イラク戦争から見た のアメリカ・ろな日本
−平和を守るための「整憲論」(第九条考え直し論)-



■2、 ネオコンとは何か?■



H:
なるほど。となればもう一歩進めてブッシュを動かしている政策集団に話を進めた方が良さそうだな。

 よく言われるネオコン(ネオ・コンサーバティブ=新保守主義)って奴だ。でも、ネオコンってアメリカの保守の中でも小潮流なんだろう? アメリカの軍事シンクタンクには、全米一のブルッキングス研究所、CSIS(戦略国際問題研究所)、AEI(アメリカン・エンタープライズ研究所)やヘリテージ財団などのシンクタンクもあるのに…。



●ネオコンの人脈●



E:
そうだね。それらの軍事シンクタンクはブッシュ政権にも強い影響力を持っている。しかもこれらのシンクタンクはそれぞれ独立しているというより、相互に影響を与えつつ連携しているんだ。そしてネオコンはそれらの内部に入り込み、力を発揮しているらしい。確かに、ネオコンは、君の言うように、タカ派の小さな集団にすぎないんだが…。

 ところで話はとんで、ネオコンの源流を考えると、戦後になって民主党系リベラル(自由民主主義者)だった若者達がその後、反共・親イスラエルのヘンリー・ジャクソン上院議員(民主党タカ派)などと関わり、保守主義へと転向したらしいんだ。そして、その民主党タカ派の影響を強く受けた彼らが次に共和党へ再転向し、1980年代のレーガン政権の頃から力をつけてきた。また、彼らはセオドア・ルーズベルト(1858〜1919)を尊敬しその考えを信奉しているとも言われている。つまり、彼ら(ネオコン第一世代)はそうした経歴を持つ保守主義の小集団みたいだね。とはいっても、もともと民主党の流れを汲んだものだから、共和党保守の中では今でも傍流には違いない。
 ネオコンの「ネオ(新)」は「転向」という批判的意味も含まれており、「コン」には「保守」のほかに「前科者」とか「詐欺師」とかの侮蔑の意味もあるらしい。本来の保守から見れば、恐らく跳ね上がった存在なんだろう。

 それにしても、民主党リベラルがなぜ共和党保守へと転向したんだろう? 恐らくベトナム反戦世代の彼らは、CIAの虚偽誇張情報に踊らされ、しかも人権を弾圧するソ連の共産主義に失望して保守派に転向したんだろうが、その現在の第二世代への系列には、おおよそ次の三つの流れがあるらしい。

 @ネオコンのゴッドファーザーと呼ばれるアービング・クリストル(評論家、東欧系ユダヤ人、元トロツキスト)の流れには、彼の息子でありネオコンの中心人物のウイリアム・クリストルや、チャールズ・クラウトハマー Aノーマン・ボドレツ(反共の保守系『コメンタリー』誌元編集長)には、娘婿のネオコンのエリオット・エイブラムズや、ジョン・ボルトン、それにポール・ウォルフォウィッツ Bヘンリー・ジャクソン(民主党タカ派上院議員)の流れには、リチャード・パール(ジャクソンの元スタッフ)やエリオット・エイブラムズそれにポール・ウォルフォウィッツ、等々。

 でも、この系列を見ただけでも分かるように、これらの人脈の区分はあまり意味がないのかもしれない。ともかく彼らの多くは東欧出身のユダヤ系で中心メンバーには相互に血縁関係があるらしい。

H:えらく複雑なんだな。それはそれとして、彼らはブッシュ政権とどの程度関わっているんだ? 政権内部にずいぶんネオコンの息のかかっているのがいるんだろう?

E:ネオコンの源流については、今も言ったように、語られる割にはあまり明確ではないけれど…。でも、そのネオコングループが1997年に、保守派シンクタンク『アメリカ新世紀プロジェクト(PNAC=Project for the New American Century)』を設立したんだ。僕の調べた範囲では、これははっきりしている。

 『アメリカ新世紀プロジェクト』の中心人物は、創設者のウイリアム・クリストル(保守系雑誌『ウイークリー・スタンダード』主幹)と、共同創設者のロバート・ケーガン(カーネギー平和財団上級研究員)だが、その(『アメリカ新世紀プロジェクト』の)発起人に、現政権のディック・チェイニー副大統領、ルイス・リビー副大統領主席補佐官、ドナルド・ラムズフェルド国防長官、ポール・ウォルフォウィッツ国防副長官、ピーター・ロドマン国防次官補、エリオット・エイブラムズ国家安全保障会議上級部長などのほかに、大統領の弟のジェブ・ブッシュ(フロリダ州知事)や『歴史の終わり』の著者フランシス・フクヤマ(外交問題評議会メンバー)などが名を連ねている。また、リチャード・アーミテージ国務副長官、リチャード・パール前国防政策委員会委員長、ジョン・ボルトン国務次官、ダグラス・ファイス国防次官、アリ・フライシャー(ホワイトハウス報道官)、デヴィッド・フラム(大統領のスピーチライター)などが含まれている。

 ずいぶんそうそうたるメンバーだろう。こうしてみるとブッシュ政権の中枢部をネオコンが占めていることは一目瞭然だよ。
 その他にも、親イスラエル系議員、キリスト教右派系議員、軍産複合体に連なる国防エリート、保守系シンクタンク等で構成されているらしい。



●ネオコンの思想と政策●



H:
なるほど、チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官、アーミテージ国務副長官なんかはマスコミを賑わせている中心人物だからな。

 そして彼らの主張は「単独行動主義」、というわけだ。

E:「単独行動主義(ユニラテラリズム)」というのは、自由、民主主義、人権の尊重という米国流の価値観を十字軍よろしく世界中に実現することがアメリカの責任だとして、その実現のためには、アメリカは力を行使することに躊躇しない、ということなんだ。そして、設立当初からイラクの軍事大国化に危機感を募らせていた。

H:でも、その自由、民主主義、人権の尊重を世界に広めるのに何も単独行動主義に走ることはないじゃないか。国連と協調したっていいと思うんだが…。

E:そうだね。今の説明だけでは確かに単独行動主義の理由にはならない。ところが、その思想を支える考えが背後にあるんだ。

 それは、「ヨーロッパはカント流の『恒久平和主義』に骨抜きにされ、軍事的には無能で、世界に起こった事態に対処できない。にもかかわらず、現実の世界はまったくの無秩序状態に陥っている。だからアメリカはホッブズ流の『リバイアサン』つまり巨大な軍事力で世界の平和(パクス・アメリカーナ)を築かなくてはならない」、という考えだ。ものすごい考えだろう? しかも、アメリカは選ばれしもの、つまり例外主義(エクセプショナリズム)でもあるんだ。  
 だからこそ、選ばれしアメリカは、「ならず者国家イラク」を叩かねばならない、という使命を与えられている、と。

H:となると、確かに国連や西欧無視だとは言っても、不思議にもネオコンの目的もとりあえず「世界平和」ということになる。うーん、分からない。「世界平和のためのイラク戦争」なのか?

E:何しろ彼らにとってイラクは悪の枢軸国の一つだからね。さっき言ったように『アメリカ新世紀プロジェクト』設立当初から反イラク政策だった。

 ネオコングループは、湾岸戦争(1991)のとき現大統領ブッシュの父親のブッシュが徹底的にイラクを叩かなかったことを、強烈に批判している。あの時フセイン政権を完璧に潰しておけばよかったのだ、と。そして、それに続くクリントン政権のイラクへの消極姿勢に苛立ってもいたんだ。

 それに、困ったことに、彼らの勝利の方程式の中に過去の日本が絡んでくる。アメリカにとって、第二次世界大戦後の日本の民主化への道はイラク復興の大きなモデルになっているようなんだ。つまりアメリカの武力鎮圧による民主化の成功例(日本型モデル)としてイラク戦争前にすでに構想(2002・10米政府発表)されていたからね。日本にとってはとんでもなく迷惑な話さ。

 こうして日本のようにイラクを民主化し、それが今度はシリアやイランに波及するという民主化のドミノ効果という勝利の方程式に利用されているわけだ。     

H:何だか嫌な気分だなぁ。それにしても、えらく単純だな。そんなことあるわけないだろう。日本のときとは条件があまりにも違いすぎるよ。

 さっきも話に出たけど、イラクはイスラームの国だぜ。イスラームの原理は俺達の価値観とはまったく違うんだから…。
 それに、イスラーム過激派の自爆テロも日本の神風特攻隊がヒントになっているんだろう? アメリカもテロリストも、ともに太平洋戦争の日本がモデルというのもなぁ。

 それはともかく、単純といえば、あの「単独」行動主義というのも「単純」行動主義に他ならない気がしてくるよ。「世界平和」のためとはいっても…。

E:単純行動主義か? 面白いな。確かにそうかもしれないね。アメリカはシミュレーションの好きな国だからね。
ともあれ、君の言うネオコンの「単純」行動主義は、その他のいろいろな勢力と結びついてブッシュ政権を担っている。たとえば、「キリスト教原理主義(ファンダメンタリズム)」の信奉者に歩み寄ったりしている。ブッシュの出身地テキサスはキリスト教原理主義が強い地だからね。

H:ファンダメンタリズムなら俺も知っているよ。反ダーウィニズムで、旧約聖書の教えをそのまま信奉しているって奴だろう? 人間はアダムとエバから生まれた、と。
 それにユダヤ教とは一線を画していても、イスラエルの右派政党リクードとも関係が深く、イスラエルの存在は認めるという宗教だよ。怖いのは教義のためには殺人も辞さないんだ。「9・11、やられたらやり返せ」って…。    

E:
そうらしいね。僕は宗教に詳しくないけれど、ファンダメンタリストつまりキリスト教原理主義者の中には、ハルマゲドンを信じていて核戦争を支持している人もいると聞いているよ。そのためにも月や火星や宇宙空間に人間が永住できる基地を作らねばならない、そして選ばれた自分達は宇宙基地に逃げ、地球をドッカーン。

H:おいおい、とんでもないね。でもなあ…、ハルマゲドンというのは『新約聖書』の「ヨハネ黙示録」で言われている “神とサタンの最終戦争”のことだろう? いくらなんでも今のお前の話はかなりタチの悪いブラックジョークだよ。中にはハルマゲドンと核戦争を重ねている者もいるらしいが、それにしてもネオコンは危険なキリスト教原理主義者も巻き込んでいるのか?

E:もっともキリスト教原理主義者がみながみなネオコンの賛同者であるわけではないけれど…。ネオコン(多くはユダヤ系)もキリスト教原理主義も、ともに「ユダヤ国家イスラエル」に強い親和性を持っているからね。つまり両者とも、アラブ世界(イスラーム社会)を否定してイスラエルを擁護するという共通の接点を持っているんだ。

 だからイラク戦争は、イスラエルのシャロン政権(リクード)にパレスチナゲリラを攻撃する絶好の口実を与えているともいえる。親分の口から直接許しを得たようなものだからね。逆説的に言えば、イスラエルの国益を守るためにイラク戦争が行なわれているとも考えられるし、事実そういう意見はけっこう根強く語られている。イラクはイスラエルにとって大きな脅威だからね。それに、アラブ世界が民主主義になればイスラエルにとって都合がよいとネオコンが考えているのは否定できない。本当に都合がよくなるかどうかは疑問だが…。

 こうして同時多発テロ以降のアメリカの行動は、パレスチナ情勢にも暗い影を落しているんだ。

H:なるほど。いろいろ絡んでいるんだな。でも、話は変わるが、もしブッシュが大統領にならず民主党のゴアが政権をとっていたらネオコンの出番はなかったんだろう。そしたらイラク戦争もなかったってわけだ。

E:確かにイラク戦争は起こらなかった、と僕も想像するよ。政権によって政策はずいぶん変わるからね。外交のあり方もかなり違うだろう。もっとも民主党政権になっていたとしてもネオコンは影で色々画策しただろうとは思うが…。

 でもネオコン抜きに考えたとしても、民主党政権でも、アメリカの覇権主義は形を変えて存在していると思うんだ。クリントン前大統領のときだって自分のセクハラ・スキャンダルをもみ消すために、紛争地域、たとえばイラク、アフガニスタン、スーダンそれにコソボなどにちょっかいを出して爆撃してきたのは歴史的事実だからね。アメリカは世界の中心で、世界の警察官だ、という奢(おご)りは変わらないと思うな。クリントン以外の民主党政権だって紛争に介入し力を誇示してきたのは隠せない。軍事シンクタンクが民主党政権の背後でも実権を握って操っているのは疑いえないよ。
 事実、ブッシュ政権になって軍事力はますます強大化したけれど、それ以前から巨大軍事大国であったのは否めないからね。


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