ULTRA WORLD
ウルトラマン


第30話中編

落とし穴に落ちて足をねん挫したハヤタ隊員を収容し、
科特隊は一旦ロッジまで引き上げた。
出迎えたアキタ氏に、山で出会った少女の話しをしたところ、
アキタ氏は、なるほど、という表情で説明を始めた。

「それは、雪ん子ですよ」
「雪ん子?」
「ええ」
「一体何者ですか」
科特隊を『恐ろしい人たち』と呼び、イデ隊員を睨み返した少女。
雪玉をぶつけられたイデ隊員は、
不機嫌な顔でアキタ氏に雪ん子のことを聞いた。

「もちろんちゃんとした人間の子ですよ」
アキタ氏は笑いながら科特隊に雪ん子の話を始めた。

「15年も昔のことですが、ある大雪の夜、
 どこから来たのか村に、生き倒れの親子がありましてね。
 母親の方は、飢えと寒さでとっくに死んでおったんですが、
 何故か赤ん坊だけは元気だったんです。
 でも、その事が返って、村の人から『雪女の娘だ』と恐れられて、
 誰一人引き取り手がなかったんです。
 ところが、イイダ山の麓で炭焼きをやってた、キスケという独り者のお年寄りが、
 その話を聞いて育ての親になったんです。
 その爺さんも2年前に亡くなってしまって、
 雪ん子は一人ぼっちになってしまったんですよ」

アキタ氏の話が終わった時、ハヤタ、アラシ、イデの3隊員は、
想像を超えた雪ん子の素性に言葉を失っていた。

アキタ氏は3人の顔を見比べながら話を続けた。

「きれいな娘に育ったんですが、素性が分からないっていうんでなんとなく敬遠され、
 おまけに今度のウーの一件で、村の人から増々嫌われて、
 誰も寄せ付けなくなってしまったんです」

「どうやって生活しているんだろうなあ・・・」
雪玉をぶつけられた怒りはとうに消え、
イデ隊員は雪原を走り去って行った雪ん子のことを思い返したのだった。



夜のロッジ。
昼間スキーを楽しんだスキーヤーたちは、
食事やお酒、ゲーム、フォークダンスと、
さまざまに集い楽しんでいた。

都会から解放され、気分ものびのびしているのだろう。
若者たちの顔は皆、晴々とした笑顔だった。

そんな時にベッドに横たわり、足の捻挫の治療を受けるハヤタ隊員の姿。
アキタ氏に包帯を巻いてもらうのだが、あまりの痛さに悲鳴を上げている。

「ハヤタぁ。科学特捜隊の隊員たる者が、
 ネンザくらいで悲鳴を上げるなんてみっともないぞ」
渋い表情のハヤタ隊員を見て、アラシ隊員が豪快に笑う。

二人のやり取りを尻目に、ずっと沈黙を通していたイデ隊員が口を開いた。
「アキタさん、あの、ユキという女の子のことなんですが」
「はあ?」
「実は私も、早く母を亡くしたものですから」

イデ隊員は昼間の雪ん子の話が頭から離れなかった。
単なる怪獣退治、と勢い込んで来てはみたものの、
早くに親を亡くし、身寄りさえない雪ん子に、
イデ隊員は同情を覚えていた。

「そうですか・・・
 いや、考えてみれば可哀想な娘なんですがね。
 ウーの一件がある以上、村の発展ということを考えると、
 同情ばかりしておられませんのでね」
アキタ氏も重苦しそうに言うのだが、
雪ん子の行動が村に損害を与えている以上、
アキタ氏の立場からしてどうすることもできない。
アキタ氏の心は、雪ん子と村人たちの板挟みになっていた。

「そうですか・・なんだかあの娘の気持ち、よくわかるような気がするんですよ、私には」
視線を床に落としたイデ隊員のさみしげな声に、
ハヤタ隊員もアラシ隊員も、ただ彼の顔を見つめることしかできなかった。

次の日の朝。
ゲレンデは昨日と同じに雪の白さを誇っている。
スキーヤーたちは次々とリフトで山頂に上がり、得意げに滑り降りてくる。

だが、一人の男の叫び声で、楽園であるはずのゲレンデが、一転恐怖のるつぼと化した。
「大変だ!怪獣が出たぞ!!」
「ウーだ!早く逃げろ!!」
ウーだ。ついにウーがこのゲレンデにまで姿を現してしまった。

表の騒ぎを聞きつけ、アラシ、イデ両隊員がアキタ氏と共に外に飛び出した。
二人がそこで目にしたものは、山の向こうで、白く、そしてとてつもなくでかい怪獣が、
今にもスキーヤーたちに掴みかからんと暴れている姿だった。



一気にカタをつける。
アラシ、イデ両隊員はスーパーガンを抜き、ウーに狙いを定めた。

その時、走り込んできた雪ん子が、
イデ隊員の腕をつかみ攻撃を阻止した。。
雪ん子は二人の前に立ちはだかり、
両手を大きく広げてその攻撃を阻んだのだ。

「やめて!撃っちゃダメ!ウーを怒らせないで!!」
雪ん子の説得に迫力を感じたアラシ、イデ両隊員は思わず攻撃を躊躇した。
すると雪ん子は二人をそのままにしてウーに向かって走り出し、
まるで説得するかのように叫び声をあげた。

「ウー!乱暴したらダメよ!
 人間に乱暴を働いたら、仲間に入れてもらえなくなるわ。
 さあ、山へお帰り!私のことは心配しなくてもいいの!早く山へお帰り!」

雪ん子の叫び声が届いたのだろうか。
ウーは暴れるのをやめ、おとなしく雪ん子を見つめた。



アラシ、イデ両隊員はスーパーガンを力なく握り、
途方に暮れるようにただ雪ん子をみつめるばかり。
この怪獣には雪ん子の言葉が解るのか・・・

その時、雪ん子のすぐそばに一人の猟師がライフルを持って現れ、
ウーめがけて発砲した。
「やめて!やめて!!」
雪ん子は必死に叫ぶが、猟師は発砲を止めようとはしない。
被弾したウーは、またしても暴れだした。

再び雪ん子がウーに向かって叫ぶ。
「ウー!怒ったら私は、もう村に居られなくなってしまうわ!
 お願いだから、早く山へ帰って!」



アラシ隊員とイデ隊員には、
ウーは雪ん子の言葉で怒りを抑えたように見えた。
暴れていたウーは確かに雪ん子の言葉でおとなしくなり、
そしてゲレンデに背を向けると、山をひとまたぎして雪の中に姿を消したのだった。

安堵する雪ん子と対照的に、
呆然と消えるウーを見つめるアラシ、イデ両隊員。
そんな・・・バカな・・
二人はたった今、目の前で見た現象を受け入れることができなかった。



ウーの退散によって雪ん子の生活は守られたかに思えた。
しかしその夕方、雪ん子の立場を決定的に悪化させる事件が起こってしまった。
年老いた一人の猟師が雪原に掘った落とし穴に落ち、
酔っていたこともあり、そのまま凍死したのだった。

発見した村人が仲間を呼び、老猟師の落ちた落とし穴を囲んだ。
「可哀想に、酔ってたんだな」
「誰だこんなところに落とし穴掘ったヤツは」
「全くひどいことしやがる」
折しも出現したウーの一件もあり、村人の怒りは頂点に達していた。

「雪ん子だ。雪ん子の仕業に違いねえ」
そしてついに村人のひとりがこの事件を雪ん子と結びつけてしまった。
雪ん子の名が出たことで村人たちの怒りは一気に爆発した。

「そうだ、きっとそうだぞ」
「チクショウ、あいつがいたら村は破滅だ」
「もう勘弁出来ねえ。みんなで追い出してやるんだ」

もはや収集はつかない。
ちょっと待て、と止める冷静さを持ち合わせる者もいない。
村人たちは雪ん子を追い出す算段をし、
怒りにまかせ、雪原を走りだした。

ロッジは宿泊をキャンセルする客でごった返していた。
やむを得ない話だ。
楽しかったはずのスキー旅行が、ウーの出現によって恐怖のどん底に落とされた。
カウンターの職員ももはや止めようとせず、
キーを返しにきた客にただ頭を下げるのみだった。



「アラシさん、イデさん、こうなったら仕方ありません。
 科学特捜隊の力でウーを始末してください。
 これじゃあ商売あがったりです」
アキタ氏は今までなんとか穏便に済まそうと行動してきた。
村人と雪ん子の間に入り、
双方うまくやっていけるように取り計らってきたのである。

しかしもう限界だった。
ウーが姿を見せ、しかもゲレンデのそばまでやってきてしまっては、
いくらアキタ氏と言えども村人たちの怒りを抑えることなどできはしない。

アキタ氏の要請に、アラシ隊員が立ちあがった。
だが、イデ隊員は・・・
「しかし・・・出来ることなら、そっとしといてやりたいなあ」
「冗談じゃありませんよ!たとえ何もしなくても、
 この山に怪獣が住んでるっていうだけで、大変な迷惑です!
 それに所詮はケダモノです。万が一暴れだしたらどうしますか!」

怒るアキタ氏をなだめるようにアラシ隊員が間に入る。
「分かりました。本部とも連絡を取って至急善処します。イデ、行こう!」
アラシ隊員は渋るイデ隊員を伴い、ビートルへと向かった。



「おい雪ん子!もう逃がさんぞ!」
雪原のまっただ中、村人たちはついに雪ん子を追い詰めた。
雪ん子を中心に輪を作り、その輪を少しづつ狭めていく。
村人たちは手に手に武器を持ち、まるで獲物を狩るかのように雪ん子に迫った。

「ニシヤマの爺さんが、お前の掘った雪穴に落ちて死んだんだぞ」
「私じゃないわ!」
言われなき濡れ衣を着せられた雪ん子も反論するのだが、
そんな声は怒りに満ちた村人たちに聞こえるはずもなかった。
「嘘つけ!あんな悪いことができるヤツはお前だけだ!」
「怪獣とも話すというじゃねえか!」



「私じゃないわ!!」
村人たちの異様な殺気を感じた雪ん子は、
包囲網に隙を見つけ、一気に走り抜け出した。

あの落とし穴は雪ん子が掘ったものではない。
村の少年たちが雪ん子を落とそうと仕掛けた落とし穴だ。
しかし雪ん子の仕業と決めつけ、冷静さを欠いた村人たちに、
どんなに話をしても聞く耳はない。

雪の中を逃げる雪ん子。
逃がしてなるものか、とばかりに、
殺気に満ちた村人たちは必死で雪ん子を追いかけた。

後篇に続く

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