:: 体育館の殺人
放課後、体育館で部活動の準備を始めた柚乃達卓球部。
同じく部活動の準備にやってきた演劇部が舞台の幕を上げるとそこには放送部の部長・朝島が刺されているのが見つかった。
激しく雨が降る中、体育館の外にも人がいて、体育館に入っていった人はいなかったと言う。
密室状態となった体育館で機会があったのは卓球部部長のみ。
部長に容疑が掛けられ、柚乃はテストで満点を取った、学内で暮らすと噂の裏染天馬に助けを求める。
story
所謂、“古き良き本格推理小説”。
でもね!そもそも、“古き”って付くのが不満。もっと評価されて欲しい。
ストーリー(設定)の意外などんでん返しだけでは心惹かれないのです。
随所に散りばめられた記述を手掛かりに、主人公と推理競争です。ま、勝てることはないですけど(笑)。
記述されている読者と共有している作中での事実を積み上げて、「これしかない」っていう論理に落とし込んで、犯人を絞り込む。これが本格推理の醍醐味です。
探偵役が論理展開して犯人に迫っていくところでは、本当に大興奮です。
この「体育館の殺人」もそうだけど、次作の「水族館の殺人」も何度も読み直した。
ホワイダニットは個人的には殆ど興味がありません。
本格推理で「動機が弱い」云々は無粋だと思う。
動機とかドロドロした事情なら事件のニュース記事で十分読めるので。
閑話休題。
事件の起きた体育館の外には待ち合わせの人がいたり、ドアには鍵が掛かっていたり、密室状態だった。
放送部の部長の死体が見つかったときには犯人はいなかった。
犯人は誰なのか?いつ、どうやって体育館から消えたのか?
現場の舞台袖に残っていたポスター、制服のリボンに体育館の中の水浸しのトイレに残っていた傘等々。
そして、いくつかの証言。
これらの意味を一つ一つ解きほぐして、犯人を絞り込むわけです。堪りません。
論理を積み上げていく割に天馬の喋り口調で堅苦しくないのがまたよい。
今作も次作も決め台詞的な天馬の一言が効いていると思う。
作者の青崎さんが本格推理で目指したところを語ってます。
http://www.webmysteries.jp/afterword/aosaki1308.html
翻訳ものは昔、クリスティーを読んでいた時期もあったけど、なかなか頭に入って来にくかったので最近は少々疎遠になっていたものの、この『体育館の殺人』のすぐ後に新訳が出ていたので読んでみたら、非常に面白かった。
『ローマ帽子の秘密』なんかは現場に残された帽子の意味を考察し尽くして、犯人に迫るんだけど、『体育館の殺人』の“傘、傘、傘”ってところなんかは、“帽子、帽子、帽子”に通じていて、クイーンへのリスペクトが伺える。
章のタイトルなんかにも遊び心満載でくすっと笑えるものもある。
理詰めで絞り込むというスタイルだけでも鼻血ものなのに、キャラまで立っているとなるとまさにツボすぎる。
character
探偵役の裏染天馬は学校の文化部棟の一室に“学校に無断”で住んでいる変わり者。
所謂、オタクで部屋に入れば取り寄せた雑誌、本、DVD等で溢れかえり、壁一面にはアニメの女の子のポスターで隙間なく埋まっているらしい。
顔はなかなか整っているらしいのだけど、私の勝手なビジュアルイメージは小畑健さんの『ヒカルの碁』に出てくる三谷祐輝。
ちょっと小憎らしい話し方からかなぁ。
天馬は三谷と違って、感情的になることはまずないけど。
見栄えのためのパフォーマンスなのか、人の犯罪を暴くと言う行為へのケジメなのか、大詰めの犯人を指摘する場面では必ず制服に着替えての“正装”で臨みます。そんなところもまたよし。
小畑健さんで漫画化すればいいのに。かつての『あやつり左近』みたいなイメージで。
天馬のオタクトークがもう少し分かると笑える箇所ももっと多いのだと思うけど、半分くらいしか分からなかったなぁ。残念。
卓球部部長の危機に天馬に助けを求めるヒロインの袴田柚乃。
ありがちな過剰なまでのお馬鹿ぶりもなく、かといって大人し過ぎでもなく、好感の持てる女の子。
この辺、『ノラガミ』のひよりみたいにいい感じの女の子です。
あだちとかさんで漫画化もいい。
天馬に事件を持ち込んだ一番の功労者でしょう。
trick
ここまで残された傘一本を追及してくれたのはすごい。
解決編で天馬が次々に色々な可能性を潰し込んでくれたのには感心の溜息した出ませんわ。
ロジックに甘い部分もあると指摘もあるようだけど、こういう取組自体が嬉しいし、何より私はそんなに不自然さを感じなかった。
傘です。手がかりは傘なんです。
体育館の殺人
体育館の殺人
著者:青崎 有吾
出版社:東京創元社
2012年10月11日
初読 : 2013年11月30日