス様はどなた様にもお会いになりたくないとのことでございます」

「ガウス、お願いだからもう一度、ナリス兄様に確認してちょうだい。未来の妻であるリンダ・アルディア・ジェイナがお見舞いに伺ったと、きちんと伝えてちょうだい」

「リンダ様、そのことはお伝えしましたが、ナリス様のお言葉に変わりはありませんでした」

「そんなことはないわ!」

先ほどから二人は押し問答を繰り広げているのだった。

リンダにしてみれば、赤の他人ならまだしも、家族同然なのだから通されて当然、という気持ちだった。

「リンダ様、本日はどのような御用でございましょうか?」

丁寧な物腰でカイが姿を現したので、リンダの顔がパッと明るくなった。

ナリスがカイを迎えに寄こしたと勘違いしたのだ。

カイのにこやかな笑顔をそらぞらしく感じたのは、リンダの気のせいだろうか。

「ナリス兄様へのお見舞いに決まっているわ、カイ」

リンダが持ってきた花束にチラリと視線をやり、カイはおもむろに口を開く。

「そのドレスは、昨日のものとお見受けいたしますが、違いますでしょうか、リンダ様」

「ええ、そうよ」

“お似合いでございますね”と賞賛の言葉を浴びると思いきや、カイの口調は冷淡そのもの――まるで主のアルド・ナリスが乗り移ったかのように――だった。

「随分と、楽しまれたのでございましょう?」

「ナリス兄様がいなかったので、おもしろさも半減だったわ」

「そのナリス様でございますが、昨日は病気平癒とパロの平和祈願のために神殿巡りをされておいででした。ナリス様は下々の者に心配かけぬように、お元気そうにふるまわれてはおりましたが……」

含みを十分にもたせてカイはリンダに視線をやり、

「リンダ様はその間、お楽しみでいらっしゃったのですね」

「……まさか、ナリス兄様が神殿巡りをされるだなんて知らなかったものですから」

「さようでございますか」

カイの口元が妖しく光った、ように見えた。

月影さえ凍るような眼差しで、揶揄もあからさまにため息をつく。

「コモロン侯爵をご存じでしょうか、リンダ様?」

「ええ」

レムスのもとに日参している、ぱっとしない印象の貴族だ。

「サリア神殿の祭司長代理が内定してお忙しい身ですが、昨日はナリス様の病気平癒祈願のために、一人で身をやつして神殿巡りをされていたのでございます。コモロン侯爵におかれましては、レムス陛下もナリス様もどちらも大切なため、それはもう必死な面持ちでございました。偶然にもサリア神殿の前でバッタリと出会いまして、ナリス様もコモロン様も心底、驚かれておりました。ナリス様の神殿巡りのことは秘中の秘でございましたので、常日頃からコモロン侯爵がナリス様の御体のことを心配されていらっしゃることの証だてとなり、ナリス様も大変、感激されておいででした」

コモロンが“ナリス”と“偶然”に、サリア神殿で会ったのは事実ではあるが、言うまでもなく計画されたものだった。

ヴァレリウスが密かにナリスの神殿巡りのことを耳打ちしていたのだ。

そのことを聞いたコモロンは喜び勇んで神殿巡りをし、“ナリス”に短いが声をかけられるという僥倖に恵まれたのだった。

「とにかく、カイ、私はナリス兄様に一月以上も会っていないの。会わせてもらってもいいのではないの?」

「一月がどうかされましたか? 戦に出た夫の帰りを待ち続け、自ら刀を持ち、城を守りぬいたいにしえのクレイン姫のことはご存知でございますよね? 二人は生涯、二度と会うことは叶いませんでしたが、揺ぎない信頼と愛情に結ばれていました」

あからさまなあてこすりと侮蔑のこもった口調に、リンダは少なからず衝撃を受けた。

(私はただ、ナリス兄様に会いたいだけ)

(どうして、それがいけないことなの?)

(黒竜戦役であんなに苦労して、ようやく平和を取り戻したというのに)

(幸せになってはいけないというの?)

(どうして、会ってはいけないの?)

リンダはスミレ色の瞳に力をこめ、もう一度、確認する。

「パロ王姉である私が会いたいと言っているのよ?」

「はい、リンダ様、わかっております」

「ナリス兄様に、もう一度だけ、聞いてきてもらえないかしら?」

「何度言われましても、答は同じでございます。それに私としましては、ナリス様に同じことを二度も聞くなど、できようはずもありません」

この世の地獄に八倒しながらも、己の血を啜ってでも生き抜いた者だけが持つ、覚悟を持ったゆるぎのない瞳にリンダは射すくめられる。

「カイ、あなたは……」

《心話》の能力は二人ともにない筈だったが、カイの心の声がリンダには聞こえてきた、気がするのだった。

(類まれなる才能と、稀有なる運命をお持ちのナリス様)

(運命に愛されているのか、それとも、憎まれているのかわからないほど、常人とはかけ離れた星のもとに生まれてきたお方……)

(そのナリス様の“伴侶”となることが、どういうことかリンダ様にはおわかりなのですか?)

(三文芝居のような、安っぽい色恋ではないのですよ?)

(あなた様にどれだけのお覚悟がおありになるというのですか?)

言葉以上に雄弁なカイの瞳に気圧されるリンダに、さらに容赦なく追い討ちがかけられる。

「リンダ様はナリス様の婚約者でございますよね?」

「もちろん、そうよ」

リンダは自信満々で誇らしげに、大きくはない胸をはる。

「それなのに、昨日はパーティに出席していたのでございますよね」

「……えぇ」

 “はい”か“いいえ”でしか答えられない質問をカイは繰り広げ、リンダを追い詰めていく。

「先ほど、“ナリス兄様がいなかったので、おもしろさも半減だったわ”とおっしゃられたことを覚えていらっしゃいますか、リンダ様?」

「もちろん、覚えているわ、カイ」

「と、いうことは、“半減”であっても、楽しまれたことには違いないのでございますよね?」

「……それは」

「お返事が聞こえませんが、リンダ様?」

「そうよ、カイ。楽しくなかったと言えば、嘘になるわ。でも、少しでもナリス兄様の慰めになればと思って、昨日のことを話に来たのよ」

「ナリス様以外の殿方とご出席されたパーティの話を、でございますか?」

「殿方と言っても、アウレリアスは護衛の騎士だわ」

「ですが、ナリス様以外の男性であることに変わりないと思うのですが、私の思い違いでしょうか?」

「……あなたの言う通りよ、カイ」

「婚約者であるナリス様をないがしろにして、他の殿方と遊ばれていた、ということでございますね?」

リンダの気持ちとしてはもちろん“いいえ”だが、状況的には“はい”と言うしかできなかった。

口惜しくて、リンダは唇を噛み締める。

その気になれば、侮辱罪や不敬罪に問い、カイに死を賜ることさえリンダにはできるのだ。

そのことがわからぬカイではない。

それでもなおかつ、カイがこのような強硬な態度に出るとは、彼女には思いもよらなかった。

「……気分が優れないから、帰るわ。ナリス兄様によろしく伝えてちょうだい、カイ」

「かしこまりました、リンダ・アルディア・ジェイナ殿下」

まさしく慇懃無礼を地でいくカイなのだった。

 

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リノは大切そうに大きな包みを抱えて、乗合馬車に乗っていた。

見知らぬ人々と相席になる乗合馬車など、男爵家の令嬢としては考えられぬことだが、馬車も御者もいないので仕方ないのだった。

やがて、決して大きくも新しくもない屋敷にリノは戻ってきた。

両親との思い出の残るこの屋敷を手放さずに済んだのは幸いだが、庭師や小間使いなどを雇う余裕などなく、手入れが行き届いているとはお世辞でも言えなかった。

それでも“我が家”があるだけで、心が休まるのだった。

錆の浮いた門にリノが手をかけようとすると、

「お帰りなさいませ、リノ様」

と、庭木の剪定用の鋏を持った十五、六歳の赤髪の少年が、出迎えた。

手足はスラリと長く、少年から青年へと移行する過渡期特有のしなやかさに満ち溢れていて、額に汗して作業する姿も似つかわしい。

「ごめんなさいね、キルヒアイス。ラインハルトが熱を出したものだから、突然、留守番を頼んだりして」

「いいのですよ、リノ様。それよりも、忘れものでもされたのですか?」

「違うの。リンダ様が、今日はもう帰ってもいいとおっしゃってくださったの」

「さようでございますか。ラインハルト様も喜ばれます」

「本当にごめんなさいね、来てもらって。あの子、わがままは言ってない?」

「ご心配にはおよびません、リノ様。それよりも、“ごめんなさい”はやめてください、とお願いしたと思うのですが」

「そうだったわね、ごめんなさい、キルヒアイス」

「ほら、また、リノ様」

「ごめんなさい、本当にだめね。いつもありがとう、キルヒアイス」

「どういたしまして、リノ様」

そんな二人のやり取りを、温かく、そして半ば呆れたように見ている金髪の少年がいた。

「お帰りなさいませ、姉上。私のことなど、眼中にないようでございますが」

男爵家の跡取りであるラインハルトが、“仲良くお喋りしているのを邪魔して、悪いのですが”と言いたげな視線でリノに声をかけた。

「ラインハルト、あなた、起きても大丈夫なの? 熱があったのではないの?」

「姉上は心配性なのでございますから。昨日、寝不足だったので、朝方、少ししんどかっただけでございますよ」

「あまり丈夫ではないのだから、無理はいけませんよ、ラインハルト。キルヒアイスもごめんなさいね」

「いいのですよ、姉上。キルヒアイスは、姉上に頼りにされるのが好きなのですから」

「ラインハルト様」

金髪の少年の悪意のない揶揄に、キルヒアイスが頬を髪のように赤らめる。

三人の中ではラインハルトが一番若いのだが、一番世慣れているかのようだった。

リノにとって、四つ離れたキルヒアイスは、体格では自分を追い越してはいても、弟と同じだった。

「本当に姉上は心配性ですね。いつまでも姉上ばかりに苦労をかけるつもりはありませんから」

「まぁ、楽しみにしているわ、ラインハルト」

「その口調は信用していませんね、姉上?」

「それはどうかしら?」

リノとラインハルトの姉弟が仲良く屋敷に入っていく後ろ姿を、キルヒアイスは微笑ましい眼差しで見つめている。

黒竜戦役の前までは、キルヒアイスの両親が男爵家に仕えていたので、彼にとって絵のように麗しい姉弟は主と同じなのだった。

今では名ばかりの男爵家となり、泣く泣くキルヒアイスの両親は別の屋敷に勤めているのだが、息子がかつての主人の家に行くことを黙認しているのだった――リノとラインハルトに同情することも多く、屋敷の維持のためには何かと男手が必要だとわかっているので。

「キルヒアイス、お茶でもいかが? 遠慮はいらないのよ」

居間に入ったリノが振り返って尋ねる。

ラインハルトは我が物顔で椅子に座っているが、堅苦しいまで律儀にキルヒアイスは立っていたのだ。

「それでは、いただきます」

と、礼儀正しくお辞儀をしてからキルヒアイスは席につく。

「姉上、何かいいことでもあったのですか?」

お茶の用意をしているリノをじっと見ていたラインハルトが、ゆっくりと口を開いた。

「大したことではないのだけれど、リンダ様からドレスをいただいたの」

「ぜひとも、見てみたいです。なぁ、キルヒアイス」

「はい、ラインハルト様」

かつては、料理自慢の男爵夫人の心づくしの料理にリノがお菓子を用意して、ささやかではあったがパーティが毎月のように行われていたのだ。

小規模ではあったが、温かいパーティだった。

そして少年達は、リノがドレスを着れば、まるでその時間が戻ってくるかと思っているかのように、期待のこもった視線を彼女に向ける。

「それでは、少しだけ待っていてくれるかしら? 着替えてくるわね」

「姉上、ごゆっくりどうぞ」

リノが自分の部屋に戻ると、ラインハルトが静かな、だが、大人びた口調でキルヒアイスに語りかける。

「キルヒアイス、未来は自分の手で勝ちとるものだ。姉上は私を守っていてくれるが、過去の幸せに縛られているに過ぎない。私は、例の試験を受けてみるつもりだ」

「まさか、本当にあるのですか?」

「カラヴィアのランの話だから、おそらく間違いはないだろう。アルド・ナリス様は、身分などにこだわらず、優秀な人材を求めておられるそうなのだ」

「その選考試験に応募なされると?」

「そうだ。もちろん、応募するだけではなく、必ず、この手で未来を勝ち取ってみせるつもりだ。クリスタル・パレスに眠る《古代機械》の研究を足がかりにして、私は科学者として有名になってみせる」

「はい、ラインハルト様」

下級貴族が成り上がるためには、何かのきっかけが必要であり、ラインハルトを学問でそれを成し遂げようと決意したのだった。

「だから、おまえは姉上を頼む。私はこの家に戻ってくる時間もなくなるだろうからな」

「……ラインハルト様」

「しっかりするのだぞ、キルヒアイス。姉上はなかなかに古風で、恋愛には疎いからな。それはおまえも同じではあるが」

「何をおっしゃりたいのですか、ラインハルト様」

いつもは物静かなキルヒアイスも、リノのことでからかわれると慌てふためくのだ。

少年達が話している間に、すっかりリノは着替えを終えたようで、再び姿を現した。

化粧はほとんどしていないが、頬がほんのりと桜色に上気している。

「どうかしら?」

桜色のドレスをまとったリノは可愛らしく、美しかった。

ほっそりとしたリンダと体型は一部を除いてほとんど変わらず、胸を膨らませていた布を取るだけで、ぴったりなのだった――それでもまだ、胸は窮屈ではあったが。

女性らしい身体を包むサテンがやわらかく光を反射し、光沢もまた麗しかった。

普段は“生意気な”ラインハルトでさえ、姉の艶姿に口をぽっかりと開けている。

「ねぇ、似合わないのかしら?」

反応のない二人に、リノは心配になってしまう。

「姉上、十分に美しいですよ。一曲、踊っていただけませんか?」

ニッコリとラインハルトが陽だまりの笑みを浮かべ、席を立った。

差し出されたラインハルトの手をとると、リノは優雅にワルツを踊り始める。

流れていない音楽さえ聞こえてくるような、優美で存在感のある姉弟のワルツに、キルヒアイスは表情を和ませる。

「ねぇ、このドレス、おかしくないかしら、ラインハルト?」

「聞く相手が違いますよ、姉上」

「……どうかしら、キルヒアイス?」

「とてもお似合いで、美しいです、リノ様」

「それはリンダ様のドレスですから、生地も仕立ても一流ですからね。お茶はもう少しだけ、待ってちょうだいね」

「はい、リノ様」

(美しいのはドレスはもちろんですが、リノ様でございますよ)

その一言が、キルヒアイスにはどうしても言えないのだった。

 

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その翌日のこと、クリスタル護民騎士団のロイスが市内巡回中に殺害されるという、衝撃的な事件が起きたのだった。

 

 

あとがき

時間があきました(^^;)。

その上、かなり文章が手抜きかもしれませんね。

カイとリンダのやり取りも、もう少しきつくしたかったのですが(爆)。

パソコン不調のため、修理か新規購入かどーしようかと悩んでいます。仕事が忙しくて、先送りしていますが(^^;)。

ページも久しぶりに手作り?なので、見苦しいと思いますが、ご容赦ください。

『銀河英雄伝説』そのままのネーミングの主従はいかがでしょうか? 

「ナリス様云々」と言っていますが、このSSのラインハルトはかなりの脇役で、実は二度と出ない可能性さえあります。

キルヒアイスはまだ、出番がありますけど……。(2011.7.27)

 

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