Tokyo王子1(試し読み) プロローグ

Tokyo王子1(試し読み)

プロローグ

(注意*改稿前バージョンなので導入部分の描写が若干違います。製品版の試し読みは各電子書店で読めますのでよろしく♪)




『ご覧下さい。詰め掛けた人の波で、王宮前広場は飲み込まれてしまいそうです!』

 某大使館の貴賓室、或いは一流ホテルのスイートルームによく似た部屋である。
 使われていない石造りの暖炉があり、その前にロココ調のソファセットが一つ。奥に進むと段差があり、一段下のフロアにはもう一つ、ゆうに十人は座れそうなソファセットがあった。
 正面の窓際には四十二型のプラズマテレビが一台、声はそこから流れている。
 テレビの近くにサイドボードがあり、その上にはウェッジウッドの傑作、ペールブルーに艶めくジャスパーの時計が置かれていた。金色の針は三時を指している。
 部屋の南側に配置された大きな窓は、分厚いカーテンで隙間なく覆われていた。
 まるで、午後三時の陽光が射し込むのを阻むかのように。そのせいで室内は薄暗く、空気も澱んでいる。反面、テレビの周りだけが妙に華やいでいた。

『この日の為に綺麗に飾り付けられた六頭曳きの儀装馬車には、三人の王子がお乗りになられています。残念なのは、この場に第一王子トーヤ・アベル殿下がいらっしゃらないことでしょう』

 明日、四月二日、二十一歳になる第一王子は、五年前の自動車事故で重傷を負った。それ以降、公の場に姿を見せていない。王室報道官は、「トーヤ王子は順調に回復に向かわれております」のコメントを五年間続けている。
 それに関して、一部のマスコミは疑惑の声を上げた。だが、王室が何の報道規制も掛けないことから、杞憂であろう、と話は落ち着いていた。

『今、第二王子クロード・アダム殿下が右手に指揮刀(サーベル)を持ち、高く掲げました。国民の祝意に応えたようです!』

 短く刈り上げた黒髪、いわゆるスポーツ刈りの一見して好青年だ。
 馬車に乗った三人の中で一番大柄である。アイスホッケーのトーキョー国代表でもある彼は、スポーツを通じて子供の人気が高い。派手なパフォーマンスを得意とする所以であろう。
 クロード王子は一週間後、二十一歳の誕生日を迎える。

『街道の女性たちから一際大きな声が上がりました。第三王子シオン・アーサー殿下が軽く右手を挙げ、彼女らに……なんと投げキッスをした模様ですっ!』

 王族は国際結婚が多い。そのせいか、シオン王子には北欧系の血が色濃く出ている。
 肩まであるプラチナブロンドを靡かせ、狼の色と言われる琥珀色(アンバー)の瞳で甘やかな微笑みを投げかける。写真集が飛ぶように売れるという彼は、女性に大人気だ。
 そのシオン王子は今月末に二十一歳となる。

『一方、腰を下ろしたまま、悠然と周囲を眺めつつ、にこやかに手をお振りになるのが第四王子コージュ・アルフレッド殿下です。亡き王后陛下も、間もなく二十歳を迎えられる殿下のお姿を見て、さぞやお喜びでしょう!』

 ブルーブラックの髪と黒曜石の瞳。穏やかで潔癖な性格をしており、誰にも等しく優しい。老若男女問わず、四人の王子の中で一番人気があるのがこのコージュ王子であった。
 彼は十日後、二十歳になる。コージュ王子だけが丸一年、兄たちと生まれが違った。

『――本日の午前中に行われた、祝賀パレードの様子をご覧頂きました。今年はコージュ王子の記念すべき二十歳の誕生日ということで、盛大に催されており……。本日午後六時より、王宮大広間で晩餐会のご予定とのことです。さあ、ではここで、正午から行われました祝賀記念式典の様子を――』


 無人のリビングルームに、ワイドショー番組の「王室特番」が流れ続ける。そんなテレビの更に奥、クリーム色の両開きの扉があった。今は、片側だけ開かれたままだ。
 その中で行われていることは……。


 部屋の中央、ヘッドボードが壁に設置され、そこにクイーンサイズのベッドがピタリと寄せられていた。華美な装飾はなく、リビングに比べるとかなりスッキリしている。カーテンは同じように閉じたままだ。窓際には、木製のデスク、本棚、オーディオセット、三人掛けのソファとガラステーブルがあり、床に敷き詰められたペルシャ絨毯の上には衣服が散乱していた。
 淡いブルーのイブニングドレス、ビスチェにシルクのパーティシューズが転がり、ベッドのすぐ横には真っ白な塊が。女性の下半身を隠すのに最低限の面積しかなさそうだ。
 ソファの背もたれには、トーキョー王国陸軍の軍服が掛けられていた。袖には太い金の三本線、襟章も金地に銀の星三つ、胸には国王陛下より賜った勲章を付け、腰にサーベルを佩刀(はいとう)する。それが、この部屋の主の正装だ。

 ベッドが一際大きく軋み、女性の啼き声が室内に響き渡る。
「あっ……だめ、もうっ」 
 男は上半身に白いシルクのドレスシャツを着たまま、剥き出しの下半身を女の中に押し込んでいた。
「まだ、だ。独りでイクんじゃない」
 男は余裕の声でゆっくりと腰を引く。先端部分を女の中に残し、女の方が焦れて腰を揺する仕草を見せると、一気に突き上げる。
「殿下、もう……あ、ああっ!」
「ったく。我慢の出来ない奴だな」
 男は慣れた動作で体を起こし、細くしなやかな女の腰を掴んだ。忙しない女の声に合わせて、抽送のスピードが上がる。完全防音でなければ、庭を警備する衛兵の耳にも届いただろう。派手な声を上げ、女がクライマックスを迎えた。
「そんなに良かったか? 次はこっちだ。もう少し付き合って貰うぞ」
 北側の窓から淡い光がベッドまで届き、男の顔を浮かび上がらせた。
 それは男と言うより少年と呼ぶに相応しい。若さのせいか頬のラインが幾分柔らかく、引き締まった口元を際立たせている。線を引いたような眉も、濁りのない黒い瞳と対になり、絶妙なバランスを醸し出していた。身長は公称一七七センチだが……プラスマイナス二センチの誤差は許容範囲と言えよう。
 彼は四人の王子の中で、唯一王妃が産んだ息子。

 この部屋の主とは――清浄かつ潔白と誉れ高い、第四王子“コージュ・アルフレッド・エインズレイ・カノウ”であった。


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