本文へジャンプぎ ふ と


第3話


「ふう。まずは食器棚の中身を全部処分しなくちゃだよな」
 といっても、たまに、ボクらと一緒に食事をする程度の食器しかないんだから、たいした量じゃなかった。
 取りやすい所から取り出して、最後は一番上の棚。
 普段は絶対に使わないような引き出物の皿やら、どこかで頂いたらしい土産物のような人形、その他、あれこれ。
「こんなのは、どんどん廃棄でいかないとな」
 手早くビニール袋に放り込む。
 本人も覚えてないようなものだろうから、こっちも気軽に捨てられる。
「おお、我ながら手際良いな。後は、敷いてる紙を捨てて上がり、っと…… ん? 」
 敷かれていた紙をパッとゴミ袋に放り込んだ時に、見つけたんだ。
「なんだ、これ? 」
 厚みのあるA4封筒。
『隠してた? 』
 黄ばんで、年月を感じさせる封筒の中に入っている紙は、A4で、十枚以上はある感じ。何かびっしりと印字されてる。
 とっさに亜希を呼ぼうと思ったけれど、チラッと中身を見た瞬間、見えた文字がボクの動きを止めたんだ。
「公証役場? 」
 すぐにピンと来たのは、離婚のこと。
『ああ、これは、お母さんの離婚の調停書かなんかか? ひょっとして、亜希はこれを気にしてたのか? 』
 さっき、珍しく、ボクに隠し事をしようとした「あなたに見せられないモノ」っていうのがこれのことじゃないかってのは、たぶん、これ。
『見るか? 亜希が、オレに見せたくなっていってたのは、そりゃ、親のドロドロなんて見せられないだろうし…… でも、こんなの、亜希が見たら余計に傷つかないか? 』
 そう。
 お母さんの浮気が原因で離婚した二人だ。その時の離婚条件なんかも、養育費がらみで捨てられなくて、かといって、亜希に見せたくなくてって感じでかくしたのかもなあ.
『亜希は? ……うん、大丈夫。まだ自分の部屋をやってる』
 こっちに来る気配はない。
『中身を確認してからの方がいい。場合によってはこのまま捨ててしまおう。知らなくても良いことだってあるんだ。なあに、ボクが読んでも、忘れてしまえば良いだけだしな』
 今さら過去のことで亜希が傷つく必要なんてないって思えば、夫であるボクが、サラッと確認して、なかったことにするのが一番に決まってる。
 え〜っと、なになに……
「お父さんと初めて最後までしたのは、五年生の時でした。土手に止めた車の……」
 ん? お父さん? 最後までした?
 パッと確認すると、これは弁護士の作成した「証言」らしい。
 証言者は「田中亜希」となってる。
 何かの誤解なのかと「証言」の最初に戻る。
「お風呂ではいろいろあったけど、初めて私がお部屋で裸にされたのは…… 」
 私って、亜希だろ? 
 亜希が、お父さんに裸にされる?
 何かの間違いであってくれって、心が叫んでた。
 そのくせ、自分の中にある、ひどく冷静な部分が、片付けをする亜希の気配に気を配りながら中身を読ませてたんだ。
 間違いようがなかった。
 最後の方に「以上、間違いありません」と、日付は、高校1年の秋。
 亜希の丁寧な字で、署名されていたのは、すなわち、義理の父親との「体験」を赤裸々に告白したものを文章化したもの。 
 義理の父親と、同居するようになったその時から、母親に見つかるまでの六年間、亜希が、オモチャになっていたことが、ハッキリと証言されてた。
 これは、亜希の母親と、義父との間にかわされた離婚のための事実確認書。最後に、父親の神経質そうな文字で「以上間違いありません」の署名と捺印。
 色があせた印鑑の赤色は、生々しく語られたあれこれが「事実」として疑いもないことだって突きつけてきたんだ。
 亜希が、義父とヤッてた……
 うん? まてよ。
『考えるな! これ以上考えちゃいけない! 過去は過去のことだ。忘れろ! 読んでないことにするんだ! 』
 頭のどこかで、そんな声が聞こえてる。
 抱けと、ついこの間も、「お世話」しに言った、亜希がいて……
『考えるな! 戻れないぞ! 』
 赤い文字を頭に点滅させているのは、理性なのか、本能なのか。でも「考えるな」なんて不可能だった。
 おい、まさか…… マジかよ? いや、そんなはずが、いやしかし、これは……
 考えもしなかった「想像」に、足がすくむ。
 息ができない。
 声も出せないほど息が苦しくなって、テーブルにドンと手を突いたボクは、犬のように喘いだんだ。
 はっ、はっ、はっ
 早くて浅い呼吸をしながら、目の前がグルグル回るように動く錯覚に耐えながら、さっきの「キッチンが終わったら玄関をお願いね」って声が蘇る。
 いつものソプラノの美しくも優しい声。
 亜希にしては珍しく、ボクの仕事を先回りして増やすやり方。あんなことは珍しい。どんなときだって「あなたは、それが終わったら、ゆっくりしてて」って言ってくれるのに。
 強烈に胸が締め付けられながらも、もはや、これは「確信」だった。
 足下がふらつく。
 壁につかまりながら亜希の部屋へ。
 でも、いざ、ドアを見たら、そのまま踏み破ってしまいたくなるような暴力的な衝動が生まれてる、ボク。
 息を一つ飲み込んだボクは、ドアを開けた瞬間、自分でも思ってもみないような勢いで飛び込んでいたんだ。
「どうしたの? 」
 タンスを整理する手を止めて、小さい顔をクッと傾けて見上げる、パッチリした目。
 いまだに、新妻の清楚さを持っていて、表情に汚れ一つ見えない、幼くさえ見える顔の言う噛んでいるのは驚きと、そしてわずかな怯え。
 とっさに、何かを言おうとしたんだと思う。
「これ…… 」
 ボクはそれ以上、言葉が出なかった。代わりに、右手に握った封筒を突き出す。
 亜希は、ハッと、これを見た瞬間、目を見開いて、次の瞬間、まるで電線に触れでもしたように、全身をビクンと反応させて、へなへなと崩れ落ちたんだ。
「あ、な、た…… 」
 絞り出そうとする声がひび割れてる。
 大事なものを全てを喪ってしまった瞬間の人間とは、こういうものだったのかと思える様子。
 それが全てだった。
 過去は忘れられる。
 過去なら……
 その瞬間、ボクの胸の内側に燃え上がったのは、信じられないほどの大きな怒り。
 不思議なことに、亜希を殴ろうとは思わなかった。
 目の前にいるのは、まるで空気が抜けてしまったように、ガクンと座り込んでいる妻だから。
 その姿こそが、結婚前も、結婚してからも、ボクを裏切り続けていたオンナが観念した姿だったのかもしれない。
 妻と義父が持ってきた「男と女」の関係。
 それが、過去のことだけであれば、どれだけ幸せなことだったのか。
 それだけだったら、ひょっとして長い時間をかけて許せたかもしれないのに。
 ヘナヘナと力なく座り込んでいる姿が、残酷な事実を語っていた。
 なぜか、真っ赤に燃える怒りが浮かんでこない。代わりに、絶対零度にまで冷えた心が、力なくしゃがみ込んでいる妻を観察させている。
「結婚前、君は、週に一度、お父さんのお世話を焼きにいって、そのアリバイ作りを手伝ってきたよね? 」
 視線の定まらぬ妻に、ボクは続ける。
「結婚してからも、君は、ちょくちょく、お父さんのお世話に行ってた」
 ポロポロポロ
 涙がこぼれてきた。
 だけど、妻の涙を見ても、全く心が動かない自分がいる。
「お父さんのところに行くと、君は、たいてい、疲れたって言って、すぐ寝てた」
 涙を拭いもせず、イヤイヤをするように、顔を振っている。それは否定ではなかった。
 ボクは、放心状態の妻を見下ろしながら、頭に浮かぶフラッシュバックを「読み直し」ていたんだ。
 ああ、そうだよ。そもそも、初めて、お父さんのところに行った時……
 結婚式にも呼ばなかった義父だけど、ボクが実際に会ったのは、結婚の報告に行った時。
 あの時、ボクの顔を見た瞬間、義父は、なにやら怒り始めて、ボクはオロオロ。妻は、ゴメンねと謝りながら、怒る父親を取りなそうと奥に行ってしまったんだ。
 あの時、部屋から出る時に、振り返った顔を覚えてる。
 初めて見る、とても困った顔。
「あなたはちょっと待ってて。どっかに外出してくれても良いから。でも、こっちの部屋は、絶対来ちゃダメよ、パパ、神経質だから」
 妻にしては、珍しく強い口調で「来ないで」と言った背中を見送りながら、ボクは「神話」を思い出したんだ。
『けっして、来ないでって、なんだか、イザナミみたいだなあ』
 有名な神話だ。
 この国を生み出したイザナギ、イザナミの夫婦神。
 愛するイザナミを亡くしたイザナギは、あきらめきれずに死者の国まで妻を迎えに行った。
 でも、妻は「遅かった」と嘆く。
 だって、もう黄泉国の食べ物を食べてしまったイザナミは、生者の国に戻れないのだから。
 あきらめきれないイザナギが、なんとかならないかと懇願する。
 ついに根負けしたイザナミは、夫にこう頼んだんだ。
「わかりました。本当はもう戻れないけど、黄泉国の神々にお願いしてみるから、けっして、私の姿を見ないでください」
 そう言い残して、奥へと消えていった。
『奥さんの言葉を守らなかったから、とんでもないモノを見てしまったんだよね』
 待ちくたびれたイザナギが、奥の部屋で見たのは、イカヅチたちとの乱交をしている、醜く変貌してしまった妻。
 その姿を愛する夫に見らて、イザナミは、愛が憎しみに変わった。
 黄泉国の軍隊を連れて追うイザナミ。
 愛する人を連れ帰るはずが、その本人に追いかけられて、必死になって逃げるイザナギ。
『ああ、考えてみれば、本当は、もう家に戻れないんだもん。きっと、愛する人と一緒に戻れるように、身体を差し出して頼んだんだよね。だとしたら、イザナミも可哀想かもだよなあ』
 そんなことを考えながら、微かに聞こえる、軋むような音を聞きながら「ははは。現代のイカヅチさんは怒っているみたいだよね」って、一人、つぶやいたものさ。
 そして、奥の部屋に入ったまま、一時間以上も、何やらガタガタして、ようやく戻ってきた亜希は、心身共に疲れ切っていたのをハッキリと覚えてる。
 そう、あの奥の部屋には、本当にイカヅチさんがいたんだよ。
 たった一人だったけど、ね。
 あの時、亜希の疲れ切った表情に気を取られたけど、今なら分かる、脚がふらついていたわけをね。
 うん。そうだよ。
 途中から聞こえた、大音量のワーグナーは、こらえきれずに漏らしてしまう声をかき消すためだったんだね。
 いや、あの時だけじゃなかった。
 あれも、これも……
 後から、後から出てくる「そういえば」のシーン。
『土産を渡す順番も決まってたよな。必ず、お母さんが先だ』
 必ず母親を先にしたのも、後にした方が父親とゆっくり時間がとるため。
 たいてい、ついでにいろいろと「お世話を焼いて」くるから、帰りはいつも遅くなるのを、ボクは、いつのまにか、当たり前のことと思うようになってた。
『この間だって』
 母親のお葬式が終わって、まだバタバタしていた頃、自分のショックが抜けていないのに「父を慰めてこなくちゃ」と出かけたのは今週のこと。
 あの日も、亜希は疲れ切って帰ってきた。
 全てが、ボクの中で結びついてしまったわけ。
 立ち尽くしながら、ボクの頭を数十ものシーンが駆け抜けて、目の前の亜希は凍り付いたままだ。
『いったい、何をどうしたら…… 』
 冷たい心だけがそこにあって、でも、何をどうしたら良いのか、いや、何を言えばいいのかも分からない。
 途方に暮れたボクが、妻から目をそらした時だった。
ボクの目に飛び込んできたのが、黒いビニール袋。
 こういう時には、特別なカンのようなものが、突然ひらめいてしまうのも良くあること。
 何の変哲もないゴミを詰め込んだビニール袋に、何か異様な存在感を感じてしまった。
 気が付けば、飛びついて、バッと開いていた。
 あった……
 それは、黒いビニール袋に包まれて、さらにガムテープでグルグル巻きにされたもの。
「ダメッ! それは、やめてえ! なんでもないの、それなんでもないんだから! 」
 それを手に取った瞬間、後ろから必死の形相で抱きつく妻。
 亜希の、こんなに必死な形相を初めて見た。
あまりの勢いによろけたボクに、そのままのしかかってきた。
 そしてボクの手から取り返そうとするとの手を力一杯振り払おうとした瞬間、勢い余って亜希が部屋の端まで突き飛ばしてしまった。
 ドンと部屋の隅に尻餅をつく妻。
 ぎゃっと言う濁った悲鳴。
 初めて妻に振るった暴力に、ボク自身が、凍り付いたんだ。
 しかし、次の瞬間、ハッと気が付いて、ビニールの中にあるものを確かめることしか頭になくなる。
 グルグル巻きのガムテに手こずりながらも、ビニールの破け目から、見えたもの。
『8ミリビデオ? 十本以上あるぞ。こっちは、メモリーか? 』
 一緒くたに入ってたメモリーが、ジャラっとこぼれる。
 そこに映っているものが、瞬時に頭に浮かんで、凍り付くボク。
「いやあ! ダメ、お願い、それはダメなの、お願い、許して、いやいやいやあ」
 半狂乱の妻が、こぼれたメモリーを拾おうとする手にグッと身体を入れ込んで、一つ、二つ、三つと、全てを拾い上げる。
 痛いほど爪を食い込ませて、ボクの手から奪い取ろうとする細い手。
「だめえぇえ! お願い、見ないで! 」
 狂ったように叫ぶ亜希が、脚に取りすがってくるのが、全てを物語ってる。
 こんな風に取り乱した彼女は初めだった。
 反対に、冷たい表情を浮かべたボクの頭の中は、ブラックアウト寸前だった。
「これ以外にあるんなら、先に出せ」
 ようやく絞り出した声は、かすれてる。
 泣きじゃくりながら、首を振る亜希。
「違うのぉ、違うんだからぁ」
 パシッ!
 思わず、左頬をひっぱたいてしまった。
 それは、おそらく、大人になってから、初めての暴力。
 そんな暴力性が自分の中にあったことに、まず、驚いて、ひっぱたいた手の感触に、また、驚いている自分がいる。
「全部出せ」
「ないの! ホントにないの! それ、なんでもないんだから! 」
 パシッパシッ。
 暴力の欲望が自分を支配しているのがわかっても、どうしようもない。
 手が、言葉が、勝手に暴走している。
 人を殴ったこともないボクが、容赦なく妻の白いほっぺたを加減もせずにひっぱたいては、「出せ」「ない」の応酬を繰り返す。
 何度目だっただろう。
 あっという間に真っ赤になった頬に、さすがに心のどこかがピリッとして、取りすがる妻を再び突き飛ばした時だった。
「あぁあ! 」
 一瞬、妻のスカートが妙にめくれて、目に付いた、白い太もも。
 その瞬間、何かがボクに言わせたんだと思うしかなかった。
「最後にヤッたのはいつだ? 」
 その瞬間、亜希の目が微妙に宙を泳いだのを見逃さない。
「この間、だな? 」
 かすれた声しか出ない。
「違うの! 何にもしてないんだから! 」
 イヤイヤと激しく振る顔には、涙。
 それこそが告白だ。
「そいつも撮っただろ? それを出せ」
 泣きながら、ビクンと肩が震えた。
「違うんだから! ね、それ返してぇ〜 」
 声を上げて泣き始めたのは、半ばあきらめたのかも知れない。
「家か…… 」
 なんてこった。
 ただれた関係のビデオ ……妻の不貞を示す映像が、二人の愛を育ているはずの空間に置いてあるなんて。
 しかし、あきらめて泣いていたはずの亜希は、ボクの絞り出した言葉を聞いた瞬間、飛びついてきたんだ。
「違うの! 違うの! ね、違うの! ないわ! ないったらない! 」
 必死の形相の亜希は、血走った目を見開いて、涙でぐしょぐしょの鼻を拭いもせずに、しがみつこうとする。
 しかし「ない」と叫ぶこと自体、既に関係を認めているんだってことになるのを気付く余裕はないらしい。
 怒りに真っ赤な頭の中で、そこだけが、シンと静まりかえって冷静な部分が、シニカルに、その言動を見つめている。
 不思議な感覚だった。
「ないなら、探しても大丈夫だよな? 」
 自分でもビックリするほど冷たい声が出ていた。
 ビクンと顔を背けた妻の前から身を翻して、半ば中身が見えた黒ビニールの包みを片手に、玄関においたままの妻のハンドバッグをサッとかすめ取って、一直線に車に向かう。
 部屋のカギは、ハンドバッグの中。
 追いかけてきても、家には入れない。
 イザナミと黄泉の軍団に追いかけられたイザナギは、大岩で道を塞いで逃げ切った。ボクは、愛を育んだ我が家の玄関のカギで、妻の行く手を阻もうとしたってこと。
 だけど妻は追いかけてこなかった……
 ともかくも、家に帰り着いてから目的のものを探し出すのに、1時間とかからなかったのは、その気になれば、簡単な場所だったんだ。
 それまでは、夫婦といえどもお互いのプライバシーを守って、お互いの手紙を見ることもしなかったから、亜希が油断していたといえば、そうなんだと思う。
なんのことはない、寝室に置かれた小さなドレッサーの引き出しを開けると、古い年賀はがきを整理したポケットファイルが置かれてた。
 場違いな場所にあるそれを見た瞬間、もう、確信に近いひらめきで、バッとそいつを放り出せば、たくさんのメモリーと、DVDが四枚。
 全てが新しいモノだった。
『間違いない。結婚した後も…… いや、この中のどれかが、こないだのヤツかも』
 そして、ドレッサーの一番下から出てきたのは、アナログ好みの妻らしい、十年日記と書かれた上質の日記帳。
 今までだったら、たとえ見つけても、絶対に読まなかったはず。夫婦と言えども、踏み込んではいけない所だってあるのだから。
 出も、ボクの手はなんのためらいもなく、それを開いてる。
 大学に入学した4月が最初の日付。
『これだけじゃないはずだ。初めから、全部、見なくちゃ』
 あの「証言」では、母親が結婚した夏から始まったってある。
 こういうときに、遠回りしたくなるのは弱さだなって自分を笑う、もう一人の自分がいる。
『いや、違う。ちゃんと、事実を全部知りたいだけなんだ』
 ひらめいて、クローゼットの奥に積まれた箱を探す。
 実家から持ち込んだ本を入れてる箱だ。
 一気にひっくり返すと、小学校の卒業アルバムに、文集、そして子ども向けの大判の本の数々。
 どさっと部屋の中央に巻き散らかした拍子に、絵本の間からこぼれた、8冊の古びた日記。
「これだ…… 」
 おそらく母親が結婚した時から始めたらしい女の子らしい丸っこい字で書かれた妻の名前。
 そして、次第に整った字になっていく4冊目。
『つながった。ここに全部、あるんだ…… 』
今朝までのボクだったら、日記があると分かっていても、決して読んだりしなかっただろう。けれど、その場でヘタンと座り込んだボクは、震える手で開かずにはいられなかった。
 亜希との昔を思い出しながら、ぺらぺらと日記をめくって拾い読み。
 いつのまにか涙が流れていたんだ。
 いかにも頭の良い真面目な子らしい、整っているけど。子どもらしい丸っこい字。
 たどるウチに、 いつの間にか、亜希の子どもの頃が、まるでビデオでも見ているように、生々しく浮かんでいたんだ…… 



「ねえ、パパ」
「どうしたんだ。アキ? 」
 お膝の上で、私は、ううん、と首を振った。
「ほら、ちゃんと洗うと気持ち良いだろ? 」
 違う。パパは洗ってなんかいない。だって、そう言いながら、指先が、まだ膨らんでもないオッパイの先端をクリクリと撫で回してる。
「んっ、き、キモチ、いいよ、ね、パパ。お風呂って、本当に、んっ、気持ち良い、んっ」
「ははは。アキはお風呂が好きだよな。パパのことも好きだろ? 」
「うん。パパもお風呂も大好きよ」
「じゃあ、パパとこうしてお風呂に入るのはどうかな? 」
「んっ、そ、それも、好きかも」 
 膨らんでないのに、パパは、私のオッパイが膨らみ始めてるって、お気に入り。
 優しく、全体を包みながら、ソープでヌルヌルされると、それだけで、何だかあそこがムズムズしちゃう。
 うん。もちろん、気持ち良いんだよ?
 クニュクニュされながら、私は、背中をぜ〜んぶ、パパに預けてる。
パパは大きい。
 お膝に載っても、私をすっぽり包む感じ。
 すっごく安心できるんだけど、こうやってエッチにヌルヌル、撫で回してくるから、安心してるヒマなんてない。
 でも、それは、くすぐったさだけじゃないってことを、もう、覚えちゃった。
 パパと私だけの秘密。
 お尻の下で、硬くなってる、パパのアレが当たってる。
 嫌じゃないよ。
 でも、恥ずかしいから、知らんぷり。
 パパがエッチになってる証拠の、カッチカチだもん。
 ううん、エッチになってるのはパパだけじゃない。私も、あそこがヌルヌルで、いつの間にか、私は腰を動かして、あそこに当たるようにしちゃってる。
 初めては「偶然」だったけど、一度覚えちゃうと、偶然なんて待ってられない。
「んふっ」
 ヒクンって、背中まで、震えちゃう。
 男の人って、みんな、こんなに大きいのかな?
 まるで、私のオチンチンみたいに、脚の間からニョキッと生えてる。そのカッチカチの幹に、私はこすられてる。
「パ……んはっ、ふっ、んっ。パパぁ」
 ああん、甘えようと思った声が、すっごく、エッチぃよぉ。 
 なんか、おかしくなっちゃいそう。
「今日は、一段と、気持ち良いお風呂だよね〜 」
「う、うん、はふっ」
「パパは、アキを全部洗って良いのかな? 」
 うん、もちろんよ。
 でも、今までだって、洗ってくれてるよね?
 私が浮かべた疑問符が見えたのかも知れない。パパは耳に口を付けて、そっと囁いてきた。
「アキの大事な所も、洗って上げて良いかな? 」
 パパが何をしようとしてるのか、分かった瞬間、私は、頭の後ろがツ〜ンとした。
 すっごくキモチ良くなっちゃう予感。
 でも、それって、恥ずかしい所を、他の人に触られちゃうってこと。
 そこだけは、今までも自分で洗ってきたよ? 
 そんな恥ずかしいこと、したらダメなのに…… 
 身体の奥のモヤモヤが、もっと「何か」を欲しがってて、私に「ダメ」って言わせてくれない。
 代わりに出てきたのは「恥ずかしい」って言葉。ああ、私って、エッチだと思う。パパの指が、そこに伸びてくるのを期待しちゃってる。
 ちゃ〜んと分かってくれるパパは優しく命じてくる。 
「ほら、じゃ、脚を広げて洗いやすくしてね」
 目を閉じて、ゆっくりと脚を広げてしまうハシタナイ私。
 指が、下からヌルンって。
「んっ」
 すごい、キモチ良すぎるぅ。
 ゆっくりと上がってきて、あ、そこは、私の一番感じるボタン…… あふっ! 
 身体が跳ねた感じ。
 何かが電気みたいなのが背中を流れた。
「声、我慢して。ママが気になっちゃうと、いけないからね」
 コクン
 もちろん、これはパパとの秘密の遊び。ママにバレたら、パパが殺されちゃうって、いっつも言われてる。
 だから、決して、誰にも行ったりしないけど……
「ひゃふっ! 」
 ヘンな声が出ちゃうの。
 一番敏感なボタンを指先がヌルヌルって撫でられちゃうと、我慢できないんだもん。
 ジーンとした気持ちよさと、もっともっと欲しくなっちゃう焦れったさ。
 あ〜ん、どうしよ
「アキは、声我慢できないかな」
「ごめんなさい。パパの指、んっ、キモチ、あふっ、良すぎるんだもん」
 下の方をヌルヌルされると、圧倒的に気持ち良いんだけど、ボタンをヌルンってされると、身体の中を電気が走って、私の身体が、言うことを聞いてくれない。
「アキは、こうして洗うの、気持ち良いかい? それとも、もう止める? 」
「んぁんん」
 イジワル。
 こんなんで止められるわけないよ。気持ち良いんだけど、もっともっと、って身体が焦れてるんだもん。
 私どうなっちゃうの?
「じゃあ、アキは声、我慢できないかな? 」
 コクン
「じゃあ、ここを弄る時は」
 ビクン
 あと、二ミリで、ボタンに届きそう。早くぅ。
「声が我慢できないから、口を塞いで良いかな? でも、パパの両手が塞がってるから、パパのお口で塞ぐことになるけど? それでも、良いかな? 続ける? 」
 ボタンのすぐそばまで来た指は、パッと一番下に言っちゃって、また、すぐ近くまで撫で上げてくる。
 背中がゾゾゾゾって、何かが上ってくるんだけど、あの、ボタンのツーンが欲しくなる。
 もう、なんでも良いから、続けて欲しくなってた。
「うん、良いよ、塞いでぇ、声、出ないように、パパぁ」
 身体の奥の方から、何かがこみ上げてる。
 これ以上、我慢できない。
「よぉし、良い子だ、続けて上げようね。さ、お口を出して」
 その瞬間「口を塞ぐ」って言葉の意味が分かっちゃったけど、もう、止まらなかった。
「早くぅ」
 私は、唇を差し出した。
 大きなお口が私の唇にギュッと当てられる。
 ファーストキス! 
 そう思った瞬間だった。
 ボタンが、ヌルヌルヌルって、ううん、止まらない。連続して、指先がボタンを弄ってる。
 ツンツンツンツン
 短い波がつながって、背中をピンク色の電気が…… 流れた!
「ふんぐぅううう! 」
入れられた舌に、自分から吸い付いてた。
最高……
 はぅん。
 その後、力が抜けちゃって、自分では立てなくなってしまった。
 あんなに気持ち良いことってあるんだっていうのが、最初の感想。
 ま、ファーストキスはパパに上げちゃったけど、全然嫌じゃなかったよ。
 でも、力が入んなくなっちゃって、ぐにゃぐにゃになった私。
 だから、最後は、パパに抱っこされたまま湯船に入って、よ〜く、温まると「のぼせた」と言って、ママが呼ばれたのを微かに覚えてる。
「なんでしょ。亜希ってば。いくら楽しくても、お風呂が長するからよ」
「まあ、まあ、良いじゃないの。ゆっくり入りたかったんだろ。それに、オレが洗ってる間、ずっと浸かって喋りまくってたわけだから、今度からもっと早く交代するよ」
 そう言って取りなすパパは、私に、こっそりウインクして見せた。
 こんな恥ずかしいこと、日記には書けないけど、その日から、お風呂上がりに、こっそり自分で触るようになっちゃったのは、恥ずかしい秘密。
 毎日、パパとお風呂に入ったけど、触ってもらうのはあの日が最後。
 だって、またお風呂でのぼせたら、今度こそパパとのお風呂を禁止されちゃうかも知れないじゃない?
 それに、明日から夏休みで、パパのお休みの木曜日だもん。
 なんか期待しちゃう…… 
 

 

 


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