イラク戦争から見た のアメリカ・ろな日本
−平和を守るための「整憲論」(第九条考え直し論)-



■5、アメリカと日本、再び■



●危険なアメリカと日本の弱い立場●



H:
それはともかく、そろそろ再度「アメリカと日本」を取り上げることにしよう。 今日もずいぶん議論してきたから。アメリカが極めて危険だというお前と俺の共通了解の上で何かが見えてくるだろう。

E:
危険であるが無視できない、これが今日のメインテーマだったように思う。

 中曽根康弘元総理は「今、アメリカの力が弱体化すれば、世界は渾沌とするだろう、だからアメリカを支援しなくてはならん」と語っている。何だか “きな臭い”危険な思想だが、それは一半の真理でもある。確かにアメリカなき「国際連合」は紛争やテロに対抗し解決する力を十全には持たないだろう。

 では、だからといってアメリカの見解や行動を是認することもできない。アメリカ自らが戦争や紛争の泥沼化を引き起こしたり、テロの引き金になっているといえるのだから。これこそ大問題なのだ。

 アメリカが力を持ち世界の警察官を自認し、それに添って行動しているうちは、日本の周辺に生じた事態にアメリカが介入し、日本を守る手伝いはするだろう。事実、それを前提に日本のミサイル防衛(MD)システムは組まれるわけだし、アメリカの偵察衛星などによる情報収集力抜きにはこのシステムは機能しない。そして日本の周辺には危険が残っているし、テロの標的にもされている。

 ところが、アメリカの力が相対化し、伝統的な孤立政策を採るような事態(可能性は薄いが)になれば、日本の周辺有事は自力で解決しなければならなくなる。

H:
しかし、北朝鮮の危うさや中国の覇権主義は別としても、テロの脅威はアメリカによってもたらされたものだ。日本がアメリカに追随するのを止めて独自な路線をとれば危険性は弱まる。ともかく日本はアラブ諸国にこれまで危害を加えたことがないのだから。平和憲法の効用だよ。

 間違いなく言えるのは日本がテロの標的にされているのは、アメリカと行動をともにしているからだということだ。

E:
テロの標的についてはその通りだろう。だが、日本の周辺の問題はそうはいかない。

H:
だからイラクから撤退し、周辺問題は独自に交渉すればいいのではないか。

E:
確かにね。そうできればそれが一番いいのだが…。そしてそうすべきだろう。でもね、そこにも難しい問題が残っている。国際外交はGIVE & TAKEの世界だから、こちらの勝手にだけは行かないだろう。

 アメリカは切り札を何枚も持っていて、それをちらつかせて外交の場に現れる。西欧諸国だって内心苦々しく思っていても有志連合に参加したり無視できないのも外交のなせる業なんだ。軍事外交も外交のうちだからね。有志連合に現在三十八カ国(2004・3)が参加しているがそのどれだけがアメリカが正しいと本心から思っているか、多分皆無に等しいのではないかな。

 日本の周辺有事への不安もその辺に利用されているのかもしれない。それにしても日本のアメリカに対する立場は弱すぎる。日米安保がそれを象徴しているだろう? それに、アメリカの切り札の一つはイラクの石油利権の問題にも絡んでいるに違いない。

 恐らくもっとも強硬にアメリカに対抗しているフランスだって、イラク戦争の有志連合には参加しなくても、アフガニスタン攻撃には同意して参加しているんだ。日本のイラク戦争支援も周辺有事問題と無関係ではないだろう。だから、この問題も軽い気分で答えを出すことは難しい。



●エネルギー問題と日本●



H:
その通りだろうね。それに、前回も話題にしたが、二十一世紀最大の課題の一つは恐らくエネルギー問題だろう。イラク戦争もそれを避けて考えることはできない。

 アメリカはイラク戦争後の「イラク基本計画」でかなり苦慮してはいるが、フセイン政権が倒され、フセイン大統領その人も拘束(2003・12/13)され、イラクの石油利権は米英に依存することになった。つまりイラクの復興にどれだけ参加し、どれだけアメリカの覚えがよいか、アメリカの信任が厚いか、にかかっているともいえる。戦争に反対した仏・ロ・独も尻尾を振り始めているし…(『朝日新聞』2004・1/15)。しかも86%も中東の石油に依存している日本にとってはいっそう深刻な問題だといえるだろう。イラク派遣もアメリカの希望によって行なわれたわけで、日本政府もこの問題を完全に抜きにしてアメリカに追随しているわけではないに違いない。さまざまな問題が国際外交に絡んでいるんだ。

 アメリカ中心の《帝国》が歴史の流れなのか、それとも…。もしそうなら、アメリカの意思に従わないということは、経済的にも立ち行かぬことにもなりかねない。日本の兵器共同生産への動きや国際貢献も恐らくこの問題とは無関係ではなかろう。そしてグローバリゼーションの流れに乗らざるをえない現実も…。だが、それではいつまでたっても平和は実現しない…。

E:
きっと君の言う通りだと思うよ。

 短期的にはアメリカ資本は強引に石油を操ることはできるかもしれない。だが長期的に見れば、21世紀中には石油も期待できなくなるのは目に見えている。イスラームの世界だとて石油だけに頼っている限り日没は必ずやってくる。

 日本がしなくてはならない大きな課題の一つは、アメリカに頼らず確保できる次世代のエネルギーを作り出すことだろう。

H:
次世代のエネルギーか?

 それは天然ガスなんだろう? 日本は本当に資源の無い国だよな。それに天然ガスについてはずいぶん遅れをとっているみたいだぜ。日本は第一次エネルギーに占める石油利用率が49.7%なのに対し、天然ガスは13.7%にすぎない。アメリカの22.8%やEUの24.0%と比べるとその遅れは断トツだよ。

 そして西欧諸国やアメリカはパイプラインを通して供給先から得ているのに、日本はガスを液化させて運んでいるんだ。その方法は日本くらいしか使っていないらしい。国際的には孤立している…。

E:
そうらしいね。日本の地理的条件からしてもパイプラインは難しいだろう。天然ガスの一番近い供給先はロシアだけれど、パイプラインを通すにも中国を通らなくてはならないという難題がある。今検討されているのはサハリン経由のラインだというけれど…。それに、このサハリン沖のラインは海底を通さねばならないため、敷設に伴う漁業補償問題などが障害になっているらしい。いずれにせよ西欧やアメリカのように大陸を縦横に通してつなげるパイプラインはできないからね。

 確かに東シナ海には豊富な天然ガスが眠っているという話もあるが、これまた中国との紛争の種にならないとも限らない。大国意識の強い中国のことだから、この問題でも日本に都合の良いようには事は簡単に運ばないだろう。

H:
石油以後まで考えると複雑な気分がしてくるよ。何かよい方法ってないのか?

E:
核分裂の原子力は事故による放射能汚染の危険性や放射性廃棄物処理の困難がある。ドイツは2021年までに原子力発電を完全にやめて、2050年までには総発電量の半分以上を自然エネルギーで賄(まかな)う予定だという。日本も見習うべきだろうが、自然エネルギーで発電の大半を賄うのは、狭い国土や自然条件からしても、少なくとも日本では難しいに違いない。

 現在では技術的にかなり困難らしいが、「核融合」の可能性はどうなんだろう。アメリカやロシアに追随するよりはそちらに目を向けるほうが将来的にはよいように思うんだが…。 それにしても素人考えにすぎないからなあ。

H:
もしできるものなら、きっともうやってるでしょう? ともかく難しいらしいからね。欧州との共同開発も模索されているけれど、主導権争いが絡んでいるらしいし…。


●アメリカからの相対的自立の必要性●



H:
ここまできて改めて気づくことは、肝心なのは、アメリカに追随しなければ、あるいはグローバリゼーションの流れにのらなければ、日本の経済(社会)が本当に立ちゆかなくなるのだろうか?ということだよ。

 もし追随しなければならないのなら、政府の施策を本格的に批判することは困難になってしまう。つまり政府はその流れを前提にして方針を出しているのだから…。憲法改正にしても、国際化を目指す教育基本法改正にしても…。ならば、そうでない道筋を考え出さない限りこの流れを変えることは不可能だということにならないか?

E:
経済のグローバル化の流れは今のところ阻止する方向が見えないし、世界の政治もそれを後押ししているけれど、政治的場面で日本がアメリカから相対的に自立し、自らの意思を自由に語れるシステムに代わらないとアメリカにますます飲み込まれる危険は深刻化するだろうな。

H:
その辺は俺もお前と同じ意見だよ。アメリカにどう対応したらよいのかが問題なんだ。

話は少しずれるが、明治以降西欧コンプレックスに陥った日本は、日清・日露両戦争に勝利することで自信を回復した。軍事力こそ西欧に対抗できる唯一の力だと。

 戦後は、経済力で自信を回復した。Japan as No.1。その自信が翳(かげ)った今、また軍事力で…ということなら、何をかいわんや、だ。 お前は勘ぐり過ぎだと言うが、現状をそう解釈する向きもある。やはり、いま自信を回復するためには、「軍事力を介さない経済力の回復」でなくてはならないのではないかと俺は考えている。

E:
そうだとも言えるが、グローバリズムの波はそう簡単には以前のような日本にはさせてくれないだろう。経済競争の熾烈化が世界を席巻している。この問題に入り込めば経済の状況を考えなくてはならないから、その問題に関してはここではとりあえず判断停止しよう。

 もちろんだからと言って、軍事力で…と言うことになれば僕だって大反対だ。しかし繰り返すが、今の状況を考えれば、日本が旧来の軍国主義国家を目指しているとは、どう考えても信じがたい。

 今憂慮せねばならないのは、そうした可能性の薄い空想的なこと、つまり日本が軍備を整えて侵略戦争を仕掛けるのではないかと想像すること、よりも、このままではアメリカへの追随は変わらないという現実のことだ。日本はいずれにせよ今あるようにアメリカの軍事力に依存していこうとしているわけだから。

 それにしても、こうして長く話してみると君と僕との意見の異同がはっきりしてくるね。


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