晩秋の夜半、辺りは既に肌寒く、枯れかけた木の葉が乾いた風に舞う。
寮では死んだと思われていた三面拳達の復帰を祝い、盛大な宴会が催されている。
その騒ぎの輪の中から静かに抜け出した男を追って、飛燕はこの場所にやってきた。
「またこんな所で。煙草はやめた方が良いと、あれ程言ったでしょう。」
飛燕の声に、恐らくは気配でとっくに追われていた事を察知したであろう伊達は、ようやく面倒くさげにこちらへ視線を向けた。
その言葉に答える代わりに、伊達はまだ半分も吸っていない煙草を足元へ落とす。
その様に、飛燕はクスリと小さく笑う。
素直ではない。しかし、言う事はちゃんと聞く。昔から、そんな所は変わっていない。
同級生達は皆、涙を浮かべて「生きていて良かった。」だとか、「心配していた。」だとか真心のこもった言葉をかけてくれた。
そして、まだ痛々しく包帯の残る身体を「大丈夫か。」と気遣ってくれる。
しかしこの人は、いつもと変わらない無表情で、そんな優しい言葉の一つもかけてこない。
そればかりか宴会の途中で抜け出して、こんな場所で一人煙草を吹かしている。
いかにもこの人らしい。だから飛燕は笑った。
「何を笑ってやがるんだ。」
「いえ、別に。」
王大人の治療室で意識が戻った三人は、まず最初に無事を伊達に伝えて欲しいと懇願した。
総長だけには伝えて欲しいと。
なぜならこの人は、顔には出さずとも、言葉には出さずとも、我々三人の死を自分自身の責任であると自らを責め続けている筈だから。
自分さえ男塾に戻ると言わなければ、部下を死に追いやる事はなかったと…本当は、心優しい人だから。
王大人はそれを聞き入れ、伊達にだけは秘密裏に三人の生存を先に伝えた。
それから王大人の話に依れば、伊達は毎日、人知れず治療所の前まで足を運んでいたと言う。
そこまで心配していたのであれば、優しい言葉の一つでもかければ良いのに。
飛燕は再びクスリと笑う。
「だから何を笑ってんだ。」
「いえ、ね。私達は、いい総長を持ったものだと思っただけですよ。」
そう飛燕はさらりと言って、伊達の顔を見上げて話題を変える。
「あなたの傷も、王大人にかかれば残らなかったかも知れませんね。」
そう、自らの頬を伊達に寄せてみる。
「どのような奇術かは知りませんが、ほら、こんなに綺麗に。」
独眼鉄によってつけられた傷跡を、顔を傾けて見せる。
「よく見えねぇな。」
暗がりの中、伊達はたいして凝視もせずに、すぐに気のない返答を返す。
「見えないのなら、触れてみたらいいでしょう。」
飛燕の言葉に、伊達の長い指が動き…長い髪をかきわけて両手でその頬を包む。
その大きな手の体温が、飛燕の頬に伝わって外気の寒さを遮断した。
伊達は一・二回…その存在を確かめるように頬を撫でると、そのまま深く口づける。
言葉にはしないが…「お帰り」と言われたような気がして、飛燕はそっと目を閉じた。