人妻・智美の体験本文へジャンプ  第2部 淫のステージ

第2話


 久しぶりに、遅く目覚めた土曜日。太陽は、とっくに真上を通り越しています。
 先週は土日出勤で、今日は休みということにしてあるのです。
 いつの間にか出かけていた妻が帰ってきました。
「ただいまぁ、あなた。やっと、目を覚ましたんだ。やっぱり疲れてるのね」
 送ってもらうの悪いかな、とちょっぴり控えめにつぶやく妻に「大丈夫、ちゃんと送るよ」というと嬉しそうな笑みを漏らします。
「じゃ、悪いけど、出かける支度するから、その間に、お昼、召し上がって。ねぇ、パンを焼いたのよ、久しぶりに」
 目を覚ました瞬間から、焼きたてのパンの香ばしい匂いには気が付いています。
 きっと、気を遣って、私が好物にしている、妻特製の手作りパンを焼いてくれたのでしょう。しかし、私の食欲がゼロであることまでは、気が付かないようです。
「うん、ありがと。新しい髪の毛。いいじゃん」
「あ? わかる? 今朝、行ったの。ちょっとダイタンに挑戦しちゃった」
 照れたように笑う妻は「エステにも行ってきたの」といたずらな表情で付け足します。
 いったいエステというところが何時から開いているのか知りませんが、磨き上げた肌で、ニコリと笑う妻の表情は得意げです。
 なるほど。
 大胆と言うだけあります。今度のヘアスタイルは、華奢な肩に届きそうな長さでレイヤードカットにしてあるのです。
 長らく、ストレートヘアを切りそろえていただけの大人しめで、優等生的な髪型から、見事に、活発で、明るいイメージに変わっています。
 恋人時代から見ても、こんなに活発な姿は初めて見ますが、どちらかというと、この感じの方が妻本来のイメージに近いのかもと思えてしまうから不思議です。
 溌剌とした笑顔で、微笑みかける妻は、何だか知らない女性のようで、何だかドキッとさせられます。
「よく似合ってるよ」
「そう? 良かったぁ。へへへ、あなたに褒められちゃったわ」
 笑顔を浮かべながら、スッとコーヒーを差し出してくる指先の白さが、ふと眼についてしまうのが不思議でした。
 この指が、淫らに蠢いて、院長のモノを扱いている姿フラッシュバックして、眼を瞬きます。
「どう? 今日のデキは? 」
「あ、うん。美味いよ、いっつも君のパンは美味い」
「わぁ〜 良かったぁ。ね、今日は天然酵母を使ってるから、ちょっと感じ違うでしょ? ゆっくり召し上がってらして。着替えてきま〜す」
 何だか、今にもステップでも踏みそうな程、軽やかな動き。
「うん」
 一番違っているのは君自身だよ、と言いたくても口は動きません。
 慌ただしく出かける準備をし始めた妻を横目に、ちっとも味を感じないパンは、妻の目を盗むようにして濃いコーヒーで無理やり流し込むしかありません。
 この後のことは夫である私も一枚噛んだとはいえ、それは、ただ言われるがままに妻の周期を教えただけのこと。
 妻を待ち受ける場所で、いったい何が行われるのか全く聞かされていませんでした。
 だから、妻に対して何一つ隠し事をする必要はありません。私にできることは、やっと流し込んだパンを胃の中でもてあましながら、車を用意することだけなのです。
 久しぶりに、東京にいる時のようにバッチリとメークした妻を助手席のドアを開いて待ち受けます。
「ありがとう。ふふふ、どうしたの? 」
 助手席に乗る瞬間、大きく開いた胸元からこぼれ落ちる、白い膨らみ。もろに乳房の大半が見えてしまいます。
 凍り付いたように、マジマジと見てしまうと、その視線に気が付いた妻は「あん、いやん」と、大げさに胸元を押さえて見せました。
「ブラしてないの? 」
「ああん、だって、跡がついちゃって、みっともなくなるよって、先生がおっしゃるから」
 自分の妻の胸が見えただけで、中学生のようにドキドキしてしまうなんて、何だか不思議な感じです。でも、一番心が苦しくなるのは、先生に言われただけで、いともあっさりとブラも付けずに外出することを、妻が受け入れたと言うことです。
私は、あえて「水着姿なら、下着の跡なんて関係ないじゃん」という言葉を飲み込みます。ここで妻を追い込んでも仕方のないことなのです。
 つかの間のドライブ気分。
 助手席に乗った妻の匂いは、いつもの通りのはずなのに、久しぶりのフルメークのせいでしょうか。何だかいつもと違う香りが鼻腔を刺激してきます。
 ふと横を見ると、風にながれるようなヘアをふとかき上げる仕草に、なんとも色気を感じてしまい、さっきから怒張がフルに硬くなっています。
 油断するとバレてしまいそうな勃起をさりげなく隠しながら、車を出しました。
「で、今日の場所は、どこになるの? 」
 余りに間抜けでしたが、そんな基本的なことを聞くことすら、忘れていたのです。
「えっとね、穴守公民館ですって」
「え〜 あそこかぁ。最近できたところだろ? 綺麗だとは思うけど。公民館でやるのかあ」
「あら? 公民館じゃダメかしら? 」
 不思議そうな顔で小首をかしげる妻に向かって、いや、そんなことはないけどさ、と取り繕う私です。
 しかし、心の中でガッカリとしている自分に、唖然としてもいるのです。なんといっても、公民館で、あの時のように淫靡な所行ができるはずがないのですから。
 自分でも意識しないうちに、ガッカリした声になっていたのでしょう。妻は敏感に私の意識を察したのかもしれません。
「わぁあ、良い風ぇ」
 小さく開けた窓から吹き込む風が妻に吹き付けて、貞淑な人妻だけが持つことのできる、おだやかな芳香を車全体に満たしてきます。
 風に向かって胸元をパタパタと煽るように緩める仕草。
 こんなことをする妻を初めて見ますが、手のひらが返る度に乳房は見え隠れ。
 ついつい気になって、自分の妻の胸なのに、チラ見をしてしまう意地汚さに、我知らずに微苦笑を浮かべてしまいます。
 確かめるすべはありませんが、モデルをやることで私が興奮するんだと気付いているかもしれません。もちろん「妻が淫靡な姿を見せることを期待している」などと言うことまでは、まさか気付かれてないはずですが。
 女のカンというヤツでしょうか。事実に近い所に妻の想像が働いている気がしました。
 それにしても、場所が公民館だったとは意外です。
『話が違うのか? それとも、この後で何かあるのかな? 』
 てっきり、ホテルかなんかで秘めやかに、そして淫靡にコトが行われると思ったのですが、公民館となれば、管理人もいるはずで、そこで、あの再現が行えるとも思えません。
『まさか、今回は、真面目路線ってことなのかな? 』
 ともかくも、まっすぐに向かいます。
「ここを入るんだね? あ、看板だ」
 この地方の公民館は、避難所を兼ねていたりします。
 穴守公民館の看板通りに、国道からそれて高台に向かっていくと、程なく到着。
『しかし、こんなところで、何をするつもりだ? 』
 造りは立派でも、四部屋のウチ畳敷きの部屋が三つというありさまで、その実態は「寄り合い所」みたいなのものです。いくらなんでも、こんなところで妻が淫靡な姿をさらすなど、あるはずがありませんでした。
「うわっ、今日、駐車場、満杯だな。いったいどうしちゃったんだ」
 土地だけはバカみたいに安いのと、ワンブロック先のゴミ捨て場にも車で行く土地柄のため、駐車場は広〜く作られていましたが、今日は止められるところを探さねばなりません。
「ねぇ、今日は、なんかの催し物でもあるのかしら? あ、あそこ空いてるわよ」
「あ、えっとこんな正面が空いてるって、おかしいよ。ここ、VIP用かなんかに取ってあるじゃないの? 」
「あら、でも何の表示もないし。きっとラッキーなのよ、ここでいいじゃない」
 オンナは図々しいと言うべきか、それとも気分の高揚した勢いと言うべきなのか。どう見ても、わざわざ空けてある、正面入り口のスペースに入れればと言うのです。
「大丈夫かなあ」
 私は恐る恐る、言うとおりに車を止めました。
「大丈夫よ、何にも書いてない方が悪いんだし。すっごくラッキーな日なのかも。バッチリってことね。 ……でも、いったい何の集まりがあるのかしら」
 助手席のドアを開けると、お姫様扱いにニッコリと微笑む妻。しっかりと胸元を押さえて降りてから、周りを見回します。
「スゴイ数だよね。五十台はあるんじゃない? う〜ん、なんだろ? もう、朝市ってな時間じゃないし。フリマって言っても、売ってる人がいないしね」
「でも、こんな大勢の人が集まってる隣でなんて。きっと、なんか落ち着かない気がするわ」
 ハイテンションは、緊張感の裏返しでもあります。ただでさえ緊張気味ということもありますが、まるでそのまま入り口に向かうのをためらうかのように、キョロキョロと駐車場を見回しています。
 確かに、地元だけではなく、となりの県のナンバーや、東京のものまで何台もありました。
「すごいね、品川ナンバーをここで見かけるなんてさ」
「ホントだぁ。すごいわ。それに、なんか、これだけ高級車が並ぶと、ここ、公民館じゃないみたい」
「これ、ひょっとして、みんな、君を見にきたんじゃないの? 」
「も〜 やめてよ。ヘンなこと言うの、こんなに大勢が近くにいるだけでも恥ずかしいのに」
 軽口を叩いただけなのに、本気で泣きそうな目になっています。
 エステと美容院とフルメークで、磨きに磨き抜いた身体ですが、それを包む服は、シンプルなふわりとしたワンピースの上に、身体のラインを隠すためのカーディガンを羽織っただけ。
『脱ぐことが前提の服装ってことか』
 ついつい、脱いだ後の姿が二重写しになって見えてきます。
 そこに、フワリとした涼しい風。
「きゃっ! 」
 そよ風なのに、慌ててハンドバッグごと裾を押さえます。いつにない必死な様子。
『まさか? 』
後ろから見ると、パンティーのラインが見えないのです。
『穿いてないのか? これ…… 』。
 フワリとした薄い生地の下が直接の裸だったとしたら、たとえ服を着ていても、大勢の目に触れたくないと思うのも当然でした。
 見て見ぬ振りの私は、声をうわずらせないように努力が必要でした。
「まあ、出歩いてる人はいないみたいだし、そっちの方は、始まってるんじゃない? そしたら、大丈夫でしょ。後は、こっちが部屋を間違えなきゃいいわけだし」
「うん、そうだけどさ。ね、あれ、今日の催し物が書いてあるんじゃない? いったい、何の催しがあるのかな? 」
 玄関横の小さな黒板に、小走りになる妻。その後ろ姿を見るだけでも、妻への愛おしさが募ってしまう自分に戸惑うしかありません。
「やっぱり、一番小さい和室かしら。 え〜っと、え? え? ウソッ! ねぇ、あなた! 今日、一つしか入ってないみたい! 」
「え? まさか……  だね。確かに一つしか入ってない…… 」
 口を手に当てて、身体を硬直させた妻は「本日の使用予定表」を見つめています。
 そこには、確かに、午後七時まで、使用団体は「芸術ヒーリング友の会」一つだけです。
「ねぇ、なんか、間違えたのかしら? 」
「う〜ん、君が場所を聞き間違えたかな? 」
「ううん。確かに穴守公民館っておっしゃってたわ」
「じゃあ、やっぱり、外の車は、みんな…… 」
「うそっ」
「あああ! 大神田さん! お待ちしてましたよ。あ、こちらがご主人ですね。どうも初めまして。鈴木です。本日は、奥様をお借りしてしまって、すみません」
 何気ない言葉なのに「奥様をお借りして」というセリフが頭の中でリフレインしている私でした。
「ど、どうも」
 どこ頭ぎくしゃくしながらも挨拶を交わします。もちろん、初対面のフリ。名刺を交換するところを、妻が横から不安の面持ちで見ています。
「先生、あの…… 」
 皆まで言わせず、妻の手を両手で包みこむと、満面の笑み。
「あ〜 大神田さん、こんにちは。お待ちしてましたよ〜 皆さん、もう、準備にかかっていますからね」
「あの、こ、こんにちは。あのぉ、まさか、えっと、外の車」
「あ? ええ。ご覧になりましたよね。もちろん、ウワサが噂を呼んじゃったらしくて。一応、余りに多すぎては、とお断りはしてたんですけどね。どうしてもって方もいらっしゃって」
 クルッと私の方を向いた院長は、頭を深々と下げてから、続きを話しかけてきます。
「ということで、先日、奥様にお話ししましたとおり、第一部は、こちらで。第二部は、場所を変えます」
妻の方に一つ頷いて見せてから、眉をひょいっと上げて見せます。
「次の場所が、あの〜 すみません、実は、今、手配中なものですから、後ほど奥様に直接お話し致します。でも、終了後は、こちらでご自宅までお送りしますから、ご安心ください」
 言外に「妻を残して帰れ」ということ。ご安心も何もありません、妻一人残して、帰るだなんて、論外です。
 一瞬、怒りすら覚えた私の顔には、ムッとした感情が浮かんでいたはず。
 妻は、そんな私を気にしつつも、あまりのことに、茫然と立ち尽くしています。
 そして私にチラリと目配せ。
「あのぉ、ちなみに、今日は何人集まってるんですか? 」
 目線で頼まれたことを、妻の代わりに聞いてみます。
「あ、二部制にできたので、こちらの第一部での撮影会はゲストは四十八人になりました。第二部は、内輪の企画なので奥様を含めて、ごく少数です」
「え? そ、そんなに! ウソ! 」
 立ちすくむ妻。
 私も、まさかそんなに大勢がと、想像と全く違う展開に、とっさに何も言えなくなってしまいます。
「まあ、お芝居をするんじゃなくて、ポーズを決めるだけですから。それに、人数がある程度いた方が、奥様の治療効果も違ってきますしね」
「で、でも」
 驚きと言うよりも、泣きそうな目です。
「あなた、どうしよ」
 私はとっさに、妻の視線を避け、チラッと院長の目を見ると、そこには「任せろ」と書いてありました。
 妻が、大勢の人々の前でヌードをさらけ出している姿を想像してしまうと目眩がしそうな程の興奮が腹の底の方から熱狂してくるのをどうにもできません。
『しかし、これで帰れっていうのもなあ。今回は見せてくれないっていうのか? だが、もしここで俺が文句を言えば、二度とこういうことはなくなるかもしれないし』
 ここまで来たら、なるようにしかならない、そう自分にいい聞かせてから、ゆっくり、大きな息を一つ吐き出したのです。
「どうしよって言っても、これだけの人に期待されてるんなら、今さらダメってワケには」
 声が裏返らないように意識するので精一杯です。
「で、でも、こんなに大勢だなんて」
「智美さん、大丈夫ですよ。それに、なんていっても、これ、治療ですから」
「……そうですけど」
「さ、こちらに。皆さんお待ちですけど。このまま挨拶するよりも、準備なさってから出た方が、いっそ気が楽でしょうからね」
「あ、あの、でも、あ、だって、あの…… 」
「さ、ご主人、後は、こちらにお任せください。それともご覧になって行かれますか? 」
「え? いいの? 」
 妻が慌てて私の二の腕を引っ張ります。
「ダメよ! 恥ずかしいモノ! ダメ、絶対、だめ! 」
『なんだよ! オレはダメなのか! 』
 今度こそ怒鳴りだそうとした私の機先を、先生の笑顔が割って入ります。
「ご主人、奥様がこうおっしゃっていては、ちょっと」
「だって」
「本当に申し訳ありません。それでは後は、こちらで。さ、智美さん、こちらへ」
「あ、は、はい」
 院長の袖を掴んで後ろに回る妻。
 まるで、怖いおじさんから父の背中に逃げる幼子の表情です。
「じゃ、あなた。送ってくれてありがとう」
 それは、妻からの「帰れ」という明確な意思表示。
「う、うん」
 曖昧に頷く私からパッと目線を落とすと「先生、お願いします」と自分から促して、歩き始めるのです。
 目線だけで「後はこちらで」と言ってくる院長に、曖昧に頷きながらも、背中に手を当てられた妻が、抱え込まれるようにして、中に入っていくのを茫然と見送るしかありません。
 しかし、入り口から階段を上る妻が視界から消えても、去るに去れません。
『いっそ、忍び込んでやろうか? 始まっちまえば、オレが見てても、追い出したりはしないだろうし』
 その時、トンと背中を突く指。
「彩美先生? 」
 恐らく、無意識のうちに、一番会いたい人を思いついていたんだと思います。しかし、振り返った私の前でニコニコしていたのは、茶色いサングラスを掛けた男。
「どうも〜 すみません、彩美ちゃんじゃなくて」
「あ、いえ、すすみません。勘違いして。あ、えっと、あの…… あ! 」
「いやあ、覚えていただけたようで。感激です。はい。古川です、あの時はどうも」
「ど、どうも」
 ぎこちなく挨拶を返す私の思いは、あの時の妻を言葉責めした男なんだという怨みよりも、妻のあの痴態を知っている男なんだという照れというか、恥ずかしさの方が上回ります。
「ま、ここではなんですから。そっちの部屋に。なあに、今日は全部貸し切ってますから、誰もいやしません。会場は、奥の大部屋ですからね。さ、奥さんの支度がすむ前に、どうぞ」
「え? あ、あの…… 」
「ほら、ご主人の特権ですよ、全部を見る権利があるのはご主人だけですからね。と言っても、夕方までは、あまり大きなことは起こらないとは思うんですけど」
 夕方からは「大きなこと」が起こるというのでしょうか? そもそも、五十人近くの男の目にさらされることは大きなことじゃないのでしょうか?
 いえ、そもそも、何でこれだけ大きなことになってしまったのでしょうか?
 とっさにあふれ出そうな質問の数々を、飲み込んだ私が、十二畳の部屋の片隅に案内されると目の前には、大きなモニタ。
 全部を見ている権利、などと言うところを見ると、ここに映されるのでしょうか? 
「あの、これは? 」
「ははは。あ、あと、彩美ちゃんは、今日は夜から合流の予定ですから。すみません」
「え? あ、いえ」
 心のどこかで期待していた何かが、崩れる音がします。顔に出さないようにするには、とっさに努力が必要でした。
「まあ、ここで、ご覧になっていてください。あ、管理人は夕方まで戻ってこないように手を打ってありますし、ここは外から人がふらりと来ることもないので。ご安心を」
「あ、はぁ」
 間抜けな返事をしている自分が情けなくなりますが、正直言って、展開に頭が追いつかないのです。いえ、この後を考えようとするのを頭が拒否しているような気がします。
 サングラス越しの古川さんの目は、とても誠実そうなのが、救いと言えば救いですが、早口の説明に、着いていくのがやっと。
「じゃ、リモコンはこれで。ズームと。多少の角度を変える程度なら、こっちのリモコンで」
 二つのリモコンを渡されます。一つは、大画面テレビ用の普通のリモコン。もう一つは、見たことがありませんから、カメラの遠隔操作用なのかもしれません。
「ええっと、音はヘッドフォンをつなげてます。ほら、これです。それと、こんなに大きい部屋だと、かえって落ち着かないでしょうから、これを、こうして」
 さっと、壁に立てかけてあった衝立を入り口からこちらが見えないように移動します。
「じゃ、ご主人は、この影で、じっくりとご覧ください」
「あ、あの、私は、どうしたら…… 」
「ご主人は、ごゆっくり鑑賞なさってくださいね。もちろん、お帰りなられてもけっこうですが。まあ、それは、しませんよね? 」
 ポンと背中を叩きながら「心配しないで」というセリフに逆に心配が募ってしまいます。
「あ、あと、うまくいけば…… あ、まあ、えっと、じゃ、ごゆっくり。この部屋はカギを掛けますから、カギを持っている人しか開けられませんので、安心して、くつろいでくださいね」
「? 」
 さりげなくティッシュとゴミ箱を衝立のこっちに持ってくる古川さん。
「いえね、モニターで見ていたら、そりゃ我慢できなくなることもあるでしょうから」
 早口だけれど、誠実そうに、そう付け加える言葉は、私が我慢できずに自分でしごいても良いんですよと言外に言っているのです。
 一瞬、なんと返事をしたものか戸惑う私にかまいもせず、クルリと回れ右をしてドアを開けます。振り返って、照れたような笑いを浮かべながら付け足しました。
「あ、すみません。私は、あの、すみません、ナマを最前列で、というか、あの、まあ、ははは、これは役得ってヤツでして。後で、ご覧くださいね」
「え? 」
「あ、忘れてた。あと、くれぐれも、後で私が迎えに来るまで、この部屋から出ないでくださいね。智美ちゃんに気付かれると台無しになっちゃうかもしれませんから」
「あ、あの、ちょ、ちょっと」
 セカセカとした動きで行ってしまいます。バタンと戸を閉めた後、しっかりと外からカギを掛ける音。
 カチャリという音の後に残る静寂と、微かに伝わる遠いさざめき。
 奥の大部屋にいる大勢の人間の気配が伝わってきた瞬間、私はリモコンを手にしていました。
 どうやって運んだのか、我が家にあるテレビよりも遙かに大きなテレビが、画面を映し出します。
「おい、これ、す、すごいぞ」
 誰に聞かせるでもない声を、思わず漏らしてしまう光景でした。
 五十人は寝られるはずの部屋に、所狭しとカメラを構える大勢の背中が映し出されていたのです。
「ひょっとして、他の所も見られる? 」
 案の定、リモコンで入力切り替えをすると、いきなり妻の顔がアップで写ったのです。
『わっ、デカすぎる』
 慌てて、もう一つのリモコンを使って画面を引くと、カーディガンを既に脱いだ姿。その後ろに立つ院長が、ワンピースのチャックを、ゆっくりと降ろしているのです。
「皆さん、カメラを構えて、真っ裸の奥さんを今や遅しと待ってますよ」
「そんな、私…… 」
「こんなに綺麗なヌードを目の前にしたら、みんな冷静じゃいられなくなっちゃいますからね、オッパイも、オ○○コも、今日だけで、何万枚も撮られますよ」
「あぁあ、仰らないでください、そんなこと 」
「いいんですよぉ、緊張してくださいね、目一杯恥ずかしいはずです。ほら、この背中、綺麗ですよね? みんなに見せて上げましょうね。もっと、男の目を意識してごらんなさい」
 ゆっくりと現れる背中に語りかけるように、顔を近づけてチャックを降ろします。
「みなさん、じっくりと見つめますよ。この背中も、肩も、この脚も。そして、奥さんの胸も、濡れてるところも、全部です」
「ああぁ、そんな…… どうしたら」
 背中が開いていくワンピースを抑えるように両腕を身体に回して、イヤイヤとかぶりを振る顔は緊張感なのか、真っ白です。
「簡単ですよ。ありのままの自分を、ぜ〜んぶ見てもらえば良いだけです。恥ずかしい所を全て見せましょう。エッチな奥さんの本性も、性欲も、何一つ隠しちゃいけない」
 何度も手を止めては囁くのです。
「そんなことぉ、違うの、いやぁあ」
 クナクナと顔を振りますが、それを追い込むように、院長が低い声で囁き続けます。
「大丈夫。この後、奥さんがどんなに恥ずかしがっても、身体の奥まで、レンズが覗きこんできますからね。きっと、皆さん、奥さんの濡れたオ○○コをアップで撮りますよ」
「あああぁ、だめぇ」
 かぶりを振りながらも、肩からツルンとワンピースを滑り落とされると、そのまま院長の手に預ける妻。
 ピンク色の乳首すら透けてしまう、シンプルなキャミソール一枚の姿をさらしながら、院長の目よりも「この後」のことで頭がいっぱいのようでした。
「ほら、後一枚で見えちゃいます。全部見えてしまいますよ」
「あぁあ、だめぇ」
 耐えきれないという体で、かぶりを振る妻。肩が震えています。そのくせ、背中を預けるようにしている姿は、まさに恋人とのベッドインを控えているかのよう。
「さあ、全部見せますね? 濡れてるオ○○コも、見えちゃいますよ。もう、たっぷり濡れてるんでしょ? 」
「あぁ、違います…… 」
 普通なら「緊張しないで」と、少しでもリラックスさせる言葉を掛けるんじゃないかと思いますが、院長は、その反対のことばかりを囁いて、まるで羞恥責めをしているかのようです。
「はい。こっち」
「すみません」
 滑らかな肩口から肩紐を滑り落とすのも、ワザとゆっくりやっているようです。
 豊かな膨らみに引っかかったキャミは、ゆっくり、ゆっくりと降ろされていきます。
「ホラ、これで、何にも隠せない、全部、見られちゃいます」 
 パサッと足下に落ちる薄い一枚。
「あぁああ、だめぇえ」
 切なげな声。
 妻は、院長の誘導で、自分だけの世界に浸ってしまっています。
「はい、まっすぐ立って、抜きますよ」
 降ろしたキャミソールから、ゆっくりと脚を抜けば、一糸まとわぬとは、この姿のこと。
 ピンと先端を尖らせた、形の良いオッパイを隠すでもなく、両手を身体にまといつかせるように動かすだけ。
 その表情は、青ざめているクセに、目元だけが、ほんのりと色づいているのが不思議でした。 次の瞬間、私の目が秘部に吸い寄せられるのと、院長の声は同時だったはず。
『おい! また、やったのか! 』
「お、ちゃんと用意なさっていますね〜 いいですよ〜 」
 その部分には、陰りなどカケラもありません。そういえば、寝てる間にエステに行ったと言っていましたが、まさか、またもやこんな風にしてしまったとは。
『なんで、こんなことを。ヌードになるって知ってたんだろ?  』
 私への言い訳はおいておくとして、ヌードになることは妻も知っていたはず。それなのに、秘部を少しでも隠してくれるはずの飾り毛が全て処理されているのです。
「あぁ、だって、先生が、綺麗にしておきなさいって仰ったからです」
「良いですねえ。素直に従ってくれて感謝です。これで、奥さんのアソコは、毛一本も隠せないどころか、ご主人も見たことないほどくっきりと、色も艶も、オ○○コの肌の具合も、黒子一つ余さず、みんなに撮られてしまいます。撮影用のライトって明るいですよぉ」
「あぁ、だめぇ」
 秘部をいったん覆った手は、顔を覆います。むき出しになった土手の部分まで、院長の目から十五センチの場所で広がっていました。
「あ、もちろん、今日のメンバーは、全員が書面で、生涯誰にも公開しないように契約してます。まあ、そうは言っても、全員が奥さんのオ○○コを記憶しちゃうわけですけどね」
「ダメですっ、そんなの」
「これから、奥さんがどんなにおすまししても、ツルツルのオ○○コを、五十人の男達が、みんな、一生覚えてるってことを忘れちゃダメですよ」
「ああぁ、そんな、忘れて欲しいのに」
 何かを思い浮かべたのでしょうか。まるで、悪寒にとらわれたかのように、プルッと身震いをする妻に、さらに囁きます。
「そうそう、今日の方々は、まぁ、みなさん私の知り合いでしてね。また、どこかで、会うかしれませんねぇ」
 それは、ひょっとして、言外に「恥ずかしい姿を見たことのある人間が、今後は、身近にいるかもしれないんだ」と、さらに羞恥に追い込むための言葉かもしれません。
 もし、そのつもりであったとしたら、院長の作戦は成功だったはずです。いやぁと、小さな声を噴きこぼした妻は、身の置き所をなくしたかのように、顔を振るのです。
「でも、ちゃんと、信用のおける方々を集めてますから、画像の流出はあり得ません。ご安心くださいね」
 とってつけたように、ご安心をといいつつも、今度は粘っこい口調になった院長は、付け加えます。
「でも、もし、どこかで顔を合わせたら、奥さんがどんなに化粧して着飾ってても、皆さんは、必ず、奥さんのエッチなオ○○コを思い出すでしょうけどね」
「ああぁ、あの、やっぱり、私…… 」
 青ざめたまま唇から、いまさらの泣き言が漏れました。
「あの、ホ、ホントに、だってヘアがないから、全部見えちゃいます。あの…… やっぱり、ここだけでも隠せないでしょうか? せめて、ポーズとか…… 」
 脚を閉じたままのポーズにして欲しいという願いでしょう。でも、裏を返せば、妻自身が、このスラリとした脚を大きく広げるポーズを要求されると知っているからこその言葉です。
「いいえ。今回のルールは、指示通りのポーズをすることになってますので。そりゃあ、もちろん、脚を広げたポーズも注文されると思います。はい」
「ああ、そんなぁ」
 院長が動きました。
「さぁ、向こうに行く前に確かめますので、ちょっと、そこに横になってください」
「あ、はい」
 院長が座布団をサササッと並べた場所に、素直に腰を下ろして、一瞬のためらいもなく身を横たえる全裸の妻。
 考えてみると奇妙な光景でした。
 公民館の殺風景な畳の上。
 粗末な座布団を並べただけの場所に、一糸まとわぬ姿で仰向けになる妻は、夫ならぬ中年男と二人っきりなのです。
 その姿を横から見れば、大人のお医者さんごっこか、SMショーか。
 それなのに、妻はいたって素直に、されるがまま。両脚を、膝からホイッと持ち上げられると、明らかに、自分の意志で脚を持ち上げたままにしています。
「はい、じゃ、このまま持っていてくださいね」
「あっ、はい」
 さらに、広げた膝の裏側に自分で手を入れて、大きく脚を広げるポーズ。
「あぁあ、恥ずかしいです」
 つぶやきながらも、自らの手で、丸見えのポーズを取っていることに、私は驚いていました。
 こんなポーズ、私が頼んだとしても、してくれるはずがありません。
『いつかの黒い台の上でやったから、またってことなのか』
 まさか院長に見せることに慣れたから、とも思いたくありません。しかし「院長の命令にはなんでも従うようになってしまったのだ」とは、もっと思いたくありません。
 それにしても、これ以上ないほど、あからさまな姿を取ると、さすがに猛烈な羞恥がこみ上げているのか、青ざめたまま、目をつぶって顔を横向けます。
 その大きく広げた足の間に潜り込むように、院長の頭が差し入れられてしまいました。
「ああぁ」
 さすがに、恥ずかしさの限界なのでしょうか。それとも、院長の吐息でもかかったのか、不思議な色をしたため息を漏らすと、一気に呼吸が荒くなります。
 院長は容赦しません。
「ああ、今回は良いですね。綺麗に処理されてるみたいです。 でも…… 」
「いやっ、仰らないで」
 目を閉じたまま、クナクナと頭を振る妻。
 それに合わせるように、自ら持ち上げている足先が、フルフルと揺れるのが、妙に哀れさを感じさせました。
「ん? 言わないでって。あ、奥さんが、もう、イヤらしい液体で、グショグショになってることをですか? 」
「そ、そんなになってません。ああ、いやっ、おっしゃっちゃ、いやあ」
「いえいえ、すごいですよ。もう、お尻の方まで垂れてきそうですから。あ、これ、ちゃんと記録しておきますね。そのまま、動かないで」
「え??? 記録って」
「ああ、今日のことは逐一記録して、奥さんと後で確認するんです。これも治療の一貫ですからね」
「だって、そんな、こんな所を撮っちゃいやあ」
「はい、じっとしてくださいね。ほら、ちゃんと、ケーブルでつながっているから、モニタに映りますからね。入力系統は4番のはずかな? 」
 その言葉は、まさしく私に向けられたモノに違いありません。
 私は、とっさにリモコンで入力4に切り替えます。
『わっ! 』
 いきなりのぼやけた画面はサーモンピンク一色。
 カメラが近すぎて、一瞬ぼやけた画像は、すぐに、オートフォーカスが機能して、デジタル特有の鮮明さで、ハッキリと映し出しました。
 妻の秘部のアップ。
 目の前には、見たこともないほどヌルヌルしたピンク色の壁。
 あまりにも、猥褻すぎる光景が、巨大なモニタに映し出されています。
『なんだ、これは? 』
 脱毛した妻のそこを、これだけ間近に、じっくり見たことなどありません。
 しかも、暗い寝室ならともかく、これだけ煌々と灯りがついた場所でなんて。
 初めて見る、無毛の妻のそこは、白い丘がぷっくりと膨らんで、少しだけ色づいた秘裂は、大きく広げた脚に引っ張られるようにして内側の真っ赤に膨らんだ唇を覗かせています。
 濡れ過ぎるほど濡れすぎていました。
 広げた脚に引っ張られて、妻の濡れそぼった外陰唇は、すっかり広がっています。
 土手の部分から、ほんのりと色づいて秘裂に向かうその、ふっくらした場所。秘裂から溢れ出してくる透明な液体が土手の表面まで覆っているのです。
「あぁ、ダメですっ、映さないでぇ、あぁ、だめぇ、映しちゃいやぁ、お願いぃ」
 まさか、それを夫に見られているとは知るよしもない妻の声は、拒否と言うよりも、男に媚びるかのような潤みに満ちあふれています。
 イヤと言いながらも、カメラに接写されるのを意識したせいなのでしょう。ヒクリとアソコは震え、とろ〜っと新たな蜜が湧き出します。
 トロトロになった秘部は、早くオトコが欲しいとでも言いたげに、ヒクリ、ヒクリとイソギンチャクが獲物を捕らえる姿そっくりに、ゆっくりと収縮していました。
『こんなに、露骨に欲しがるのか? 智美が、こんなに、オカシクなるのか? 』
 画面のこっち側にまで、おねだりをしてくるような、そんな猥褻な肉ヒダが画面一杯に広がっているのに耐えられなくなって、再び、横からのカメラに切り替えます。
 大きく両脚を広げ、両膝を外側に倒した股間に、カメラを持った院長が、まるでこれからクンニでもするかのように、顔を近づけていました。
「わッ、ドロドロだね。なんて、エッチなんだろ。これから、みんなが見つめるんだよ? こんなに濡らしたら、とってもスケベな奥さんなんだ、みんなにバレちゃうよ? 」
 院長の声は、まるで妻を羞恥の底に追い落とすかのようです。
「あんっ、そ、それはいやあ、見ちゃ、ダメなのぉ、違うのぉ」
「たまに、濡らしちゃう人もいるけど、いくらなんでも、撮影会が始まる前からこんなに濡らしちゃうなんて。こんな人、初めてですよ。これじゃ、奥さん、変態だと思われちゃいますね」
「そんな。あぁあ、違うのぉ。そんなことないんですぅ、なんか、身体がおかしくなっちゃってるから、あああ、いやあ」
 クナクナと顔を振りながら、広げた脚は、ホンのわずかですが、さらに広がる気がします。
「いいんですよ。それで。奥さん、本当の姿になりましょう? ホントの智美は、もっとエッチなんですから」
「違うのぉ、いやぁん」
 遠いところから響くように声を震わせながら、真っ赤になった顔を仰け反らせました。
「違いません。淫らですよ、奥さん。もっと濡らしちゃうでしょ? オカシクなる。智美は、取ってのエッチでいいんです。でも…… う〜ん、さすがに濡れすぎかな? 」
「あぁあ、いやぁ、おっしゃらないでぇ」
「ま、ちょっと拭いておきましょうか。脚まで垂れて来ちゃいますものね。さ、もうちょっと広げて」
 院長がポケットからハンカチを取り出します。
 それをフッとのぞき見た妻は、まさか、と言う表情をしました。
「あ、これですか? こういうときに、ティッシュを使うと、破片が残ってみっともなくなりますからね。布を使うのが原則なんですよ」
「ダメです。ハンカチだなんて。汚れちゃいます。あの、私も、ハンカチを持ってますから…… それで、あん! 」
 戸惑いを無視して、あっさりと押し当てられたハンカチに、女体は瞬間的に反応します。
「はう! 」
 白い裸身に電流が走って、ヒクンと背中を仰け反らせながら、広げた脚が空中で震えます。
「あぁあ、あっ、あっ、あっ」
 グッと仰け反りながら、口は金魚のようにパクパクとさせながら、切羽詰まった声を立て続けに漏らします。
『ハンカチを押し当てただけ? いや、ひょっとして微妙に指先が動いているのか? 』
 妻の声が、見る見るうちに変化して、ハッキリとした淫楽の声を奏でます。
「んっ、あん。あぁ、うっ、あ、あぅ、あううぅ」
 大きく広げた太ももに、ヒクン、ヒクンとケイレンが走って、自ら広げた脚にすがりつくように力が入ってしまいます。
 ヒクン、ヒクンと長い脚の先は、女体に煌めく快感のハーモニーを指揮する指揮棒であるかのように、何度も何度も空中で震えました。
 それは、紛うことなくオーガズムが爆発する気配です。
『そんな…… こんなことで、イカされちゃうのか? たったこれっぽちで? 』
 ハンカチが押し当てられてから、一分もたっていないのです。少なくとも大噴火の前の、小さな悦楽の頂上を迎えているはずでした。
「あ、あうぁ、ああ、だめ、だめぇえ」
 うなされるように、淫声を上げて、腰全体でヒクヒクと震えるところを見ると、本格的なオーガズムまで、ホンの少しというところでしょうか。
 ダメぇと、拒否の嗚咽を噴きこぼしてはいますが、身体全体の反応は、オーガズムをもう待ちきれないと言っています。
「あああ、だ、あ、あ、いっ、い…… 」
 もはや、我慢などできなくなった妻は、唇をわなわなと震わせ、まさに「イク」と叫んでしまう、その瞬間でした。
 絶妙のタイミングで、手がどけられてしまったのです。
「いやああ! 」
 驚愕の声。
 信じられないものに出会うと、人というのはこんな表情をするのでしょうか。マジマジと目を見開いて、自ら広げた脚の間にいる院長を、妻は見つめていました。
「さ、時間も迫ってます。行きましょうか」
 わざととぼけた表情を作っているとしか思えぬ院長。
 イカせてもらえぬ無念さを物語るようにヒクリと動く腰を、眉毛をちょっと上げて、小首をかしげてから、身体を起こしてしまいます。
「そ、そんなぁ」
 悲鳴のように、思わず上げてしまった不満の声。
 それこそは、戯れのようにハンカチを当てられただけでオーガズムに駆け上ろうとしていた女体のあからさまな欲求不満でした。
「あ、あのぉ、ね、先生、あの」
「さあ、時間が迫ってますからね」
 大きく広げた脚を、院長の手が、ゆっくりと降ろそうとすると、一瞬抵抗して、もっと広がってしまった脚は、やがて、渋々と言う様子で、降ろされました。
 夢中になっているときならともかく、院長の淡々とした動きの中で、あえて「イカせて」とお願いできるほどには、羞恥心を捨てられはしなかったようです。
「さ、動きましょう」 
 女の欲望と羞恥のせめぎ合いの中で、ノロノロと起こそうとする身体は、どうしようもなく重そうでした。
「さ、頑張っていきますよぉ」
「……はい」
 短く返事をしながらも、イキかけた身体をもてあまして、院長の背中をチラッと見る目に怨みと切なさが浮かんでいます。
 しかし、いざ、廊下へのドアがガチャリと開いた瞬間、ビクッと薄い肩をすくめてから、ゆっくりと立ち上がったのです。
 まるで死刑台に向かう囚人といった面持ち。
 再び青ざめてしまった妻の足取りが重いのは、イカせてもらえなかった残照のせいなのか、それとも、自分を待ち受ける大勢の眼への恐れなのか。
 いえ、ひょっとしたら、秘めてきた淫乱の魔性が、大勢の前で明かされてしまうことへの恐れなのかもしれません。
「さ、こちらです」
 開けてもらったドアを出る時に、院長に会釈をする余裕もないまま、一歩廊下に出た妻は、奥の部屋を見つめて、立ち尽くします。
 真っ白い背中は、恐れを抱くように戦慄き、両手は、身を守るように身体に巻き付いたまま。
『あのドアを開けた瞬間から、何かが変わるんだよな』
 その独白は、もちろん、誰に聞かせるためでもありません。なぜ、そんなことをつぶやいてしまったのかもわかりません。
 ただ、モニタ越しに妻を見つめている私も、いつの間にか身体を硬くして見つめしまっていることだけは気がついていたのです。  





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