愛を教えて
総集編「忙しい人のための…3分で“愛を教えて”」
藤原卓巳、二十九歳。
国内最大コンツェルンの社長である卓巳は、祖母・皐月が遺言書を書き換えたことにより、結婚が急務となった。このまま皐月に万一のことがあれば、独身の卓巳には一切相続することが出来なくなる。遺留分等、裁判沙汰は極力避けたいところだ。
そんな卓巳が自ら選んだ花嫁は――
千早万里子、二十二歳。
千早物産の社長令嬢で、都内の有名私立に幼稚舎から大学まで通う生粋のお嬢様だ。
四歳で母を亡くし、男手一つで父・隆太郎が育て上げた掌中の珠である。
半年前のあるパーティで彼女に目を留め、花嫁と言われて咄嗟に思い浮かんだのが万里子だった。
卓巳は個人秘書の宗行臣を使い、密かに彼女の身辺を調べさせた。
そして出て来たのが、なんと、純潔そのものに見える万里子には、妊娠中絶の過去があった!
それも、高校三年(十八歳)の時である。更に相手……中絶同意書に署名捺印された男には妻がいた。
「お嬢様のひと夏のアバンチュール、か……結果がコレとはお粗末な話だ。愚かな女の典型だな。だが、そういった女のほうが扱いやすい」
卓巳はまず、千早物産の取り引き銀行の頭取まで抱き込み、偽の書類を作らせ、父の窮状を装って万里子に結婚を迫るが玉砕。
ついに妊娠中絶の過去を引っ張り出し、脅したり賺したりしながら偽装結婚の契約書にサインさせるのだった。
(以上、第一章)
〜*〜*〜*〜*〜
偽装に見せないための小細工に、卓巳はせっせと万里子をデートに連れ出した。
だが、日本経済界の「氷のプリンス」と異名を取る卓巳にしては、どこか女性の扱いが不慣れだ。
デートを重ねる毎に、お互いの目的が判らなくなっていった。
その後、卓巳は宗の助言により“既成事実”をでっちあげた。万里子を自ら所有するホテルのスイートに泊め、結婚を急ぐ理由を作ろうと画策。
それにより、万里子の父からOKを取ろうとした。だが、そのスイートでトラブルが発生。
卓巳は性に奔放な母親のせいで、最も多感な思春期にセックスに対して心に傷を負った。
二十歳の時に受けた診断は「重い心因性の性機能障害」というものであった。
行為が不可能なだけでなく、心が受け付けない。彼は女性にもセックスにも嫌悪感しか感じない人間なのだ。
一方、万里子は…
彼女の妊娠も堕胎も、二人組の男に性的暴行を受けた結果であった。
彼女は、最愛の父に知られることを最も恐れていた。しかも堕胎だけでなく、中絶手術により、妊娠も非常に困難となってしまったのだ。
万里子はそれを、堕胎を選んだ自分の罪だと思っていた。
様々な障害が立ちはだかるが、二人の中の淡い思いが次第に形を成していく……
「形式上でも君は二年間僕の妻となる。何かあれば、妻のことは全力で守る。――祭壇の前で神に愛は誓えないが……代わりに、君を失望させないことを誓おう」
(以上、第二章)
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二人は結婚に向かって動き出した。
万里子が藤原邸を訪れ、皐月のお許しを得ることが第一である。
皐月は、孫・卓巳の体の事情を知っていた。そして全てが自分の責任だと思っていたのだ。自分は病で余命一年を宣告され、死ぬ前に何としても卓巳に幸せな家庭を持たせたいと願ったのである。
卓巳の父はお坊ちゃん育ちで、キャバクラ嬢の母の罠に掛かって結婚。卓巳は母にとって、金目当ての道具も同然だった。
やがて実家の援助も途切れ、母は父子を捨て出奔、卓巳は父と共にホームレスとなり彷徨う。父亡き後、再び母に利用されるが、藤原家から金は取れず……卓巳は高校にも行かず働き、自力で大学を卒業したのだった。
その後、卓巳父子を追い払った祖父・高徳が死亡。卓巳は皐月により、藤原家に呼び戻されたのである。
藤原家には卓巳の叔母二人が万里子を追い返すべく待ち構えていた。
叔母たちは皐月の娘ではなく、高徳が愛人に産ませた娘だ。そのため、皐月との仲はギクシャクしている。
しかも叔母・尚子の息子・太一郎は無類の女好き。てきめん万里子に目を付け、一人になった隙にキスを迫るという暴挙に出る……それには卓巳も逆上。
「いいか? 私の妻に触れるな。……返事はひとつだ」
卓巳の生い立ちを知らなかった万里子は、色々聞かされ驚くものの卓巳の味方をする。
献身的で健気な万里子の言葉と、それに応えようとする卓巳の行動に、皐月は本物の愛情を確信。
二人は挙式より先に、入籍を済ませるのだった。
(以上、第三章)
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病のため動けない皐月に配慮して、藤原邸でのガーデンウエディングが決まった。
既に入籍も済ませ、デートの芝居は必要ない……にも関わらず、二日と空けずに二人はデートを重ねていた。
もちろん、卓巳には体の事情があり、万里子も男性に対する恐怖感は拭えないでいる。
それでも二人は少しずつ歩み寄り、お互いの存在に安らぎすら感じ始めていた。
そして結婚式当日、卓巳は万里子と初めてキスを交わした。
それは彼のこれまでの人生で至福の瞬間となる。
しかし、その披露宴会場に現れたのが香田俊介。なんと、卓巳が目にした中絶同意書に名前が書かれた男だ。その勘違いは正されておらず、卓巳は激怒。
そのことを知らない万里子はごく自然に卓巳に俊介を紹介してしまう。
逆上した卓巳は後先考えず万里子を非難。それにより、万里子の愛は消えかかり、再び心を閉ざしてしまったのだった。
だが、万里子に対する確かな愛を自覚した卓巳は、どうにか彼女の愛を取り戻そうと努力する。
そんな中、ようやく卓巳は「妊娠に至る行動は万里子の意思ではない」と気付いた。
「万里子、人を愛するのにどんな資格が必要なんだ。過去において、一点の誤ちもない心と体、そして、行いが必要なのか?〜もう嘘はつけないし、つきたくない。愛してるんだ」
卓巳は万里子の母代わりである家政婦の忍からすべての真実を聞いた。
そして、生涯懸けて万里子を幸せにする、と誓う卓巳であった。
(以上、第四章、前半終了です)
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