|
■3、そして、アメリカは? 日本は?■
●その後のアメリカは?●
H:ということは、これからもアメリカの支配は続き、それにイラク人の反米勢力の攻撃や抵抗も終わらないことにもなるではないか?
E:そういうことになる。
ところで先ほど君は、「アメリカはこの戦争で勝利したとはいえないのではないのか」と言っていたけれど、確かにブッシュ政権にとっては散々な結果になったが、立場をアメリカの軍産複合体に置き換えると、この戦争は現段階で見る限り、明らかに彼らの勝利だったと、僕は思うんだ。もちろん、まだまだテロに悩まされ続けるのは避けられないが…。そして、このテロの問題は、今後のイラクのみならずアメリカの国際社会での行く末を左右するかもしれないが…。でも、アメリカは強(したた)かだからね。
H:なるほど、このイラク戦争でアメリカはずいぶん評判が悪いが、これまでのところ国際社会からの批判の対価として主導権を手に入れたと言うわけか?
E:そうだね、とりあえずはそう言っておこう。しかも今も話したようにアメリカの占領政策は主権移譲で終止符を打つわけではない。
あれ以降、今ではアメリカ内部の活動は、「イラク主権移譲」後の実利をどう手にするかに終始しているんだ。だからこれからも、テロ問題の報道は残るにしても、「アメリカのイラク」は表面の報道の世界からは姿を消して、見えない形で引き継がれていくことになる。
つまり「イラク暫定政府」のアラウィ首相の下には二十六の省が置かれ、それらの省と中央銀行には顧問が派遣されることになるらしいんだ。そして、その顧問の9割くらいをアメリカが占めるようにしよう、という計画があるらしい。
しかも、特に石油省、中央銀行といった要となる機関では顧問全員がアメリカ人で、国防省、内務省も大多数をアメリカ人が独占する。そして国連には、文化省、青年スポーツ省、計画省、というような実利の薄い省を割り当てる、と。もっとも現実にこんなにうまくいくかどうかは分からないが、アメリカにべったりのアラウィを首相に据えたからね。アラウィ暫定政権はアメリカの傀儡(かいらい)政権みたいなものだから実現する可能性はかなり大だろう。国連と協調したスタイルをとっても、国連なんて眼中にない。
こうして主権移譲後の「アメリカのイラク」が始まったんだ。つまりアメリカ寄りの暫定政府で先鞭をつければ、イラク国民全体が選挙で選ぶ『正式政府』ができた後までイラクを実効支配できる既成事実の構築。「終わりの始まり」ってことだな。
H:これもまたすごい話だな。このことをどう考えたらいいんだろう? そうやって アメリカのグローバル資本は膨れ上がり、世界に君臨するのかな? ここに現代世界の縮図が見えるような気がするよ。
E:ただ、アメリカは国連との駆け引きには成功したが、これからのことを考えるとそうはすんなりいかないだろう。だって、今回の「暫定政権」作りはアメリカの策謀でどうにかなったが、イラク人全体の投票による『正式政府』の発足(2005年12月末期限)はアメリカの駆け引きだけではどうにもならないだろうからね。何度も話にでてきたが、イラクはシーア派が6割もいるし、シーア派の総本山はアメリカと敵対しているイランだから、どう考えてもかなりの波乱は免れない。これからが正念場に違いない。多難の中での「終わりの始まり」…。
H: それでもアメリカは自分のやっていることは正義で世界平和のためだ、と本気で思っているんだろうか?
E:本心は分からないが、恐らくさして疑問には思っていないだろうな。彼らの考えでは、絶対価値である民主主義をイラクに根づかせ、アメリカの繁栄は世界の平和に役立つ、ということだからね。彼らの政治原理からいえば当然の結末なんだ。
H:テレビで見ていると、大義の喪失や泥沼化それに虐待などで、いかにもアメリカが困っているように見えるが、現時点では実はそれほどでもないということか。
E:いや、困ってはいるだろうな。イスラームからの反感はますます増大したからね。前にも話したが、テロを封じることは至難の業さ。これにはかなり手を焼いているだろう。それに国際的ばかりでなくアメリカ国内にも批判は高まっている。だからこの問題もまだ終わったとは言いがたい。というわけで最終的な判断は今はまだ控えることにしよう。
しかしながら、もう一方で起こっている「アメリカのイラク」という背後の動きはあまり報道されないからね。映像だとどうしても視覚に訴えるニュースが中心になってしまう。新聞でも多くの人の目には留まらない。
それにしてもブッシュは確かに頭を悩ませているだろう。今年の大統領選(2004・11)で苦戦するだろうからね。テロや国際的・国内的批判は避けようがない。
H:それにこの戦争でとんでもなく膨大な財政赤字を出し、その点でも頭が痛い。だから本当に国益になっているのかすら疑問になる。
E:そうだね。ネオコン発の単独行動主義は財政的には痛かったからね。アメリカというリバイアサンはイラクを食い物にし、今度はビヒモスという巨大資本のネットワークがそのリバイアサン(国家)を喰らって太っていく、そんな気がしてくるね。貪欲なビヒモスにとって、リバイアサンが財政赤字で多少病気になったってかまわない。
とは言え、アメリカ国家はベトナム戦争のときのような敗北を喫したわけではないからね。だから、このイラク戦争は、軍事国家である我が身を本質的に反省する材料にはまったくならない。テロに対しても軍事力で対抗することしか考えはしないだろう。ラジエーター(冷却器)が働かない。戦争に対する心的な苦痛がないから、その結果、アメリカは体力を整えて、また…。最初の対話でも話したように、アメリカの「軍産複合体」は戦争を前提にしなくては維持発展できない。恐らく、もう少ししたらイラク後の危険地域?を探し始めることだろう。たとえそれが仮想の敵であっても、現実の敵であっても…。ともかく敵が存在しないと、というより、敵を作らないと成り立たない。そして作ろうと思えば何処にだって対象を見つけることはできるのさ。イランだ、シリアだ、サウジアラビアだ、そうそう北朝鮮に中国も…。
「軍産複合体」、そしてそれを後押しする民主主義、「忠誠の誓い」で愛国心の喚起、その結局、世界に平和は訪れない。イラク戦争は、アメリカの「ウオー・エコノミー(戦争経済)」のとりあえずの勝利、そして…。
●それでも日本は?●
H:何だよ、また何か仕出かそうということなのか。そして日本はまたしても…。これでは、この前の話の堂々巡りになってしまうじゃないか? … あれっ、俺も酒のせいか、頭がぐるぐる回り出したぞ。
E:おいおいまだ宵の口だぜ。酔っ払うにはちょっと早いよ。もう少し話そうよ。
今回だって、小泉首相は早速自衛隊の多国籍軍参加を表明している。ここで僕が問題にするのは多国籍軍に参加するかどうかということより、アメリカの顔色を窺(うかが)わなければ何ごとも始まらない日本の立場のことなのだ。軍事国家アメリカに依存し、気を使いながらイラクに自衛隊を派遣し、今度は多国籍軍に参加する。
これはこの前の『対話』でしつこく話したから、ここで蒸し返すのはよそう。ただ「イラク主権移譲」後も、また同じ過ちを繰り返している日本を振り返ってみるだけで充分だろう。
H:しかし、もう一度確認するよ。
このイラク戦争はもともとしてはならないものだった。フセインの圧政に代わる更なる圧制。しかも、アメリカの価値観の押し付けや国益・私益の渦の中で始まったものと言ってよい。たとえ世界平和のためと標榜しようとも…。だからアメリカ追随だけの、自らの意思のない日本のイラク戦争への参加も、すべきことではなかったことになる。
E:その通りだよ。これは現行憲法に反しているか、いないか、戦争ができる国か、できない国か、という表面的な問題ではないということだ。
占領統治の姿を見ると、アメリカの巨大資本が資源豊富な途上国から利益を貪(むさぼ)ろうとしている構図が浮かび上がってくる。確かにいかなる資本主義国家もこうしたことから完全には切り離されているわけではない。この問題は無視できないが、アメリカの「ウオー・エコノミー(戦争経済)」こそが世界に危険を撒き散らしているのは紛れもない事実なんだ。
その結果、アメリカが日本に望んでいることは、片務的な日米安保の継続ではなく、「アメリカと一体になって、より積極的に世界に危険を撒き散らして儲けようぜ」ということなんだ。そして、日本もそれに応えて「憲法を改正して、もっとアメリカと行動をともにしやすくし、一緒に世界に危険を撒き散らし、アメリカからもっと多くの報酬(利益のおこぼれ)をもらおうぜ」ということになる。それがもたらすもう一つの現実は、テロの対象国にされ、近隣諸国からは危険な国と見なされるということだ。
もし最近話題になっている愛国心を語るなら、我が祖国がこんなアメリカに追随する姿こそ問われねばならないだろう。こうしたことも念頭に入れ、日本は相対的に自立した、自らの意思をもてる国でありたいと僕は君と話してきたわけだ。
日本政府がしていることは、イラク戦争の是非を超えて「アメリカに追随することが日本の国益だから正しい」、ということでしかない。確かに国家というものは国益を重視するものだ。しかし、だからといって国益だから何でもいい、ということにはならないだろう。まあ、もっとも、長い目で見たとき国益かどうかは疑わしいが…。
そして、僕達が日本というこの国に従うことが「公」を大切にすることだと言うのなら、「公とは何か?」が改めて問われねばならない。
|
|