ゲオルグ・プライム

5主=ファル、2主=リオ

 

 それは、ファルが投獄されてから二週間後のことだった。

「ファルさん、そしてカイルさんでしたね? ぼくが軍主のリオです。罪状が罪状(軍主暗殺容疑)なので長の拘留となりましたが……って、聞いてます?」

 リオが満面の笑顔で牢を訪ねてきた。が、カイルはすぐさま身を起こして対応の体勢をとったものの、ファルはフテ寝したまま身じろぎもしない。完全に拗ねている。

 とりつくろうように、カイルがへらりと笑った。

「あー……すいませんー、軍主サマ。これがまたこの人、ここ二日ほどずーっとこの調子でして。で、何の御用でしょーか?」

「いえ、お二人の身元引受人が名乗り出ましたので。その人の確認後に解放となります。……お願いします」

 最後の言葉は、リオの背後にいた男に向けたものである。

 逆光に少し目を眇めたカイルは、その男を確認すると……

「…………。……? ………………! あ、えー!? ちょ、ファル様起きて! いいから起きて下さい!!」

「嫌だ。もうなんか色々とどうでもいい。リムに会いたい」

「もー! ファル様ーー!」

「…………何をしているんだ、お前たちは……」

 ため息とともに吐かれた低音に、ファルの肩がびくりと揺れる。王兄閣下は、かわいい妹が泣いている夢を見たときよりちょこーっと遅いくらいの速度で振り向いた。リオから見れば相当の速さだった。

「ゲオルグ……!?」

「久しいなファル、そしてカイル。……安心しろファル、リオンはいないから。怒られるほどのことをした自覚があるなら、投獄されるようなヘマをしないことだな。あとカイル、お前、だいぶ遅くなかったか? 俺だと気づくのが」

「だってゲオルグ殿、老けましたよね〜〜」

「俺に言わせれば、お前やミアキスは化け物だ。特にミアキスは若返っていると聞く」

「うっわ、こわっ」

「……ゲオルグ、お前はどうしてここに?」

 ファルの疑問に、ゲオルグは傍らのリオを見下ろす。口を開いたのはリオのほうだった。

「ゲオルグさんは、我が同盟軍に参加して下さっているんです。なんだかびっくりするほどお強いので、ここ数日のうちにすっかりレギュラー化していただいてたのですが……」

「その人、ボス戦に連れてかないほうがいいですよー」

「びっくりするほど魔法一撃で倒れるからな」

「カイル、ファル。お前ら自分の立場を分かってるのか」

「ご忠告ありがとうございます、お二方。ぼくもゲオルグさんのステータス・魔防欄には危惧を覚えていました。ま、それはいいとして、聞けばゲオルグさんは、昔ファレナ女王国にいたとのこと。お二人の出身も、ファレナでしたよね」

「いいのか? そんなオッサンを信頼して」

「そーですよー。そのオッサンは、想像以上にただのオッサンですよー?」

「……お二人とも、ここから出たいんですか? 出たくないんですか? それとも普通にゲオルグさんが嫌いなんですか」

「気にしないことだ、リオ。こいつらはたぶん、すごく暇だったんだろう」

 さすがはゲオルグ、とファルとカイルはぱちぱちと手を叩く。拍手され讃えられたゲオルグは、なんだか疲れた顔をしていた。そんな大人三人を可哀想なものを見る目で眺めつつ、リオは続ける。

「ゲオルグさん自身については、マクドールさんが保証してくれています。ただ、『定職につこうという意思の感じられない人物だから、使えるうちに使っとくように』という但し書き付きでしたが」

「さすがはマクドール、賢いな」

「もはやゲオルグ殿に関して、オレたちが付け加えることは何一つありませんねー」

「ファル、カイル。言っておくが、お前らにそれを言う資格はない」

 定職につこうという意思の感じられない男たちは、うっと言葉に詰まった。リオはその視線を、可哀想なものを見る目から、どうしようもないものを見る目にシフトさせた。そして、さりげない口調でサラリと言う。

「まあ、マクドールさんにも言う資格ありませんよ。働こうという意思をほとんど感じませんから。……ともかくお二人とも、ゲオルグ殿とお知り合いなのは確かなようですね。おつとめ(入獄)ご苦労さまです」

「え、じゃあ、本当に釈放なのか?」

「うわー、よかったですねファル様〜」

 サラリと言い放たれた隣国の英雄に対する言葉を聞き過ごしてはならないような気もしたが、ファルとカイルはとりあえず喜んだ。

 リオは小さく頷くと、牢の鍵を開け、手元の袋からファルとカイルの荷物を渡す。

「ええ。あなた方への疑いは晴れました。ですが、ファルさんが不法侵入なことは確かですから……謝罪はできません。ご了承ください」

 わざわざ、ファレナ王家の紋が入った三節棍のみ先に渡してきたリオに、ファルは眉をひそめる。リオが何を言いたいのか、本当に正確なところはファルにも掴みかねた。

「別に必要ない。牢から出してくれるんなら、それでいい。それに俺も、暗殺を疑われるような行為は浅慮だった。済まない」

「…………いいえ。こちらこそ、申し訳ありませんでした」

「謝らないんじゃなかったのか?」

「投獄したことは、です。でも、一週間ほど色をつけたことは悪かったかなー、と」

「……殴ってもいいか」

「いいですけど、さらにプラス二日しますよ?」

 一回り年の離れた天魁星二人の会話を、カイルとゲオルグは微妙な表情で聞いていたという。

 

 

 三十分後、彼ら──ファルとカイルとゲオルグは、つつがなく酒場にしけこんでいた。再会と出所を祝って、軽く乾杯する。

「……ところでゲオルグ、なんでここの軍主に協力してるんだ? とうとう路銀が尽きたか」

「戦乱に首つっこむのが趣味なんですかー?」

「んな訳あるか」

 あきれた顔で肩をすくめると、ゲオルグはふっと笑う。

「ルカ=ブライトの噂をわずかでも聞いたことがあるのなら、誰でも同盟に味方したくなる。同盟に義があって欲しいと思う。そういうことだ。それにリオのやつは、一生懸命だからな」

「ふぅ、ん……」

 ファルは、ここ二週間ほとんど使っていなかった頭を回転させた。

 同盟に義が「あって欲しい」と思う。

 頭脳派ではぜんっぜんないくせに、ゲオルグはいつだって、無駄に本質をつく。

「リオくん、でしたっけー? なぁんか、余裕そうに見えたけどなー。十代のころのファル様とは大違いで。少なくとも土下座とかしそうになかった。裸踊りも」

「土下座は初耳だな、ファル」

「……悪かったな。面倒な軍主サマで」

 またもや分かりやすく拗ねた王兄閣下に、ゲオルグは柔らかく微笑む。そして左右に首を振った。

「十代かそこらで本当に余裕があるのは、平和な世でよい家族に恵まれている、そんな子どもだけだと俺は思う。リオは軍主としてよく頑張っている……それ以外のところを過剰評価する必要はない」

「ああ……そうか。ゲオルグと話してると、ほんとに頭がスッキリするな、無駄に」

「無駄ってなんだ」

「えーファル様、オレはー?」

「お前と話してるとイラっとする。それ以上でも以下でもない」

 ひどいー! と騒ぐカイルを放置して、ファルは肘をついて考え込む。

 リオは、投獄したことは謝らない、と言った。

 (これは当たり前だ。悪いのはファルである)

 だが拘留を伸ばしたことは謝る、と言った。

 (それも当たり前だ。ただの、リオの嫌がらせである)

 王家の紋がついた三節棍を、わざと示して差し出した。

 (身分が割れているということだ。軍師の指示かもしれない)

 別にそのまま釈放でもよかったのに、ゲオルグを連れてきた。

 (ファルとカイルの身元がある程度保証された。親切だろうか?)

 ……軍主自ら、牢までやって来た。

 (ああ、うん、そう、なんでだろうと思ってたけど、たぶん、ただ普通に)

「好奇心か」

 ちょっとでも興味があれば、ひょいっと気軽に足を運ぶ。

 ファルでもそうしただろう。

 というか、ファルなら今でもそうするだろう。

「……昔っから、そーゆー点には我慢きかない御子でしたもんねー」

「だから投獄されたりするんだろう。もう少し落ち着け」

「カイル、ゲオルグ、心を読むな」

 元・騎士たちに厳しく突っ込みながら、ファルはもう少しここにいてリオの様子を見てみよう、と思った。

 あの子はまだ子どもで、頑張っている。ただそれだけのことで「同盟に義があって欲しい」とちょっと考えてしまったファルは、正直な話、どこまでも為政者には向いていなかった。

  

 

 

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