♂ アル・マディオ … 16歳。大国デルトリクで炭鉱夫(ディガー)の仕事をしている。まっすぐな性格。

♂ モール・ウルフ … 36歳。熟練のディガーで、アルに親方と呼ばれている。口調は乱暴だが面倒見の良い性格。

♀ ディナ・ウルフ … 31歳。モールの奥さん。威勢がよくアネゴ肌な性格でかなりの美人。炭鉱の落盤事故が原因で片足が不自由なため、いつも松葉杖をついている。

♀ ルティア・シュタイン … 16歳。デルトリク王都オーガンの技術者。まだ若いが技術・知識面ではオーガン随一との呼び声も高い。性格はいわゆるツンデレ。

♀ ジェミニ … 16歳(?)明るく天真爛漫な性格。人工精霊と呼ばれる存在で、その意識はサテライターの中にある。主な役目は操縦者のサポート。

♂ ジロン・タル … 鑑定屋。高齢のため腰を痛めており、いつも店にいる。

♂ ケイファー・ナースホルン … 20歳。ルティアと同じオーガンの研究所で働く技術者。性格は温厚で、サテライターに関する知識はルティアに引けをとらない。

■キャラ・設定資料■



ジロン 「ルールは簡単。スタートラインから50メートル先の海岸にボートが置いてある。
     まずはそこまで走っていって、ボートに乗ったらまずは一人が漕ぐ。
     赤い色のウキまでたどり着いたら、あとは二人でひたすら漕ぐのみじゃ。4キロ先の小島に先に到着したほうの勝ちとする。
     では、双方恨みっこなしの真剣勝負。お前さんたち、準備はよいか?」

アル 「オーケー」

ケイファー 「アル君! ルティア! 頑張って」

ジェミニ 『ふたりとも頑張れー!』

モール 「アル、手は抜かねえぜ」

アル 「上等。こっちも全力で行くよ」

ジロン 「それでは位置について。よーーい…………スタート!!!」


ジェミニ 『双魂のジェミニ 第九話 船上のダブルキャスト・前編』


 ジロンの掛け声と同時に両チームが一斉に駆け出した。ディナはモールが抱きかかえた形だが、スピードが落ちている気配は微塵もない。


アル 「速ぇ!!」

モール 「お先ーーー!」

アル 「くっそ!! ルティア走れ!」

ルティア 「走ってるわよ!!」

ジロン 「あー、ケイファーじゃったか? お前さん、すまんがこっちで解説を手伝ってくれ」

ケイファー 「わかりました」

ジェミニ 『私もやるー』

ジロン 「さて、司会はわたくし、鑑定屋のジロン・タルと、解説はデルトリク王立科学省のケイファー・ナースホルンでお送りします」

ケイファー 「よろしくお願いします」

ジェミニ 『ねえー、私の紹介はぁ?』

ジロン 「まずボートまでのスタートダッシュでリードしたのは、モールチーム!」

ケイファー 「さすが、ディガーの足腰は伊達じゃないというわけですね」

ジェミニ 『ぶうー……』


 モールたちより少し遅れてボートまで到着した二人。


アル 「乗り込め! 押すぞおっ!!」

ルティア 「OK!!」

アル 「ぬううううっ!!」


 ルティアがボートに飛び乗ると、アルは渾身の力でボートを押す。
 どうにか浜から海に漕ぎ出すことができ、すかさずアルもボートに乗り込んだ。


ジロン 「少し遅れてアルチームも船を出したぞい。さあ、ここからが本番じゃ」

アル 「まずは俺が一人で漕ぐから。よいしょっと……」


 アルがオールを慣れた手つきで漕ぎ出す。


ルティア 「アル、どんどん離されてるわよ!」

アル 「わかってる!」

ルティア 「ねえ、もっと早く漕げないの!?」

アル 「これでも全力だ!!」

ルティア 「これじゃあ巻き返しなんて無理よ! あ〜〜っもう!!」

アル 「ルティア。なんか、すごいやる気だな?」

ルティア 「あたりまえよ! なんでも大きければいいってもんじゃないんだから!」

アル 「あん??」

ルティア 「絶ッ対に勝つわよ、アル!!」


 こぶしを固めて気合十分のルティア。それに少し押され気味のアル。


アル 「あ、ああ……。ルティア、そろそろウキが見えてきた」

ルティア 「ええ、赤いウキね」

アル 「あそこまで行ったら二人で漕がなきゃいけない。向こうも今は親方の馬鹿力でスピードが出てるけど、必ず減速するはずだ」

ルティア 「勝利のカギは体力と二人の呼吸か……。どっちも分が悪いわね。で? どうするの?」

アル 「どうするのって……頑張るしかないだろ」

ルティア 「……アンタまさか……何も考えてないわけじゃないでしょうね?」

アル 「いや、特に何も考えてないけど」

ルティア 「はあぁ……(ため息)よくそれで勝負する気になったわね」

-------------------------------------------------------------

 一足先に、赤い色のウキまでたどり着いたモールチーム。


モール 「よォし、こっからは協力してひたすら漕ぐのみだ。ディナ、大丈夫か?」

ディナ 「船のオールも松葉杖も似たようなモンだよ。扱いには自信があるんだ」

モール 「フッ、それじゃあお手並み拝見といくか。準備はいいな? 行くぜえ」


 二人のオールが同時に水を掻く。モールの座っている左側に少し船が傾く。


モール 「もっと力を入れろ! 二人同じ力で漕ぐんだ」

ディナ 「うんっしょ……! ふう、結構ホネだね、こりゃあ」

モール 「そのうち力加減がわかってくる。そうすりゃラクになるさ」

ディナ 「アルのボートは……まだうしろのほうだね」

モール 「手加減は無しだ。ぶっちぎりで勝つぞ!」

ディナ 「あいよ!」

-------------------------------------------------------------

ジロン 「両チーム、二人漕ぎポイントに突入したぞい!」

ケイファー 「アルチームはスタートで差をつけられたのが痛いですね。ここから巻き返せるかどうか……」

ジェミニ 『ねえねえ! 二人漕ぎって、サテライターのダブルキャストシステムに似てるね!』

ケイファー 「うん、たしかに似てる。漕ぎ手の二人が息を合わせないとボートはうまく進まない」

ジェミニ 『いいなぁ。私もボート、マスターと乗ってみたいなぁ』

-------------------------------------------------------------

ルティア 「よいしょ、よいしょ……ふー、コツがわかってきたわ。慣れれば簡単ね」

アル 「頼もしいな。そんじゃ、ちょっとペース上げてくぞ!」

ルティア 「オーキードーキー!」

-------------------------------------------------------------


 息の合ったオールさばきでボートを進めるモールとディナ。


モール 「アルの奴、意外とがんばりやがる」

ディナ 「そうみたいね」

モール 「ま、炭鉱で俺がシゴいてやってんだ。このくらいでへばるワケねえよな」

ディナ 「ふふっ」

モール 「? 何笑ってんだよ」

ディナ 「いや、息子がたくましく育ってるのを喜ぶ父親みたいだなって思ってさ」

モール 「う、うるせえ!」

ディナ 「ふふふっ……。ねえアンタ」

モール 「ん?」

ディナ 「強くなったよね、アタシたちの息子はさ」

モール 「まだまだヒヨッコだ。そりゃあ最初に比べれば多少はマシになったが、一人前のディガーには程遠いぜ」

ディナ 「そりゃそうかもしれないけど……思い出してごらんよ。6年前、あの子たちと初めて出会った時のこと」

モール 「げっ、もう6年も経つのかよ。歳を食うと年月の進みがやけに早く感じやがる」

ディナ 「アルもフィーナも、こーんなに小さくてさ。怯えた眼で、私たちを見上げてた」

モール 「……」

ディナ 「親のいないあの子たちがどんな思いで生きて来たのか、想像もできないけどさ。
     一緒に暮らすようになって半年くらい経った頃だっけ。アルが炭鉱についていきたいって言いだして。
     次の日には、フィーナも行くって聞かなくてさ。4人で炭鉱に行ったね」

モール 「ああ」

ディナ 「炭鉱の奥でアンタたち3人とも、汚れて顔が真っ黒になってさ、みんなで大笑いしたよね。ふふ。
     何ていうか、アタシそん時さぁ、すっごく幸せ感じちゃったんだよね」

モール 「お前、よくそんな恥ずかしいセリフが言えるな」

ディナ 「何よ、アンタだってすっごくいい顔で笑ってたくせに」

モール 「……!」

ディナ 「あの時アタシたち、家族になったって気がしたんだよ」

モール 「……それなのに、神様ってのは残酷なもんだ。娘を奪うなんてよ」

ディナ 「……」

モール 「アルだけは、絶対に……」

ディナ 「本当にそれで、いいのかな?」

モール 「!」

ディナ 「親もいない、そのうえ妹までいなくなって、辛かったはずだよ……。
     なのにあの子、あの機械で戦争を止めるって。アンタやアタシ、町のみんなを守りたいって、そう言ったんだよ。
     ……強いじゃないか。そう思わない?」

モール 「……子を守るのは親の役目だ。世界平和について語るなんざ、十年早ぇんだよ」

ディナ 「わかってるんだけどね……」

-------------------------------------------------------------

ジロン 「さてさて、どちらの船も、大分小さくなって正直よく見えませんが、依然モールチームがリードしておるようです」

ケイファー 「そうですね。でもアルチームもだいぶ漕ぎなれて来たのか、徐々にペースが上がっているように見えます」

ジロン 「しかしワシも歳じゃな。前はもっと遠くまで見えたんじゃが」

ケイファー 「僕もあまり視力が良い方ではないので……正直ゴール地点までは見えませんね」

ジロン 「ワシもじゃ……勝負の見届け役としてゴールの瞬間が見えんのはマズイのう。どうしたもんかの」

ジェミニ 『あはは! マスターくしゃみして鼻水たらしてる! あははっ』

ジロン 「ん?」

ジェミニ 『あ、ルティアに怒られた』

ケイファー 「ジェミニ、君には見えてるのかい?」

ジェミニ 『うん! あ、親方さんのボートが止まったよ』

ジロン 「なんじゃと?」

ケイファー 「どうしたんでしょう。トラブルかな」

ジロン 「ジェミニよ。よく見てくれ。何か変わったところはないか?」

ジェミニ 『んーー……。あ!』

ジロン 「なんじゃ」

ジェミニ 『水の壁が見えるよ。船の方に近づいて来てるみたい』


 ジロンとケイファーは目を細めるようにして船の方向を凝視した。かすかに海面が白く盛り上がっているように見える。


ジロン 「あれは……」

ケイファー 「高波だ!!」

-------------------------------------------------------------

アル 「あれ?」

ルティア 「どうしたの?」

アル 「親方たち、逆走してないか?」

ルティア 「はっ? どういうこと?」

アル 「見てみろよ、ほら、こっちに向かって……うわっ!!」

ルティア 「ちょっと、いきなり大声出さないでよ。びっくりするじゃない」

アル 「る、ルティア! う、うしろ見ろ!」

ルティア 「──っ!!?」


 振り向いたルティアの目に飛び込んできたのは身長の数倍はあろうかという高波だった。
 それが瞬く間に大きくなっていく。


ルティア 「きゃああっ!!!」

アル 「ボートにつかまれッ!!!」


 一瞬で頭から波に飲み込まれるアルとルティア。ボートから簡単に手が離れてしまい、水流でグルグルと回転し、上下の感覚がなくなっていく。
 苦しい。息が出来ない。水中で必死にもがき続ける。


ルティア 「ぷはあっ!! はあ、はあ、はあ………アル!? アルどこ!?」

モール 「ディナーーッ!!! どこだディナーーッ!! 返事しろお!!」


ルティア 「親方さん!!」

モール 「嬢ちゃん! 無事か!」

ルティア 「アルが、アルが居ないの!」

モール 「っ……わかった。できる限りで良い、アルを探してくれ。俺はディナを探す。あいつは片足が動かねえんだ!」


 そう言うとモールは海の中に潜っていった。


ルティア 「嘘でしょ……アルーっ!! 返事しなさい!!」


 聞こえるのは波の音のみ。  見回すと少し離れたところに自分たちのボートがひっくり返っている。


ルティア 「もしかして……アルッ!!」


 必死の思いでボートにたどり着き、ひっくり返った船体の下に潜るルティア。
 そこにはボートの金具に服がひっかかり、気を失っているアルの姿があった。


ルティア 「(居た!!)」


 引っかかっている金具を外そうとするルティア。


ルティア 「(は、外れない……!)」


 船体の陰になっており、ほとんど手探り状態でやみくもに引っ張ってみるのだが、外れない。


ルティア 「(外れなさいよ、この、このおぉ!)」


 思いっきり引っ張ろうとしたその時、足に嫌な予感がする。すぐに足の力を抜こうとするも時すでに遅し。


ルティア 「うううっ!」


 研究ばかりで運動不足だったせいか、足が攣ってしまい、身動きが取れなくなるルティア。


ルティア 「(痛い……ダメ、苦しい……! 息が……!)」


 アルの服から手を離し、水面に顔を出そうともがくが、両手と片足だけでは上昇することができなかった。


ルティア 「(もうだめ……!!)」

モール 「嬢ちゃん!!」


 モールの太い腕がルティアの体を水面へと引っ張り上げる。


ルティア 「ぷはあっ!!! げほっ! げほっ!」

モール 「無事かァ!」

ルティア 「はあっ、はあっ、はぁっ……お、親方さん、、、ありがとう。助かったわ、、、足が攣っちゃって、、、」

モール 「いいってことよ。それより、アルは?」

ルティア 「そうだわ! アル、服が引っかかって、ボートの下に……」

モール 「! わかった。嬢ちゃん、こっちのボートにつかまってられるか?」


 頷くルティア。それを確認すると同時にモールは海に飛び込んでいった。


ルティア 「はあ、はあ……」


 モールの船の中にはディナが横たわっていた。目を閉じぐったりとしているが、大きな胸がゆっくり上下している。


ルティア 「良かった、無事だったのね……」

モール 「ぶはあ!!」


 アルを抱えたモールが海面から顔を出した。アルはぐったりして動かない。


モール 「嬢ちゃん、足の具合はどうだ?」

ルティア 「ええ、もう大丈夫」

モール 「よし。悪いがちょっとコイツを頼むぜ」


 アルをルティアに任せると、モールは転覆したボートの方に戻っていった。


モール 「ふん……おォりゃあ!!」


 気合の入った掛け声とともに、転覆したボートを正常な状態へと戻すモール。
 さらにオールを器用に使い、中にたまった海水を外へと掻き出していく。


ルティア 「す、すごい……」

モール 「ふう! 嬢ちゃん、アルをこっちに」


 モールの手を借り、アルを船に引き上げる。
 続いてルティアも引き上げられた。


ルティア 「アル、息してない……!」

モール 「なにっ!?」


 ルティアがアルの胸に耳を当てる。


ルティア 「心臓は動いてる」

モール 「よし! ならあれだ! 人工呼吸だ!」

ルティア 「ええっと、、じ、人工呼吸ってどうすればいいんだっけ……」

モール 「考えてる暇はねえ! とりあえず息を吹きこみゃいいんだろ。俺がやる」

ルティア 「ダメ! 知識のない人がやると逆に危険よ!」

モール 「そ、そうか。じゃあ、嬢ちゃんに任せる」

ルティア 「う……(お、落ち着け。まえに研究所で訓練したじゃない。まずは気道を確保して、それから──)」


 アルの口を、自分の口で覆って、ゆっくりと息を吹き込めばいい。それだけだ。
 それだけなのだが、躊躇してしまう。


ルティア 「(ちょっと待って、これって……これって、キ、キスよね?
       っていうか私ファーストキス……あ、アルと……? ウソ、しかも人前で……?)」

モール 「嬢ちゃん、大丈夫か?」

ルティア 「(ダメ、迷ってる場合じゃない! ……これはただの医療行為よ。そう、別にやましいものじゃないんだから!)」


 意を決したルティアは瞳を閉じ、アルに唇を寄せた──。


 次回予告


ディナ 「次回、双魂のジェミニ 第十話 船上のダブルキャスト・後編」



つづく。

Copyright(C) 双魂のジェミニ製作委員会