第2話
……その日の智美は、モスグリーンのTシャツに、紫外線よけの白の長そで。パンツスタイルで行ったのは、動きやすさを考えてのことだったが、受付をすると、まずは問診だった。
十二畳ほどの部屋で、施術台を向こうにして一対一。
人の良い笑顔は話しやすい感じがした。
「えっと、大神田智美さんですね。お待ちしてました。どうぞよろしくお願いします」
年の頃は三十代にも見えたが、ホームページを見る限りでは、院長の鈴木氏は五十代半ばのはずだ。
口ひげを蓄え、肩までの総髪を後ろでざっくりとヒモで結んでいる院長は、にこやかに智美の話を聞きながら、時折、何事かをカルテに記入したり、心からと思える真剣さで頷いては、話を聞いてくれたのだ。
気の済むまでグチやら、悲しみやら、戸惑いやらを、考える余裕もなく思いつくままに話し続けた智美は、いつのまにか夫には絶対に言えない、いや、生涯誰にも言えないだろう核心まで喋っていた。
ふと見上げた時計が8時近くになっているのに気付いて、唖然とした。
「すみません! こんなグチを聞いてもらっちゃって」
「いえ、心を解放してくださる智美さんは、私にとってはとてもありがたいです」
「え? 」
「心ゆくまで、お話しできましたか? 」
「え、ええ」
「よかったです! それがいちばん大事なことですからね。心を解放できない方には施術の効果も半減してしまうんですよ。だから、私にとっては、とってもありがたいことなのです」
「そ、そうなんですか? でも、あの、こんな時間まで…… すみません! 」
HPによれば「癒やしの星 カーマ整体院」の診療時間は七時で終わることになっている。しかし、院長は、智美が話し続けている間、全く時計を見ようとしなかった。
ひたすら真剣に話を聞いてくれたようにしか思えなかった。
「でも、診療時間が…… 」
「いいんですよ、そんなこと! まったく問題ありません」
「え? 」
「智美さんが、当院を必要としてくださって、そして私を信用してくださった、今、智美さんご自身、少しだけすっきりなさいましたよね? 」
「え、ええぇ。少しどころか、とっても。心がこんなに晴れ晴れとしたの、久しぶりです」
「じゃあ、良かったです。安心してくださいね、最初、お電話いただいたときになんとなく重症の方のような気がして、次の方を気にしなくてすむように本日の最後の時間にさせていただきました」
「重症? 」
「そうですよ。だから、じっくりと話をお聞きしたいなと。やはり重症の方には、じっくりと時間をかけてお話を聞くことが、一番ですから」
その表情には、優しさが溢れていた。
「安心して話していただけたようで何よりです。あ、でも、智美さんこそ、この後、ご主人をお迎えしないといけないのでは? すみません、話を長くしてしまって」
低姿勢で逆に謝られてしまうと、智美はかえって恐縮するしかない。
「いえ、主人は、仕事で、このところ十二時を回らないと帰ってこないんです」
「あ、そうなんですか。じゃあ、よろしければ、このまま施術を受けられますか? 」
「あの、私はいいんですけど…… あの、ここ、お時間が過ぎてしまったのに、良いんでしょうか? 」
「もちろんですとも。患者様が、ここにいらっしゃる時よりもゆったりとした気持ちでお帰りいただくのが何よりの喜びですから。では、施術に入らせていただいても? 」
心から智美のことを考えてくれている笑顔にしか思えなかった。この整体院を選んだ自分の幸運に、智美は心から感謝していた。
「どうぞ、よろしくお願いします」
「では、えっと、まず、水分を摂っていただいた後、最初にカルテから作らせていただきますね」
「はい、お願いします」
「といっても、問診は先ほどの話の中でつけさせていただいたので、あの、すみませんけど、こちらのコップのお茶を飲んでいただいた後、あの体重を…… あのぉ、すみません」
ぺこっと頭を下げられても、余計に恐縮してしまう智美だ。智美だったら体重くらいどうと言うことはないが、気にする女性は多いということだ。
だから、すまなそうにする態度には、さすがに、女性に気を遣っているなと実感してしまう。
「このお茶、なんか不思議な香りですね。あの、これは? 」
「これは当院特製のお茶でして、リラックスできるハーブ類とか、南米のガラナやヨヒンビンなどの血流を良くする木の実が入ってます。ま、細かい配合は企業秘密ですが」
にっこりと笑う院長は、極めて人の良さそうな笑顔皺が浮かんでいる。
「この後の施術を効果的にするための健康茶ですから。あ、一応、毒味しますね」
ふっと目の前にあるコップを、失礼、と一言断ってから、コクッと一口飲み込んでから、ほら毒じゃありませんよ、と下からのぞき込むように微笑んでくる。
その瞬間、智美の頭に「間接キス」という中学生のような言葉が点滅したが、もちろん、そんなことを顔に出すのは失礼だと考える方が優先だった。
だからこそ逆に、院長が口をつけたお茶を、飲まないわけにはいかなくなり、結果的に、一気に飲み干すことになったのだ。
いつのまにか、院長のペースに巻き込まれて、少しずつNOといえない雰囲気が確かに生まれていた。
「うん、良いですね。大変上手にお飲みになります」
「そうですか? 」
飲み方に上手も何もないと思うのだが、何であれ褒められると悪い気がしない。
「それに、水分も大事ですし、なによりも、血の巡りが良くなりますから、リラックスした気持ちで、この後の施術も効果的に受けられますよ、うん、とっても、偉かったです」
院長との間接キスを受け入れたのを褒められている気さえしたが、院長のにこにこ顔を見ていると、なんだか、心から褒められている気がして、心がほんわり温かくなってしまう気がした。
さ、じゃあ、早速ですが、と、十二畳ほどの空間を作り出してる奥のカーテンに裂け目を作りながら「こちらで、あの、申し訳ありませんが、体重をお願いしますね」と招き入れる仕草だ。
「わあ、ちゃんと量るんですか」
「数字を読み取っていただくのはセルフでお願いしますね、私はこっちにいますので。あ、お召し物は一応全部脱いでいただいてから、計っていただいて、そして、その棚にある」
目顔で示された先には、ビニールパックされたものが置いてあった。
「それだけを着てくださいね」
「は、はい」
全部脱いで、と言う言葉にドキドキしてしまったが、考えてみればみんなそうしているのだ、人妻の自分が、ドキドキするようなことでもないと思おうとした智美だ。
「こちらのカーテンを閉めておきますので。どうぞ、ゆっくり着替えてくださいね、お召し物はそちらのかごに置いていただいて結構ですから」
え? と思ったときにはグリーンのカーテンが閉ざされた後だった。
目の前にはシワ一つ無い紙を敷いた箱がある。この箱に脱いだものを入れるというわけだろう。
『あ~ん、これって、ショーツも脱ぎなさいってことよね? 』
ビニールパックされた「衣装」の横には、個包装された使い捨て下着が置いてある。
一瞬躊躇した智美だったが、こうしてカーテンが閉じられてしまうと、院長の言う通りにしなくてはという思いの方が強く出た。
つまりは、カーテン一つで男と隔てられた場所で全裸になり、体重を量ったのだ。
不思議な感触だった。
風呂場でもない場所だ。
しかもすぐそばに男性がいる。
それなのに、全てを脱ぎ捨て、ヌードになるというのは、ちょっとした冒険のような気がして、ドキドキだった。
院長の気配は近寄ってこない。きっと気を遣っているのだろう。
『早くしなくちゃ。ご迷惑をかけているのに』
ただでさえ診療時間を大幅に超えている。紳士的な院長にこれ以上甘えてしまうのは気が引けた。
おまけに、目の前のデジタル表示は、智美を現実に引き戻す。
『ごーてん、ろくか。や~ん、いつもよりも五百グラムも多いわぁ』
とっさにいつも通りの体重を書き込みたくなる智美だが、カーテンの向こうで気配を消している誠実そうな顔を思い出すと、やはり正直に書き込むしかないと諦めたのだ。
四十五.六キロ。
コップ一杯のお茶を飲んだばかりにしても、少々、問題かも知れない。
「あの、計り終えました」
なぜか、一糸まとわぬ姿のまま、院長に声をかけてしまう。もし、院長が、どれどれと入ってくればヌードを見られてしまうと、チラっと思ってしまったのに、声が先に出てしまったのだ。
「は~い。じゃあ次は身長を測らせていただきますので、お召し物を、ゆっくりと整えてから、声を掛けてくださ~い」
のんびりとした口調は、智美をリラックスさせようとしているのだと分かる。入ってくることなどあり得ない感じを伝えて、安心させようとしてくれているのだろう。
ますます智美は、院長の紳士的な態度に好意が生まれてしまう。
しかし……
ふっと困ってしまった。
「あのぉ」
「はい? 」
「ブラは…… 」
「あ~ みなさま、お脱ぎいただいています。ご不安でしたら、まだ、おつけていただいても構いませんが、施術のことを考えると今のうちにお取りいただいた方が良いかもしれません」
「あっ、はい」
こういう時、相手の思いやりに少しでも応えようと急がずにいられないのが智美だった。さっと、紙製の使い捨てショーツを足に通すと、クリーニング済みのビニールを破って「衣装」を着てしまう。
超ミニのワンピといったところか。脱ぎ着しやすいようにだろう、浴衣のように合わせになっていて、ひもで結ぶ形だ。
さらさらとした肌合いは、木綿なのだろうか?
Dカップの胸が薄い布地をグッと持ち上げているが、その下のあたりで、ギュッとひもを結んだ。
テキパキした身支度に、一分もかからなかったはずだ。
「お待たせしてしまってすみません」
「いえ、とっても早かったですよ。智美さんは人に気遣いなさる優しい方なんですね」
「え、そ、そんな」
「でも、当院では智美さんが主役です。どうぞ、急がず、リラックスなさっていたいてくださいね」
「ありがとうございます」
「ゆっくり進めていきましょう。この後、身長を測って、その後で、ちょっと写真を撮らせてくださいね」
「写真? 」
「ええ、身体の歪みをご自身の目で見ていただいて、施術の効果をご自身で見ていただくために、少々特殊なカメラで撮影しますからね」
さあ、こちらです、と隣の小さなカーテンの向こう側には、身長計があった。
昔、学校でそんなこともあったな、と、そっと頭のてっぺんに板が当たる感覚を思い出してしまうのもつかの間、院長は、スッと横に立った。
薄い生地一枚で覆われている胸は、よく見れば。いつの間にか乳首が硬くなっているせいでポッチリと浮き出てしまっている。すぐ脇に立つ院長に見えてしまうのではないかという恥ずかしさは、意識したくなくても考えてしまうのは当然だった。
「胸を張って、背中をまっすぐにつけてくださいね~ 」
素直に言われた通りにすると、乳首が浮き出た膨らみが、さらにグッと強調されてしまうのは、気がつかないふりをするしかない。
実際、背中をギュッと真っ直ぐにすると、Dカップの重みは、意外に重みを感じるものだ。
「はい、百五十六.二センチ。うん、いいですね。理想的。体重から見ると、ちょっとやせ気味ですけど」
「いえ、そんなことないです。お肉が付いちゃって」
「えっとBMIが十八くらいなので、やせ気味ですよ。スタイルも良いし。健康的な痩せ方だから理想的じゃないですか」
「でもぉ」
「芸能人ならわかりませんけど、普通の女性なら、ある程度、皮下に脂肪がないと美しい身体のラインも作れませんし、なによりも、健康に良くないですからね~ 」
「そうでしょうか」
院長に目で促されて、反対側のカーテンに移動する。床には足跡の形をしたマーキングがある。
「そうですよ。後で診ますけど、女性の健康のためにも一定の脂肪は必要なんですよ。その点で言えば、智美さんは、やや痩せすぎなくらいです」
「え~ でもぉ、もうちょっと、落としたいくらいなんですよ~ 」
「ははは。ま、若い女性のあこがれる気持ちもありますからね。えっと、次は、身体の歪みを記録しますので。そちらに立っていただけますか? ほら、足のマークに合わせて。いえ、スリッパごと載っていただいて構いません」
位置合わせに気をとられる智美の後ろにさりげなく回り込むと、院長は後ろから手を出してきた。
「じゃ、上だけ、こちらにください。はい、私は後ろにいますからね~ 」
「えっ? 」
「はい。今、向こうから撮りますので、私は後ろから、補正をしますからね。安心なさってください」
目の前で、紙の下着一つになれと言われているのに安心も何もないはずだが、足跡マークにピタリと位置が合ったところで差し出された手に、何となく抗うことをためらってしまった。
『それに、院長先生、後ろにいるってことは見えないんだもんね。そうよ、大人ですもの。こういうところで恥ずかしがる方が自意識過剰なんだわ、うん、そうよ』
断るタイミングがつかめず、智美は自分を納得させるしかない。
カメラを前に立つ。
「あ、もうちょっと、手を前に。いえ、それだと力が入ってます。自然に肩の力を抜いて、えっと、もうちょっと、う~ん、二センチ、指先を身体から離して」
カメラのレンズを見つめながら、後ろから細かい指示を受ける。
決まったポーズがあるようだが、声だけで、しかも後ろから指示するだけなので、なかなかポーズが決まらない。
その間にも、お腹の奥の方がチリチリとする感覚が続いていた。
この感覚はなんだろうか?
『やっぱり緊張してるわよね? うん、緊張よ。だって、彼以外の前で、こんな姿になるなんて、考えたことないモノ』
学生時代に着た水着だって、ビキニなどではないのだ。
裸同然のカッコウでなくとも男性と二人きりの状況になるなんて、ありえないことだった。
先生は気を遣っているのだろう。背中側に離れて立っているが、初めての経験に緊張は大きい。
「ごめんなさいね。緊張なさるでしょ? 普通は女性スタッフにしてもらっているんですけど、本当にすみません」
「いえ。大丈夫ですから」
何度も申し訳なさそうにいわれて、むしろ、とっくに診療時間を過ぎているだけに、智美は、そっちの方が申し訳なく感じるのだ。
「あの、余り気を遣って頂くよりも、他の方にするのと同じような感じで進めて頂いた方が。写真って、ひょっとして、後で先生もご覧になるんですよね? 」
「ええ。すみません、ゆがみを見るために特殊なモアレをかけるのですが。説明の都合上、一緒に見させて頂きます」
どうせ、後で写真で見られてしまうなら、今、見ないようにされても、同じではないだろうか?
むしろ、裸同然の姿で立っている時間を早く終わらせることの方が重要な気がしてきた。
「あの、それなら、普通に撮ってください」
「え? 」
「写真を撮る必要も分かりましたし。先生も信頼致しますので。何だか、ここまで気を遣っていただくと、かえって申し訳ないんです」
「あ~ すばらしく優しくて、素直な人ですね、智美さんは」
感動がこっちに伝わってきて、何だか少し嬉しい。
智美としたら、思い切った決断だったが、これなら、良い決断をしたと自分を褒めてもいいかもしれない。
『でも彼には内緒にしないと』
誤解されたら困るし、夫が知ったら怒り出すかも知れなかった。だが、この程度のこと、智美が黙っていれば良いだけだ。
「ああ、こんな風に、ちゃんと信頼して頂けるなんて、本当に優しい人ですね、智美さん。治療も、誠心誠意、務めますから」
「いえ」
小さくかぶりを振ると智美に「じゃ、普通通りに撮影しても? 」と問われ「はい、お願いします、そっちの方が嬉しいですから」と、つい言ってしまう。
人に気を遣う分だけ、院長が気を遣ってくれることに申し訳なさが募っていたせいだ。
「じゃあ、同じにしますね」
「はい」
院長が傍らに立った。
瞬間、考えまいとしても、胸への視線が気になった。しかし、院長の視線は、少しもバストなど見てない。
『もう~ 先生に、失礼よ、私、気にする方がいけないんだから! 』
自分が気にする方が、愚かな気がした。
そんな束の間の葛藤を、院長は気付いた気配も感じさせない。
「じゃ、手を身体の真ん中のラインに、はい、指先を軽く伸ばしてください」
そっと手が触れてきた瞬間、ピクンと、何かが背中に流れた気がした。
「いいですね。もう少しだけ肩の力を抜きましょうか。肺、肩甲骨を少しだけ、引いてくださいね~ 」
そこからは、本当に遠慮なかった。
胸の突起が硬くなっているのを見られるのはさすがに恥ずかしかったが、細かい指示通りの撮影は、案外、大変で、恥ずかしがるゆとりはなかった。
前、後ろ、横。
その度に、微妙な手の位置が、優しく温かい手が添えられて微妙に修正される。
院長の目は、温かいが、全てを見通すかのように深い眼差しで智美を見ていた。
『けっして、エッチな目じゃないわ』
それが、余計に信頼を深める。
『裸を見られて相手を信頼するなんて、ヘンなの』
自分でも思うが、ともかく、撮影している間中、胸がドキドキ高鳴って、心臓が口から飛び出しそうになりながらも、相手への信頼が生まれていた。
「はい、終了ですよ~ さ、智美さん、お疲れになったでしょ」
さっと、後ろから、さっきの上着を着せかけられる。
『うん、やっぱり変な目的なんかじゃないんだ、もの。ちゃんと気を遣ってくださるし』
「さ、こちらの施術台に、まずは、座ってみましょうか」
院長は、サッサとカメラを見ながら、何やら頷いている。何を確認しているのだろうか。
『私、あのカメラにぜ~んぶ、映っちゃってるだ…… 今、見てるのよね? 真っ正面の写真も』
ついさっき、直に見られているとは言え、改めて見られているのだと思えば、羞恥は無理もない。しかし、治療のためと思えば、それをどうこう言う方がおかしい。
『わかってるけど…… 』
恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
そして、恥ずかしくなればなるほど、ついさっき、直接、裸を見られ、そして、仕方がないことではあっても、肌に触れられたのを思い出してしまう。
それもこれも、気を遣ってくれる院長に、自分から、申し出た結果だ。
『何で、あんなこと言っちゃったんだろ』
今でも、よく分からない。
「あ、智美さん」
院長は、気を遣っているのだろうか。向こうを向いたまま、キャビネットを開けてなにやら取り出している。
「はい」
「えっと、上着の紐は、結ばなくて良いですよ」
「え? あ、はい」
はだけたら乳房が丸見えになってしまう。しかし、そんなことにはいっこうに関心のなさそうな院長は、ゆっくりとこっちを向いた。
そして、黒い施術台を示して「どうぞ」とだけ言ったのだ。優しい笑顔は、相変わらず。
『うん、自意識カジョーよ こんなに紳士的なんですもの。それに、もうとっくに見られちゃってるんだし』
合わせ目を気にはしても、それをことさらに直すのは気が引ける。院長に失礼な気がしたのだ。
だから、白い胸元がハッキリと覗いている姿で黒いレザーの施術台にそっと座っている。
「はい。じゃあ、ちょっと失礼しますね」
襟元を後ろからそっと広げられる。
胸元が沙羅に広がって、サラサラした生地は、バストのカーブに合わせて、半ば、胸を露わにしてしまう。
しかし、胸元を治すのを辛うじてこらえた智美は『先生は、後ろだもの、見えないんだから』と自分に言い聞かせる。
「じゃ、手が冷たいといけないので、ほら、こうやっておしぼりを使ってから、パウダーを遣いま~す」
智美のすぐ横に伸ばされた手は、湯気の出ているタオルで包まれる。そして、タオルをパッとどけると、今度は、その上から、パパッと白い粉だ。
なんだろう?
「あ? これですか? 温かい手だと、どうしても手が汗ばんじゃったりして、患者様のご不快にならないように。ま、一種のサラサラパウダーです」
智美の視線に込められた疑問詞に、たちどころに気付いて、説明してくれるのだ。ますます、院長のことが信用できて、何もかも任せてしまっても安心なんだという思いが、智美の心を満たし始めている。
「さ、じゃあ、肩口から、ゆっくりと行きますね」
後ろから院長の温かい手が、首筋に直接、そっと触れてきた。なるほど、サラサラとした感触。一瞬くすぐったい。
次の瞬間、驚いたのは、何となく予想していた「モミモミ」と押し込んでくる動きが全くなかったことだ。
むしろ、そっと手を当てるだけ。微妙なくすぐったさが連続している感じだ。
口には出さなかったが、驚いた様子が伝わったのだろう。
「ははは。驚かれました? 」
あてられた手は、少しも圧迫してこない。代わりに、少しずつ微妙に下がって来る。
「いえ」
こういう時に素直に、驚いたとは、なかなか言えないのだ。
「私のやり方は、ヨガと気功を合わせているんで、智美さんの呼吸に合わせて、皮膚の内側にある、筋肉の流れ、気の流れを読みながら、トータルで調節していくんですよ」
微妙に下がった手は、動くにつれて、少しずつ襟元をズラし始めている。
乳房に触れる布地で、それを感じているのだが、胸元を気にするのもおかしい気がしてしまうと、襟を直すわけにも行かない。
代わりに、智美は、
「そうなんですか? 押したりしないで? 筋肉の流れなんて、分かるんですねぇ」
疑問なのか、感想なのか。ともかく、何かを言葉にしないと、落ち着かない心境だ。
「はい。だから、グイグイって言う気持ちよさが欲しい方には、大変評判が悪くて」
ははは、と乾いた笑いを立てるが、別に、自嘲というわけではなさそうだ。
「では、もうちょっと、下までいきます。失礼」
そういうと、サッと肩口まで、上着がはだけられてしまう。
ムリヤリ、という感じではないのだが、いともあっさりと肩甲骨までの素肌をさらしてしまった。
もちろん、前は完全にはだけている。もしも、正面から見れば、むき出しになった豊かな胸が、丸見えの状態だ。
一瞬、息をのむ。
あまりも、あり得ない状況だった。
夫以外の男性と二人っきりの部屋で、裸同然。
しかも、素肌に触れられているのだという意識が、沸々と、頭に浮かんでいる。
裸に近い格好で、男性に肌を触れられている戸惑いと羞恥。
それだけではなかった。
『なんか、ゾクゾクしちゃう。これって…… ううん。違う、そんなエッチじゃないモン』
絶対に口に出せないが、院長の手には、何か魔法でも掛けられたように微妙な感触がある。人妻なら、誰だって知っている、ベッドの中の「あの感触」だ。
だが、くすぐったさ以外の感覚が、身体の奥に芽生えてしまえば、なおさら背徳の匂いを感じ、さらに恥ずかしくなってしまうものだろう。
かといって、それはちっとも悪い感じでは無い。掌の温もりから、じんわりと広がるリラックスとでもいうのだろうか。
不思議と身体が緩んでいくような薬を掌から注射されているような感覚だ。
そのリラックスのおかげか、院長の温かい掌が少しずつ、ズラされていくウチに、最初に生まれた戸惑いと羞恥は、薄らいでいく。
肩甲骨の内側にそっと当てられた手は、ゆっくりと背骨に沿って降りてくる。
といっても、ジリジリとした動きで、首のすぐ下側から、背中の真ん中に降りてくるまでに十分以上もこのままだった。
もはや、術着は腰の辺りにハラッとおちて、上半身は、丸裸だ。しかし、院長の呼吸は乱れず、ただひたすら真剣な気配だけが伝わってくる。
『ああん、それなの、私ったら、ヘンな感じを気にしちゃってるなんて。ダメよ、私! 真剣にヤッてくださる先生に失礼なんだから! 』
クッと、腰を入れて、微妙な感覚を忘れようとする智美だ。
「ね? ちょっと、じれったくなるでしょうけど。こうやって、智美さんの筋肉の動きや気の流れを確かめながら進めますからね」
どうやら、智美の動きを、勘違いしたらしい。院長が気にしてくれている。微妙な感触なんて気にしている場合じゃない。
「はい。あの、でも、すっごく時間をかけるんですね、大変なんじゃないですか? 」
ただでさえ、遅くさせてしまっている。
申し訳ない気がしてしまうのは事実だ。
「えぇ、でも、それは仕方ないんですよ。患者様の皮膚の下にある筋肉の具合、気の流れを確かめないで、むやみに施術しても、ベストの結果なんて得られませんから。だからリラックスしてください」
「あ、いえ、別に緊張しているわけでは」
「もし、お時間を気になさっているなら、智美さんご自身がお急ぎなら別ですけど、どのみち時間がかかるんだ、と思ってくださいね」
見抜かれていた。微妙な感触もそうだが、やはり、遅くしてしまっているという意識は、絶えず、申し訳なさを運んでくるのだ。
「あ、いえ、そういうことでは」
「私にとっては、智美さんがちゃんと癒やされてお帰りいただけないと、ガッカリです。でも、身体が少しでも癒やされたと感じていただければ最高ですから」
「すみません」
そこまで言われたら、逆に時間を気にする方が、失礼なのかも知れない。ちょっとだけ、気持ちを緩める。
その途端「そうですよ」とニッコリされて、智美の方がビックリだ。
「うん。いいですね、少しだけ緩みました 」
「緩む? 」
「そうです。何かをしなくちゃとか、こうじゃなくちゃ、なぁんて考えていると、身体のあちこちが硬くなるんです。逆が、リラックスした状態に近い『緩む』です」
「そう言うのってすぐに分かるんですね」
「そのために手を当てているわけでして」
優しく低い声は、智美に「分かってくれてるんだ」という安心感を生む。
「それにね、こうして手を当てていると、智美さんのことがいろいろと伝わってきますよ」
「え~ やっぱりいろいろ分かるんですか」
「わかりますよ。最近は、睡眠も質の良い睡眠が取れてないでしょ? それと」
「それと? 」
「お辛い経験だけじゃなくて、今も、対人関係に悩んでいらっしゃるから、ほら、ここが」
さっき通過した肩甲骨のすぐ内側に手が戻って、コリコリっと押された。疼痛にも似た心地よさが、智美の口から「あぁ」というため息をこぼれさせる。
「凝ってるんですか、これって? 」
「そうですね、一般的に言えば、凝ってるというんですけど、ここだけ押しても、本質的には直らないんで。それでじっくりと智美さんの気の流れを確かめているんですよ」
「気の流れ、ですか? 」
「そうですよ。ほら、こうすると、もう痛くないでしょ? 」
さっきと同じ場所をコリコリッと押されたが、さっきのような疼痛はない。
「わぁ、ホントだ。痛くない! 」
ますます信頼してしまう。
「まあ、これは一時的なものですので。智美さんのように、対人関係が主な悩みの方は、この背中とか胸骨が閉じてたりするので、じっくりやらないとダメなんです」
「キョウコツ?」
「ああ、肋骨をつないでいる、この辺りですね」
さらっと、後ろから伸ばされた右手が胸の真ん中に当てられた。その瞬間、柔らかくも弾力のある乳房を掌がかすめているが、決してイヤらしさを感じさせない。
「このあたりが胸骨と言いましてね。ここが閉じてるんです」
掌全体が当てられると、親指と小指は完全に膨らみにかかっているが、それを気にする方が、イヤらしい人間だと感じる、そんな当たり方だった。
そんな自縄自縛に陥った智美のことを知ってか知らずか、パッと手は背中に戻る。
「特徴的なんですよね。背中と胸の、中心部分が閉じるのって。じっくりやりますので、リラックスしてくださいね」
「はい。すみません」
完全に裸になっている背中を少しずつ下がっている。
温かい手に意識を集中しようとはしているのだが、やはり、上半身が、裸でいるというのは、なんとも、恥ずかしい。
後ろからは見えないとは言え、豊かな膨らみは、すっかり部屋の空気にさらされていた。しかも、なぜだか分からないのだが、さっきから乳首が硬くなっている。
適温に保たれた部屋だ。「寒いから」という言い訳を、自分自身にすらできない。
『きっと、この後、前もするのよね? さっき押さえられた胸骨のところを…… 』
ついつい「この後」を考えてしまう。
『でも、今さら隠すのはもっとヘンだし』
なによりも、胸が見えるとか見えないとかを気にすること自体が、先生に対して失礼な気がしてしまうのが、智美の行動を縛るのだ。
『もう、さっき見えちゃってるし。写真だって撮っちゃったんだし。これは治療なんだもの。仕方ないの。エッチに見てるんじゃないから。ダメよ、ヘンなこと考えちゃ』
意識するたびに、意識してしまう自分を叱りつけてしまったせいかもしれないが「じゃ、次は胸の方です」と言われた瞬間、やはり腰まで降りた術衣は直せない
「えっと、前の施術は、座ったままだとやりにくいので、仰向けになっていただけますか? 」
『いっそ、脱いだ方が? 』
言われた瞬間、智美の頭に浮かんだのは、むしろ、脱ぐことだった。腰の辺りにたまった術衣をそのままに仰向くのなら、脱いでしまった方が、邪魔にならない。
ごく当たり前のことだが、自分から「裸になります」なんて言えるものではない。
しかし、智美が何に躊躇したのか正確に見抜いたのだろう。院長は、サッと、白いバスタオルを目の前に掲げてきた。
こうなると、もうダメだった。
まるでリモコンで操られたように、いったん立ち上がって、術衣をそのまま脱いでしまった。
すかさず、サッと、横にカゴが差し出され、そこに軽く畳んだ術衣を置いてしまうまで、ひと動作だ。
そして、お尻から、ちょこんと黒い施術台に乗ると、紙パンティ一つの姿をゆっくりと横たえてしまった智美がいた。
両手は施術台を掴むように、身体の脇で伸ばされている。
男の目の前に、豊かな乳房を、余すところなく見せつける自分。
信じられないことだ。
それに……
『ひょっとして、私、濡れちゃってる? 』
ジリジリとした掌から絶えず生まれる電流のようなものが、さっきから子宮を刺激していた。少しもいやらしいことをしていないのに、自分の秘部がビショビショになってるのを、意識せずにはいられない。
『あ~ どうしよ。このままだと、濡れちゃったのバレちゃうかも。紙ショーツって、初めてだけど、これって濡れても大丈夫なものなの? 』
いくらなんでも、紙ショーツが、濡れて破けるとも思えないが、それを考えねばならないほど、自分は潤っている。
何もヘンなことをされてないのに……
「はい、じゃ、いいですか? 」
濡れている場所を気にする智美に、院長は、そんなことも知らず、ふわりと掛けたタオルの上から、お腹の辺りをゆっくりと円を描くようにしてさすってきた。
心地良い感触に、智美は優しい眼差しの院長を見て、一つ頷いた。
「じゃあ、始めます」
「お願いします」
そうだ。たとえ、どうであっても、先生のことを信頼している気持ちなのは変わらない。
ドキドキはある。
けれども、男性の前でタオル一枚でいるのに、平気でいることが不思議なのだと、いっそ開き直るしかなかった。
「んっ」
くすぐったい。
頭の上側に立った先生の手は、ちょうど鎖骨の下のところに外側に向けて当てられる。指先は、既に膨らみにかかっているが、そんなことを今さら気にしても始まらない。
その時、院長の声が、濁った。
え? と見上げると、逆さまに映る院長の顔には気の毒そうな表情になっている。
「うん、やっぱり横隔膜が閉じちゃってますね。しかも、これって結構酷い。辛かったでしょ」
「横隔膜、ですか? 」
「はい。肺の下のところにある膜でしてね、ほらこの部分」
タオルを抜きだした手は、乳房の遙か下。肋骨の下端をサラサラと撫でてきた。
くすぐったさに似た感覚は、微妙に似通った快感にすり寄っている。
「ここが下がることで息をしているんですけど、対人関係で悩むと背中が丸まって、横隔膜が閉じちゃうんです。だから、さっき背中が痛かったですよね? 」
「あああ、はい! 」
先生の言うことがすっきりと飲み込めた。確かに、背中のあんなところが痛くなるなんて思ってもみなかったことだ。
「同じ事で、背中を丸めるから、このあたりが、どうしても丸まっちゃうんですよ」
白い肩の丸いカーブに沿って先生の掌が当てられる。
強い動きではない。
むしろ、くすぐったさ、微妙な違う何かがある。
いや、人妻の智美としては、それが「快感」なのだということを、はっきりと意識しないわけにはいかない。
ただ、夫にベッドで愛撫されるのとは全く違う、本当に微妙な快感なのだ。こういう微妙な電流が、どんどん、身体の奥をビショビショにしてしまっているのだ。
無意識の、ホンのわずかな動きだが、足をピッタリと閉じる動き。
智美自身でも気がつかないが、それは、準備ができてしまった女芯に対して「男を迎え入れてはならない」という人妻の本能が警戒した動きなのだ。
潤んだ秘部に、夫以外を迎えれてはならないのだ、と。
「さ、じゃあ、ちょっとずつ、胸骨を開いていきますからね」
「お願いします」
再びタオルの下に入った手は、今度は、いきなり胸の谷間に伸びてきた。
温かな手が、谷間に当てられる。半ば膨らみにかかっているが、ちっともイヤらしい感じはしない。
中心部分に親指をくっつけるようにして、両手が当てられている。というよりも、掌の半ばはDカップの膨らみを覆って、親指だけが胸の谷間にある形だと言えるかもしれない。
いやらしく揉むような気配は、まったくなかった。
手つきからして全く違っているのだ。
掌の温かさだけが確実に乳房に伝わってくる。ジーンとした静かな快感。
夫にされたどんな愛撫とも違う、微妙で、それでいて、確実に子宮に響く快感なのだ。
大学時代に初めて恋人を作り、そのまま結婚した智美だ。
だから、ここまで、院長を信頼できなければ、きっと、もっと違う対応をしていたかもしれない。だが、こうやって信頼が生まれてしまえば、まるで誘導されているかのように、任せてしまう方が、心が温かくなる。
疑うよりも委ねてしまう温かみが心を蕩かしていく。
『そうよ、エッチなことじゃないモン。触り方が、そもそも違うし。温かくって、温泉に入っているみたいに気持ち良いだけだもん』
ひょっとしたら、悩みを誰かに聞いて欲しかったのかも知れない。ついさっき、生涯、誰にも言えないはずの「負の経験」を、サラッと話せてしまった自分に驚いている。
『こういうのを「心地良い」って言うのよね。うん。心地良いのよ、先生の手って』
確かに、じっと動かない手は、温もりの心地よさを生み出している。
しかし同時に、味わったことのない微妙な快感をジリジリと生み出しているのを、あえて無視しようとしていた。
じっくりと動く手は、さらに五分以上もかけて、乳房を内側から包み込むようにしている。乳首にこそ触れてはいないが、智美のDカップは、完全に手の中だ。
そして、乳房を包み始めたころから、掌は微妙な振動を伝え始めている。
本来、これは愛撫と言っても言い動きだ。しかし、シームレスに進む動きの変化は、それを智美に意識させてはくれない。
ただ、その動きが生じる結果だけが、頭にふつふつと沸き出していた。
温泉の心地よさとは明らかに違う、エッチな快感の電流を、もはや無視できなくなりつつあるのだ。
『あ~ どうしよ。私、おかしくなりそう。 あぁ、こんなふうに感じちゃうなんて、私、ヘンに思われるよね? エッチな患者さんだなんて思われたら恥ずかしいし。あ~ん、ダメ、私、感じちゃダメぇ』
感じてしまうのは、自分が悪いからだ。自分の意識がエッチなせいなのだと、いつの間にか思い込んでいる。となれば、自分の快感を懸命に否定するしかない。
懸命に、快感から意識を逸らそうとして、ふと気付いてしまったのだ。
施術台はちょうど、先生の腰の高さだ。
つまり頭のすぐ上に先生の「モノ」があるのだ。
もちろんこすりつけてくるような動きなど、気配すらないが、一端、意識してしまうと先生のモノがすぐそばにあることが気になってしまう。
こうなってしまうと、性の味を知っている人妻の意識は、ますます、掌が生み出す快感が気になってしまう。
だが、乳房に当てられた手は、さらにジリジリと動い続けている。
巧みに掌は、振動を伝え、微妙に移動する。乳首は辛うじて触れられてないのだが、目で見なくとも、乳首までの距離は、数ミリもないはずだった。
『あぁん、これ、もし、先端に、触られちゃったら…… 』
それは、恐怖だった。と言っても、弛緩される恐怖とは全く違う。むしろ、期待の込められた恐怖だと言って良い。
このまま乳首を触られてしまえば、どうなるのか……
はっきりとした快感に声が出てしまうのではないかと恐れる自分と、いつの間にか快感を望んでしまっている自分が生まれていた。
『ダメ、そんなこと、考えちゃダメ、エッチだって思われちゃう…… だけど、もしも、ここ触られたら、声、我慢できるかしら…… 』
考えられないほどの羞恥を伴う恐怖なのに、心のどこかが、その乳首の生み出す快感を望んでいた。
はぁ
思わず知らず、唇からこぼれたため息は、まさに、淫声一歩手前の、熱を帯びている。
乳房を包むようにしている先生の手がじんわりと温かい。
いつ、その手は、乳首に触れるのか。むしろ、こうなってくると触らない方が難しいはずなのに。
怖い、けれども、欲しい……
智美は、いつしかハッキリと「触って欲しい」と思っている自分を発見していた。だが、もちろん人妻は、夫以外の男に、そんなことを求めてはならないのだ。
「うん。だいたい気の流れは伝わってきましたので、次は、横隔膜を開きますね。ちょっと待ってください」
タオルの下にある手を、ふっと抜かれると、恥ずかしい反応をしなくてすんでホッとした部分は確かにあるが、そこにあるのは、女としての寂しさだということを考えずにいられない。
しかし、そんな寂しさは一瞬だった。
「はい、失礼しま~す」
サッとタオルがめくられて、裏返すようにして、お腹の方に掛けられた。下半身まで覆ってくれるが、バストは丸見え。
乳首が、言い訳なんてできないほど尖ってしまっていた。
『いやぁ、恥ずかしい』
心の中で悲鳴を上げつつも、目を閉じて我慢するしかない。
しかし、その葛藤など、まったく気にする風も見せず、むき出しになった膨らみの中央に、サッサッと、銀色の容器から何かが振りかけられる。
「さっきと同じパウダーですよ。柔らかくサッカしますから。摩擦を弱くするためです」
「あ、は、はい」
何がなにやら分からないが、パッパとかけられた白い粉は、子どもの頃に見た祖母の白粉の粉のようなモノだ。
ごく微量の白い粉が両方の膨らみの谷間側に、薄く散っている。
「さ、横隔膜を広げますからね、ちょっとあごを上げ気味にして。はい、上手です。さ、そのまま、リラックスしてくださいね」
胸骨だ。
指先がゆっくりと撫でてくる。
んっ!
危うく、ヘンな声が出るところだった。
くすぐったさよりも、官能が勝るような、とてつもなく微妙な感触が、そこから、サラサラと乳房をなで上げてきたのだ。
谷間からゆっくりと膨らみのカーブを少しもへこませないような力加減で上がってくる。
もし目隠ししていたら、間違いなく刷毛か何かでイタズラされているだろうと勘違いしてしまうような、そんな微妙な感触だ。
さ、さ、さ
『あん、これ、だめぇ、キケンよ~ 声、出ちゃいそう』
思わずタオルの下で脚をギュッと組み合わせてしまう。危うく声を上げてしまいそうになったのをかろうじてこらえていると、じっくり上がってきた掌は、とてつもなく危険な感触のまま乳首に近づく。
もしも、このまま乳首まで撫で上げられれば、どうなるか。
『あん、だめっ、これ、声、ぜったい我慢できない! 』
だが「ダメ」と言えない何かが唇をしっかりと閉じさせてしまっている。
あと三センチ、二センチ、一センチ
息を詰めて次の瞬間を待った智美を裏切って、掌は、またもや胸の谷間に降りてしまった。
「はい、良いですよ。リラックスして。ゆっくり息を吐いてくださいね~ 」
「んっ、くぅっ、あ、は、はい、でも、なんか、あの…… 」
「あ、大丈夫ですよ。ちょっとくすぐったいから、変な声が出ちゃいますよね。よくありますから、安心して。それより大事なのは、ゆっくりと息を吐き出すことですよぉ~ 」
よくあると言っても「変な声」を出したら、感じているのがバレてしまう。かといって先生の言うことを聞かないわけにも行かない。
再び谷間からサラサラと上がってくる超微妙な感触に、背中をゾクゾクさせながら、懸命に息を吐き出すしかない。
あと三センチ、二センチ、一センチ……
「イキを我慢しないで。ゆっくりと息を吐いて! 」
優しい命令形に従ってしまう呼吸には、甘やかな音声が乗ってしまう。
「あぁああ」
案の定、吐息のはずが熱のこもった微妙な声になってしまった。
猛烈な羞恥心を感じる余裕もなく、またしても、指先はジリジリと、乳首のすぐそばまで智美を追い込んで、ギリギリで、サッと元に戻った。
ハア、ハア、ハア
息が荒くなることに抗いようがない。
「上手です! うん上手! 智美さん、すごく上手ですよ! ゆっくり息を吐けましたね。うん、ちょっとくすぐったいみたいですけど、そんなのは、良くありますからね」
褒められてしまうと、恥ずかしさよりも誇らしさが生まれてしまう、考えてみれば、こうやって正面から褒められるなんてこと、いつ以来のことだっただろう。
「さ、もう一度~ ゆっくり息を吸って~ 吐いて~ 」
「ふぅ~ あっ、あぁああ」
今度は、さっきよりも淫靡さが濃くなってしまった。
「いいですよ~ 最高! そのまま息をちゃんと吐いてください。上手です、本当に上手です」
ベタ褒めされてしまえば、恥ずかしさよりも「次」が楽しみになってしまう。
身体の奥底には、しっとりとした快感が次第に積み上げられている。
いつの間にか撫で上げられるままに、官能の声を漏らすようになっていた。
「あぁああ、あふぅ」
もはや、それがエッチな声なのだと意識しても、止めようがない。ゆっくり動き続ける優しい手の感覚は、着実に、智美の官能を溢れさせていた。
「ああああん」
吐息ではなく淫声になっていた。
止めたくても、身体が言うことを聞かない。
何度目だっただろう。
仰け反ってエッチな声を漏らしながら、ふっと気がついた。
あごを上げると言うことは、顔が先生の方を向いて上がるということでもある。
目を開ければそこには、先生の股間が見えている。
『え? 先生、大きくしないの? 』
考えてみれば、乳房をずっと触り続け、おまけに、エッチな声を漏らし続けているのだ。
智美の意識のどこかに、先生の男性が反応して当然という気持ちがあったのは否定できない。それなのに、作務衣に似た診察着の股間は、全くその気配がないのだ。
『わ~ やっぱり、ホンモノの先生なんだわ。エッチなことなんて考えもしないのね。私がどれだけ変な声を出しちゃっても、本当に、大丈夫なんだわ』
その瞬間、先生に対する信頼が完璧になったと言っても良いだろう。
だから、次に進めますね、と言われて、無造作にタオルが取り去られてしまっても、何のためらいも生まれなかった。
形の良い乳房も、紙のショーツから伸びる白い脚も、全てが明るい施術台の上に白い輝きを見せてむき出しになっている。
二人っきりの場所で見せてしまう無防備なヌードだ。
『あぁ、ぜ~んぶ見えちゃってる。でも、仕方ないんだもん、治療なんだし』
とはいえ、先生に対しての気持ちはともかく、既に、智美自身の身体が変調している。
「オンナ」の反応を示しているのだ。
『わ~ どうしよ。見えてるかな? さっきよりも、濡れちゃってる、これ、どうしよ』
先生にそのつもりがなく、勝手に感じたといえばそれまでだが、乳房をたっぷりと、優しく愛撫され、おまけに、乳首には絶対に触れてもらえない焦らしプレーだ。
その部分は、確かめるまでもなく大洪水になっているだろう。止められないのだ。
黒い施術台に垂れないことを祈るのみだった。
温かい手が、ペッタンコのお腹に優しく当てられる。
それだけでもビリビリとした快感が生まれる気がした。
優しく、しかし一瞬の隙も無く、へその周りに、さっきと同じで、じっくりと手が当てられていなければ、トイレに拭きに行く事をお願いしていたはずだった。
一度触れた手はじっくりとしか動かないが、確実に、次へと動き続ける。静かな動きなのに、微妙な振動を感じる動きだ。そして、気がついたときには、そのまま、直角に曲げた足を外側に倒して、付け根のリンパを撫で上げられていた。
ビショビショの股間が、丸見えになってしまう姿をとらされながら、羞恥と快感の狭間で、全てを先生にゆだねてしまっていた。
『あああ、このまま、触って』
ハッキリと、言葉で意識したその瞬間だった。
身体を貫く鋭い快感!
「ああああ! 」
クッキリと大きな声を出してしまった智美は「今」の自分に気が付いた。
優しい夫が覗き込んでいる。
『あぁ、私、彼に話しちゃってたんだ』
夫婦のベッドの中だった。
一瞬で「現実」に戻った智美は、思いっきり甘える声を出しながら、夫に抱きついていた。
……すっごく恥ずかしかったんだからぁ。ああん、もう、あなたぁ
おねだり声を出しながら、華奢な手がギュッと私の背中に回されています。
先端だけ、わずかばかり入っている怒張を追い求めるように腰がグッと持ち上げられ、妻自身の動きで、半ばまで入ってしまいます。
「あああ~ 」
妻のそんな動きは初めてだったので、ビックリしながらも、思わず、またもやスッと抜き出してしまうと「ひどぉい」とソプラノで恨めしそうな声。
「だって、ヌルヌルになっちゃったんでしょ? 先生の手で」
「あぁん、もう~ 言わないでぇ。だってぇ、じっくり時間をかけてたからぁ」
「ビショビショになったから、先生に入れて欲しくなっちゃった? 」
「ああん、違うの違うの、あなただけ、ああん、もう、ね、お願い。ああん、意地悪ぅ」
またもや半ばまでヌルッと入れると、白い貌を仰け反らせた妻の口から「おぅ」という低い声が漏れてしまいます。
こんな声を出せるのかと驚きながらも、まだ、私は満足していません。
「ほら、言わないと、その時、欲しくなっちゃったんでしょ? ほら、これを」
チョンチョン。
ヌルヌルの入り口を刺激してから、パッと離します。
「ああん、ちょ、ちょっとだけよ、ちょっとだけなんだかあぁ、だから、今もう、限界なの! あぁ、ね? もう、あぁん、あなたぁ、全部喋ったんだからお願い! あなたあ! ね、ちょうだい! 」
さんざん焦らしては喋らせ、感じさせては聞き出しと、じっくり時間をかけたせいか、今日の妻のナカは、いつにない締め付け方です。
おまけに、焦らすために、何度も抜いているとは言え、中に入ってそろそろ一時間はたっています。異様に締まりの良い今夜の妻相手では、もう、自分自身でも限界に近いのがわかります。
「じゃ、さ、最後の質問」
「ああん、もう、全部、喋ったんだからぁ、早くぅ」
入り口にほんのちょっとだけ入れている私を、奥に迎え入れようと妻の細腰がグッと持ち上げられます。妻が腰を遣って迎え入れようとする動きをするなんて、初めてでした。
しかし、そうはさせじと、一緒に腰を動かして、半ばまでしか入れません。
「あぁあ、あなたあ、もう、もう、ね、お願いだから」
声に切迫感があります。
「最後だからね。ほら、さ、どうして全部剃っちゃったの? 」
「そ、それは、ああぁ、ね、話すから、ね、話すから、先にお願い、入れてぇ! お願いよ、我慢できない。ちゃんと話すからぁ 」
私も限界になっています。
「じゃ、エッチな智美のオ○○コに入れてって言って」
妻がずっと嫌がっていた、言葉責めを調子に乗ってやってしまいます。
「いやあ。そんなこと言えない、恥ずかしいモン」
「じゃ、あげないよ」
「はうん! 」
先端で、ヌルヌルの場所をちょっとだけ突くと、それだけで、甘やかな悲鳴を上げる妻。
見たことがないほど、感じています。
「さ、言ってごらん」
「ああん、意地悪ぅ、もう~ 」
ためらう妻の美肉に、また、チョン、チョン。
「はふぅう! 」
ヒクンと身体を仰け反らしてから、妻は濡れ瞳で私を見上げた後、ギュッと抱きついてきました。
「あの…… ああん、もう~ 恥ずかしいんだからぁ」
ハアハアと荒い息を二つ下後で、消え入りそうな妻の声が囁きます。
「ああ、お願いです。 エッチなぁ、智美のオ○○コに…… ください、あああぁ、入れてぇ~ 」
その声のあまりの淫靡さに、我慢しきれるわけがありません。
深々と挿入していました。
「ああ! あなた~ あああ! いくうう! 」
身体を仰け反らせる妻を無視して、腰を激しく使います。
「ああ、いくぅ! あなたぁ、あうう、いい! いくっ! 」
『こんな風に動くなんてことがあるんだ』
キュン、キュンと根元から絞り出すようにひくつく美肉の締め付けに合わせて、深々と射精していました。
ふう~ と息を吐いて、再び動けるようになったのは、私のモノがツルンと抜け出てから五分ほどもたったくらいでしょうか。
「もう、あなたったら、変なことばっかり言うんだからぁ」
ぷくっと頬を膨らませますが、久しぶりに、いえ、おそらく付き合って初めてこれだけ深く感じてしまった妻が、本気で怒れるわけがありません。
「本当よ。ホントに、変なことしてないんだからね」
「じゃあ、さっきの質問」
「え~ まだあ? 」
「だって、なんでも話すから入れてって約束したのは君だよ? 」
「あ~ん、もう! はい、しました、約束しました。いったいなんでしょう? 」
キュッと下から抱きつきながらのむくれた声。つまりは、イカせてくれた夫に甘える仕草に違いないのです。
「じゃ、質問再開。何で、全部、脱毛したの? 」
「あ、これ? 」
その瞬間、チュッと頬にキスした妻は、してやったと言わんばかりの表情で耳に囁いてきます。
「知りたい? ふふっ、どうしようかなぁ」
「はい、知りたいです。智美さん、教えてください」
芝居がかったやりとりはよほど妻のツボにはまったのでしょう。まるで悪女を演じる仕草で、私の耳たぶを甘噛みしてきます。
こんな妻は初めてでした。
「あのね、次は、オイルマッサージをお願いしようと思うの。だけど。ほら、オイルマッサージだと、今回以上に足を開くらしいし。ヘアがショーツからハミ出しちゃったら恥ずかしいから」
ふふふと笑った妻は、いたずらな声で付け足しました・
「でも、毛が無いと、濡れたショーツに、全部、透けちゃうかなあ。先生に、ぜ~んぶ見られちゃったら、恥ずかしいかしら? 」
見たこともない種類の熱がこもったその声には、ぞくりとする色気があります。
そしてなぜかしら、その瞬間、ついさっき放出したばかりの怒張が、いきなり回復してしまったのです。
「え? うそ、あなた、ちょっと、あなた、なんで、あ、あああん、あなたぁ、あなたあぁ 」
ついさっき放出したことなど無かったことのように回復したモノを、躊躇無く挿入していました。
驚くべきことに、妻のその部分も、新たな蜜を渾々とわき出させて、迎え入れる準備が整っていたことです。
つまりは、翌日が休みでもないのに、恋人時代以来の二回戦を始めていたのです。
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