オリジナル小説 同人誌

小説作品

大好きな

大好きなあの子としたいこと


 僕には好きで好きでたまらない年下の女の子がいる。でもきっと、僕は彼女に近づけないだろうし、告白する術も機会もないだろうから、僕と彼女が恋仲になることは絶対にない。だから今から少し、僕が彼女としたいことを列挙してみたいと思う。これには特に意味もないし、目的もない。もしかしたら将来自己満足に彩られた文面見て吐き気を催すかもしれない。だがそれもまた人生。諦めて僕は今の僕の思いを綴るのみだ。
 あの子と一緒にファミレスに行きたい。席に着いた直後に面と向かって喋るのが初めてなあの子とちょっと距離が縮まったことに喜びながら、その幸福感に耐えられなくなってすぐに「み、水持ってくるね」なんて言って席を立ちたい。給水機に向かいがてら緊張しきってしまっている自分に落ち着きを取り戻そうと深呼吸をして、「大丈夫だ、落ち着け、まだ始まったばかりじゃないか」などと、早くも頭がパンクしてしまいそうな妄想に小躍りしながら水を持って行って彼女に差し出したい。そして「ありがとう」とほほ笑む彼女に対し、自分のグラスにはうっかり氷を入れ忘れたことに気づいて気恥ずかしさと感謝されたことから来る照れに思い切り舌の根が乾いてしまい、慌てて水を飲みほして潤したい。
彼女が料理を選ぶことを察して「先にどうぞ」と言ってさりげなくメニューを差し出したい。メニューを選んでいる間、こちら側からでは伏せ目がちにみえる彼女の睫毛が普通の人よりちょっと長いことに気付いてどきどきしたい。「決まったよ!」と声を掛けたのに対して自分は全く何を食べたいか決めてなかったのに「あ、うん」と相槌を返して「僕も」と目に入ったオススメ料理を適当に注文することにしたい。そして彼女に「えっ、全然メニュー見てなかったけど平気?」と問われて、「大丈夫、大丈夫。ここのどんな素敵な料理よりも僕が食べたいのは君だから」という本心を言いたいところを思いっきり言葉を詰まらせて「大丈夫」としかいえない状態になりたい。先に食事が運ばれてきた彼女に「お先にどうぞ」と言って出来る限り早めに空腹を満たさせてあげたい。おいしそうに料理を食べる彼女を見ながら自分も段々お腹がすき始めているのに、痩せ我慢をして水をお代わりし続けたい。彼女が食事をしながら何やら友達とか試験のこととかを真剣に僕に相談してくるけれども、彼女と会話していることそのものが嬉し過ぎて真っ当に返しているはずなのにあとあと思い返すと全く解決策になっていないような会話を繰り広げたい。
彼女が半分以上食べ終えた頃にようやく僕の料理が運ばれてきて、恐ろしいタイミングの悪さに辟易しながら、食べている間に彼女にデザートを頼むように勧めたい。もちろん選ぶのはプリン・アラ・モードだよね、友達とよく話してたもんね、なんて内心思いながらがつがつ料理をむさぼっていたところ、案の定彼女はウェイターを呼んでプリン・アラ・モードを頼んだので、自分の日ごろのこのリサーチ力、右に出る者はいないだろう、とちょっとドヤ顔したい。僕が料理を食べ終えた頃に運ばれてきたプリン・アラ・モードをまたおいしそうにつつき始めた彼女を見ながら、ああ、やっぱり女の子ってこういう甘いもの好きなのかなあと耽溺し、いや、どちらかというと女の子全体というよりこの子が好きなんだ、あ、この子が好きって言うのは僕のことじゃなくてデザートのことなんだからね、いや僕も彼女のこと大好きだけど、と意味不明な妄想と独り言を脳内で繰り広げたい。アホな脳内会議をしていたところ、真正面からデザートを食べる姿を見詰められて違和感を覚えたらしい彼女が突然プリン・アラ・モードから僕の方に視線を向け、うっかり目があってしまって恥かしくなり、視線を逸らしたい。何となく顔をそむけてしまったのに彼女が「ん、どうしたの、これ食べたい?」なんて聞いてきて一口プリンを載せてスプーンを差し出したので、更に混乱したい。「え、これはもしや間接キスと言う奴では」などと大げさに動揺しているのを無理して押し殺して、「あ、いや」などとドモリながら返したい。心配そうに「そうなの、甘いもの嫌いなの?」と尋ねてきた彼女に「いや」とコミュ症故に先ほどと同じ返ししかできないのを猛烈に後悔したい。本当は君の差し出したスプーンを二時間くらい舐めたい。寧ろスプーンが食べたい。そのスプーンをくれたら僕が全額今日のお代を出したい。いや、スプーンがなくても彼女にはおごってあげたい。
ファミレスを出た足であの子と一緒にウィンドウショッピングをしたい。可愛いフリルのついた服や、煌びやかなスパンコール付きの清楚なワンピースを見て目を輝かせながら「どれがいいかなあ」なんて悩んでいる彼女に、「君の可愛さならどの服も似合うよ」って言って、「もう、お世辞言ったって何も出て来ないんだからね」って恥かしがらせたい。腹ごしらえが出来てようやく緊張も解けてきたおかげでまともに彼女と会話できるようになった、ここからどんどん押していくぞ、と気合を入れていたら、彼女があまりに前へ前へと進んでいくので、僕の方が追いつくのが大変になっていき、小走りに追い掛けて行く羽目になりたい。意外と女の子って歩くスピード早いんだな、と思いつつあれやこれやと店内を巡っているうちに、喉が渇いたと彼女が言うので、さりげなく自動販売機に案内してあげたい。寒さからコーンポタージュを選んだ彼女に、「開ける前に思いっきり振った後、プルタブを開けたら軽く缶を回しながら飲むと、コーンが最後まで飲めるらしいよ」って蘊蓄を披露して、感心してもらいたい。半信半疑に僕の言うことを試し始めた彼女が、最後の方になって何粒かコーンが取れないことが分かって、一生懸命缶を覗きこみながら舌を伸ばしているのを見て、言い知れない恍惚感に浸りたい。「あーれー?」って片目つぶって底についたコーンを覗いている間に、後ろから「わっ」って肩を叩いて驚かせたい。「ちょっと! びっくりさせないでよ」とやや怒る彼女に「そんな君もかわいい」と言って赤面させて黙らせたい。全力でかわいがりたい。黙った彼女の手からやすやすと空き缶を受け取り、僕が捨てておこう、と言いたい。彼女はありがとう、と感謝の意を示すけど実際は捨てないで取っておくためのものであって、先ほどファミレスでプリン・アラ・モードを食べていたスプーンと同じ目的で使うべく、そっと缶を鞄の中に隠し入れたい。彼女のものを手に入れてしまった興奮冷めやらぬうちに、暫く歩き、駅に向かい、じゃあ今日はこの辺で、と頃合いを見て立ち去りたい。デートらしいデートといったらファミレスで食事をして少しショッピング街を歩いたのみだが、彼女も初めてだからこんなもんだ、と納得してくれて、帰り際に携帯のメールアドレスを交換していつでも連絡が取れるようにしたい。駅へ向かう彼女の背を見て、じゃあね、また今度、と手を振りにこやかにほほ笑みたい。我ながら完璧なデートプラン(まさかのお土産付き)に大満足しながら早々に帰宅し、彼女が飲み終わったコーンポタージュの缶をいつでもどこからでも見える棚の上に飾って、三時間くらい舐めるように見ていたい。
あの子は僕にとってまさに天女にも等しい存在。昔の人は天女の羽衣は高値で買い取りされたという逸話を残しているが、僕にとって彼女の空き缶の価値はその羽衣並みだ。彼女の唇が触れ、彼女の咽喉を潤し、彼女の舌を飲みこんだ缶穴を内包する物体がどれほど甘美でエロティックなことか。あんなものが一二〇円の価値どころかゴミに慣れ果てるなど恐ろしいことだ。僕にとってはその百倍だろうが千倍でも済まない価値があると言うのに。
ところで今日、彼女が友達と一緒にプリン・アラ・モードのおいしい店の話をしていた。羨ましい。一枚ガラスを隔てた向こう側で話題にされるのはどこの地図にも載ってない架空の店。僕が訪れることも許されない架空の場所。あの子はまさに天女。僕がどんなに恋焦がれても、思いを届けることすら許されない存在だ。

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