イラク戦争から見た のアメリカ・ろな日本
−平和を守るための「整憲論」(第九条考え直し論)-



6、アメリカ社会の背後にあるもの■



E:
まあ、そうなんだが、今回のアメリカのイラク攻撃が単純に石油利権のためのものだったか否かは、あまり確信が持てないんだ。

H:
それはどういうことだ。イラクで石油利権が取れればアメリカの国益になることは間違いないだろう?

E:
それはその通りだが、石油問題がアメリカにとって緊急の問題であったとはちょっと考えにくい。長期にわたる将来の問題まで射程に入れれば全く分からなくもないのだが…。アメリカはそんなに長期の問題を考慮して行動する国ではないからね。

 それに、石油ビジネスは、探査、採掘、輸送、精製、販売とオイルシンジケートが組まれているんだ。それは多民族の協力によって国際的に組織されていて利益を分けあっている。だからアメリカがイラクを支配してもその組織までを自分にだけ都合のよいものに変えることはできないだろう。それに、そうしたところで、決してアメリカの利益にはならない。

H:
うーん、でも、さっきのお前の話にあったように、ブッシュ個人も、ネオコンの多くも石油関連の企業に絡んでいて甘い利益を吸い取っているんだろう。

E:
もちろんそうだよ。彼らは石油に絡むことでも儲けている。イラク戦争で石油利権をとること自体は確かに彼らに利益をもたらすが、今緊急に必要かといえば、それは言われるほど定かではないんだ。

H:
なんだかよく分からなくなってきたぞ。



●アメリカの支配構造●



E:
アメリカという国は複雑極まりない国だからね。

 確かに君が言うように国益のためともいえるんだが、現在のアメリカの資産の多くは昔の大財閥(大富豪)から生じており、総ての権力は大財閥に育てられ、支配されている、つまり一部の大富豪の私益のためであるともいえる。だから「軍産複合体」も「大財閥」が支配し、巨大な利益集団を形作っているんだ。

 @ロックフェラー(石油王)財閥(十九世紀後半) Aヴァンダービルト(鉄道王)財閥(十九世紀後半) Bカーネギー(鉄鋼王)財閥(十九世紀後半) Cモルガン(金融王)財閥(二十世紀初頭) Dアスター(不動産王)財閥、Eアメリカ資本ではないがロスチャイルド(ヨーロッパ金融王)財閥(十八世紀末)も…、その他にも兵器王デュポン、石油王メロン、タバコ王デューク、鉱山王グッケンハイム、鉄道王ハリマン、それにホイットニーやウールワースなどなど、ってわけだ。

 これらの大財閥の当主の大部分は第一線のビジネスから退き、遺産相続人として巨大な資産を有する投資家(株主)に変貌しながら、アメリカの経済を動かしている張本人なんだ。彼らの私益が国益でもあり、国益が彼らの私益でもある、ということだ。

H:
でも、それらの財閥は一世紀以上前のものだろう。それが二十一世紀の今でも支配しているのか? 今ではあまりその名前は聞かないんだけれど…。 

E:
確かにそのままの姿で存在しているわけではない。だが現在のアメリカの巨大企業はすべて何らかの形でそれらの財閥の系列と関わり、資金を得ているんだ。それは財閥の直系か閨閥(けいばつ)かの如何をこえて蜘蛛の巣のようなネットワークで繋がっている。それは見事としか言いようがない。僕達の耳にするアメリカ巨大企業のほとんどはこのネットワークの網のどこかに関わっているからね。確かにお互いに熾烈な競争をし、市場の食い合いや反目、そして吸収・合併・買収を繰り返して、その裾野を拡大していったんだ。だから、その人脈を辿ればまるで畳鰯(たたみいわし)のようにどこかで繋がりを持っているというわけだ。現在の巨大企業と旧財閥との関わりはあまりにも複雑すぎてここでは具体的に語ることができないんだが…。

 そして経済の世界だけでなく政治の世界もそれらの中に組み込まれている。共和党、民主党の中心人物はほとんどすべて…。ブッシュ家はもちろんラムズフェルドだってチェイニーだって、いやいや次期民主党大統領候補のケリーの家系もそうだし、アメリカンドリームの申し子と言われるクリントン前大統領だって…、ともかくすべてが何らかの形で複雑に旧財閥の系列に入っているんだ。そして石油事業だけでなく軍事企業や複数の企業にまたがって利益を得ている。さっき挙げたネオコンの絡んでいる企業はすべてこのネットワークの一部なんだ。

そしてそれがペンタゴンなどの要職を得て、政治を支配しているというわけだ。これって物凄いことだろう?

H:
・・・・・・・。

E:
ネオコンは、アメリカ国家のことを、ホッブズを援用して「リバイアサン」と言っていたよね。だがその「リバイアサン」を背後で操る「ビヒモス」がいるんだ。それが大財閥から発展した巨大資本のネットワークなんだ。リバイアサンもビヒモスも旧約聖書に描かれているとてつもなく恐ろしい怪物だからね。こうして、ビヒモス、つまり巨大資本のネットワークこそがアメリカを表に裏に支配している真の主役ということになる。剣呑(けんのん)!剣呑!注意に越したことはない。



●階層社会アメリカ●



H:
そうすると、ほんの一部の大富豪の系列がアメリカ全体を動かしているんだな。そしてアメリカは貧富の差、勝ち組み・負け組みに分かれているとよく聞くが、それはつまり、そういうことか?

E:
うーん、アメリカの現状をいえばもうちょっと微妙なんだ。大富豪の系列は出生時からの勝ち組みで、積極的に企業を背後から動かしているのは事実だけれど、アメリカの全株式の40%以上は年金基金(リタイアメントファンド)の運用なんだ。

 年金基金というのは、一言で言ったら退職金の積み立てのことなんだけれど、若いときに企業や公的機関で働いた人が退職後の生活のために在職中から貯めたお金を集めて、つまり投資信託会社などを介して、株やら債権やらに運用する基金なんだ。それが今ではとても大きな資金のプールになっていて、アメリカの国力(経済力)に決定的に影響を与えていることは否めない。

H:
ということは、彼らは若いときは労働者で退職後は資本家ってことか? それはある意味で魅力的な社会ではないか?    

E:
うーん…、そうは言うけど、現実はその年金基金に関われない貧困層が圧倒的に多いというのは忘れてはならんと思うんだ。ともかくアメリカの貧富の差、つまり階級格差の大きさは、僕達が日本の中で想像しているものをはるかに凌駕しているんだ。

 それに簡単に、勝ち組み、負け組と言うが、ビジネスマンだって、経済資本や文化資本の差が当初からあって、必ずしも平等な競争が行なわれた結果ではない。確かに年金基金は巨額な金額なのだが、今話したように、その恩恵に預かれるのは極めて少数の富裕層だけなんだ。

H:
ともかく少数の富裕層が軍需産業や石油産業などから膨大な私益を得ており、アフガニスタン攻撃やイラク戦争から甘い汁を吸っているんだろう。それじゃ、ネオコンのいう「世界平和のための軍事力」というのもおためごかしで、本質は私益というわけか。

E:
そういう意見もある。確かにそう見えるし。だがそう単純に因果関係づけるのも早計かもしれないよ。もしかしたら本気で世界平和を考えてアメリカの覇権主義を支持している人もいるだろうし…。米国政府だって、本気で世界平和のために「戦争」を、と考えているのかもしれない。

 まあ、米国政府の本心は置いておくにしても、彼らの「論理」からすれば、アメリカの繁栄は世界の平和を維持するために必要不可欠なんだから、私益の追求と、国益の増大、それに彼らの考える世界平和は理窟の上では決して矛盾してはいない。

H:
何だか変な論理だな。つまり、経済においても政治においても、そして世界においても、世界に開いたネオリベラリズム(新自由主義)とアメリカのためのネオコンサーバティブ(新保守主義)とは両立できる、ってことだな。矛盾点は無いと…。

 国家を挙げて推進している巨大軍需産業を核とした「軍産複合体」、それを政治的・経済的に支配している巨大財閥のネットワーク、それらが「世界平和」を目指すことと矛盾していないなんて、どう考えても納得できない。何だかだまされているみたいだな!

E:
そう、実はだましているんだ。彼らの大義が世界の大義だ、とね。

 しかも、さっきの復習をすると、アメリカの軍需産業は戦争や紛争を前提にしなくてはならない。そして世界の平和はアメリカの軍隊が守る。これは絶対に実現しない平和なわけだ。パクス・アメリカーナはこうしてアメリカの支配層だけに花開くってわけだ。そして、そこには、少数大財閥のネットワークに先導され、そのおこぼれを年金基金の富裕層が頂くという構図があると言える。しかも、彼らの論理ではさして矛盾に映らない…? つまりアメリカの民主主義に則っているというわけだ。

 ところで、だましているというとちょっとこれまた微妙なんだが、アメリカの報道、つまりマスコミのありようもうまくできているんだ。
  

←前項へ TOPへ 次項へ→