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●あとがき●
本書が書かれて以降、アメリカの大統領選(2004年11月2日)があり、その結果、現職のブッシュ大統領が民主党の候補ケリー上院議員を僅差で破り再選された。二期目のブッシュ政権は、チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官を留任させ、国務長官を中道派のパウエルからライス(前大統領補佐官)へと更迭した。これまで強硬派と穏健派の調整役をしていたパウエルが退いて、強硬派のライスへと代えたわけで、結局、より一層保守的になっただけでアメリカになんら変化はなかった。もっとも最近ブッシュの支持率は30%を割り、歴代最低水準の記録を残し、以降30%台で低迷しているが…。しかしこれは予想の範囲内である。
ただ予想以上だったのは石油価格の異様な高騰だった。確かに石油輸出国機構(OPEC)屈指のナイジェリアの内戦やイランの核開発問題などが影響しており、イラク戦争だけが原因ではないとはいえ、今年(2006年)の4月21日には一バレルあたり75.35ドルを記録し、その後も70ドル台が常態化し、世界経済に暗い影を落している。恐らくこれほどの高騰はイラク戦争当時は誰も予想できなかっただろう。思惑を原理としている先物市場の危険性がここには見てとれる。とはいえ石油価格の高騰は程度の差こそあれ予想されていたことではあったが…。
確かに、イラクはアラウイ首相率いる「暫定政府」から、2005年4月にジャファリ首相の「移行政府」に移り、今年(2006年)5月20日にいよいよ
マリキ首相の「正式政府」の発足(24) という大きな出来事はあった。しかしそれも、ジャファリ移行政府首相はアメリカの強い反対で表舞台から姿を消すことになり、その結果、諸々の妥協の中でマリキ氏が「正式政府」の首相に選出されたのだった。これはこれからのイラクを占うものではある。この経緯を見ただけでもイラクに春は簡単には訪れないことが知れるだろう。結局、イラクも大した変化があったわけではなく、相変わらずアメリカの策謀とそれへの抵抗が支配的なのだ。覇権意識丸出しのアメリカは、これからはより一層の苦境に立たされるに違いない。
その上、この間のイラク市民の死者は、約四万人にも達しているらしい。まだ混乱状況は治まっていないから、これからも犠牲者の数は増える一方に違いない。少なくとも、犠牲者がこれ以上増えないことを切に願っている。
また、この「イラク正式政府」の発足を受けて、日本の陸上自衛隊のイラクからの撤収が今年6月20日に決定され、早くも25日には日本への物資輸送が開始された。8月には陸上自衛隊の撤収完了予定だという。これにより航空自衛隊の活動範囲は拡大するが…。ともかく、これでおよそ2年半に及ぶ陸上自衛隊のイラクへの派遣はとりあえず終了となる。
しかし、日本政府の「日米同盟」強化は変わらない。この間にも、在日米軍再編に関して、沖縄に駐留する米海兵隊(八千人)のグアム移転に伴う費用を日本が59%(約6800億円)を負担することで合意。普天間飛行場(宜野湾市)から辺野古沖(名護市)への移転合意。それに住民投票で反対87%にもかかわらず、米海兵隊岩国基地への米海軍厚木基地の空母船載機五十九機と米軍普天間飛行場の空中給油機十二機の移転が決定した。更に額賀(ぬかが)防衛庁長官が率先して自衛隊と米軍との同盟強化を推進している。それに自衛隊の海外派遣を常時可能にする一般法(恒久法)策定の動きも急を告げている。この一連の流れは、自衛隊の米軍支援が地球規模に拡大することを意味しており、ますます危険なムードが漂っている。結局、日本政府は相も変わらず、いやむしろ一層積極的に、アメリカと一体化する道を歩み始めたということなのだ。
そして日本の周辺問題では、韓国との竹島(韓国名・独島(とくと))領有権問題の対立や、中国との尖閣諸島周辺を含む東シナ海の天然ガスをめぐる衝突、北朝鮮の日本人拉致問題や核保有問題それにテポドン2号問題など不気味なムードが立ち込めている。もっとも首相の靖国参拝がそれに大きく影響しているのだが…。
ともかくこんな状況なのに憲法問題についても護憲派・改憲派ともども相変わらずの様相を呈している。そう、日本にも何ら変化の兆(きざ)しは訪れていないのだ。
こうして、僕(EとH)がここで語ってきたことは、残念なことに、今でも何も変更する余地もなく色鮮やかにすべて今後の課題として残されている。
本書は『武州大学』という名で僕が主宰している小さな研究会で3年前から議論してきた内容を基礎にしている。したがって、その若き中心メンバーである田口雄一郎君、田丸洋平君、北原勇志(たけし)君、竹内秀夫君、それに僕をサポートしてくれた紺野正さんに負うところが大きい。憲法問題に関しては「時代塾改憲フォーラム」の白崎一裕さんから多大な示唆を受けた。
それに僕の塾仲間である天野秀徳さんが主宰する『天野読書会』の方々や『現代教育問題研究会』を主宰する吉田明さん、それにフリーライターの高橋雅子さんと大澤周子(ちかこ)さんにはずいぶんお世話になった。
関わってくださったみなさんには改めてここで心より感謝の意を表したいと思う。しかし、内容に関してはあくまで僕個人の考えであり、非があるとすればそれはすべて僕個人に帰せられるものであることは言うまでもない。
(2006年7月1日)
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