EPISODE GUIDE
ULTRA WOLD

第10話前編
by しぃさぁ

それは薄気味悪い三日月の夜だった。
ある湖のほとりにひっそりと建つ西洋風の屋敷があった。



屋敷の中には、カラス、ワシ、ザリガニ、ワニ、ヘビ、リス、イグアナ、ヤモリ、海がめの姿も見える。
そして、それらに語りかける一人の白衣をまとった男の姿が・・・

「どうした?元気がないぞ。動物っていうのは、動き回って暴れまわって、
 自分の餌を自分でふんだくるくらいのずうずうしさがなくちゃいかんぞ」

男は白髪。初老の、動物学者のようである。
屋敷内の動物は、この男が研究のために飼育しているのか、はたまた趣味が高じたのか・・・

「ウン?よし、その意気その意気。
 どうした?食欲がないのか?ははぁ、オレの作った料理がまずいっていうんだな。
 贅沢なヤツだ。・・・さてと・・お次はジラースのやつだな」

屋敷の生き物達に不気味にささやきながら餌を与え、
それを見届けた男は、大きな樽を抱え、外に出た。
ジラース、とやらの餌なのか・・・

男は屋敷の外に出ると、ボートで湖の中心付近まで漕ぎ出していったのだ。
ジラース、とは一体・・



「ジラース!ジラース!」
男がジラースの名を叫んだ。
すると、どこからともなく異様な鳴き声が聞こえ、
見ると湖の中心が、大きく、白く波立ったのだ。

「よしよし。お前は誰よりも頭のいい子だ。たあんとおあがりジラース」
波しぶきはだんだんと大きくなり、男の乗るボートに近づいてくる。
この波しぶきを作り上げているものがジラースなのか・・・

男は近づいてくる波しぶきを見ながら、避けようともせず不気味に笑みを浮かべた。
「お前の食べ残しで魚が増え、釣りをしに来る人間どもが多くなった。
 だがジラース。忘れちゃいかんぞ。昼の間はじいっと眠るんだ」


キタヤマ湖。山奥の静かな静かな湖である。普段は訪れる人さえなかったのだが・・・

「はあ、釣れる釣れる恐ろしく釣れらあ。竿が何本あったって足んねえや」
「こうなったら毒でもぶんまいて、いっぺんに全部獲っちまうか。ヨッ!」
こうした魚の異常繁殖のニュースは、科学特捜隊に伝えられ何か湖に異変が起こってはと直ちに調査を開始した。

科特隊では早速キタヤマ湖の情報が集められ、整理された。
それらの書類に全て目を通したムラマツキャップは
調査の必要あり、との判断し、隊員たちに出動命令を下した。



ムラマツキャップからの命令を受けたハヤタ、アラシ、イデの3隊員は、
特殊潜航艇S−21号を積んだジェットビートルに乗り込み、空路キタヤマ湖を目指した。



「目的地キタヤマ湖へ到着。これから特殊潜航艇S−21号を切り離す。
 特殊潜航艇S−21号アラシ隊員どうぞ」
「特殊潜航艇S−21号スタンバイOK」



湖の調査だ。特殊潜航艇S−21号の出番だ。アラシ隊員が乗り込むS−21号は準備万端だった。
「了解。着水だ。垂直降下」
「垂直降下」

ハヤタ隊員の指示でイデ隊員が特殊潜航艇S−21号を切り離す。
アラシ隊員操縦のS−21号は勢いよくビートルから切り離され、水中深くその姿を沈めていく。

「こちら特殊潜航艇S−21号アラシ。キャップどうぞ」
「ムラマツだ」
「これから、キタヤマ湖の水中調査にかかります。本部のスタンバイはいかがでしょうか」

アラシ隊員の無線連絡に、ムラマツキャップはフジ隊員に目で合図した。
「準備できました」
フジ隊員の凛とした声が本部内に響く。
「よし。スタンバイOKだ。まず、音波探知機から始めてくれ」
ムラマツキャップの指示が飛んだ。



アラシ隊員が音波探知機のスイッチをONにする。
魚群探知機の要領で電波を発信し、湖底の様子を探っていく装置だ。
そしてキャッチした全ての情報は、即座に本部にデータ送信される。

本部ではその信号を、ムラマツキャップとフジ隊員が一分の隙もなく解析しているのだ。
「よし、次は水中カメラに切り替えろ」
音波探知機に異常は感知されなかった。アラシ隊員は水中カメラをONにした。

本部のモニターにキタヤマ湖の湖底が映し出された。
慎重に湖底を進む特殊潜航艇S−21号。
だが、モニターには特別変わった様子は映し出されない。

「よし。別に変わった様子もなさそうだ。キタヤマ湖の調査はそれで打ち切っていいだろう」
ムラマツキャップが命令解除を伝えた。
「了解」
アラシ隊員は湖面に向けて浮上を開始した。

「ではすぐ本部へ戻ります」
ビートルのハヤタ隊員もアラシ隊員のS−21号回収作業を始めようとしていた。

ところがそのビートルに、ムラマツキャップから意外な指示が伝えられたのだ。
「おっと、ハッハッハ。そうピリピリしなさんな。せっかく、空気の新鮮な所に行ってるんだ。
 さしあたって事件もないんだし、一晩泊まってゆっくりしてこい。特別休暇だ」

おお、なんと!3人に特別休暇のご褒美が与えられたのだ。



日ごろから身を削って任務を全うする隊員たちへ、ムラマツキャップの粋なはからいだ。

「ありがとうございます!」
にんまりと笑うハヤタ隊員とイデ隊員は、思わず顔を見合わせ、
ビートルの中でがっちりと固い握手を交わしたのだった。



特殊潜航艇S−21号のカメラが、岩陰に逃げていく何者かの影を映し損ねたことなど知らずに・・・


ムラマツ隊長から特別休暇をもらった3人は、キタヤマ湖に近いホテルでくつろいでいた。
気持ち良さそうにシャワーを浴びるイデ隊員。



リラックスしながらも今回の調査書類に目を通すハヤタ隊員。



そして、ホテルのテラスでおいしい料理に舌鼓をうつアラシ隊員。



仕事の緊張感から解放され、3人は思い思いにつかの間の休息を楽しんでいた。

ちょうどそのころ、少年グラフのクボ記者とハヤシカメラマンは
モンスター博士と呼ばれるナカムラ博士の屋敷へと向かっていた。

モンスター博士・・・それは、あの夜、ジラース、という恐ろしい生き物に餌を与えていた、あの男のことだった。
クボ記者とハヤシカメラマンは、ナカムラ博士の屋敷に到着。早速取材を申し入れた。

「あの、少年グラフの者ですが、恐竜のことで博士に」
だがナカムラ博士はクボ記者をジロリとひとにらみしただけで、なにも答えようとしない。
クボ記者はそんな博士に威圧されながら、取材の理由をナカムラ博士に説明し始めた。



「あのお、これはロンドンから入ったニュースなんですけど、
 スコットランドのネス湖にまだ恐竜が生き残ってるらしいって言うんです。
 今度、うちの雑誌でその特集を企画しているもんですから、博士のお話をお伺いしたいと思いまして・・」
「どうぞ」
表情ひとつ変えず、ナカムラ博士は二人を屋敷の中へと招き入れた。



「おじゃまします」
久保記者が招かれるままに部屋に入り、続いてハヤシカメラマンが屋敷の中に入ろうとした時、
突然ナカムラ博士がハヤシ記者の右手を掴んだ。
ハヤシカメラマンの右手にはカメラがあったのだ。
ナカムラ博士は恐ろしい形相でハヤシカメラマンを睨みつけ、小さく首を横に振った。

「1億7千年前に生きていた、ネス湖の恐竜たちです。
 これがディプロドクス。首の長さが20メートルもあります。
 恐竜の王様と言われる、ケラトザウルズ。肉食の恐ろしいヤツです。
 ステゴザウルス。こいつも凶暴です。トリケラトプス。3本の角が武器です。
 イクチオザウルス。陸に上がることが出来ないので、腹の中で卵を孵します」

屋敷内の壁画に描かれた恐竜達を、博士はひとつひとつ説明し始めた。
「その他にも、ステロダクティール、エリオップス、デモルホドンなどといった怪物どもがおりますが、
 ネス湖で、最近見たと言われる恐竜は、恐らく、このディプロドクスでしょう」
取材に関係するネス湖の恐竜のことも、ナカムラ博士は説明してくれた。

取材メモにペンを走らせるクボ記者。
不意にハヤシカメラマンがタバコに火をつけた。
その瞬間、ナカムラ博士が怒りの形相でハヤシカメラマンを睨む。

「博士、15年前にネス湖の探検に出かけて行方不明になった、ニカイドウ教授のことはご存知ですか」
「知っています。彼も私と同じように、恐竜にしびれてた男でしたからね」
「そう、あれは15年前・・・探検隊がネス湖へ出かけた時のことでしたね」

ナカムラ博士は15年前の探検隊の話を始めた。
ネス湖探検隊が調査の打ち切りを決定した時、ニカイドウ教授だけがそれに反対した。
そしてただ一人、ネス湖の奥深く入っていったまま、それきり消息を断ってしまった。



「しかし、ネス湖に落ちて、このディプロドクスに食われたのなら、ニカイドウ君も本望というべきです」
そこまで言うと、ナカムラ博士は葉巻をくわえ、ハヤシカメラマンの前に歩み寄った。

「ライターを拝借」
「どうぞ」
ハヤシカメラマンはためらいながらも博士にライターを手渡した。

ナカムラ博士は葉巻に火をつけ、借りたライターを自らのポケットにしまおうとした。
「あ、それは、ボクのライター・・」
あわてて取り返そうとするハヤシカメラマン。

しかしナカムラ博士は悪びれることなく、平然とした顔でライターを分解し、
石綿を取り出して使用不能にしてからハヤシカメラマンに投げ返したのだった。

「帰って貰おう!」
そう言い放ったナカムラ博士はきつく二人を睨みつけ、
理由も言わず、取材続行を打ち切ったのだった。

(後編に続く)

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