ULTRA WORLD
ウルトラマン


第32話前編

ハヤタ隊員がニヤニヤしながら片手にしっかりと4本の棒を握りしめ、
みんなの前に突き出した。
「はい、さあ!幸運な方には棒の下に赤い印がついてます
 お一人づつどうぞ」

そう、彼らはくじ引きをやっていたのだ。
笑顔で一本のクジを抜き取るフジ隊員。
「あっ、ないわ」
「残念でした。はい」
続いてイデ隊員の前にクジを差しだすハヤタ隊員
「うん、それ!」
力んでクジを引くイデ隊員。
だが彼の顔は次の瞬間渋柿を食べたようなしかめっ面に。

「はい」
残る一人、アラシ隊員にクジを見せるハヤタ隊員。
「それじゃあいよいよオレだな」
当りは2本に1本。気合いの入るアラシ隊員だが、
残念ながら彼もはずれ。

「これで残りは当選に決定というわけですね。
 では行ってまいります」
どうやらくじ引きの当選者はハヤタ隊員ということになったようだ。
「おい、ハヤタ!おい!!」
呼び止める皆の声を無視し、ハヤタ隊員はいそいそと外へ出て行ってしまった。

いかにも悔しがるアラシ隊員だが、残されたクジに何気なく目をやると・・
「あれ?なんだいこりゃ!?」
「ああっ!何もついてない」
そう、ハヤタ隊員の作ったクジはインチキクジだったのだ。
「ちきしょう!!!」
地団太踏んで悔しがるアラシ隊員とイデ隊員。

その姿を見て、腹を抱えて大笑いするのはムラマツキャップだった。
「一杯食ったようだな」
一部始終を見ていたムラマツキャップは、
さも愉快と言わんばかりに笑い転げた。



こうしてハヤタ隊員は、インド支部から一週間の休暇を日本で過ごすためにやってきた
パティ隊員エスコートの権利を得たのである。
インチキクジまで作ってハヤタ隊員が行きたがったその訳は、こういうことだったのだ。

早速パティと合流したハヤタ隊員は、
まずパティの行きたがっていた大仏様をお参りすることに。

一心にお祈りするパティ。
その姿を見たハヤタ隊員。ちょっとイタズラ心が芽生え、
パティの横から1歩2歩と後ずさりをする。
「ハヤタ、もうお祈りすることなくなっちゃったわ・・・あっ!ハヤタ!」
パティが目を開けた時、横にハヤタ隊員の姿はない。

焦るパティ。あわてて回りにハヤタ隊員の姿を探すと、
ハヤタ隊員はパティの少し後方で笑っている。
あわてて駆け寄るパティ。
「さあ、パティ、行こう」
二人はまるでカップルさながら、大仏様を後に次の観光地へと向かうのだった。



そのころ、ハヤタ隊員たちのいる場所からほど遠くない
ミヤノモリの土地開発現場で異変が起こった。

「うん?何だあれは?」
土地開発スタッフが、山から立ち上る蒸気のような湯気を発見した。
「おかしいですね。雨上がりでもありませんし、それほど気温も上がってませんがねえ」
だが次の瞬間、まるで稲妻のように山の頂が光ったかと思うと、
そこからものすごい勢いで火柱が立ち上がり、あっという間に山を火の海にしてしまったのだ。
スタッフは緊急避難し、すぐさま科特隊に通報した。

「ミヤノモリの土地開発現場付近に山火事発生!ただちに消火活動に入れ」
「ハッ!」
ムラマツキャップの命令のもと、イデ、アラシ両隊員がミヤノモリの土地開発現場に急行した。
「フジ君!ハヤタに連絡!」
「はい!」
フジ隊員は無線を握りしめ、ハヤタ隊員の名を叫んだ。
「はい、こちらハヤタ」
「本部より緊急指令。ミヤノモリで事件発生。
 現場へ直行して捜査せよ」
「了解」



事件の内容を知り顔を見合わせるハヤタ隊員とパティ。
「パティ」
ハヤタ隊員がパティを促し、二人は事件現場へと向かった。
「とんだ休暇になりました」
「申し訳ない、パティ」
「こうなったら諦めが肝心よ」
そう言うパティの顔はもう休暇中の顔ではなく、
科特隊員としての緊張が張り詰めていた。



「消火液噴射準備」
いち早くビートルでミヤノモリの土地開発現場上空に駆け付けたアラシ、イデ両隊員は、
その状況を確認。すぐさま消火活動を開始した。
「準備完了」
「消火液噴射」
「噴射!」
アラシ隊員の号令で、イデ隊員が消火液散布を開始。
想像を超える火の勢いだったが、科特隊の消火液の効き目はすばらしく、
山に広がる火は見る見るうちに小さくなっていく。

やがて山の火が全て鎮火し、ビートルが帰還するころ、
ハヤタ隊員とパティの乗る車がミヤノモリの土地開発現場に到着した。
「川の水がお湯になってる」
二人の目の前を流れる川からは確かに湯気が立ち上っている。
「温泉が出たんじゃないの?」
「いや、もう少し調べてみないと分からんがね。
 このあたりは火山帯ではないはずだ」
ハヤタ隊員はあたりを見回した。



「上流へ行ってみましょうか」
パティの言葉にハヤタ隊員はうなずき、二人は車へ乗り込もうとした時、
二人の足元、いや、台地が大きく揺れだした。
「あっ!ハヤタ!!」
「パティ、地震だ」
ハヤタ隊員はパティをかばう。
「パティ早く」
揺れはすぐに収まった。
それほど強い地震ではないようだ。
だが、地震はハヤタ隊員たちに置き土産を残していった。

「車が!」
そう、川のそばに止めた車が、地震で地面が崩落し、
前輪だけ脱輪してしまったのだ。

科特隊本部にアラシ、イデ両隊員が帰還した。
「キャップ、ミヤノモリの消火活動終了しました」
「御苦労」
ムラマツキャップは二人をねぎらうと、フジ隊員を見た。
「フジ君、ハヤタから連絡は入ったか?」
「まだです」

ハヤタ隊員たちは連絡どころではなかった。
脱輪した車を道に戻すべく、必死に作業していたのだった。
木の棒を使い、てこの原理を利用して少しでも車のフロントを浮かせ、
運転席に乗ったパティは額に大粒の汗を浮かべながらハンドルを握りアクセルを踏む。
「パティアクセル!」
「オッケー」

二人の共同作業の成果で、車はなんとか道路に戻すことができた。
ハヤタ隊員は一息入れることも忘れ、本部に無線を飛ばす。
「特捜本部、こちらハヤタ、こちらハヤタ」
「はい本部、ハヤタ隊員どうぞ」
フジ隊員がすぐさま応答する。

「ミヤノモリ開発現場に地震が起こり、
 それに川の水がお湯のように熱くなっています。
 なお引き続きオニヤマ付近を調査します」
「了解」

ハヤタ隊員の報告を聞いていたムラマツキャップは、
早速ミヤノモリ周辺の地図を開き、アラシ隊員、イデ隊員と共に対応を考えた。
「東京から行って、その入口にあたるイケノサワと、
 その隣のオニヤマ付近に化学工場、
 そして目下、ミヤノモリに民間の住宅が建設されているわけだが、
 この森林地帯には、火山脈があるとは思えんなあ」

この現象、現在集められた情報だけでは
さすがのムラマツキャップも原因究明は困難だった。
「原因不明の山火事や地震か」
「それに温泉が出たようですしね」
アラシ、イデ両隊員も頭をひねるばかりである。

「フジ君、ハヤタに連絡を密にするよう指示してくれたまえ」
当面は情報を集める。ムラマツキャップは現場のハヤタ隊員を頼りにするしか
今は手の打ちようがなかった。



更に山の奥へと進むハヤタ隊員とパティだったが、
山の異変はまたしても彼らに襲いかかった。
彼らの進む道を土砂崩れが襲い、山火事が発生したのだ。

「パティ、本部に連絡を頼む」
ハヤタ隊員に指示されたパティはうなずくと無線のマイクをつかんだ。
「科特隊本部、こちらパティ」

受信をキャッチしたフジ隊員がマイクに飛びついた。
「はい、こちら本部」
「オニヤマに山火事が発生しました」
パティの報告に驚き振り向くフジ隊員。
「キャップ、ミヤノモリと同じ事件が発生してます」
「パティ、他に変わったことはないか」
ムラマツキャップがマイクを握り締めたその時だった。
「ああっ!」
パティの悲鳴が科特隊本部に飛び込む。
「パティ!」
ムラマツキャップが叫ぶ。
「怪獣が出ました!」
さすがのパティもそれだけしか言えない。
緊急事態と判断したムラマツキャップはすぐさまアラシ、イデ隊員を呼び寄せた
「ただちに出撃!」
「はい!」

姿を現した怪獣=ザンボラー。
その背中にある発光体が真っ赤に光ると、そこからは熱波が巻き起こり、
周りにあるすべてのものを火に包んでしまう。
なんと恐ろしい怪獣だ。

出現してからまだそれほど時間も経っていないというのに、
ザンボラーを中心に、辺り一帯すでに火の海と化していた。

スーパーガンで応戦するハヤタ隊員。
パティも加わった。
「パティ、君は休暇中何だ。
 万一のことがあっちゃいけない」
パティを気遣うハヤタ隊員だが、パティは退く気など全くない。
「大丈夫、任しといて!」

だがスーパーガンはザンボラーに全く致命傷を与えることはできない。
ザンボラーはハヤタ隊員たちなどいないがごとくに暴れ狂う。
ザンボラーの背中が赤く光った。
またしても激しい熱波があたりを襲い、その余波をパティが受けてしまった。

「パティ、パティ大丈夫か」
ハヤタ隊員が抱き起こすが、パティは意識を失っている。
反撃を試みるハヤタ隊員だが、熱波の激しさに顔を上げられない。

やがて暴れるだけ暴れたザンボラーは、
悠々とその場を立ち去った。

怪獣を目の前に、何もできなかったハヤタ隊員は、
改めてザンボラーのすごさを思い知らされたのだった。



ビートルがオニヤマに到着したのは
ザンボラーが逃げた直後のことだった。
「発射準備」
「消火液噴射」
「噴射」
ムラマツキャップの号令で消火活動を始める科特隊ビートル。
出動が早かったことが功を奏し、消火活動は順調に進み、
火の手はそれ以上被害を出すことなく鎮火した。

一息ついたところでムラマツキャップはハヤタ隊員に連絡を取る。
「はいハヤタ」
どうやらハヤタ隊員は無事であった。
「大丈夫か?」
ハヤタ隊員の身を案じるムラマツキャップだったが、
ハヤタ隊員は現場の報告を優先した。

「キャップ、怪獣は高熱を出すようです」
「そうか。火の類焼は食い止められた。
 君たちは一旦本部へ帰りたまえ」
一度体制を立て直そうと考えたムラマツキャップだが、
ハヤタ隊員は現場での活動を優先したいと進み出た。
「キャップ、オニヤマからイケノサワへ続く路線を回復する必要があります」

「よし、パティを頼んだぞ」
「了解」
とにかく一度撤退だ。作戦を練り直してから出直さねば。
ムラマツキャップは後の調査をハヤタ隊員に任せ、
ビートルが消火活動終了を確認した後、本部へ帰還した。

そして・・・
森を焼き払い、開発付近工事場を次々と襲った怪獣ザンボラーは、
白煙の中へ姿をくらませてしまった。



後編に続く

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