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■2、イラクへの主権移譲■
●険(けわ)しい再建への道●
H:それにしても、アメリカはもうボロボロじゃないか? これまでお前と話してきたことからしてもアメリカはこの戦争で勝利したとは必ずしも言えないのではないのか? ブッシュの人気も急落しているし…。
E:確かにあまり見事とは言えないが…。
H:お世辞にも見事じゃないよ。確かに戦争自体は短時間で終わった。しかし占領軍に対する執拗なテロに悩まされ続けたのは紛れもない事実だろう?
アル・カーイダのような外国からやってきたイスラーム過激派組織もイラク国内に潜伏し、爆弾テロや誘拐事件まで頻発した。イラクの治安が悪化するにつれて、イラク国民のアメリカへの反発が増大し、暫定占領当局はイラク統治に手を焼いていたんだ。
E:現実はその通りさ。
それにテロやゲリラが正しいわけでもない。それが戦闘状態を長引かせ泥沼状態にしているし、イラクの復興を険しいものにしているからね。でもね、じゃあ彼らはそれ以外に抵抗する術があったのか? 巨大軍事《帝国》アメリカを前にして…。
しかも、イラクに特有の問題も残されている。実際大雑把に言って、イラクには南部のイスラーム・シーア派、中部にはスンナ派、そして北部にはクルド人という三つの集団が完全にではないが棲み分けていて、それぞれ仲がよくない。それらを調整するのは至難の業だよ。テロだ鎮圧だ、を抜きにしても…。国家そのものを統一するにはイラクにはあまりにも大きな課題が立ちはだかっている。
ともかく占領統治にはもともと無理があった。今年(2004)の6月30日に「イラク主権移譲」を予定していたのに、2日前倒しして、突如6月28日に「主権移譲」したのも、予想されるテロを警戒してのことだったのだから。
●イラクへの主権委譲までの道のり●
H:少し話を戻せば、そんな混乱の中、アメリカは今年の4月16日に「イラク暫定政権」作りを国連主導にすることを決定せざるを得なかったじゃないか。つまり、アメリカが人選した「イラク統治評議会」を近いうちに解散し、政権の主要な顔ぶれは国連が改めて任命することに決まった。こうしてイラク入りしていたブラヒミ国連事務総長特別顧問の提案をアメリカも受け入れざるを得なくなったんだ。アメリカは国連に屈服した。
E:いや、だからと言ってアメリカは全面的に国連主導にしたわけではないよ。問題はそんなに簡単ではない。ブッシュは、国連が米英「暫定占領当局」と協力してイラクの「暫定政権」の指導者を人選することを受け入れただけなんだ。しかも、その後もアメリカが人選した「イラク統治評議会」が暫定政権の指名に活躍、いや暗躍する。
国連主導といっても「『アメリカ主導の国連』の主導」ってことだよ。 アメリカがすんなり引き下がるわけがない。
H:とは言うけれど、ともかく「イラク戦争」に反対した仏・独・ロ・中や中東・イスラーム諸国はイラク人による新国家の誕生を求めていたわけで、結局アメリカはそれに譲歩せざるを得なかった。
E:確かにね。アメリカは国連にも目配りをして最大限の譲歩はした。アメリカの勝利の方程式は自らに100%は、つまり完全には都合のよい「解」を導き出すことには失敗した。
H:そうだろう? それにしてもアメリカはこんな泥沼に陥るとは夢にも思っていなかっただろう。国連主導問題は別にしても、やっぱりシミュレーションのようにはいかない。復興の「日本型モデル」なんてイラクには通じるわけがない。
E:もちろんイラク再建への道は険しい。しかしそれでも、アメリカはイラクでの主導権を確保しなければならない。
アメリカの息のかかった「イラク統治評議会」は今年の5月28日には臨時会議を開き、「主権移譲」後の「イラク暫定政府」首相に、スンナ派で亡命者の政治組織「イラク国民合意(INA)」の幹部、イヤド・アラウィを全会一致で指名した。もっともアメリカ内部ではシーア派のチャラビを推すネオコンとスンナ派のアラウィを担いだCIAとの間で確執があったようだが…。いずれにしても、これは国連の頭越しにアメリカが決定したことになるんだ。ここでアメリカの勝利が確定する。
結局、その後、ブラヒミ国連事務総長特別顧問はそれに同意し、追認するしか方法がなくなる。つまり、とりあえずイラク人が指名したことになるからね。
H:ところで、暫定政府首相となったアラウィという人はどういう人なんだ。
E:まだよく分からないが、報道によれば、
「1945年、旧イラク王室に近い名家の生まれ。元秘密警察幹部。1970年代初めまでバース党員だったが、党と対立して英国に亡命し、反体制運動に参加。1991年、旧フセイン政権の亡命軍人を中心に『イラク国民合意(INA)』を設立した。米中央情報局(CIA)と関係が深い」
となっている。先に言ったように、結局、CIAや英国情報機関と深い関係がある人物だったというわけだ。
H:何だよ、それは…。そういうことか? お前の言うように結局はアメリカの思い通りということなのか。それじゃ大統領はどういう人物なんだ?
E:ともかく、ブラヒミ国連事務総長特別顧問は「実務者による暫定政権」作りを目指していたが、イラク人自らが選ぶというタテマエから、「イラク統治評議会」が終始人選を指導し、6月1日「イラク暫定政府」の陣容が決定した。それとともにアメリカの息のかかった「イラク統治評議会」は予定より早く解散した。つまり、やることだけはやって消えた。解散するという国連との約束は守られたというわけだ。
つまり、結局ほとんどアメリカの思い通りになったと言っていい。確かに、大統領に選出されたスンナ派の部族指導者ガジ・ヤワルは、基本的には親米的ではあるが、米軍のファルージャ掃討作戦(2004・4/11)を激しく批判している人物で、その意味ではアメリカにとって必ずしも扱いやすい相手ではない。
しかし、大統領は名誉職でほとんど実務に携わらない。実務に携わる首相をおさえておけば問題はないと言える。
H:つまり、国連主導と言っても結局それは茶番劇だったということなのか。アメリカは国連と協調したことで国際的な批判をかわそうとし、最後にはアメリカの思い通りになった、いや思い通りにした、というわけか?
E:そうだよ。そして、主権移譲後のイラクについてもいろいろもめたけれど、最終的には、米英両国が提出した「イラク新決議案」が6月8日「国連決議1546号」として国連安全保障理事会で全会一致で採択された。
イラク新決議は、@6月末までの主権移譲の承認、A2005年12月末までの新憲法に基づく正式政府の発足、B多国籍軍の駐留は正式政府発足またはイラク政府の要請により終了、C(石油収入をプールする)イラク開発基金はイラク政府が管理する、など、となっている。つまり主権移譲後もアメリカの(影の)主導は消えないことになる。
こうして「新イラク決議案」にしたがって、6月28日、ついに『イラク暫定政府』の正式発足となった(23)。
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