
1.捕食性昆虫の蚊類幼虫に対する捕食能力の評価・PCRを活用した蚊の捕食者の判別
ボウフラ(蚊の幼虫)の天敵を調べることは環境を配慮したmosquito controlを実践する上で重要です.たとえば,水田には水稲害虫に対する農薬散布が行われますが,それによって水田繁殖性のコガタアカイエカ(日本脳炎媒介蚊)の幼虫が殺虫剤抵抗性(農薬に対して強くなる)を獲得し,さらに農薬によって蚊の幼虫を捕食する天敵も死滅してしまうので,蚊の幼虫が増加するという報告があります.水田から発生する蚊をある程度抑制するためには,天敵の役割を評価し,それらの密度を下げないように工夫する必要があります.ゲンゴロウ類は種数が比較的豊富で,水田中の上位捕食者となります.実験で確かめてみると,彼らの捕食能力*は想像以上に高いことが分かりました.また最近では,PCR法を用いてケニア・ビクトリア湖畔の水溜りやベトナムの人口容器に棲むボウフラの捕食者の判別も行っています.*捕食能力(機能の反応)についてはこちら
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| 水田に住む蚊の天敵(写真はハイイロゲンゴロウ) | ヤブカ幼虫を捕食する人口容器に生息するチビミズムシ(ベトナムにて) | PCR法による蚊の天敵の確認(左から,DNAラダーマーカー,ハマダラカ,7個体のヤゴの胃内容物を示す.この場合,4/7個体のヤゴからハマダラカの捕食を確認) |
主な業績
Ohba S, Takagi M (2010) Predatory ability of adult diving beetle on Japanese
encephalitis vector, Culex tritaeniorhynchus. Journal of the American Mosquito Control Association 26: 32-36.
Ohba S, Trang Huynh TT, Kawada H, Loan Luu L, Tran Ngoc H, Le Hoang S, Higa Y,
Takagi M. (2011) Heteropteran insects as mosquito predators in water jars
in southern Vietnam. Journal of Vector Ecology 36: 170-174.
Ohba S, Kawada H, Dida OG, Juma D, Sonye G, Minakawa N, Takagi M. (2010) Predators of Anopheles gambiae sensu lato (Diptera: Culicidae) larvae in wetlands, western Kenya: Confirmation
by polymerase chain reaction method. Journal of Medical Entomology 47: 783-787.
2.水田環境より発生する蚊とその天敵
アジアには水田が多くあり,そこから蚊が発生します.また,水田を維持するためにはそれに付随する水環境が必要で,そこからも蚊が発生します.そして,日本では,休耕田を使ったビオトープ事業が各地で行われるようになりました.これらの環境から発生する蚊とその天敵について調査し,環境との調和が取れた水田環境について研究しています.
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| 水田とその脇の用水路 | 休耕田ビオトープ | 二期作が行われる水田(ベトナム) |
主な業績
Ohba S, Trang Huynh TT, Kawada H, Loan Luu L, Tran Ngoc H, Le Hoang S, Takagi
M. (in press) Mosquitoes and potential mosquito predators in rice agroecosystems
of the Mekong Delta, southern Vietnam. Journal of the American Mosquito Control Association
3.病原媒介蚊を含む止水性水生昆虫類の群集生態学的研究
地球上には湖沼,湿地,池,水田,水溜りなどさまざまな止水性の淡水域が存在し,そこにはさまざまな水生昆虫が暮らしています.これまでは,肉食性水生昆虫(水生カメムシ,水生甲虫など)の食性の解明や,タガメと餌動物及び捕食者間の種間相互作用の解明に取り組んできました.タガメは脊椎動物食者で,オタマジャクシが幼虫の成長率を上げることが明らかになりました.ところが,図鑑や子供向けの本でゲンゴロウ類幼虫の餌としても紹介されるオタマジャクシが,詳細に調べてみるとゲンゴロウの餌としては適さないことがが分かりました.また,病原媒介蚊も止水域で繁殖する水生昆虫で,病原媒介蚊とその天敵の種間関係についても調べています.これらの水生昆虫の餌や天敵関係の解明は,希少な水生昆虫の保全や病原媒介蚊の個体数抑制を語る上で貴重な研究となります.
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| オタマジャクシを捕食するタガメ幼虫 | マツモムシを捕食するクロゲンゴロウ幼虫 | 天敵の存在は蚊の生活史形質に影響する!? |
主な業績
Ohba S (2009) Ontogenetic dietary shift in larvae of Cybister japonicus (Coleoptera: Dytiscidae) in Japanese rice fields. Environmental Entomology 38: 856-860.
Ohba S, Swart C (2009) Intraguild predation of water scorpion Laccotrephes japonensis (Nepidae: Heteroptera). Ecological Research 24: 1207-1211.
Ohba S, Miyasaka H, Nakasuji F (2008) The role of amphibian prey in the diet
and growth of giant water bug nymphs in Japanese rice fields. Population Ecology 50: 9-16.
Ohba S (2007) Notes on the predators and their effect on the survivorship of
the endangered giant water bug, Kirkaldyia (= Lethocerus) deyrolli (Heteroptera, Belostomatidae), in Japanese rice fields. Hydrobiologia 583: 377-381.
Ohba, S. and F. Nakasuji (2006) Dietary items of predacious aquatic bugs (Nepoidea: Heteroptera) in Japanese wetlands. Limnology 7: 41-43.
4.コオイムシ科昆虫の繁殖システムの解明
メスではなくオスが卵の保護を行う昆虫は極めて稀です.コオイムシ科に属する昆虫(タガメ,コオイムシなど)は,父親が卵塊を保護するという独特の習性を持っています.昆虫においてオスによる卵保護が進化した背景について,分子生態学的手法や行動観察により明らかにしています.
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| 卵塊を保護するタガメの雄 | 卵塊を背負うコオイムシ |
主な業績
Ohba S, Hidaka K, Sasaki M (2006) Notes on paternal care and sibling cannibalism
in the giant water bug Lethocerus deyrolli (Heteroptera: Belostomatidae). Entomological Science 9: 1-5.
大庭伸也 (2002) タガメの卵塊における一斉孵化メカニズムとその意義.昆蟲ニューシリーズ 5: 157-164.
5.捕食性昆虫における捕獲形質の機能の解析
カマキリやタガメなどの捕食性昆虫には,餌を捕らえるための捕獲脚が備わっています.タガメについて調べたところ,この捕獲脚にはそうでない脚に比べ特異な発育プログラムがあることが分かりました.今後,他の昆虫についても調べ,捕獲形質の機能の違いについても調べていくつもりです.
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| 特徴的な捕獲脚を持つタガメ | タガメ幼虫の前脚先端の爪 |
主な業績
Ohba S (2009) Foraging behavior and raptorial character in giant water bug. In:
Handbook of Aggressive Behavior Research (Caitriona Quin and Scott Tawse eds.), pp. 515-528, Nova Science Publishers,
NY.
Ohba S, Tatsuta H, Nakasuji F (2008) Variation in the geometry of foreleg claws
in sympatric giant water bug species: an adaptive trait for catching prey?
Entomologia Experimentalis et Applicata 129: 223-227.
Ohba S, Tatsuta H, Sasaki M (2006) Raptorial legs and claws are not influenced
by food condition in nymphal stages of Lethocerus deyrolli. Annals of the Entomological Society of America 99: 151-156.
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