淡水人魚

淡水にも人魚は棲めるのかな。
飛燕は山間に流れる小さな川を眺めながらそう呟いた。

三面拳縁の寺に世話になり、屋根の有る場所で眠れることは有難いし朝夕のお勤めとやらにも
文句は無い。
ただ伊達が閉口したのは、やはりその菜食であった。
勿論贅沢は言えない。夕刻ひとりで川に下り釣り糸を垂らす。
そこへ軽やかな足音と共に飛燕が現れ伊達の横に腰を降ろした。そうして呟いたのだ。淡水にも
人魚は棲めるのか、と。
「この辺りの村にはね、この寺には人魚の肉を食べて永遠に歳をとらなくなった人間が棲んでいる
っていう怪談があるんですよ。」
人魚は広い海に棲んでいるってわたしは思うんですけどね。と飛燕は笑いながら付け加えた。
「この寺に?」
「きっと我々三面拳がそう見えたのでしょうね。同じ顔をした人間がいつの時代にもいたのですか
ら。」

何百年も何千年も歳をとらず孤独に生きなければならない。それは恐ろしい怪談だろう。しかし
それが三人であればどうなのだろう。寂しくはないのだろうか。それとも其処にはただ三人分の
孤独が在るだけなのか。

それが単なる村の子供たちの中で語られる他愛も無い話ということは、伊達にも判っている。
しかし深い森のせいなのか、自分を見つめる碧の目のせいなのか、この川の中から水音と共に
人魚が姿を現すような、そんな気がした。
とびきり美しい人魚が。






この先待つものが
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