「本気にするな。千年以上昔の伝説のようなものだから。」
月光はそう言うと、また黙々と歩き始めた。
伊達も同行者が黙ってしまえば、同じように黙って歩くしかない。
(たとえ、その主が見つかったとしても、そう簡単に我々は寺から出る事は叶うまい。)
月光は三面寺の厳しい戒律に思いを馳せる。
数多くの修行僧を抱え、その名を世に知らしめす三面寺。
其処が今更三面拳を失うわけにはいかない。
かつては行われていたという主探索も何百年も前に廃止された。
そもそも次期三面拳を捜すのですら、当初は死後転生した姿を探すという名目で
何年もかけて探していたものを、昨今では10年とあけずに探索が行われているという。
臣人とこのように旅に出ることも三面寺は快く考えていないだろう。
先代三面拳が健在なのと、雷電の説得によって許可がおりているだけだ。
(執行猶予期間中というわけだ。)
月光はこう思うと、空を見上げた。
雷電は、そしてまだ幼い飛燕はこの運命をどう考えているのだろう。

その夜、月光は夢を見た。
自分と伊達と飛燕と雷電が出てきた。
何を話したのか、何をしていたのかは覚えてはいない。
ただ、そのひと達が夢に出てきた、そんな夢だった。
いつも仄暗い薄明かりの中で生きてきた。勿論自分の顔も、肉親の顔も、
色というものも知らないというのに。
これは彼等であるという実感があった。
目覚めてみれば、もう彼等の残像を結ぶ事は出来なかった。
でもきっと夢の中で彼等と私は笑っていた筈だと、そう思った。
(笑顔がどんなものかも知らぬのにな…)
月光は小さく溜息をつく。

その夜、伊達も夢を見た。