ULTRA WORLD
ウルトラマン


第25話前編

遠い宇宙の彼方から、新しい彗星がやってきた。
赤い尾を引いたそれは、ツイフォンと名づけられた。
ツイフォンは地球を目指して刻々と近づいた。
そして、電子計算機がはじき出したツイフォンの軌道は!

「なんですって!?地球と衝突する?」
その事実に驚きを隠せないフジ隊員はイワモト博士の顔を凝視する。
「イワモト博士!」
ムラマツキャップも、信じがたい、という表情でイワモト博士に喰らいつく。

「うん、大変なことになった」
電子計算機のはじき出したデータを手に、
さすがのイワモト博士も額に汗をにじませ、深刻な顔つきである。



「新彗星は本当に地球とぶつかるんですか?」
今度はハヤタ隊員が確認するが、
「今のところ、83%の確立だ」
何度聞いてもイワモト博士の答えは変わらない。

フジ、アラシの両隊員がイワモト博士に詰め寄った。
「で、もし衝突したら、地球は・・・?」
「どうなるんですか博士!」
紅潮した顔で詰め寄る二人の問いに、イワモト博士は勤めて冷静に回答した。
「最悪の場合、地球は消滅するだろうな」
「ええっ?」
「消滅ぅ!?」
冷静沈着なイワモト博士と対照的に、
フジ隊員とイデ隊員はのけぞらんばかりに驚く。

「あのう・・消えてなくなるんですか?」
「そうだ」
イデ隊員はもう顔面蒼白。今にも失心しそうだ。
「私たちどうなるの?」
フジ隊員の声も上ずっている。
「決まってるじゃないか!」
さすがの肝っ玉アラシ隊員ですらその声はかすかに震えている。

「あのお・・おおっ!」
イデ隊員は足元ふらつき、ハヤタ隊員の目の前に・・
そしてそのまま・・・
「おい、イデ!」
「イデさん!!」
ハヤタ隊員とフジ隊員の叫び声空しく、
ついに気弱なイデ隊員は気を失ってしまった。

ツイフォンの軌道が、さらに詳しく計算された。
そして、わずかに、ほんのわずかな差で衝突を免れることがわかったのだが・・・

ムラマツキャップはいまだに緊張を解いていない。
「それで、一番地球に近づいた時の距離は?」
イワモト博士も重い口を開く。
「55860キロ」
「はぁ〜よかったぁ!」
地球上で計れば膨大に長いその距離に、フジ隊員は一気にリラックスする。
しかし、その後ろで聞いていたハヤタ隊員は、
「何を言ってるんだ。5万キロといっても宇宙では紙一重の差だよ」
アラシ隊員も追い討ちをかける。
「ものすごい大気の移動や、新彗星の引力で、どんなことが起こるかわからんぞ」
「そうね・・・」
二人同時に攻め立てられ、フジ隊員はまたしてもしょげかえってしまった。

ただ一人冷静なムラマツキャップは、イワモト博士にさらに情報を要求した。
「イワモト博士、ツイフォンが地球とすれ違う時間は?」
「明後日の、午前3時20分15秒だ」
みんなは一斉に腕時計を見た。
「あと37時間・・・」



55860キロの距離でツイフォンが地球とすれちがう時に起こる異変。
いろいろなデータによって計算した結果、
まず大きな被害は受けないだろうという答えが出た。

「地球は絶対大丈夫よ。
 電子計算機がちゃんと計算してくれたじゃないの」
そこまでの情報がそろったことで、もうすっかり安心しきったフジ隊員は、
ワゴンにコーヒーを乗せ、ご機嫌でみんなの前にやってきた。

「しかしねえ・・嫌な予感がするんだ。何か忘れているんじゃないかなあ」
心配性とも取れるイデ隊員の発言だが、最悪の事態に備えるのが科特隊である。
だが、フジ隊員はもうツイフォンなど頭から消えてしまっている。
「みんなあんまり思いつめないでよ。さ、キャップ、どうぞ」
ワゴンに乗せたコーヒーをみんなに配るフジ隊員。

だが・・・異変はここに起こった・・・
「ん!!」
コーヒーを飲んだ面々は皆、原因不明の渋い顔に・・・
そしてフジ隊員の顔を恨めしげに見つめる・・・
フジ隊員は不思議そうに、ワゴンに残る砂糖をなめると・・
「塩・・・」

フジ隊員が塩入コーヒーを片付けている時、
宇宙線観測所から連絡が入った。
「科学特捜隊本部、応答願います」
「はい、こちら科特隊本部」
「こちら宇宙船観測所。
 約30分ほど前から、特殊な宇宙船が観測されています。
 新彗星の接近と何か関係があるものと思われます」
「了解」

宇宙線観測所からの通報を切ると、ムラマツキャップは唸り声を上げた。
「いよいよ近づいてきた感じだな」
矢継ぎ早に情報が入る。フジ隊員が応答に入った。
だが通信中のフジ隊員の顔が見る見る蒼ざめていく。
「キャップ!」
「どうした」
「パリ本部から緊急指令です」

新彗星ツイフォンから、次第に強く地球に降り注いでくる宇宙線の作用で、
水素爆弾が自然爆発する危険のあることがわかった。
地球防衛委員会は、水爆を持っている全ての国に対して、
ただちにその安全を図るように指令した。
しかし・・・



「そうだ!以前オホーツク海で、廃棄処分になった旧型の水爆が、
 6個紛失したという噂がありましたねキャップ」
イデ隊員が古い記憶を甦らせ、ムラマツキャップに確認を求めたが、
それに答えたのはハヤタ隊員だった。
「確かにそんな噂があったな。
 海底200メートルの鉛の倉庫が破壊され、6個の水爆が紛失したんだ」

やはり・・・イデ隊員の嫌な予感が的中した。
イデ隊員は力説する。
「その6個は起爆装置もそのままのはずだ。きっと爆発するぞ。
 6個も一度に爆発してみろ!猛烈な放射能で地球上の生物はみんな死んでしまうぞ!!」
「デマだよあの話は!」
落ち着け!といわんばかりにアラシ隊員が抑えようとするが、イデ隊員は引こうとしない。

「デマならデマで確認しておく必要がある!!」
その言葉でムラマツキャップが動いた。
「よし、至急パリ本部へ問い合わせてみよう。フジ君!」
ムラマツキャップはフジ隊員を伴い通信室へと向かった。

ツイフォンは、刻一刻と迫ってくる。
まるで火の玉のように、真っ赤に燃えながら。

夜が更けて、突如地下室への避難命令が出された。
たいした影響はないと言われていただけに、
この命令は、それまで情報不足だった人々を不安に陥れた。

避難先地下街前の路上では、ツイフォンと水爆についての噂で持ちきりだった。
「起爆装置をはずした水爆も絶対安全とは言えないそうですよ、あなた」
「ですってね。
 なんでも地球ひとつを吹き飛ばすのに十分なだけの水爆があるって言うじゃありませんの」
話し好きの男があちこちで水爆について語っていた。
男は話す相手を変え、隣にいた中年の男を捕まえた。
「あっ、あのねえ、おまけに6個が未だに行方不明だと言いますよ。
 怪獣が腹の中に飲み込んで持ち出したんだとか」

だが
「いい加減にしろ!まるで人事みたいにペラペラと!!」
ただでさえイライラしている時にこんなこと言われれば誰でも怒りたくなるのが人情というもの。
しかし男はこのくらいではめげなかった。
「水爆を入れてあった海底倉庫の壁に、
 ものすごい爪あとが残っていたという事実があるんですよ」
「だったらオレたちは一体、どうすりゃいいんだよ!」
中年の男は話し好きの男に掴みかかった。

「とうちゃん!」
ちょうどいいタイミングで、この中年の男の息子が登場。
しかし、その子はなぜか宇宙服を身に纏っている。
「ター坊その格好は何のマネだい?」
「これかい?
 (ツイフォンが)どーんとぶつかった弾みに、宇宙へ飛び出すといけねえからな」
「ばっかやろう!」
この絶体絶命の時に、なぜか笑い声の起こる避難所だった。

「ひとつ気になることがある」
ムラマツキャップが深刻な顔で切り出した。
敏感に反応したのはイデ隊員だ。
「キャップ!日本アルプスの一件でしょう!」
「そうだ。オホーツク海(水爆紛失)事件の後、
 日本アルプスで強烈な放射能が検出されたことがあったんだ」

イデ隊員はムラマツキャップの話をもぎ取り、
得意気に事件の内容を皆に話し始めた。
「ただちに本格的な調査を始めたが、ピタリ!
 それっきり放射能はどこかへ行ってしまったというわけさ」

「ということはつまりだな、水爆を飲み込んだ怪獣が、日本アルプス付近に姿を消した。
 そう考えていいのかな?」
疑い深げに尋ねるアラシ隊員の顔を見たイデ隊員はにんまり笑うと、
「こういうこともあろうかと、水爆探知機を作っておきました」



テーブル上に現れたイデ隊員自慢のスーパーアイテム、水爆探知機。
ハヤタ、アラシ、イデ隊員は早速この水爆探知機を積み、
ビートルで日本アルプスへ急行した。



「キャップ、新彗星が接近するまで、あと20分15秒です」
いよいよツイフォンが最大接近する。
少しの情報も漏らすまいとフジ隊員は計器を睨みつけた。
「博士、ツイフォンの宇宙線が一番強くなるのは?」
「地球とすれちがった時から、2〜3分の間だ」
ムラマツキャップとイワモト博士も緊張が顔に出ていた。

ムラマツキャップは資料に目をやっていたが、
ツイフォン接近前に最後の指示をフジ隊員に発令した。
「フジ君、ハヤタたちをすぐ現地から離れさせよう。
 たとえ怪獣を発見してももう時間がない」
その指令に従いフジ隊員は無線のマイクを握った。

「はい!ハヤタ隊員、ハヤタ隊員!」
しかし彼女のヘッドホンからは強烈なノイズが。
フジ隊員は思わず顔をしかめた。
「キャップ、通信できません!」
イワモト博士とムラマツキャップは顔を見合わせた。
「宇宙線のためだ。呼び続けるんだ!」
一気に緊張が高まる科特隊本部。
「はい!ハヤタ隊員、応答してください!ハヤタさん!ハヤタさん!!」
必死に叫ぶフジ隊員の声は響くが、それはビートルには届かない。
ツイフォンはもうすぐそこまでやってきていた。



「半径20キロ以内なんてちゃちなもの発明するから、こんな苦労するんだぞイデ」
イデ隊員の自信作のはずだった水爆探知機だったが、
意外と探知エリアが狭すぎ、どうやらアラシ隊員の信頼を失っていた。

「もう少し性能がいいはずだったんだけどねえ・・」
ぼやくイデ隊員。
「なにぃ!?」
睨みつけるアラシ隊員。
「いえいえ、理論的には」
再びぼやくイデ隊員。
そんな二人を横目に、ハヤタ隊員は頭を巡らせていた。

「この調子だと、たとえ水爆を飲み込んだ怪獣がこのあたりにいるとしても、
 かなり深い地底にもぐりこんでるんじゃないかな」
それにはアラシ隊員も同調する。
「それなら、まあ安心ってとこだな」
しつこく探知子を調整しているイデ隊員がふと気付き腕時計に目をやった。
「いかん!そろそろツイフォンの影響の始まる時間だ。着陸しよう」
ビートルはそのまま降下。
ツイフォン通過に備え、着陸の態勢に入った。

ついにツイフォンが上空に姿を現した。
真っ赤に染まる夜空を見上げる避難所の人々。
「おいター坊!出るんじゃねえ!引っ込め!」
先ほどの中年男が、外へ飛び出した息子を捕まえに走る。

皆、手を合わせ、祈る気持ちで見上げる空を、
真っ赤なツイフォンが通過し、そして遠くの空に去っていった。
無事だ。何事も起こらない。
「万歳!万歳!!助かった!助かったぞ!!」
避難所の人々は皆外へ飛び出し、喜びを分かち合った。



日本アルプスの雪景色の中で、ツイフォンが去った後の、
いつもどおりの何もない、静かな朝を迎えたハヤタ、アラシ、イデの3隊員。
「おいハヤタ、何をそんなにぼんやり眺めてるんだ」
目の前で感慨にふけるハヤタ隊員にアラシ隊員が声をかけた。



「美しい。地球ってのは本当に美しい星なんだ」
ハヤタ隊員は今、改めて目の前の景色と、
今まで当たり前に思えた平和に酔いしれていた。
「怪彗星ツイフォンも去り、美しき大地に再び平和な明日が訪れたのであります。くぅ〜」
酔っ払いさながら、イデ隊員も独特の表現で喜びをかみしめる。
先ほどまでの蒼白な顔はどこへいったのか。

「よかったなぁ。6個の水爆が爆発してたら、
 イデも今頃、こんな調子のいいことは言ってられなかったからな」
「うん、全く。同感だぁ」
3人はツイフォンの恐怖も、水爆の恐怖もひととき忘れ、笑い合った。
白い新雪に思うがままに足跡をつけ、
鮮やかなオレンジのユニフォームが白地の大地に素晴らしく映える。

大きく両手を広げ、深呼吸するイデ隊員。
しかし大きく見張ったその眼には、とんでもないものが飛び込んできた。
「ああっ!」
イデ隊員のその叫び声で、平和な空気は切り裂かれた。
深呼吸から目を開けたイデ隊員の視界には、
山よりも大きな怪獣の姿が飛び込んできたのだ。



「早くビートルへ!」
新雪を掻き分けビートルに戻った3人は、すぐさま怪獣=ギガスの元へ飛んだ。
山を一跨ぎにするギガス。その頭上すれすれを飛ぶビートル。
「ものすごいヤツだな」
「しかし探知機に反応はなかった。
 水爆を飲み込んでいるのはあいつじゃない」
水爆探知機を調整しながらイデ隊員がつぶやく。
「本当か?探知機が故障してたんじゃないのかい?」
イマイチこの探知機を信用していないアラシ隊員が皮肉を言うが、
「絶対に考えられません!」
イデ隊員の自信の程は並ならぬ。



ハヤタ隊員が無線を握った。
「科特隊本部、応答願います」
しかし応答はない。
「やっぱりダメだな」
さもあらんかなとアラシ隊員。
「まだツイフォンの影響が残ってるんだ」
ハヤタ隊員も無線は諦めた。

本部からの指示は受けられない。
さてどうしようかと思案に暮れるビートル機内だが、
次なる危機がそこに迫った。
「あ、あれはなんだ!?」
偶然上空を見上げたアラシ隊員が見つけたのは謎の飛行物体だった。
しかもまっしぐらにビートルめがけて突っ込んでくる。
「ものすごいスピードで近よってくる!」



本部でもムラマツキャップとフジ隊員が無線の修復に全力をそそいでいた。
後ろでは心配そうにイワモト博士が見守っている。
「キャップ!」
背後でした声に、ムラマツキャップが振り向くと、
そこにはホシノ隊員が姿を現した。
「おお!ホシノ君来てたのか」
「みんな大丈夫でしょうか」
「連中のことだ。ヘマをするはずがない」
ムラマツキャップはホシノ隊員にそう言って聞かせた。



フジ隊員が通信をキャッチした。
「イワモト博士、ツイフォンが通過したあと、
 妙な飛行物体をレーダー基地が観測したそうです」
「飛行物体!?」
イワモト博士がけげんそうに振り向いた。
「ええ。ツイフォンから飛来したものらしいって言うんです。それもうんと大きい・・・」
「なんだろう?」
「隕石や金属質のものではないそうです」
さすがのイワモト博士にもその正体はわからなかった。
まさかツイフォンに生物がいるとは、
イワモト博士、ムラマツキャップを以ってしても想像の枠を超えていた。
しかも、その生物にビートルが追いまくられ、窮地に追いやられていることなど、
科特隊本部は知る由もなかったのである。

ツイフォンから飛来したその生物=ドラコはビートルを追いまわし、
今にも追突せんばかりの勢いで迫ってきていた。
ドラコを振り切ろうと躍起になってアクロバット飛行を展開するビートルだが、
空を飛ぶモノは皆ライバル、と思っているドラコの飛行能力は、
ビートルのそれよりもはるかに勝っていた。



「おいハヤタ、このままではやつに追いつかれてしまうぞ」
「ハヤタ!」
アラシ隊員、イデ隊員は共に焦り、ハヤタ隊員をけしかけるが、
「まあ待て、考えがある」
ハヤタ隊員はそう言うと、機首をもう一匹の怪獣、ギガスのいる方へと向けた。
ドラコは執拗にビートルを追ってくる。
前方にギガス。後ろにはドラコ。ビートル万事休す!?
ところがハヤタ隊員は、マルス133でギガスを狙い撃ちし、そのままビートルは急上昇。
すぐ後ろにいたドラコはその動きを読みきれず、まともにギガスに突っ込んだ。

これがハヤタ隊員の作戦だった。
マルス133の攻撃を受けたギガスは、突然目の前に現れたドラコを敵と勘違いし、
すぐさま攻撃を開始した。
壮大な日本アルプスでとてつもなくスケールのでかいケンカが始まった。
「うまくいったな。我々はしばらく高見の見物だ」
なんとかドラコの追跡を逃れたビートルは一安心。
アラシ隊員も胸をなでおろした。



「人間ってずるい生物だ。太古の昔から、
 こうやって我々人間だけが生き残ってきた秘密がわかったよ」
眼下で激しく取っ組み合う2匹の怪獣を目につぶやくイデ隊員だが、
「まあそう言うな。場合が場合なんだから」
確かにアラシ隊員の言うとおり、背に腹は変えられない。
2匹には悪いが、ここは戦ってもらうしかないのだ。

しかし、一難さってまた一難。
せっかく安堵したビートルを襲う次なる試練がすぐそこまで迫っていることに、
まだ気付くことはないハヤタ、アラシ、イデの3隊員であった。

後編に続く

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