月を眺める話



今は昔、天竺に兎・狐・猿、三(みつ)の獣ありて、共に誠の心を発(おこ)して菩薩の道(どう)を行ひけり。


 昔天竺に猿、狐、兎がおり、この三匹は自分が前世で罪を犯したために、
 この世に獣として生まれたのだと思い、善行を重ねていた。
 ある時、三獣の前に餓えた旅人が現れる。
 そこで、猿は果実や野菜など、狐はお供え物になっていた飯、魚貝類などを集めてきて旅人に与えるが、
 兎は何も見つけることができない。
 兎は思案した末に、火を焚いて待っていてくれといってどこかへ行ってしまう。
 猿と狐が火を焚いて待っていると、兎は手ぶらで帰ってきた。
 そして兎は「どうぞ私を食べてください」と言って、火の中に飛び込む。
 それを見た旅人は、本来の姿である仏の姿に戻り、火に飛び込んだ兎の姿を、皆に見えるようにと月の中に写した。
 月の面に雲がかかったように見えるのは、兎の体が焼けた時の煙だという。