イラク戦争から見た のアメリカ・ろな日本
−平和を守るための「整憲論」(第九条考え直し論)-



■5、石油が抱えている課題■



H:
ブッシュ個人の問題からいよいよ石油問題に入ってきたね。それにしても、今回のイラク戦争では石油問題はほとんど話題にならなかったじゃないか?

E:そうなんだよ。何だか不気味な気がしたよ。イラク戦争中は石油問題が消えていて、戦後になって利権問題として多少触れられるようになった。

 一説には、父ブッシュの湾岸戦争のとき、石油問題が反戦運動のスローガンに利用されたという経緯があるから、その轍((てつ)を踏まないために子なるブッシュは徹底して規制した、というのがある。今見てきたように、ブッシュ家は石油事業に直接利害関係があるからね。国民から疑われるのは当然と言えば当然なんだ。でもそれでは戦争ができない、だから息子ブッシュは報道規制をしたらしい、ということだ。

 それに、イラク戦争前にすでに『毎日新聞(夕刊)』(2002・11/26)でも、「米大手石油会社関係者がイラク反体制派最大組織に接触を開始…。(しかし)米政府は対イラク攻撃と石油利権の獲得を関連付けられることを極度に警戒している。複数の米大手石油会社がイラク反体制派組織との公式接触を否定しているのは、こうした米政府の意向に配慮した結果とみられる」と言っている。  

H:
うーん、そんなに簡単に規制できるものかどうかも疑わしい。

E:
もちろん完全には報道規制できるわけではないが、これにはアメリカの報道のあり方の問題も含まれるから、報道についてはもっと後で議論することにしよう。

 ともあれ、ニューヨーク・タイムズのコラムニストであるフリードマンも「問題は石油である…ブッシュ・チームの行動はそれ以外に説明がつかない」と推測しているように、石油問題を抜きには語り尽くせないような気がするんだ。ブッシュがどう考えたかは分からないにしても石油は大きな問題だからイラク戦争から少し離れて考えてもいいかもしれないね。考えているうちに結びつくかもしれないし…。


●石油とアメリカ●



H:
そうしよう。フランスの哲学者デカルトは「森の中で道に迷ったらそのままの道を進め」と言っているしね。

E:
ハハハ…、別に「道に迷っている」わけではないよ。

H:
ともかく、アメリカの内部状況として、『産経新聞』(2002・12/4)に「米エネルギー省は11月に発表したエネルギー需要見通しで、2025年に米国の海外からの原油輸入依存率は68%(昨年は55%)に上昇すると予測。安全保障上の観点から、サウジアラビアなどに原油供給先を集中依存する現状を分散したいのがブッシュ政権の狙いだ」とあるのは、大枠では当たっているような気がするよ。
 同時多発テロの実行犯十九人のうち十五人がサウジアラビア人だったことから、サウジアラビアとアメリカとの間に亀裂(きれつ)が走っている。だから、原油供給先を分散しなくては…。    

E:
確かに君の語る “分散したい”というのは一理あるが、それとともに石油価格の安定がアメリカ石油にとって頭を悩ます課題の一つではあるだろうと思う。

 とにもかくにも、テキサスの石油採掘のコストが一バレル当たり約17ドルと採算が悪いのに対して、イラクの採掘のコストは一バレル当たり2ドル弱(OPEC諸国の平均コストは一バレル当たりおよそ4ドル)だからね。

 たとえば、1999年1月には、原油価格が一バレル当たり11ドルまで下がったが、これだとテキサスの石油採掘業はやっていけないし、逆にあまりにも価格が高騰しすぎれば、アメリカの産業全体が不況の波に飲み込まれかねない。確かに価格が高騰すれば石油の元売会社は大儲けするだろうが…。 どうやらアメリカにとっては、一バレル当たり25ドル位が妥当な(つまりアメリカに都合のいい)価格らしいんだ。とは言っても、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の石油需要がこのところ急拡大しているから、アメリカも30ドル前後までの高騰は考慮の内だろう。

 それはともかく、このイラク戦争で、今(2004・2)では一バレル当たり35ドルほどに石油の価格は大幅に上がったが、短期的な高騰を、つまり一時的な経済的不安定を見越した上で、将来の恒常的な価格安定を期待してイラク戦争に踏み切ったのかもしれない。  

 ともかく、イラクが大量破壊兵器を用いて周辺諸国を支配することになれば、石油市場が混乱し恒常的に不安定になることを、アメリカは恐れていたとも言えるだろうからね。

 アメリカの石油の中東依存度は25%位でそれほど大きくないけれど、中東地域で何か事が起これば、国際石油市場は大混乱に陥り、米国経済も直接大打撃を受ける。イラクにアメリカ寄りの安定的政権を樹立するのはある意味で一つの課題だったのかもしれない。イラクの政情不安定は、アメリカだけでなく、世界全体に不安を投げかけているともいえるだろう。

 H:
あれっ! …となると、中東に86%も依存している日本は「イラク戦争様様」ってことになってしまうじゃないか? 少なくともイラクに民主国家ができれば日本は「万万歳」なのか?

E:
まあ、アメリカの思惑通りに事が進めば、の話だが…。しかし、そう簡単にはいかないだろう。それにしても日本は石油を中東に依存しすぎているよ。やっぱりもっと輸入地域を分散させなければならないだろう。

 それはともかく、日本にとっても、世界にとっても、石油問題は長期的に考えると、もっと複雑な思いにかられるんだ。
 


●石油資源の長期的課題●



H:
何だか言いたいことは分かる気がするよ。エネルギー資源の枯渇の問題だろう?

E:
そうなんだ。現在の確認埋蔵量分では、今のまま消費すれば、北米や西欧は早ければもう10年位しか維持できず、つまり2010年から2020年頃には枯渇すると言われている。その後、アジア、東欧、アフリカ、中南米と次々と枯渇し、2030年頃に残るのはほとんど中東だけだ、とも。その中東石油も今世紀末で枯渇すると推定されている。また、これだと世界全体でも後40年前後で石油がなくなる計算になる、と。

 もっともこれはあくまで現時点での確認埋蔵量を基準にしているし、資料や調査年度によってずいぶん異なっているから、ほとんど当てにはできないが…。それに、新たな埋蔵場所の発見や採掘技術の高度化で、可採埋蔵量が時と共に増大していることも付け加えておこう。とは言え、ともかく有限な資源だからね。
 それに確かに石油価格の高騰が可採埋蔵量の数値を変えることもある。たとえばカナダやベネズエラの砂に含まれたサンドオイルやアメリカ西部にも泥板岩に含まれたオイル・シェールが大量に眠っており、それらを利用することも石油価格の高騰で可能になる。まあ、それにしてもいつかは必ず無くなるのは疑いえない。

 ついでながら、世界の石油埋蔵量の約60%が中東に集中しているし、よく知られているようにイラクの現在の石油埋蔵量は世界第二位だ。

H:
お前の言いたいことは、アメリカはイラクの石油を自分のものにしようとしているということなのか?

E:
いやいや、そうじゃない。いくらなんでも、もう旧来の植民地主義はとれないし、とらないだろう。繰り返すが、アメリカにとって、現段階では国際石油価格の安定化は気になることの一つだろう。だがその石油もやがて無くなる、と言いたいだけだ。

 石油の後には天然ガスの時代がやってくるのかもしれない。世界もその準備の段階に入っているんだから。つまり、代替エネルギーが確立するまでの数10年間は石油に頼る他ない現実があり、アメリカもその問題を避けることができないということだ。そして石油後の世界はまた異なった相貌を見せるかもしれないと言いたいのだ。

H:
その時はアメリカの世界ではないかもしれない、と? もしかしたら、天然ガス大国ロシアの時代がやがてやって来るとでも??

 そういうエネルギー危機を抱えた中でのイラク戦争だというのはよく分かるよ。ともかく、もともとアメリカの中東依存度は低いので、中東の資源を目的というよりは、石油価格の不安定さの除去がアメリカにとっての課題の一つだというわけか。

E:
それに、中東湾岸産油国の石油生産能力は施設の老朽化でやがて石油需要増大に対応しきれなくなる可能性がある。それは恐らく国際石油市場の逼迫化(ひっぱくか)を招来するだろう。



●イラク原油とユーロ建て●




E:
こうした諸問題とは別に「イラク原油とユーロの問題」がイラク戦争の原因だとして語られてもいるんだ。

H:
えっ、イラクとユーロの問題? 一体どういう関係があるんだ?

E:
イラクのフセイン大統領は2000年の10月6日に、原油の取引をドル建てからユーロ建てに切り替えたんだ。と言うのも、反米のフセインからすれば、ドルに依存するよりはユーロを頼った方が安全だからね。まあ、これがイラク戦争の引き金になったという説なんだ。

H:
ふーん、そうか? 確かにね、イラク原油のユーロ建てはアメリカにとっては許せないことだろうな。

E:
それに、今ではアメリカのお膝元の産油国ベネズエラでもチャベス政権がユーロ建てに切り替えようとしたり、イランも同じ動きをしているらしい。しかも中東の産油国の中にはこういう動きに同調する国が増えているらしいんだ。

H:
EUは、今年(2004)5月1日には、中・東欧やバルト三国などの十カ国を加え、二十五カ国に拡大するし、ますます世界に影響力を強めている。まだ、アメリカに本格的に対抗するには至らないが、アメリカとしては安閑としていられないからな。

E:
EUの総人口は4億5000万人に膨れ上がり、その多くが単一通貨ユーロを使うことになる。EUのGDPは合計で9兆2000億ユーロ、日本円にして約1240兆円に達するらしい。アメリカのGDPは日本円に換算して約1400兆円だからほぼ同等だし、日本のGDPは約500兆円だというから、その2.5倍に当たる。つまりこれは、これまで基軸通貨として世界経済に君臨してきたドルが相対化され、一地域通貨だったユーロが第二の基軸通貨に伸し上ってきたことを意味しているからね。

H:
だからアメリカは危機感を抱いてイラクを叩こうとした。

E:
うん、そうとも言えるが、対ユーロ問題であるだけでなく、やはりイラク政府の姿勢が関係している。こうして何はともあれ、ユーロ建ての問題も含め、アメリカにとっては石油問題も関係してイラクに親米政権を確立する必要性があるのかもしれない。



●イラク石油の利権争い?●



H:
確かに石油価格の安定やユーロ建ての問題も大きいに違いないが、その他にもイラクにおける石油利権の問題があるのではないのか? イラクの体制が親米民主主義政権に代われば、石油利権がとれ、当てにならないサウジアラビア、ならず者イランの代わりになる?

E:確かにね、それは先ほどから石油について話してきたすべてに通じているからね。親米政権に代わり石油利権がとれれば、石油の供給先の分散化、石油価格の安定化、イラク石油の米英主導の開発、一切がここに収斂(しゅうれん)しているともいえる。

 ところで、これを言うと何を信じていいのか分からなくなるんだが、もともとフランス・ロシア・中国がイラク攻撃を避け、米英主導にしたくなかった理由がこの利権なんだ。国連決議で…、と言う提案だって利権がらみと疑える。

 つまり、フランスは、ドゴール政権(在任1958〜69年)以来イラク重視で武器を輸出してきたし、イラクの経済制裁下でもフランスの企業は油田開発の仮契約を結んでいる。それにロシアだって旧ソ連時代にイラクのバース党(フセイン政権)が社会主義を標榜(ひょうぼう)していることで親イラクだったし、その後ロシアになっても太いパイプを持っていて、イラクの経済制裁下でもロシア企業は油田開発の仮契約(1997年)を結んでいる。さらに中国もイラクと油田開発の仮契約(1997年)を結んでいる。つまり、フセイン政権が崩壊すれば、この契約が無効になる恐れがあるからイラク戦争に反対していた節があるんだ。

 それに対して、米英が国連決議を待たず戦争を仕掛けたのは、これまでイラクに対して強硬姿勢をとってきた米英企業はフセイン政権のままではイラクの石油利権に手を出せないからだ、ともいえる。イラクの政権が交代すれば、米英の国際石油資本「メジャー」(11)はイラクの石油開発に参入できる。ともかく国連決議を待たず単独行動主義に走った目に見えやすい大きな理由がここにあると多くの人は語る。

H:こうして話していると人類の未来は暗澹たるものに見えてくるよ。

 結局、すべて利権だけじゃないか? イラク戦争後の復興は米英主導でなければならないというのも、米系メジャー、英系メジャーの国際石油への主導権の確立、つまり国益のためであり、逆に、イラク戦争に反対し国連決議を主張するのも、仏、ロ、中による自国の利益のためなんだからな。


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