ULTRA WORLD
ウルトラマン


第33話前編

この日は、大空の祭典とも言える航空記念日であった。
最新鋭の各種の飛行機が次々と姿を現し、
青い空を舞台に演技を競い合っていた。

フジ隊員は飛行機好きの弟サトル君にせがまれて、
ハヤタ隊員を伴い見物にやってきたのである。

「すごいな、かっこいいなあ」
ポップコーン片手に航空ショーに見入るサトル少年であったが、
「サトル・・・すごいのはあなたのそのポップコーンの食べ方よ!
 こっちにも回しなさい!」
お姉さんのフジ隊員はあきれた顔で叱りつけるも、
だがサトル少年はそんなことは一向にお構いなし。
飛び交うジェット機を見上げ、
しかしその手はポップコーンを口に運ぶことを忘れていない。

大型の飛行機がやってきた。
これにはフジ隊員も、そしてハヤタ隊員も空を見上げた。
「400人乗りの超音速旅客機よ」
「わあ!大きいなあ!!」



その時だった。
サトル少年の耳に誰かの言葉が響いたのだ。
≪サトル君。フジ隊員の弟ともあろうものが
 そんなことくらいでビックリしちゃおかしいぞ≫
ビックリしてあたりを見回すサトル少年だが、
そこにはハヤタ隊員とフジ隊員、そしてサトル少年の姿しかない。

「ハヤタさん、今何か言った?」
「いや?」
空耳か、とサトル少年は再び空を見上げた。
しかし謎の声はまたしてもサトル少年に囁きかけた。

≪気にしない。飛行機が空を飛ぶのは当たり前だ。
 面白くもなんともないね。
 そこで私が面白いものを見せてやろう≫

「どうしたのサトル?」
急に集中力を欠いたサトル少年を気にするフジ隊員だが、
「声がするんだけど誰もいないんだ」
サトル少年も訳がわからず困惑気味だ。
「何も聞こえないわよ。空耳よ」
再び弟を叱りつけるフジ隊員。

だが、異変はその時起こった。
「あっ!?あれはなんだ!」
ハヤタ隊員がいち早くそれに気づき、
フジ隊員の背中を叩き、空の一角を指差した。

「船だわ!」
ハヤタ隊員の指差した方角から飛んでくるのは、間違いなく大型の船だった。
ハヤタ隊員が双眼鏡で確認する。
「やっぱり船だ!ああっ!!」
ハヤタ隊員の叫び声と共に、空に浮かぶ船はいきなり不規則な軌道を取り始めた。

「さあ、危ない!早く車に乗るんだ!!さあ早く!!」
この異常現象に危険を察知したハヤタ隊員は、
フジ隊員とサトル少年を車の中に避難させ、
自分も乗り込むと、そこから再びこの怪現象を観測した。

異常現象はハヤタ隊員たちの目の前で次々と起こった。
さっき目の前を通過した超音速旅客機やジェット戦闘機が
雲に吸い込まれるように音もなく機影を消してゆく。

この現象を目を丸くして見ていたサトル少年の耳に、
先ほどの声がまた聞こえた。
≪サトル君、私の力は大したもんだろう≫
恐怖に駆られたサトル少年は、思わず顔を伏せた。
すると空に浮かぶ大型船は、いきなり大爆発を起こし、四散した。

「本部よりハヤタへ、本部よりハヤタへ!」
ムラマツキャップから通信が入った。
「こちらハヤタ」
「今そっちの模様をテレビの中継で見た。
 一体どうしたんだ!原因は何なんだ!!」
「わかりません。あまり突然の出来事なんで」
「よし、現場付近の調査を頼む」



その無線にサトル少年が飛びついた。
「キャップ、きっと誰かの仕業だよ。ボ、ボクねえ」
しかしムラマツキャップは今、子供の相手をしている余裕はない。
「サトル君も頑張ってくれ!」
「キャップ、ボク聞いたんだよ」
謎の声の事を必死に訴えるサトル少年だったが、
それはムラマツキャップに届かない。
ハヤタ隊員は現場一帯の調査を開始すべく、車を走らせた。

「上へ落ちるですって!?」
本部ではヤマモト博士を招き、この怪現象の究明を急いでいた。
「ええ。上へ落ちるというのはおかしな表現だが、
 逆引力、というか、特定の空間内で重力が逆に働いた結果、
 そういう現象がおきたのではないかと」
「そういえば、テレビで見ていても、吸い込まれていくような感じでしたね」
先ほど見たばかりの映像を思い出し、アラシ隊員がうなずく。

「タンカーが空を飛んだのも逆引力の作用ですね」
イデ隊員がヤマモト博士に確認すると、博士も小さくうなずいた。
「どうして爆発したのかな」
アラシ隊員の疑問にイデ隊員が意地悪気に答える。
「そりゃあ船は空を飛ぶように作られていないからさ。
 しかも原油をいっぱい積み込んでいたんだ。爆発は当然だよ」



得意満面のイデ隊員を無視し、ムラマツキャップはヤマモト博士に質問を続けた。
「ところで、目に見えない竜巻なんて聞いたことないし、
 第一竜巻なら移動するはずだ。
 ヤマモト博士、これは・・・」
「そう、単なる自然現象でないことは確かだね」
「すると・・・」

そこでヤマモト博士はムラマツキャップを制し、アラシ、イデ両隊員の方を見た。
「あっ、その前に、君たち二人に宇宙へ飛んでもらいたいんだ。
 人工衛星が、吸い上げられたジェット機群らしい電波をキャッチしてる。
 結論はそれからにしよう」
「イデアラシ、出動」
ムラマツキャップの号令で、二人は宇宙へと飛び立った。



宇宙へ飛び立ったアラシ、イデ両隊員が見たものは、
航空ショーから姿を消したジェット機の残骸だった。
「すごいなあ、このまま永久に宇宙の藻屑と消えるんだろうか」
さすがのアラシ隊員もこれには驚きの声を上げる。

「何者かの仕業だとしたら、絶対に許せない」
怒り心頭のイデ隊員。
だが二人は更に驚く物体を発見する。
「アラシ、あれを見ろ!」
ビートルの前方には、なんと、科特隊専用車が浮遊しているではないか。



「本部へ連絡だ!」
アラシ隊員はあわてて無線のマイクを握った。
「ビートルより本部へ!ビートルより本部へ!!」
「こちら本部」
待ちかねたとばかりムラマツキャップが応答する。
「キャップ、大変です!科特隊の専用車を発見!」
「なに!?そして3人は?」
「見当たりません」

報告を受けたムラマツキャップはすぐさま無線を科特隊専用車へ切り替えた。
「ムラマツよりハヤタへ、ムラマツよりハヤタへ!
 ハヤタ応答せよ!フジ隊員応答せよ!!」
応答はない。ムラマツキャップは再びビートルと連絡を取る。
「アラシ、ハヤタ達から応答がない。
 どうやら本部との連絡後やられたらしい。
 車の近くに流れていないか調べてくれ」
「了解」

アラシ、イデ両隊員は必至の捜索を続けた。
だが、ついにハヤタ達3人の姿を発見することはできなかった。
宇宙空間を飛び続けたアラシ、イデ両隊員は、
燃料の限界で一時本部へ帰還した。
「御苦労」
帰還した二人をねぎらうムラマツキャップだが、
二人はうつむいたままだった。



「3人は一体、どこにいるんだろうなあ」
苦しそうにイデ隊員がつぶやいた。
本部の空気が重さを増し、ムラマツキャップもヤマモト博士も言葉がみつからない。

一瞬の静寂。それを切り裂くように電話のベルが鳴った。
「はい、こちら科学特捜隊」
電話を受けたイデ隊員はその報告に叫び声をあげた。
「えっ?フジ隊員が現れた!?場所は?28番街だな。了解!」
科特隊とヤマモト博士が現場に到着した時、
すでに警察と防衛軍が警戒態勢を敷いていた。
そしてビルの間から姿を現したフジ隊員は、
想像すら出来ないくらい、驚くべき大きさだった。
その背はビルよりも高く、歩くだけで地響きがする。

「フジ君!」
ムラマツキャップが呼びかけるが、
巨大フジ隊員はこちらを見ただけで返事をしない。
フジ隊員の接近に焦りを感じた一人の警官が発砲しようと銃を構えた。
イデ隊員があわてて警官を制止する。
「撃たないでください、怪獣じゃないんですから」
ムラマツキャップの号令で、科特隊とヤマモト博士はビルの屋上に上がった。
フジ隊員の耳元で呼びかけようというのだ。

フジ隊員の顔はちょうど屋上と同じくらいの高さだった。
ムラマツキャップとイデ隊員は恐れも忘れ、フジ隊員の叫び、呼びかけた。
「フジ君、フジ君!ムラマツだ!分かるか?」
「フジ君どうしたんだ!?イデだよ。忘れたのか?」
「フジ君!!」
それでもフジ隊員は応答しない。

「キャップ、聞こえないんでしょうか」
アラシ隊員の言葉にヤマモト博士が答えた。
「恐らく、言葉も記憶も全て喪失し、ロボットのように動かされているんだろう」
「ひどいことしやがる!」
怒り露わにするアラシ隊員。

ヤマモト博士はムラマツキャップを見た。
「ムラマツ君。こうやってフジ隊員が恐ろしい姿になって地上に現れたのは、
 何者かが科学特捜隊に挑戦してきたのではないだろうか」
「一体何のために?」
詰め寄るムラマツキャップ。
ヤマモト博士はその答えを飲み込んだ。

ヤマモト博士の横でアラシ、イデ両隊員は必死にフジ隊員に叫び続けている。
「フジ君、しっかりしてくれ。
 ハヤタはどうしたんだ?サトル君はどこにいるんだ!?」
だが巨大フジ隊員はしゃべる様子もなく、
ビル屋上の科特隊を虚ろな目で見つめるだけだった。



そのサトル少年は、ある場所に幽閉され、気を失っていた。
≪サトル君、さあ、元気を出して、立ちなさい≫
気を失っていたサトル少年は、またしても『あの声』で目を覚ました。
周りを見渡すサトル少年。
「ボクを呼んだのは、誰?」
≪私だよ、サトル君≫
暗かった部屋が明るくなり、声の主はついにサトル少年の前に姿を現した。
思わず後ずさりするサトル少年。
そう、サトル少年の前には、一体の宇宙人の姿があったのだ。



≪驚くことはない。
 私は遠い宇宙の彼方からはるばるやってきたメフィラス星人だ≫
黒い体の宇宙人は、メフィラス、と名乗った。
どうやらここは、メフィラスの宇宙線の中のようだ。
そしてメフィラスは、恐怖で顔をこわばらせるサトル少年に語りかけるように話を始めた。

≪君が星を好きなように、私も地球という星が大好きだ。
 さて、サトル君。私は自分の星からこの地球を見ているうちに、
 地球とサトル君がどうしても欲しくなったんだ。
 でも、私は暴力は嫌いでね。私の星でも、紳士、というのは礼儀正しいものだ。
 力づくで地球を奪うのは、私のルールに反するんだ。
 そこで、地球人であるサトル君に了解をもらいたいと思うんだ。
 サトル君は素晴らしい地球人だ。どうだね?この私にたった一言、
 『地球をあなたにあげましょう』と言ってくれないかね?≫

いきなりとんでもない要求を突き付けるメフィラス。
これでも話し合いのつもりなのだろうか。
暴力が嫌いと言っているものの、サトル少年を拉致し、
そして恐らくは、フジ隊員の意識を奪い自在に操っている。
その科学力は恐るべきものがあるが、決して友好的な宇宙人ではない。

もしここでサトル少年が『あげましょう』と口走ってしまったら、
このメフィラスという宇宙人は即座に地球制圧に乗り出すだろう。

だがサトル少年は強い男の子だ。
しっかりと話を聞いたサトル少年は、恐れを忘れ、メフィラスをにらみつけた。
「イヤだ!絶対にイヤだ!!」
メフィラスに向かって叫ぶサトル少年。
さすがはフジ隊員の弟だ。

しかしメフィラスはその答えを予測していた。
≪そうだろうね。誰でも故郷は捨てたくないもんだ。
 でも、これをごらん≫
メフィラスは宇宙線の壁面に、大宇宙を投影し、サトル少年に見せ、
再び『話し合い』を始めた。
≪宇宙は無限に広く、しかも素晴らしい。
 地球のように戦争もなく、交通事故もなく、何百年何千年も生きていける
 天国のような星がいくつもあるんだ≫



甘言を弄し、サトル少年の心を揺さぶるメフィラス。
宇宙広しといえども、これほど卑怯な宇宙人はいないだろう。
優しい言葉と甘い汁でサトル少年からその言葉を引き出そうと、
メフィラスは最後の話し合いに出た。
≪どうだねサトル君。地球なんかサラリと捨てて、
 そういう星の人間になりたくはないかね?≫

だがサトル少年の心は強く、真っ直ぐだった。
彼の気持ちはこんなことでは揺るがなかった。
サトル少年はメフィラスを真っ向から睨みつけ、
そしてきっぱりと言い放った。
「イヤだ!!」

(後編に続く)

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