一枚の小説、思いの記録



  再生


  陰りの見えた紅の心臓に

  僕は針を突き刺した

  動きの止まっていく心臓に見える青黒い血液が

  そのどす黒さを増していっているのを見て

  僕は快感を覚えずにはいられなかった

  僕の生きていた人生は

  この心臓に支配されていた気がする

  僕はどうしてこんな命を守ろうとしていたのだろうか

  そんな疑問が溢れ出るようにして湧いてきた

  もっと早くこうやって息の根を止めてしまえばよかったのだ

  僕にはこの物体が生きていないと

  自分の過去が全て否定されてしまう気がしていた

  そう たしかに 過去が消えてしまうような気がしていた

  いつの間にかこの得体の知れない物体と僕の精神は一体化していた

  僕の精神は長い間 この激しく鼓動していた紅の物体に支配されていた

  いま心臓は鼓動を止め ただの肉の塊となろうとしている

  あとはこれを焼却し 灰にしてしまうだけだ

  僕の解き放たれた精神は

  いずれまた子供のころから夢見ていた世界へと飛び立つだろう

  それが僕の精神の居るべき場所なのだから

  そして僕の肉体はいずれ精神に引きずられ 明日の世界に飛び立って行くだろう

  いざ 重い体を背負って 朝日の訪れる海へ 漕ぎ出だそう