人妻・智美の体験本文へジャンプ  第3部  淫の部屋

第1話  リセット


 吹き始めた海風は、昼の熱気を吹き飛ばすほど強かった。
 ガラガラのバイパスの上では、雲がものすごい勢いで東に流れている。
 田んぼの中にちらほらと点在する人家の他には、本当に何もない町だ。
 夫でもない男性と、二人きりの車の中だ。
 智美は、身体を苛んでくるモヤモヤと緊張感、そして、不思議な安心感に包まれながら、流れていく黒雲をぼんやりと見ていた。
 その時、院長が小さくつぶやいた。
「あ、あそこに入ろうか」
 ひょっとして智美の覚悟を促すためかも知れない。
 畑の中に、まばらに点在する人家と倉庫。
 何もない郊外の道の前方を、声に誘われるようにして視線を移せば、そこだけ妙に近代的な印象になるラブホテルがある。
チラッとハンドルを握る院長を見ると、智美の視線に気が付いたのか、ウンと、小さく頷く。
『これから、行くんだ…… 』
 良いとか、悪いとかそんな言葉は浮かばない。
 ただ、目に映る院長の表情に少しも淫靡なモノがないことを確かめてから、智美は足下に目を落とした。
「入りますよ」
 返事はしない。できなかった。
 だが、男にラブホテルを誘われて、拒否の返事をしないと言うことは、暗黙のイエスも同然なのだと、頭では分かっている。
 もちろん、人妻でなくても、そこで何をするのか考えないわけがない。
「会場に入るのは夜になってからで良いです。時間がありますから、その前に、練習をしていきましょうか」
 ラブホテルに入る前に、わざわざ「セックスしに行くよ」というはずもないが、そんな言葉を信じる女がいるわけがない。
 しかし、本当なのか、ウソなのか気にする必要もない。ただ、たとえウソではあっても、院長の言葉がありがたいのは確かだ。 
 自分自身に「夫ではない男とホテルに入るのは、この後の練習をするから、仕方ないのよ」と言い聞かせることができる。
 そして、返事をする前に、ウインカーを出して車は減速した。駐車場には、まばらに車が止まっている。
 車の数だけ、ここで誰かがセックスしてるんだと、馬鹿げたことが、サッと頭をよぎるが、智美の口は、大脳を使わずに「はい」と言っていた。
 その「はい」が、何に対する返事なのか、自分でも分からない。
 夫以外の男と、ラブホテルに二人きりで入るのだ。
 嬉しいかと言われれば、違うと言うだろう。かといって、無理やりなのかと言われれば、それも違っている。
 智美は何一つ強制されてない。
 しかし、断れなかった。
 むしろ望んでいるのかも知れない。
 身体の奥に、熱を持った何かがウズウズと蠢いていた。どうにか、なってしまいそうだ。
 こういうのを「子宮が疼く」というのだろうか。
 言葉として浮かんでは来ないが、この瞬間、智美の中のオンナは激しく叫んでいる。
 『熱く、逞しいモノで貫かれたい』
 そんなハシタナイ叫び声を上げる身体を、まるで自分のことではないように、ぼんやりと受け止めている自分が不思議だった。
『あぁあ、こぼれちゃう』
 ラブホテルの駐車場に滑り込んだ瞬間、膣の奥からトロリとこぼれてきたのだ。
『ワンピに染みちゃうかも』
 生地が薄手なだけに、後ろから見られたら、一目瞭然だろう。だが、夫以外の男と、これからラブホテルに入ろうとしているのに、そんな心配が先に立つのが、不思議な気がした。
 入り口に近いスペースを見つけると車をバックで止める体勢になっている。
『三番ね、ここ』
 駐車スペースの番号などどうでも良いことなのに、そんな数字を見ている自分はなんなのだろう。
 後ろを見るために、助手席にヘッドレストに院長の手がかかる。その手を見つめてしまいながら、心臓が、ものすごいビートで鳴り始めている。
 ゆっくりと瞬きをした智美は、コクリと何かを飲み込んだ。 
 拒否の言葉を出す最後のチャンスだ。
『部屋に入ったら…… 』
 身体を求めてくるのだろう。
 だが「拒めない」と思った。
 子宮の熱い悲鳴もそうだが、理性も、まるで諦念のように「いまさら拒める立場でもない」というつぶやいているのだ。
 さっきの公民館でのこと。
 抱きかかえられての退場だった。
 戻った控え室で「抱いてください」とすがりついてしまったのは自分なのだ。夫の顔なんて少しも浮かばずに、ひたすら、院長の太い怒張をも求めてしまった。
『あぁあ、なんて、淫らになっちゃったんだろう』
 腰にすがりついて、命じられもしないのに、この手でチャックを下ろしてしまった。
 半ばまでしか硬くなってない怒張を勝手に探り当て、しゃぶりついた。あの時、半ば無理やり引きはがされなかったら、自ら抱きついて挿入していたはずだ。
 すさまじいほどに、身体がセックスを求めていた。いや、子宮を支配して欲しかった。
 張り裂けるほどの大きさで膣を満たして欲しかった。
 そんな痴女そのものになってしまった自分に、唖然とするしかない。
『ダメなのに…… 』
 ズキン
 子宮が疼いていた。
 そして、なによりも自分自身に困惑してしまうのは、あの時、求めていたのが「院長」ではなかった、ということ。
『私、あの時、誰でも良かった』
 あの時、もしも院長に命じられたら、本気で、群れなす男達の前に戻って、誰かれ見境無く、受け入れてしまったかも知れない。
 狂っていたのだ。
 だが、狂っていたにしても、そんなにも淫らな「オンナ」が、己の身体に棲んでいたのだと思うしかない。
 いや、狂って「いた」のではない。今もまだ、その狂乱は治まりきっていないのだ。
 子宮の疼きは、熱を伴った痛みのように、ズキンと、身体の奥から響いていた。
『彼以外、ダメなのに…… 』
 甘やかな、それでいて、ひどく切ないものが子宮の奥から身体に溢れている。
 腰の奥から、ズキンと響くのは「満ち足りないモノ」が溢れ出してくる矛盾した感覚だ。
『あぁあ、だけど、もう、私、どうなっても良いの。どうにかしてもらわないと、本当に狂っちゃう』
 普通なら、そんなこと考えるだけでもダメなことだ。
 貞淑な、ごくごく普通の人妻だった自分が、いったいどうしてしまったのか。
 けれども、理性のフタをこじ開けて、チロチロと先端だけ見える炎は、身体を焼き尽くす猛火の甘やかな官能の火口なのだ。
『私、先生のあれを、これから…… あぁ、ダメよ。私、そんなこと考えちゃ、ダメ』
 それだけを自分に言い聞かせるだけで精一杯。
 院長の顔を見られなかった。
 不思議と、夫の顔が浮かんでこない。
 全身に甘やかな電流が流れ続けて、体も心も痺れている。
 そのくせ、車が止まるやいなやシートベルトを外して、いそいそと降りてしまう。
 どう見ても、一刻も早く男を迎え入れたいのだと言わんばかりの行動だ。
『あぁ、こんなに淫らな女っているのね』
 ラブホテルの駐車場に降り立った瞬間、車の窓ガラスに映った自分。
 楚々とした佇まいをしているフリをした、いかにも人妻然とした女。そのくせ、その表情に浮かんでいるのは、明らかな性への渇きに違いない。
 なぜか、他人のことのように自分を見つめている自分は「こんなにエッチな奥さんって、いたんだ」と唖然としていた。
 その横に、生活感を感じさせない院長がゆっくりと立つ。
 二人の姿は、他人から見れば、一目で「不倫ね」と言われるだろう。
『ううん。見えるんじゃない。不倫だわ、これって。だって、これから…… 』
 身体を求められるのだ。
 それを断ることができない以上、これから自分がするのは不貞ということ。
 そんなことを、分かりすぎるほどに分かっていた。
 けれども、分かっているのに、それを、まだ許してない自分がいる。
『このまま入ってしまったら…… あの時以来ね』
 立ち尽くす智美に、フラッシュバックしていたのは「あの時」のことだった。
 夫には内緒にしてきた…… いや、これからも、一生言えない、あのこと。
 智美には、記憶から消そうとしても消せない、二つの秘密があった。
 生涯、夫には言えないだろう。
『だけどアレは、特別だったわ。私、どうかしてたんだもの。断れなかったんだし…… 』
 だが今は、たった一言「イヤ」といえば、それですむのだ。
 少しでも嫌がれば、無理やり事を進めることだけはしてこないだろう。
 それは確信できる。
 しかし、拒絶の言葉が出なかった。
 そんな智美に一言も声をかけずに、腰に優しく手を当ててくる。
 言葉に出さずとも、内面の葛藤など、お見通しなのだろう。
 フワリとしたその手に心が押されるようにして、歩き出していた。
 オトコと二人で、ラブホテルに入るのだ。
『あぁ、私、しちゃうのね。このまま』
 夫を、また裏切るのだ、と言う声がどこかで聞こえてくる。
『ううん、あの時以上よ。これって。だって、今からホテルに入るのは、私が選んだことなんだから』
 智美の頭の中に、思い出したくもない「あの時」が、ありありと浮かんでしまう。
 たった二回だけだが、智美は夫以外のオトコを受け入れたことがある。夫の知らない、智美だけの――院長にだけは告白したが――秘密だ。
 一度目は、以前勤めていた東京の会社がなくなったその日。
 債権者達に、泣きながら頭を下げ続けた社長に母性が動いて、求められるままに身体を許してしまった。
 だが、あれは、身体の欲求などではなかった。
 ただひたすらに、全てを喪う男の逃げ場所として「母なる女体」を許しただけのこと。
 そのくせ、何度も、オーガズムに震えた自分に戸惑ったけれど、そんな快楽は、忘れることができた。
 身体は夫を裏切ってしまっても、心は裏切てなかったはず。だから、その後は、いっそう夫を愛した。そして二度と、夫を裏切るまいと誓ったのだ。
 しかし、その誓いも空しく、こっちに来てから、社長の弟でもある専務と過ちを犯してしまった。
 接待の場で飲み過ぎたあげくのことだった。
 酔って、夫と間違えたというのは本当のこと。
 しかし、酒で理性が弱まっていたのか、それとも「遊び人」の弟専務のテクニックのせいなのか、生まれて初めてと言うほどの大きな快感を味わってしまった。
 何度も何度もイッて、夫に教えられた以上の、深く、大きなオーガズムを味わってしまった。
 最後に「出して」と自らの胎内に求めてしまったのは、智美自身なのだ。
 夫以外の男に、だ。
 あれ以来、自分が許せなかった。
 ひょっとしたら自分はとんでもなく淫らな女なのかも知れない、という自問は、次第に自分を追い詰めることになった。
 一時期、ふさぎ込んだのも、そのせいだった。
 貞淑な妻として浮気一つ考えたことがないはずなのに、実は、とんでもなく自分が酷い女で、自分が分かって薙いだだけで、その本性は、とても淫らなのではないかという疑念。
 答えの出ない自問は、ついには、自分を狂おしい焦燥に追い込み心を枯らしてしまった。。
 これほど淫らな女が、妻として、生きていて良いのだろうかと思った瞬間から、智美は自らを否定することしかできなくなったのだ。
 それを解消…… いや、肯定的に考えられるようにしてくれたのが院長だった。
 信頼できる。
 智美の頑なさを取り払って、性のタブーに挑む方が、二人のためになるというのが、教え込まれてきたこと。
 だから、さっきの会場で、大勢の男達の目の前で、オンナとして「見せてはいけない姿」を見せてしまったが、不思議に今は後悔がない。
 不思議なのだが、身の置き所のないほどの、猛烈な羞恥はあっても、心は軽くなっていた。
 そして、心が軽くなった分だけ、身体の疼きが、なおさら強く身体を責め苛むのだ。
『あぁあ、何とかして欲しい』
 それが夫を裏切る行為だという思いが、少しもブレーキになってくれないことに困惑していた。
 自分はもっと貞淑な妻だったのでは無いか? 
 だが、いともあっさりと、男とラブホテルに入ってしまう自分がいる。
『だって、これって治療のためだもん』
 そう言い聞かせる。
 確かに、そのはずだ。けれども、本当に、治療のためなら淫らな自分になって良いのだろうか?
『でも、これを乗り越えてこそ、ホントの自分になれるんだもん』
 だから、必要なことなのだ。
 乱れる心を知ってか知らずか、院長は、さっさと部屋を選んで、エレベータを開ける。
 ペコリと小さくお辞儀をして乗る智美。 
 3階に着くまでの無言。
 チラッと見えた院長の顔は不思議な笑みを浮かべている。
 淫猥なのは智美の女性としての魅力なのだと、繰り返し、教えてくれたのが院長なのだ。
 今日一日で、智美の人生がガラッと変わる。
 だが、保証された体験は、まだ半ばなのだと言う。
『後の半分は、ここで、先生を受け入れてから? 』
 考えただけで、ズキンと子宮が収縮する。
 淫らだった。
『ほんとうに、こんな淫らな私を、彼は受け入れてくれるのかしら』
 院長は、それは、ちゃんと考えてあると言ってくれている。
 それを信じるしかなかった。
 チラッと、院長を見る。
 そこにあるのは、いつものように慈しみの目だ。
『これから私を抱くのに』
 智美の視線は、院長の股間に止まる。
『大きくなって…… ない? 』
 院長の大きさは、あの二回目の施術で、知ってしまっている。自らの口で奉仕し、射出したものを飲み込んでしまったのだから。
 喉の奥に届いた、あの長大なモノを、忘れるはずがなかった。
 しかし、これから、自分を抱くというのに、そこが膨らんでいるようには見えなかった。
 女として魅力を感じてもらえないのだろうか?
 正直、戸惑う。
 しかし、欲望を表に出さないからこそ、院長を信頼できるのも確かだ。
「さ、ここだね」
 ガチャリとドアを開けてくれた院長に、ペコッと小さくお辞儀をして、部屋に入る。
 有線放送だろう。聞いたことのあるアイドルの歌が大音量で響いている。
『まさか、私、期待しちゃってる? 』
 院長とのセックスを、と言う目的語は、意識に浮かべない。
 だが、ドキドキと高鳴る心臓の音は、緊張ではないのだ。
『違うわ。これからするのは治療よ。だって、今まで、あれだけしてても、先生は、治療だけを考えてらしたわ』
 チラッと思い出してしまうのは、あの逞しい怒張。
 思い出してはいけないのに、こんな状況では思い出すなと言うのが無理だ。
 だが、同時に思い出していた。
 あれほどの痴態を何度も見せてしまったのに、いまだに、あの怒張は智美を貫いていないのだという事実を。
『それが、これからなのね』
 ガチャリと後ろでドアが閉まった瞬間、智美の意志は決まっていた。
『そうよ。先生がその気だったら、私、とっくに抱かれちゃってたはずよ。今さらだわ。それに、仰ってらしたじゃない。今日のことは、全て治療だって』
 公民館での痴態を、思い出したいわけではないが、かといって、あれほどの痴態を演じてしまったことに、なぜかスッキリしている智美だ。
 もちろん、身体の疼きは高まる一方だが、夫を裏切ってしまった時に味わった、あの肉欲を、今はスッキリと受け入れられるのだ。
 それこそが、院長が与えてくれたモノに違いない。
 智美の「中」で、誰かが囁いている。
『治療だもの。何だって、受け入れるしかないのよ。今までだって、先生を信じて、治してもらってきたじゃない』
 弟専務の放出を、自ら求めてしまったあの日から、塞がってしまった心も頭痛も、治療によって消し飛んでいた。
 あの、初めて治療を受けた日から。
 初対面なのに、何もかも話してしまった自分が不思議だったが、その後の治療でも、犯された体験を、まるで無かったことのようにして、一度も触れなかった院長。
 そのくせ、智美の憂鬱を全て分かってくれているのがハッキリと伝わってきたのが、これまでの治療だった。
『大丈夫。先生を信じていれば、きっと治してくれる。きっと。大丈夫だから、先生にお任せするのよ、ね? 恥ずかしいだなんて気持ちは、ちょっとの我慢だわ。信じるのよ、智美』
 どんなに恥ずかしいことをされても、信じていれば良くなる。
 どれほど感じてしまっても、それを受け入れなさいと、言われてきた。
「淫らな自分を受け入れることです。それこそが智美さんのためだけでなく、ご主人のためですし、ご夫婦の円満のためになることですよ」
 院長は、来り返し、そう言い聞かせてきた。
 いつしか、その言葉は、智美の心を染めていたのだ。
だから、初めて院長の怒張を口に入れたときも素直にできたし、あの時、確かに、それを身体に受け入れることを覚悟もしたのだ。
 いや、正直に言えば、自分の中に潜む「オンナ」は、むしろ望んでいたのかも知れないが、そんな気持ちを知っているクセに、決して、院長は挿入してこなかった。
 これがなによりの、信頼の元なのだ。
 院長の低い声が、不意に脳裏に蘇った。
 控え室で狂乱する智美の耳に吹き込まれた言葉だ。
「私も、智美とセックスしたいよ。だけど、今じゃない。智美が成長するために、今は我慢するから」
 そう言いながら、抱きしめてくれた。
 自らのフェラチオでガチガチに硬くした怒張から引き離され、それでも、意地汚く、怒張をシゴきながら「抱いて」と狂乱する智美を、だ。
 だからこそだろう。
 院長への信頼は、最高度に達している。
『信じていれば、大丈夫、きっと、私は、もっと成長できる。そして、それは…… 』
 夫のためになるのだ。
 そうであるはずだ。
『だけど、本当に彼は許してくれるのかしら? 』
 その不安だけは完全には消えてない。だが、きっと大丈夫だと思い込もうとしたのは、ひょっとしたら、この後の「満足への期待」だったのかもしれない。
『良いわ。私にできるのは先生を信じることだけだもの。先生が必要だとおっしゃるなら、受け入れるのもしかたのないことなのよ。ウン、そうよ。今さら、ためらうな、私!  』
 入り口で立ちすみながらの逡巡に、どれほどの時間を使ったのか。
 数秒なのか、数分なのか、それとももっと長く?
 ともかく、決意が決まった。 
 ベッドに向かった院長を見つめて、ウンと大きく一つ頷く表情は一気に明るくなる。
 そんな智美の様子を知ってか知らずか、ベッドボードに屈み込んでの悪戦苦闘は、有線放送を切ろうとしていたらしい。
 智美は、頬を赤らめて、振り向いてくれるのを待つ。
 このまま求められたら、なんと答えれば良いのだろう? それとも自分から脱ぐべきなのか。それは恥ずかしすぎる。だけど、今さら……
 どうして良いのか葛藤はあっても、必ず起きる「その時」を、今は開き直って、待ち望む気分になっていた。
「さて、智美さん。まずは、お風呂にゆっくりと浸かりましょう。身体が冷えていると、ヨガどころじゃないからね」
「あっ、はい」
 とっさに、風呂を探す。
 ラブホテルなんて、何年ぶりだろうか。恋人時代の夫と来て以来だ。
 入り口の横のドア。
「結構、広いんですね」
 風呂に向かいながら、キョロキョロとしてしまう。
「ああ、智美さんは、こっちでホテルに入ったことなかったんだ? だいたい、こんな感じだよ」
「へぇ~ 初めてです。広いし、綺麗。わっ、お風呂も、広いですね~ 」
 智美は手早く浴槽を流して、湯をためる。
 ラブホテル独特の仕掛けも、たちどころに飲み込んでの、人妻らしい手慣れた動き。
 しかし、その手慣れた動きは、湯がたまるまでの時間に余裕を生み出す。
たまっていく湯をいつまでも見ているわけにもいかない。
「どうしたら良いだろう」
 もはや、この身体を開くのは当然なのだろう。
 だが、その前に、せめてシャワーを浴びたい。
『今戻ったら、シャワーよりも先に抱かれるかも』
 そんな考えが、つかの間、動きをためらわせる。
「でも、考えてみれば、今さら、慌てて抱く理由なんて無いわよね」
 ここまでじっくりと智美の身体に合わせてくれた院長だ。まさか、高校生のように、部屋に入った直後に襲いかかってくるなんてことがあるはずない。
 そう思った瞬間から、心が軽くなり、足取りさえも軽やかなる。
「今、お風呂ためてま~す え? 」
 ベッドにいない。 
 ソファに座って……
「! 」
 立ちすくむ智美。
「先生、それ…… 」
 とっさに顔を背けようとした。
「ダメッ、智美、こっちを向いて」
「はい」
 逆らえない低音の命令口調。
 影になっていたソファの前。
 院長は、精悍な裸で立っていた。
 しかも、股間は逞しくそそり立っている。
 思わず、硬く勃起した怒張から目が離せなくなる。
ゴクリと唾を飲み下しながら『いやん、これじゃ、涎を垂らしそうにしてるみたいじゃないの』と思うのだが、目は、怒張に釘付けのままだ。
「私は既に脱いでますよね」
「はい」
「智美も脱がないといけません」
「あっ、はい、すみません」
 ペコリとお辞儀をしながら、とっさに「お風呂で脱いでこよう」と考えた途端、それを鋭く見抜いた院長の「そこで脱ぎなさい」という、短い声。
 叱責された生徒のように「すみません、すぐに」と答えた智美は、あたふたと薄いカーディガンを脱ぐ。
 院長が差し出す手に、近寄って素直にカーディガンを渡す。ふわっと畳まれて、テーブルの上。
「背中を」
 皆まで言われなくても、わかる。
 さっき、公民館でしたとおり、チャックを下ろされるのだ。
 覚悟を決めているはずなのに、ゾクリと震えが一つ。
 ちぃ~
 ファスナーが下ろされれば、自然に肩から落ちる。
 重力に任せたワンピースは、足下にフワリと広がった。
 下着を身につけてない身だ。
 ラブホテルの中。
 男の目の前で、智美は一糸まとわぬ姿で立ち尽くしているのだ。
 股間に、わずかな空気が動いている。ヒンヤリとしていた。
『あぁあ、私、濡れてる』
 やっぱり、と言う思いと「はしたない」という自分への叱責。
 なぜか、ここで四つん這いになって、そのまま後ろから犯されるイメージが浮かんで、ゾクリとする。
 恐怖ではない。
 子宮が欲望で震えているのだ。
 猛烈な光が、頭の中でハレーションを起こしている。
 ホンの数秒かも知れない。
 院長の視線が、確かに、智美の背中を犯している。
「そのまま」
 ガラスのテーブルを、スッとどけた瞬間「やっぱり」という声が頭に響く。
 膝が崩れそうだった。
 しかし、それは、四つん這いになるための言い訳なのだと、理性が、冷酷に囁いている。
『あぁああ、わたし、とうとう…… 』
 院長が、ソファに身体を沈める気配。
「智美は、こっちを向いて、ここにしゃがむ」
「はい」
 ちょっと意外。
 だが、いそいそと振り返って、しゃがみ込む。
 目の前にそびえる院長のモノ。
『スゴイ。大きくなってる』
 嬉しかった。
 そのくせ、目の前で跪きながらも『お風呂に入っておきたかった』と頭に浮かんでいる。
 だが、もはや、その余裕など与えられないのだろう。
 青筋を立てて、いきり立っている怒張は、叩けば金属音がするんじゃないかと思える。
 カサが張り出していて、両手で持たねばならない大きさ。
『カチカチだわ。これが、この後…… 』
 そそり立つ怒張が、自分の手を、口を、そして、早くも熱を帯び始めた美肉を待ち受けているのだと、ハッキリと思ってしまった。
 そこに言葉は必要ない。
 鉄のような固さの雄々しい怒張と、そこに傅いている裸の女。
 それがどんな意味か分からない人妻はいないだろう。
 智美の頭は、目の前の怒張に占領されている。
『硬い。大っきい。すごい』
 目の前の怒張の迫力は、智美を拘束する。
 単語しか浮かんでこない。
 いや、単語だけではない。性の味を知っている人妻は、それを胎内の感覚として、置き換えてしまうのが当然なのだ。
 ゾクリと身体が震えて、子宮から何かが溢れる感覚。
「あん、だめっ」
 はしたなくも、股間を覗き込んでしまった。
 折りたたんだ足先に、ピチャリと垂れてきた感触に慌ててしまったのだ。
 その瞬間、ソファに座る院長からも、無毛の秘所が丸見えになったことも意識できない。
『糸を引いてこぼれちゃってる。この間の施術でも。私、本当に淫らになってる』
 濡れやすくなったのかも知れないが、こんなにまで淫らな女体になってしまったのだ。
 男を求めているにしても、濡れすぎの身体。
『なんで、わたし、こんなになっちゃうの』
 今日の体験が、自分を淫らに変えてしまったのか、とっさにそう思った瞬間だった。
「それが本当の智美だよ。素直になれば良い」
 低い声。
 ぱっと見上げると、そこには柔和な笑みを浮かべた院長の顔。
 猛々しい怒張と一緒の視界に入っている顔には、一切の淫靡さはない。
「本当の私、ですか? 」
「そうだよ。」
「さて、テストだよ。素直に答えて」
「はい」
 背中をまっすぐ伸ばして、正面から院長の目を見つめた。
 優しい目だった。
「これ」
 目の前の怒張に、わずかに透明な滴が浮かぶ。
『あぁあ、これ、綺麗にして上げたい』
 もちろん、ティッシュを使うことなど思いも付かない。ただ、己の舌で舐め取る姿だけが浮かんでいる。
「智美は、このチ○ポが欲しいですか? 」
 あまりにも直截な問いかけは、ためらう余裕を作ってくれない。
 コクリと白い顎が動いてしまった。
 そんな、正直すぎる自分に内心慌てながらも「ちゃんと自分の言葉で言いなさい」と命じられれば、先に手が動いてしまう。
『お口で…… あぁあああ、お口にください。舐めさせてください』
 この逞しいモノを受け止めたい。
 痺れたように、そのことだけが頭に浮かんでいる。
 指を絡みつかせる。
 熱かった。  
『あぁあ、硬いわ、これ』
 はしたないが、身体のわななきを抑えられない。
 それは、手にしたモノが、子宮まで突き上げてくる感覚を思い浮かべずにはいられないからだ。
 かといって、意識の上では、夫以外の男とセックスしたいと思っているわけではないのだ。
 ただ、怒張を受け入れる瞬間を意識してしまうのは、智美の心に「それ」が規定事項になっているからに過ぎないのだ。
 灼熱の感覚が子宮を突き上げてきて、キュッと握った怒張は、ドクンと鼓動を打って、さらに硬くなる。
 逞しく脈打つ感触が、手の中にある。
 にじみ出てきた透明な先走りが細い指先をトロトロと汚してくる。
 ヌルリとした感触。
 それこそが、胎内に受け入れる感覚をさらに研ぎ澄ましてしまう仕掛けでもある。
「あああ、ください、これを ……入れて」
 セックスを望んでいないはずなのに、唇が勝手に言葉にしてしまう。
 そんな自分を、遠くで見つめているもう一人の自分がいて、あまりにもはしたない様子に赤面しつつ、羞恥が、さらに快感を強くしているのを知るのだ。
 どこまで自分が淫らになってしまうのか。とどめようもない身体だった
 身体が前に動く。
 唇を開いて迎え入れようとしたその瞬間「ストップ」と言われて、キュッと動きが止まる。
 オアズケ、だ。
 院長を見上げる智美の目には悲壮な表情が浮かんでいる。
 だが、冷静で、優しい目をした院長は「違うよ」と優しく言葉にした。
「はい? 」
 絡みつかせた指をカリに沿って滑らかに遣いながら、見上げる。
「智美は淫らだ。それを受け入れなさい。淫らな智美にふさわしい言い方をしなさい。素直に、言葉にするんだ」
 自分が淫らになってしまったのは、わかる。
 だが、それを受け入れるって言うのはどうしたら良いのか。
 戸惑う。
「で、でも、なんて言えば」
「素直に、したいことを言えばいい。具体的にだ。これ、じゃなくて、チ○ポと言え」
 そんな恥ずかしい言葉を言えるはずがない。
 だが、そんな智美の心の中で、もう一人の智美が囁いている
『さっき、公民館では、もっとヘンタイなおねだりしてたじゃない。今さら、かっこつけてもダメよ。いやらしい女なの、あなたは。ちゃんと先生の言うとおりにしなくちゃ』
 泣きそうな目になった智美は、つかの間の葛藤をしてはみても、もはや心の声に従うしかなかったのだ。
 唇が震える。
 頭が真っ白だ。
『おねだりするのよ。心のままに。凄く淫らな私の心のままに。心を抑えてはダメ。素直になるのよ…… 』
 理性を捨てる。
 本当の自分になるのだ。
『いいのよ、エッチになって。だって本当の私は、とっても淫らなんだもの…… 』
 子宮を乗っ取ったモヤモヤは、理性までも、消し去っていた。
「あああ…… 」
 掌を圧倒している怒張。
 人の肉体の一部だとは思えぬほどの硬さ、火傷しそうに感じる熱、きゃしゃな手で包みきれない大きさ。
『こんなものが、私の中に入ってきちゃうなんて』
 子宮の奥まで、グンと貫かれる感覚は、もはや想像ではなく、掌にあるのだ。
『満たされちゃう。あぁあ、私、きっと、オカシクなっちゃうのよ、受け入れたら…… 』
 掌の中の熱に、すがろうとしている自分がいる。
「言いなさい。智美。淫乱な自分を隠してダメだ。欲しいんだろ? ほら、こぼれた」
「あぁあ! 」 
 その瞬間、美肉がヒクリと蠢いて、またもや、銀色に光る秘液がトロリと滴ったのだ。 
『あぁあ、ダメに、私、ダメになっちゃったのよ、だって、これがいけないの』
 カーペットにポトリと滴の垂れる音が確かに響いた気がした。それは、理性の破れる音だったのかも知れない。ハシタナイ言葉を紡ぎ出す唇を、もはや留めることなどできない。
「先生の…… 先生の、おち…… 」
 コクリと唾を飲み込む。
 ゾワゾワとした電流が子宮の中で、ショートする。
 飛び散る火花に追い立てられるようにして、小さく引き締まった、艶めかしいまでに美しく整った唇は、淫猥色の言葉を紡ぎ出す。
「あぁあ、先生のおチ○ポを…… 私のオ○○コに ……入れてください。あぁあ…… セックス…… してください」
 なぜか涙がポロポロとこぼれる。
 悲しみの涙ではなかった。
 ポロポロとこぼれる、玉となる涙。
「あああ! 」
 一気に、深々と咥えた。
 頬を伝った涙は、カーペットに黒いシミとなる。
「んぐっ」
 ジュブ
 喉の奥に届くまで飲み込んでから、湿った音を立てて一度、引き抜く。
「あぁあ、このおチ○ポで、私のいやらしい身体を、お好きなようにしてください」 
 そう叫ぶと、またもやジュブリと飲み込んだ。
 喉の奥の粘膜に押しつけるようにして飲み込む。
 苦しい。
 だが、口腔の粘膜全体から、信じられない電流が生まれている。
『え? 何なの、これ。気持ち良い、お口の中なのに、何で感じちゃうの? 私…… 』
 喉まで飲み込むと、口腔内の粘膜全てから、強烈な快感が破裂した。
「んぐぅう~ 」
 真っ白になる頭の中。
 子宮が収縮する強烈なオーガズムだ。
 いったい、自分がどうなったのか。
 快感と驚愕の狭間で、茫然としたまま、唇だけが、ネロネロと物欲しげに怒張を扱いている。
「おやおや。もうイッてしまったようだね。うん、今日は頑張ったから、ご褒美だ。たっぷりとしゃぶると良い」
『私、イッちゃったの? なんで? なんでなの? 』
 智美の頭の中では、クエスチョンマークと快楽のスパークが、わけの分からぬ渦を作り出している。
 快感に支配されるように唇も舌も、怒張を扱きながら、いったい、なぜ、自分がこんな快楽にいるのか、わけがわからない。
『あぁあ、ヘンよ! あぁ、あぁ、お口に、これを入れただけで感じちゃうなんて』
 わからない。
 ひたすらに、カリを舐め、先端を吸い、亀頭の丸みを軟口蓋に滑らせると、ソコがまるで膣になったかのように、強烈な快感が生まれてしまうのだ。
「んぐっ、んんん、んー」
 強烈に子宮が収縮して、腰に掴まるようにして、全身が震える。
 またもや、オーガズムが白い背中を駆け上がったのだ。
『なんなのぉ、これ』
 ありえない。
 指一本触れられてない。
 むしろ、愛撫しているのは、自分の方だ。
 だが、フェラしている腔内、すべてが強烈な性感帯にでもなったように、強烈な快感を呼び起こしてくる。
「んっ、んん~ 」
 ジュブ、ジュブ、ジュブ
 快感をむさぼっていた。
 息ができなくなるほど奥まで飲み込んで、軟口蓋にこすりつけ、唇で扱き、舌全体で包み込む。
 喉の奥が、女性器そのものになっている。
 はしたないという言葉を思い出せなくなっていた。
『あぁあ、このまま、出して』
 本気で射精を望んでいる自分が、ちっとも不思議ではなくなっている。
 しかし、憎らしいほどに猛々しく、硬くなった怒張は、悠々とフェラを楽しんでいる。
「んんっ! ん~」
 何度目だろうか。
 白い火花が頭の奥で飛び散っている。
 自分では分からないが、ポタポタと涎をこぼしながら、潤んだ瞳は虚ろな光を浮かべながら、懸命に動き続けている白い身体。
 その時、突然、肩を掴まれた。
『え? なあに? 』
 一瞬、自分が何をしていたのかも分からなくなっている。
 そして、次の瞬間、見上げた目が院長の優しい視線をまともに見て、慌てて、涎を白い手で拭う。
 そんな姿をニッコリ見つめた院長は、薄い肩を軽く押して、智美の唇を抜き取っていく。
 ジュル ジュル ジュル
 口の中にたまった涎を下品な音を立てて、慌てて飲み込まなければならなかった。
 大きすぎる怒張のせいで、口の中の涎を飲み込むことができなかったのだ。
「智美に、プレゼントをあげよう」
 気が付けば、あまりにも惚けた顔だ。慌てて取り繕っている智美に、楽しそうに院長が言った。
「ぷれぜんと? 」
 一瞬、何を言われたのか理解できない。しかし、いわくありげな口調に「何かある」と直感した。
「この後、いよいよ、ホテルでヨガ教室の手伝いをしてもらいますが、もちろん、それは智美自身の最後の治療となる。いや、レッスンと言うべきかな」
「はい」
 それがどれほど淫らなモノとなるのか。覚悟はしていた。
 いや、子宮の奥が、キュンと疼いたのはとっくに限界を迎えた、智美の「オンナ」が喜びの声、そのものだ。
 しかし、快楽に夢中になっていない分だけ、瞬時に、理性は呼び起こされて、智美の白い貌に影が差す。
「智美は、自分をご主人が受け入れてくれるか心配だというのが、心配なのですね」
 コクリ
「そこで、智美と全く同じことをした女性にも、今日は、一緒に手伝いをして貰います」
「同じこと? 」
「その女性も、さっきの智美みたいに、皆さんの前で、したんですよ。つい、先月のことです」
「あれをした人を? 」
 さっきの公民館の痴態がフラッシュバックする。
 ひょっとして、その人がいれば智美は少しだけ気楽になると思ったのだろうか? 
 しかし、智美の頭に浮かんだ疑問は「違いますよ」と見抜かれる。
「その人がプレゼントというわけではありません」
 そして、怒張をすぐ目の前に物欲しげな、智美の黒髪をゆっくりと撫でる院長の温かい手。
「智美と同じように、皆さんの前で全てをさらけ出しました人は、理子さんと言います。ただ、ちょっとだけ、あなたと違っていたことがあります」
「違っていた? 」
「違っていたのはね、理子さんのご主人は、すべてを最前列でご覧になっていたのですよ」
「ひっ」
息をのんだ、その声は、怯えに似ていたはずだ。
 だが、恐怖だけの声ではなかったのも確かだった。
 思わず、
「ご主人が、見て、いた…… 」
 戦慄した。
「そう。最前列にいて、全てを生で見てました。しかも、見ていただけじゃないよ」
 その目を見ただけで、院長が何を言おうとしているのか、わかってしまう。
『あり得ない』
 そんなことがあって良いはず無かった。
 しかし、目を見開く智美の耳には、しっかりと聞こえてきた。
「コイツを」
 院長の手が、軽く触れただけで、智美は何をしなければならないか、素早く理解して、細い手を差し出す。
 クッと握った怒張は、指をはじき返しそうなほど逞しい。
 ヌルヌルにまみれた指は、すぐに愛撫の動きになる。
「そう、コイツをね、入れて、入れて、入れて、そして、また、入れた。智美と同じように、イキまくっている間、ご主人が、ずっと手を握っていたんだよ。ずっとね」
「ひぃ」
 そんなことあるわけがない。智美のパッチリした瞳は、驚きと言うよりも恐怖で見開かれる。
「しあわせそうだった」
「え? 」
 幸せ、と言った。確かに、幸せそうだったと言った……
 ドキン、ドキン、ドキン
 心臓の音が、部屋中に響くかわりに、ヌチャ、ヌチャと、粘液と涎にまみれた怒張を扱く音が、加速していく。
「智美もしてみたいか? 」
「そんなの、無理です」
 声を絞り出す。
 セックスするのはいい。できる、できない問よりも、もはや、するのは当たり前の前提だ。だが、夫がもしもこれを知ったら、そこにあるのは破滅だけだ。
『だって、彼は普通の人だもの。もしも、私が他の人に抱かれるだなんて知ったら…… 』
 怒り出す、いや、怒るなんてものじゃすまされないだろう。そんなこと当然だ。妻が他の男に抱かれるのを認める男なんて、いるとしても、特別な人に決まってる。
 目を落とす智美の頭に、厳かな声が降ってくる。
「本当に無理かな? だって、いつか、治療の話をしたとき、ご主人、すごく興奮したって言ってたじゃないの」
 ハッと目を上げた。
 優しい目が覗き込んでいた。
「それは…… 」
 治療とセックスは別のハズ…… いや、本当に、別なのだろうか。それにセックスも、治療の一つだし…… ううん、だけど、だめよ、そんなこと。
「ね? もしも、もしも、だよ? さっきの公民館や、今、こうしてるところ、そして、この後の姿を見て、ご主人が興奮してたら、智美は幸せなじゃないかな? 」
 そんなことないという言葉が反射的に浮かんだが、院長の深い瞳の色を見てしまうと、声にならなかった。
「理子さんは、幸せそうだった。そして、智美も、本当の自分を夫に受け入れて貰えるんだから、きっと幸せになる、そうだよね」
 頭の奥が痺れたようになっている。
 ドクン、ドクン、ドクン
 私、うらやましいの? その理子さんという人が? 
「だからね、プレゼントをあげる、この後行く部屋には、正体不明の男を置いておくよ。顔が分からないようにして」
 どういうこと?
「正体は分からないと言うことは、その男性は、君のご主人かも知れないってことだよ」
「まさか…… 」
 だって、この後に「何」をするのか、そう言われていなくても、今やハッキリと分かっている。そらくは、セックスだ。しかも、何人も男達が待っている。
 その全員を受け入れることになる。
 しかも、それは、普通のセックスですらないはずだ。 
 オンナとしての羞恥の限りをむさぼられ、さっきのように、いや、さっき以上に過激な交わりになる。
『そんなことをしちゃったら…… 』
 智美の頭に浮かぶのは、行為への拒否ではない。なにしろ、人前でオナニーまでしてしまった身だ。
 催眠にかけられてのこととはいえ、手の中に移動した膣で、全員のモノを受け入れてしまっている。
 確かに、肉体的には男を受け入れてはいなかったかもしれないが、あの瞬間、智美は確かに「男を受け入れた」のだ。
 体中にかけられた精液は、子宮の代わりに、心そのものに、ドクドクと注ぎ込まれたのと同じだった。
 そして、それを心から受け入れ、悦びさえあった。大勢の男達に犯されて、肉体以上に、精神が悦んでいたのだ。
 となれば、この後だってヨガの形を通したセックスになってしまうことに、今さら拒否はない。
『この後、向かうホテルで、何人でも。私、先生のおっしゃるままに、この身体に受け入れちゃうのよ』
 セックスするのは、こうなれば必然なのだ。
 だが「夫」がいるなら、それはまったく違う意味になってしまう。
 夫に見せたことがないほど乱れてしまうに決まっているのだ。
『もし、彼に見られたら…… 』
 そんなことを夫に許してもらえるはずがなかった。
『絶対にダメ。そんなこと、絶対にダメ…… 』
 拒否しなくてはならない。
 しかし「いやです」という言葉が出せなかった。
 キューンと子宮が、熱を帯びている。
『そんなの、ダメ…… でも…… 』
「おっと、言っておくけど、ウソは言わない。私のプレゼントは、あくまでも、正体不明の男ってだけだよ」
「どういうことですか? 」
「動けないようにしておくし、マスクで顔を隠すけど、声は出せる。だから、その男がご主人で、もしも、智美のことが許せなければ、止めることはできる」
「止められる…… 」
「ただし、その男が、智美のご主人かどうかは保証しない」
「保証しないというのは? 」
「智美は、男が声を出すまで、それがご主人かどうか絶対に確認できないと言うこと。ひょっとしたら、ご主人かも知れないし、ひょっとしたら、見知らぬ男かも知れないってことだ」
 思わせぶりな表情から、智美は、ピンときた。
「ひょっとして、それって、その人を夫と思え、ということなのですか? 」
 夫に見られているのだと意識させるつもりなのだ。
 そんなことをして、いったいどんな意味があるのか、わからない。
 ただ一つ、分かるのは「ひょっとして夫に見られているかも知れない」という思いは、智美に「けっして、乱れきってはならない」という拘束具となることだ。
 だが、それは、智美の淫乱を止めてくれるのだろうか?
 逆に、夫の視線を意識した瞬間、自分がとんでもなく、淫らになってしまいそうな、そんな予感が、生まれている。
「いいかな? 智美は、夫かも知れない男に見られながら、自分がどうなっても受け入れなさい。これが最後のレッスンだ。そして、それこそが幸せにつながるからね」
 意味が分からない。
 だが、今は分からなくても、きっと、何かがあるはずなのだ。
 今さら引き返すことなど考えることすらできないまま「お願いします」と頭を下げた。
 しかし、その頭が上げる前に、不意に立ち上がった院長は「こっちだ」と腕を引っ張って連れて行ったのは洗面台の前。
 大きな鏡だ。
「きゃっ、だ、だめっ」
 いきなり後ろから抱き上げられて、幼児がオシッコをするポーズで、大開脚させられたのだ。
 鏡に丸見えになる、ツルツルの秘部。
 あわてて目を逸らそうとすると「ちゃんと見なさい」という、思わぬほどに厳しい語調。
「ほら、見てみろ、智美。ご主人に見られるかもと思ったら、どうなった? 」
「あああ、いやあ、ダメです、おっしゃらないで」
 その瞬間、不意に、またもや膣が収縮してしまった。
「いやああ! 」
 ツーッと銀色に光る、秘液の涎がこぼれた。
「こんなになっている。うん。智美、全てを受け入れよう。智美は、この後ご主人に見てもらうんだ、いいね? 」
 さらにグッと広げられて、ツルツルのオ○○コは、紅の中身を露わにしてしまう。
「あぁああ」
 抱き上げられたまま、その瞬間、鋭い快感が、脳髄を突き抜けていった。
『ああ、私、本当は、彼に見てほしいんだ。あぁあ、彼が本当の私を見てくれたら…… 』
 その瞬間、この後に会う、理子という女性に嫉妬していた。
 他人を妬んだことなど、つゆほども無かった智美は、心底、その女性が妬ましかったのだ。
 そっと智美を洗面台に載せた院長は、次の瞬間、クリトリスを直撃してきた。
「ああああ! いくうう! 」
 鋭い針のような尖った快感が、身体を駆け抜けていった次の瞬間「あなた、見て」と叫んでいたのを、自分自身で意識できなかった。



その2 夫と似た人



 夜のとばりに溶け込んでしまったのか、外のさざめきは聞こえてこない。
 しかし、もはや外の世界は関係ないのだろう。
 ここは別世界だ。
 さっき知り合ったばかりの理子と二人、白い裸身に視線を浴びている。
取り囲んでいる男達も、裸だった。
『あぁ、熱いぃ、見られてる、私』
 視線が熱を帯びて突き刺さってくる。
 男達の息づかいまで伝わってくる距離は、視線を凶器に変えている。 
 すさまじい羞恥だ。
 しかし、智美を本当にドキドキさせているのは、部屋の端から見つめる「もう一人」の身体を刺し貫く視線だった。
 股間の部分だけを切り取られたシーツが被せられ、体つきは見えない。
 男のソコはツルツルになっていた。
 そして、信じられないほどに「小さく」縮こまっていた。
 まるで幼い子どものように。
 もしも「ヘア」が生えていれば、隠れてしまうほどに、小さい。
 はしたないと思うのだが、ソレをパッと見た瞬間、夫ではないと思った。比べてしまったのだ。明らかに夫は、こんなに小さくない。
『でも、雰囲気は、本当にピッタリよね』
 妻だからこそ感じることなのだろうか。
 不気味な全頭マスクを被っているため、顔の一部、どころか眼差しすら読み取れない。
 マスクもして、アソコだって、比べようもないほど小さい。背が同じくらだ、と言うだけで、外見は、夫と似ている所を見つける方が難しい。それなのに「存在感」が、ビックリするほど似ていると思ったのだ。
 だから「夫に見られているのだ」と思い込むことはできる。
『でも、違うわ、だって、彼なら、絶対、何か言うはずよ、ううん、こんなことをしているのを見たらきっと怒るに決まってる。で、でも、凄く似てるかも…… ううん、アレは違う人よ』
 何が何だか分からない。ただ、唯一見える「肉体」は、似て異なる。そのくせ、妻の直感は、それが夫だと告げている。
『分からないわ。あなたなの? ね? 私がこんなことをしているのに、怒らないの?あなた? ねえ! 』
 動かせぬ視線は「その人」ばかりを意識してしまう。
 だが、ともかく、今は夫に見られているのだと思う以外になかった。
『……信じるのよ、先生を。たとえ彼であっても、なくても、私がやるべきコトは、この役目を最後まで務めることだもの』
 ラブホテルの中で「夫に見られているのだと信じることが必要なのですよ」と言われていた。
 夫に見られながら、男達の視線を浴びて、そして……
 智美は、自分を振り返らざるを得ない。
『感じてる、私。やっぱり、とっても淫らだったんだ』
 さっき教わったとおり、重心に気をつけながら、視線を動かさない。
『でも、いいのよ、これで。だって、自分を受け入れることから始めなさいって、おっしゃっていたじゃない』
 それが、初めに先生に教えられたことだった。
 いや、初めでもあり、究極なことのかも知れない。
 それを身をもって体験することこそが今日の目的だった。
 昼間の公民館で、あれほどの辱めにあったのに、自分が淫らであることを認めるための試練なんだと思った瞬間から、不思議なほどスッキリと受け入れられた。
 二人っきりでラブホテルに入ったことも、受け入れてしまった自分がいる。
「それも、これも、ぜんぶ、私よ。わたし。大神田智美なのよ」
 全てを受け入れてしまえばいい。
「真面目な自分も、淫らな自分も、全てを受け入れていけばいいんだ。そうやっていけば、必ず、ご主人とも上手くいくから」
 だから、今日は、徹底して心にそれを刻むのだと先生は言った。
『自分を受け入れることはできる気がするけど…… 』
 チラッと「夫」を見ると、その視線には明らかな、欲情に満ちていた。
 男は、智美に欲情している。だが、果たして、こんな自分を夫が受け入れてくれるのだろうか?
『ダメよ。信じるのよ。あの人は彼。そのつもりでいるの。きっと、上手くいくわ』
 甘やかな予感。
 そこにいるのが本当の夫なのかどうか、もはやどうでもいいのかもしれない。智美にとっては、夫に見られている、と思える意識こそが全てなのだ。
 子宮の奥から流れてくる、ジーンとした重い快感が身体を蝕むのを意識させられていた。
 だが、心のどこかに、やはりオンナとしてのプライドがある。
 いくら治療のためであっても、やはり、淫らな自分を見られるのも、そして受け入れるのも、抵抗がある。
 智美の理性は、たえず「これ以上乱れてはならない」という信号を出し続けていた。
 オンナと理性の渦が、心と頭でグルグルと回り続けて苦しい。
『ダメっ。集中よ、集中。だって、私、ヨガのために来たんですもの』
 きっちりと、チャクラを意識しながら、前を見つめる。
 呼吸を整え、背筋で身体を支えながら、意識して背筋を伸ばす。
 軽く広げた腕も、伸ばした指も、腕の筋肉ではなく、背中で引っ張り上げることを意識する。
 体中の筋繊維一本ずつに、意識を伸ばす。
 基本通りだ。
 けれども、子宮から流れ出しているかのように、トロトロと溢れてくる自分を意識せずにはいられなかったのだ。
 チラッと「男」に視線を向けた瞬間、ドキンと心臓が自己主張。
『すごい。あんなに大きくなってる』
 驚くほど夫に似た男の怒張は、さっきまで、小指でも余りそうなほど縮こまっていたはずだった。しかし、今や、破裂しそうなほどに勃起して、見るからに硬そうだった。
『これだと、彼のに似てるけど、もっと大きいカモ。あん、いやん、何を考えているの、私ったら』
 夫のモノと無意識に比べずにいられない自分を、小さく叱ったのは、智美に残った最後の理性だったのだろう。
一方で、男の血走る目を見ようとしなかったのは、智美の心に潜んでいた「魔」だったのかもしれない。
その男が向けているのが、欲情や欲望の視線ではないのは、あまりにも明白すぎた。
 切ないまでの恋慕と嫉妬に狂い、瞬きする間も惜しんで、愛する妻を見つめる視線なのだ。
 もしも、男の視線に少しでも意識を差し向けていれば、これほどまでに狂乱した視線を作る出せるのが、いったい誰であるのか、悟らないわけがなかったのだ。
 そう。
 それは、智美が入ってくる前から、この部屋の片隅で、己の欲望に負けた後悔と、鮮烈なまでの切ない感情に、心と身体が引きちぎれんばかりでいたのは…… 
 智美の夫、その人だったのだ。





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