あなたのために 本文へジャンプ もう一つの「妻の治療」〜成美の場合〜 

その1 検査

 クリニックは住宅街の真ん中にあった。
『NAMIKAWA・BIRTH・CLINIC』
 可愛らしい字体で小さく書かれた看板が、計算されつくした緑と花に囲まれて、柔らかな日差しを浴びている。
 秋の気配を感じてはいても、まだまだ日中の暑さの名残はある。
 サラサラしたボブカットの髪を風に流しながら、成美は、クッと顔を斜めにして、微笑んでしまった。
 パッチリと開いた、その黒目がちの瞳には、いたずらな光をたたえて、興味深そうにあっちこっちを見る動きは、少女のようだ。
 センスの良い植え込み。レンガをあしらいながらも、歩きやすく、滑りにくく加工されたアプローチ。
 なんといっても、二階に入院施設まであるはずなのに、瀟洒なロッジ風の外見は、素敵だった。
「すご〜い。やっぱり評判のお医者さんって、外側までオシャレよね」
 きゃしゃな両手を、思わず口に当てながら、すごい、とまたつぶやいてしまった。
 東京からそれほど離れてはいないが、成美の住む街は田舎だ。
 暮らしやすいのは良いのだが、昔ながらの田舎じみた近所づきあいも未だに残っているから、ちょっとしたことでもウワサになってしまう。
 市立病院どころか、近くの街の病院では、どこで話が漏れてしまうかわからない。
 ネットでさんざん調べたあげく、自宅から遠く離れた、都会の小さなクリニックにやってきたのだ。
 ふわりとしたスカートに、わずかに風がはらむ。
 いざとなると、やっぱりためらいがあった。
『あ〜ん、やっぱり、やめたいけど、でも、ここまで、せっかく来たんだもの』
 柔らかに広がるスカートを選んだのは、ネットでのアドバイス通り。
 だが、どれほど調べて、どれほど自分に言い聞かせても、これから受ける「診察」を思えば、心が重くなるのは仕方がない。
 風邪引きを診てもらうのとは訳が違う。
 女にとって、もっとも抵抗感がある医者だろう。
 それだけに、アプローチのおしゃれな感じもうれしかったし、丁寧な応対の受付に、自分がこの病院を選んだのは間違ってなかったと、いちいち考えずにはいられない。
『えっと、最終生理は……』
 お腹が膨らみかけた、幸せそうな女性とは反対側の席に座って、問診カードを持ってペンを取る。
『何、これ? 難しすぎる。生理の血が多いかどうかなんて、人と比べたことがないし』
 何事も真面目に考える成美には、問診カードの数々の質問は、難しく感じてしまう。
『え? あ、これは簡単。性のパートナーは、生涯、旦那様だけだもん』
 思わず、ハートマークで囲みたくなって、慌てて、思いとどまる成美は、細い指で丁寧に「一人」のところに、丸をつけたのだ。
 そう。
 付き合ったことのある男性、というものは、夫だけなのだ。男性経験など、成美にとっては考えるまでもないことだった。
 しかし、成美の容姿も、性格も、男からしたら、魅力的過ぎるのを、さすがに、多少、自覚はしている。中学から、大学生になるまで、寄ってくる男は、数知れなかった。結婚してからは、さすがに減ったが、それであっても、ゼロにはならない辺りが、悩みとなるほどだ。
 なんといっても、すらっと手足の長い細身。肩の辺りは壊れそうなほど、華奢な作りで、ギュッと抱きしめると壊れそうなほどに細い。
 ただし、出るところが出ていて、プロポーションは文句ない。
 高い位置のヒップはクリンと見事な丸みを持って、細いウエストから張り出した尻に書けてのカーブは見事な女性美。尻のあたりの肉付きは、みっちりとした色気をたたえるまでになっている。
 人妻になってから、胸もCからDになって、形の良さは、さらに見事なのだ。桜色のままの乳首は、夫しか見てはいないが、ブラの補正に頼る必要もない、その形は、男だったら、一度はその手で揉んでみたいと思わせる。
 そして、なんと言っても、小さめの顔の整い方は、並ではない。
 くっきりとした目鼻立ちなのに、クリンとした黒目がちの大きな目が、少し垂れ目気味なのが男達の心をとろかしてしまう。
 これでは、成美自身が、どんなに避けようとしても、言い寄ってくる男が引きも切らないのが当然だっただろう。
 だが、おっちょこちょいで、お人好しのおっとりした性格であっても、古い躾けを受けた、真面目な成美だ。ゼミの先輩である夫を尊敬して、それ以来、夫一筋なのも、当然だったのだ。
 その成美が、今、真剣に、問診カードに取り組んでいる。
 リップを塗っただけでも、十分にみずみずしい唇から、思わず、ため息。
『ふう。これなら大学入試の方が、よっぽど簡単よね』
 ようやく書き終えた問診票を受付に出すと、後は待つばかり。その時になって、柔らかで、心を落ち着かせる香りがほのかに漂っているのに気が付いた。
『アロマまで、なのよね。すっご〜い。やっぱり人気のお医者様は違うのね〜』
 小さな待合室には、静かなクラッシックが流れ、居心地の良いソファと趣味の良いインテリアに囲まれていた。
『一応、ここまで、ネットの通りね。うん、大丈夫。きっと、うまくいくわ』
 ここの病院は、評判の良い初老の院長が、不妊治療から出産まで、一手に引き受けて、オシャレな上に家族的で親身だというコメントが多数付いていたのだ。
「すみません。せっかく予約をしていただいたのですが、急な分娩が入ってしまいまして。少しお時間をいただくことになりそうなのですが」
 動くのがどうしても億劫になる妊婦向けのやり方なのだろう。薄いピンクのナース服が、今ひとつ似合わない受付の看護師が、成美のすぐそばに跪いて、すまなそうに言ってきた。
「え? そうなんですか。えっと、しかたない……」
 ですよね、と言いかけたちょうどその時、反対側に座っていた妊婦が診察室に呼ばれたのだ。
『あれ? 今、診察、遅くなるって言ったのに、あの人は診察してもらえるわけ?』
 なるべく人と顔を合わせたくないから、もともと、夕方の一番遅い時間に予約しておいた。夫に、今日は同窓会だから、と言い訳してあっても、帰りの新幹線の時間もあるので、診察があまり遅くなっては困るのだ。
 とっさの成美の視線を見たのだろう。にこやかな笑みを浮かべつつも、言い訳のように受付の看護師が付け足した。
「あの、あちらの方は、若先生の方の診察でして」
「若先生?」
「院長先生の息子さんなんです。あ、若先生も丁寧な診察なんです。院長先生より診察が丁寧って、患者様から評判が良かったりもしますから」
 穏やかな笑みを浮かべて、その受付の看護師は、続けた。
「栗本様は今回、初診で検査だけですから、若先生の方がかえって良いかもしれませんね。この後の予約も入ってませんし、すぐに診察できますけど、いかがなさいますか?」
「あのぉ、院長先生は時間がかかりそうなんですか?」
「そうですね。分娩ですから、どのくらいかかるのかは、ちょっと。でも、今回の検査結果を基にして院長先生が次回までに治療方針を考えるわけですから、若先生でも、検査は同じですよ?」
 さりげない勧め方だったが、実は、受付係は、保育園へのお迎えが迫っていた。本日、最後の患者である成美を早く若先生に渡してしまえば、それで帰ることができるという事情に、成美が気がつくハズもない。
 むしろ、こっちが早く帰りたいのを察して、親切にしてくれたのだと勝手に思うのは育ちの良さゆえの、人の良さと言うべきかもしれない。
「それでは、若先生にお願いします」
「わかりました。では、そのようにご案内致しますね。あ、こちらで用意していただいても、よろしいですか?」
 いきなり、案内された。唐突な案内で、ドキドキしてしまったが、むしろ、改めて、緊張して待つよりも、良かったかもしれないと、成美はポジティブになれる。
「それでは、こちらで、ご用意くださいね」
 促されるままに、更衣室に入ったのだ。
 説明されたとおり、検査着に着替えようとして、思わず、そのロゴが目に入る。
「すご〜い。こんなのまで、ブランドなの?」
 ゆったりした更衣室は、待合室とは違い、流れているのはサティ。
 高い天井には、ポトスの小さな鉢が吊ってある。
 頭の高さを計算して吊ってあるのだろう。垂れ下がる葉も、邪魔にはならなかった。
 お腹が大きくなれば、足下が見えない。危なくないように、段差もないし、床にはモノが置かれないようになっていることにも、成美は気が付いていた。
「あ、こういうイスもあるんだぁ」
 ドーナッツ型のクッションがついたスツールがおいてあるのを目にとめたのだ。
 出産で会陰切開をしたばかりの女性用だというのを、成美は知っている。自分のお腹に、愛の結晶を授かる日が来るのを、チラッと祈らずにはいられない。
 だけれども、もちろん、現在は、身軽で、健康はばっちりの成美だ。今は座る必要などない。テキパキとスーツを脱いで検査着を袋から取り出して驚いたのは、薄いピンクの検査着は、有名なブランドだったということだ。
「こういう所まで、気を遣うから人気なのね。だから、他と違って、この病院は、スカートで行きましょう、って書いてなかったんだわ。それにしても、すっご〜い、特注かしら」
 自分ではブランドものを買い漁る趣味も、こだわりもないが、やはり細やかな気遣いをされるのは、うれしい。
 すっかり、気分良くなってから、そこに置かれた「着替えのご注意」をふと読むと、一気に、ブルーになった。
「あぁ、そうよね。仕方ないとは思うんだけど」
 イヤリングやネックレスのたぐいを外すのは良いとして、検査着を着るときは、何一つ身につけてはいけないのだ。婦人科の診察を考えてみれば、当たり前なのかもしれないが、いざ、目の前に迫ってしまえば、ショック以外の何物でもない。しかし、今さら躊躇しても仕方ない。思い切って、手早く着替えてしまう。
「わぁ、これって、やっぱり恥ずかしいかも」
 いくら趣味の良いものであっても、薄い検査着一枚では、まるで裸でいるのと同じ、いや、むしろ、その頼りない感触が、余計に心細さを誘う気がしてくる。
 いくら覚悟して来たとは言っても、すその方からふわりと上がる空気を感じてしまうと、羞恥がこみ上げて肩をすくませるのだ。
「見えちゃってる、よぉ」
 恐る恐る見下ろした胸は、お椀を伏せたような、と言うには少々形が良すぎるDカップの胸がくっきりと浮かび上がっている。
 しかも、その先端にはツンとした乳首が、うっすら浮き上がって見えるではないか。
「まあ、仕方ない、よ、ね?」
 自分自身に懸命に言い聞かせていないと折れてしまいそうだった。
 この後、出産経験のない女性の誰もが、羞恥におびえる「内診台」に上がるのは覚悟してきたつもりだった。
 この程度でブルーになってもと、自分を納得させるしかないのだとわかっている。
 さっきまでの浮かれ気分との落差は大きいが、しょせん、成美は、ペンションに来た客というわけでもない。
 愛する夫との子どもがいつまでも授からない原因を調べに来た「患者」なのだ。
 NAMIKAWA・BIRTH・CLINIC は、調べた限り、評判は最上級。実際、来て、見た雰囲気はとても良い感じだ。
『あなたぁ』
 優しい夫の顔を思い浮かべてしまう成美だった。
 来るときだって「不妊を調べる」だなんて、なんとなく言えなかった。
「大学時代の同窓会に行く」
 夫に、そんなウソまでついて、新幹線でやってきたのだ。こうなったら、もう後は医者に任せるしかないではないか。丁寧にたたんだスーツの下に、いかにも人妻らしい、パープルと黒の小さな縞の入った上下のおそろいをサッとしまい込むのと、静かなノックがされるのは同時だった。
「栗本様、お支度がよろしければ、診察に入れますが」
 控えめな物言いの受付係は、早く帰りたいと密かに焦っているのを成美は知らない。
「あ、は、はい。今、行きます」
 診察室は、奥のドアを開けるだけだった。
『あ、これならいいかも。こんな格好で、他人様の前に出られないものね』
「さ、こちらに。先生、栗本成美様です」
「こんにちは。初めまして」
 一瞬、医者が、何かに驚いたような気配を見せたので、逆に成美も驚いた。
『何? 私、何かヘンなの?』
 一瞬の凍り付いた時間を知ってか知らぬか、看護師がさりげなく医者の前に成美を誘導する。
「あの、よろしくお願いします」
「あ、いえ、あの、こ、こちらこそ。さ、お座りください」
 医者が深々と丁寧なお辞儀をするのにちょっと戸惑いながら、成美は、あいさつをしてから、表装がいやに豪華な丸イスに座り込む。
「あ、先生、本日、最後の患者様ですので」
「そう。じゃあ、丁寧に見させていただきますね」
 さっき成美が記入した問診表をさっと一瞥しながら、カルテに何かを書き込んでいる。
「あ、北沢さん、お疲れさま。……えっと、あ、じゃあ、これでけっこうですから」
 北沢と呼ばれた看護師に、子どもがいることも、保育園のお迎えの時間が迫っていることも、「若先生」は知っている。
「あ、はい。それでは」
 ペコリと頭を下げた看護師は、心の中で大感謝だ。院長だけの時は、そんなことはあり得ない。最後の患者が終わるまでイライラしながら待たなければならないところだ。後は自分がやるので、帰っていいと、気を遣ってくれた「若先生」に感謝しながら、看護師はいそいそと診察室のドアを閉ざした。
 成美は、と言えば、頼りない検査着の胸元をかき合わせるようにしながら、イスに座って、さりげなく周りを見回していたのだ。
 白衣に、大きなマスクをつけた医者が、さっと意外なほど分厚いカーテンを引くと、そこは、しっかりと区切られた空間。釣り方も工夫してあるのだろう、外部の音が一気に遮断されたようだ。
 徹底的にプライバシーに配慮してあるということだ。
 圧迫感のない柔らかなカーテンを引くと、まるで外の様子は分からなくなっていた。
『あ、ホント、この先生、けっこう若いかも』
 マスクから覗いたメガネの辺りの顔は、どう見ても30前。成美と同じくらいかもしれない。
 病院とは不思議な場所だ。
 裸の上に薄い衣一枚で、初対面の男性と膝をつき合わせて二人っきり、となれば、おびえるしかない状況になるはずなのが、相手が医者だと、緊張はあっても、恐怖はない。
 カーテンの外の遠い気配は、受付の女が、子どものお迎えに飛び出していったのを告げていたのだが、緊張している成美が気づくはずがなかった。受付係は慣れた手つきで「本日は終了いたしました」の可愛らしいコルクボードを入り口に掛けていってしまったのも、まして、分かるはずがなかった。
 かくして、分娩室から出てこられないスタッフ以外には、病院の中で二人っきりになってしまったのだが、それすら気が付く余裕もなかったのだ。
「すみませんね。お待たせしてしまって。今は、なかなか手不足でして」
 申し訳なさそうに言いながらも、成美の問診票を、慣れた手つきでチェックする医者。
「そういうわけで、ちょっともたつくかもしれませんけど、きちんと、丁寧に診察させていただきますね。どうぞ、よろしく」
「あ、よ、よろしくお願いします」
 ぴょこんと頭を下げた成美。
 人妻と言うよりは、少女のような素朴な反応をしてしまったのは、いくら天然気味の成美といえども、緊張をしているせいに違いない。しかし、その瞬間、少女とは似つかぬ、愛用しているスズランのコロンと人妻のオンナが、胸元から、わずかに香ったのを医者はマスク越しにさりげなく嗅いでいた。
「さて、では、さっそく診させていただきますね」
 聴診器を取り上げられれば、子どもでも、次に何をすべきかくらいは分かる。
『ああ、やっぱり見られちゃう。でも、しかたないのよ、あ〜んでも、恥ずかしいよぉ』
 心で悲鳴を上げつつも、細い指は勝手にひもをスッとほどいてしまう。
 しかし、パッと検査着の前を全開にできず、わずかに胸元を出しただけだったのは、羞恥の限界というヤツか。
 もちろん、近づけた聴診器でさりげなく促されれば、けっきょく、その形の良い胸をすっかりさらけ出すしかなかったのだが。
 恥ずかしくて医者の方を見られない。
 視線を外して、医者のデスクを見るともなしに見ている。
 もちろん、その分だけ医者は遠慮なしに、成美のまだ十分にピンクと言える乳首までじっくりと見つめることができるわけだ。
 慎重に聴診器を動かしながらも、成美のオッパイを見つめる目は、既に医者の目ではないのだが、視線を外している成美は気がつくはずはなかったのだ。 
『正面から見ると、やっぱり若かったわね。あ〜ん、なんか、時間かかってない? え? そこはさっき聴診器が当たってなかった? あれ、そこも、何度目?』
 もちろん、本気で疑っているわけでもない。だが、そうやって、そんなことをわざわざ、考えてしまわないと、時間がたつのが酷く遅く感じて、耐えられそうもないのだ。
『あれ?』
 ふと、何かが引っかかった。
 視線だけ動かして、チラッと医者の方を覗き見ると、メガネの奥の表情に、なぜか心臓がドキドキしてきた。
『なんか、エッチな目、してない?』
 思わず、一つ、深呼吸しながら、自分を落ち着かせようとした。
『何を考えてるの。お医者様じゃない。患者を診るのくらい、当たり前でしょ』
 そう、お医者様に、聴診器を当てられるなんてあたりまえなのだ。
『だけど、今まではブラなんて外さなかったもの』
 身体は折れるように細くても、健康そのものの成美だ。医者にかかったのは、遠い昔。胸もぺったんこの小学生時代だった。
 だから、医者に診てもらった記憶は、大学の健康診断の時くらいしかない。
『あの時は確か、ブラの上からだったのによね』
 今の格好は、ありえない。
 上から下まで全部脱いで、前あわせの頼りない、薄いピンクの検査着だけ。しかも、お互いの呼吸が分かるくらいの距離で、肌を見られているのだ。
『あ〜ん、何か、視線が刺さってくるみたい。彼以外に、胸なんて見られたことがなかったのにぃ』
 チラッと、そんなことを考えてしまったけど、聴診器を持ち上げた医者を目の前にして、逆らえるわけがない。
 ともかくも、胸を覆い隠したい衝動を抑えながら、懸命に耐えてはいたのだ。
 しかし、どうやら成美が極度の羞恥に、身体を縮こまらせているせいか、医者は頻りに首を振っては、胸の辺りに何度も、何度も聴診器を当ててくる。
 直接触られているわけではないが、ちょうど人肌になった金属がペタペタと触れて離れる感触は、独特だった。
 実は、女として微妙な感覚をもたらしているのだが、成美自身も、まだ分かってない。
 緊張ばかりが、成美の全てだった。そこに医者は丁寧な声で、指示してくる。
「あのぉ、そんなに緊張されると、ちょっと困るんで、はい、普通に息をしてくださ〜い。はい、ほら、深く息をして〜」
「は、はい」
 す〜 はぁ〜 す〜 はあ〜
「はい、ゆっくりと、ふかく息をしてくださいね〜」
 す〜 はぁ〜
「はい。いいですね〜 そんなに緊張しなくて良いんですからね〜 痛いことなんて、なんにもしませんからね〜 ほら、ゆっくり吸って、はい、ゆ〜っくりと息を吐いてくださ〜い」
「は、あ、は、はい」
 意識しようとしないようにすればするほど、胸の膨らみに押しつけられる聴診器の感触が気になってきていた。
 医者がやるから診察だが、その動きから連想してしまうのは、むしろ、いつか電車でされた悪質なチカンの動きそっくりで、意識せずにはいられないのだ。
 しかも、声と言い、目元と言い、「若先生」は、本当に若いらしいと分かって、緊張がほぐれるわけがなかったのだ。
『この先生、ひょっとして、私くらいでしょ? そんな男性に、胸をおもいっきり、露骨に見られちゃってるんだもん。あぁ、どうしよ』
 さっき、チラッと覗き見た、医者の目つきが、成美の頭の中で、どんどんイヤらしい姿に変貌していくのが止められないのだ。
「う〜ん。まだ、ちょっと、緊張気味ですよね〜 うん、大丈夫ですよ、リラックス、リラックス」
 あまりにも成美の緊張が激しかったせいだろう。
 Dカップの膨らみの中腹辺りに、ちょっと聴診器を当てては、また戻して、リラックス、リラックスと声を掛けては、少しだけ違う場所に当ててくる。
 ペタ、ペタ、ペタ。
 皮膚にくっついて、ぺったりとはがれていく感触は、あまりにも微妙すぎる感触なのだが、これだけ何度も繰り返されると、十分に、チリチリとした感触を覚えてしまう。
 その分だけ、余計に恥ずかしくなって、丸見えになってる乳首が、だんだんと硬くなっていく気がするのを、怖くて確認できない。
『あ〜ん、何か、ヘンな感じ。気のせいか、ホントにビミョウ〜に、風があたってるしぃ。ううん、ひょっとして、お医者様の息かもしれないけど、なんか、この微妙な感じが、あぁ、ダメよ、これ、あ〜ん、これ、だめぇ〜』
 いつの間にか、真っ赤になった顔を手で扇いだのは、緊張感がなくなったのではない。
 もはや、見られているということ自体を頭から飛ばしてしまうほど、羞恥で一杯一杯になってしまったのだ。
「う〜ん、大丈夫ですからね。あ、えっと、この後のエコーをしますからね。のんびりやりましょう」
「あ、はい、お願いします」
 もはや、相手の言うことなど聞く余裕はない。
 ペタ、ペタ、ペタと繰り返される微妙な感触は、乳首を完全に勃っているのがはっきりと分かるのだ。
 恥ずかしくって、今すぐ逃げ出したい自分を懸命に押さえるのでやっとだった。
「あの、あ、も、もう、あのぉ」
 逃げ出したい一心のつぶやきが功を奏したのか、ようやく医者が聴診器を離してくれた。
 もうその時には、はっきりと、お腹の下の方に、ずうんと重い、けれども、甘やかな、あの「兆し」が訪れていたのを、成美は感じてしまっていたのだ。
「じゃあ、最後。呼吸するところを聞きますからね。はい、さっきみたいに、息を吸って、吐いてってやりますから。ちょっと聴診器、当てますよぉ」
「は、はい」
 さっきよりも、成美の膝を脚の間に抱え込むように近寄った医者が囁いた。
「緊張しないで。重森さん。おっと、今は結婚して、栗本さんか。大丈夫。ちゃんと、いつもより丁寧に診察するからね、任せて」
 その小さな声に、成美は、心臓が止まるかと思った。
『何で私の旧姓を?』
 そんなことをどこにも書いたはずがなかった。
 とっさに医者の顔を見つめてしまう。メガネの奥で、細い目がわずかに笑った。
『誰? 知っている人?』
 固まってしまった成美に、小さな声が、続ける。
「あれ? 重森さん。忘れちゃった? ほら、ボクだよ」
「え?」
 パッとマスクを下げたその顔は、紛れもなく、大学時代に知った人だったのだ。
『あれ、あれ? これ、あ…… ここって、NAMIKAWA・BIRTH・CLINICって。な み か わ  ……なみかわ ……ナミカワ ……あ! 並河!』 
 頭の中で、イメージが急に浮かび上がってくる。
「な、み、か、わクン?」
 にっこりと医者が笑った。
 その笑顔は、覚えていた。
 無理矢理引っ張り出された合コンで知り合った、医大生。
 どうしてもという強引な頼みで、その後、二、三度お茶につきあったのだ。
 それが悪かったのか、その後、成美の帰りを待ち伏せしては、いくら断ってもしつこくプレゼント攻勢を掛けてくるのを、さんざん逃げ回ったことがある。
 あの「医学部の並河君」そのものだった。
『ウソ! いやああ!』
 何度もメールで口説かれたのを、とりつく島もない態度で相手にしなかった。あの「並河君」に、むき出しの胸を見られているのだ。
 とっさに悲鳴を上げなかったのは、成美の理性なのか、それとも、既に患者として身体をすっかり見られている弱みだったのか。
 むき出しの胸をとっさに隠そうとした瞬間、聴診器が伸ばされると、不思議なもので、隠せなくなってしまう。
『大学時代の知り合いがお医者様だなんて、悪夢に決まってるじゃない!』
 言葉をなくした成美に、淡々と聴診器を当てる仕草は紛れもなく、ドクターの仕草だというのは、成美を落ちつかせたのは事実だ。
『並河君って。ええ! うそ! あぁ、だけど、今は医者だし、私は患者だしぃ。いやらしい目で見たりは。そうよ、お医者様で、女の身体なんて見慣れて、なんとも……』
 内心パニックを起こしている成美に、淡々と聴診器が動き続けている。
「はい、息を吸って〜」
 息を吸うのを忘れたくらいビックリして、今すぐ逃げたしたくなっているのに、言われたとおりに、律儀に息を吸ってしまうのは、患者の立場でいたい願望なのだろう。
 す〜
「吐いて〜」
 は〜
 胸の弾力を微妙に楽しむ動きをしたあとで、破顔した並河は、調子に乗ってクニクニと聴診器で胸の感触を楽しんでいるのだが、成美は、それを意識するどころではない。
「うん、いいよ〜 身体の方は、健康、健康」
 医者のセリフのはずなのに、微妙な雰囲気がそこにあった気がした。
「よし、良いよぉ。はい、そのまま後ろ。はい、そのままぁ。ちょっと失礼」
「あっ」
 と思ったときには、上半身からふわりと検査着が下ろされていた。
 大学時代に言い寄ってきた男の前で、あっという間に上半身裸にされてしまったのだ。
 思わず、とっくにじろじろ見られてしまった胸の膨らみを、両手で隠していた。
 そんな背中に、淡々と当たる掌。
 打診という。
 トントンと、背中に置かれた掌を上から叩いてくるのだが、直接当てられている方の手は、必要以上に成美の皮膚に密着する。
 もちろん、贅肉一つない背中の感触を並河は堪能しているのだが、それを無意識のうちに意識しないようにしている成美だ。
 不妊の悩みは、誰かに相談しづらいワリに、本人にとっては深刻なもの。
 悩みに悩んで、一人でさんざん調べ抜いて、しかも、わざわざ夫にウソまでついて、遠くまで来て、診てもらったのだ。
 ところが、いざ医者の前に座って、すっかり胸を診られたのは、よりにもよって、大学時代の知り合いの男。
 それも、しつこくつきまとってきたのを袖にした相手。
 ある意味、一番嫌な相手に、医者と患者の関係で会ってしまったというわけだ。
『どうしよ』
 一刻も早く逃げ出したい。
 だが、この状態から逃げ出せば、大騒ぎにならないだろうか?
 知り合いだった人が医者だったから、で騒ぐのは、いかにも大げさで、子どもじみたことのようにも思えてしまう。
 その上、こういう場合、人は、不思議な心理に陥る。
「せっかく」の一言が、判断を迷わせるのだ。
 山で道に迷った人は、さんざんに、歩き続けてきたら、その道が間違っているとは思いたくない。
 最初なら引き返したのに、1時間も歩いてしまうと「せっかくここまで来たのだから」と考えて、引き返すことよりも、この先何とかなると根拠なく楽観しようとする。
 だから、余計に、山深くに迷い込むのだ。
 今の成美は、完全にその心理に陥っていた。
「せっかく、遠くまで来た」
「せっかく、診てもらいに来たお医者さん」
「せっかく、ここまで恥ずかしさを我慢した」
 いくつもの「せっかく」が、成美に「引き返す」決断をさせなくなっている。
 なにしろ、ここで認めれば、自分は単に、大学時代に言い寄ってきた男にオッパイを見られたことになってしまうではないか。
 そんなことは、成美が望んだことではなくとも、夫に言えるわけがなかった。
『もし、そうなら、不貞だもの』
 いささか古いしつけを受けた成美にとって、不貞という言葉は、妻として最も悪い言葉だった。
 ここで逃げ出せば、診てもらったと言うより、見せてしまったことにならないか。
 だけれど、患者のままなら、別に悪いことでもなんでもない。患者が医者に診られて何が悪いのだろう?
『そうよ、これは診察。恥ずかしいけど。お医者様が、たまたま、昔の知り合いだっただけ。でも、お医者様はお医者様よ。ヘンなことをしてるわけじゃないもん』
 あまりにも強い羞恥が、逆に成美に暗示を掛けてしまったのかもしれない。
 これ以上ないほどの恥ずかしさを感じているくせに、並河の言葉を、医者の言葉として受け入れてしまうしかなくなっていた。
 そう、普段ならば、おかしいと思えることも「必要なことだと」自分に言い聞かせなければならない成美になってしまったのだ。
 トン、トン、トン。
 スッと背中をさするような動きで、密着してる方の手が少しずれると、また、トントントン。
 その、ずらす瞬間が問題なのも、医者がヘンなのではなく、感じてしまう成美がイケナイのだと。
 育ちの良さを証明するかのように、いつも成美は背筋がピンとしている。だが、その伸ばした背中が、元々感じやすい体質なのは、夫だけが知っていること。
 それなのに、何度も何度も、トントントンとして、サッと撫で上げてくる掌は、短い動きだけれど愛撫と同じなのだ。
 それに、女としての屈辱感は隠せない。
 大学時代に、歯牙にも掛けなかった男に、好き放題に裸を見つめられ、自由に撫で回されるのを受け入れなくてはならないのだ。
「はい、いいね〜。う〜ん。実に久しぶりだね。まさか、会えるとは。生きてて良かったよ、ホント」
「あ、あの、もう?」
「はい、じゃあ、こっちにお願いしま〜す」
「あのぉ、あ、え、えっと、先生は、先生は、まだ終わらないのかしら」
「え? ああ、親父? あ、そりゃ、オレじゃ、いやだよね」
 そこには、苦笑混じりの声。
 なんだか自分だけが勝手にヘンな妄想をしているように感じてしまう。
「ごめんなさい。信頼してないわけじゃないけど」
 成美が感じている抵抗感に、理解を示すかのような口ぶりの並河に、おもわず、安心しかける成美だ。
「うんうん。わかるよ。じゃあ、今、向こうを見てくるからさ。次は腹部のエコーだから、その台に横になって、待っててよ」
 あまりにも、あっさりと、成美の希望を読んでくれて、逆に拍子抜けする。
「親父の手が空いてたら、代わるように頼んでくるからね。ちょっと待ってて」
 足取りも軽やかにカーテンをかき分けて出て行く並河の背中に、心からホッとする成美だ。
「なんだかんだ言っても、ちゃんとお医者様になったのね。こっちが気にし過ぎだったかな。気を悪くさせちゃったら、申し訳ないのだけど」
 少しだけ余裕を取り戻した成美は、自分があまりにも意識しすぎて、悪いことをしたかしらと反省までしながら、心も軽く台の上に横になる。
 だが、その頃、無事に赤ん坊を取り上げた父親が、息子に「後は任せて」とねぎらわれて、さっさと裏の自宅に引っ込もうとしていたのをしるよしもなかった。
 息子がやる気になってくれたのを心から喜んでいたのだ。
 それは、なるべく早く息子に仕事を覚えさせるために、最近は、なんでも、なるべく任せることにしてきたためでもある。
 その上、新生児を見守るために常駐する、たった一人のスタッフ以外に、並河はさわやかに言葉を掛けている。
「遅くまでご苦労様。今日はもう駆け込みはなさそうだし。診察室の方は、一人でゆっくりと片付けるから。帰れる時にはさっさと帰って、デートでもしておいでよ」
 産科に勤務していると、いつ呼び出されるのかも分からない。帰れるときにさっさと帰るのは、この科の看護師達に身についた第二の本能に近いのだ。
 さわやかな「優しい若先生」の思いやりに感謝しながら、そそくさと帰宅の用意をする看護師達が「とっくに診察の終わった」下を見に行こうとするはずはなかった。
「お疲れ様〜」
 プライベートの時間に頭がいっぱいになった看護師達に声を掛けてから、診察室に降りていく並河の足取りが、ひどくうれしそうなのを、誰も気がつくはずがなかった。 
「ごめんなさい。どうしても、手が離せないそうなのです」
 父親に交代を頼みに行った並河が、すまなそうな顔で現れると、「わがまま言ってごめんなさい」と成美は謝りさえしたのだ。
 人の良い成美のこと。それを疑うことなどできなかったし、むしろ、ワガママを言ってしまった気がして、酷く申し訳ない気持ちになったのだ。
 こうなると、真面目な成美が「それなら帰ります」と、今さら言えるはずがないことくらい、並河にとって計算のウチだった。
「出産は、すぐにはすまないから、お前がちゃんと診ろと言われてしまって。ごめん、至らないとは思いますが、心を込めて診察しますので、どうぞ我慢してください」
 帰りますかと聞かれるならともかく、真摯なお辞儀をされながらそう言われれば、成美でなくても、断れない。
 かくして、真っ赤な顔を背けながら、成美は言われたとおり、じっとして「患者」でいるしかないではないか。
 もちろん、検査着の前ははだけられ、腕は、言われたとおりに頭の後ろで組んでいる。
 台の上からも流れてしまう検査気の端を、押さえることもかなわぬまま、事実上、生まれたままの姿で台の上にいるわけだ。
「それじゃあ、お腹にジェルを塗って、エコーを当てますね」
 できるだけ丁寧な声を出している並河は、ガチガチに硬直している怒張が白衣にテントを作らないように、実は苦労していたのだ。
 すぐ目の前に、あれほどあこがれた女。
 しかも、思っていた通りの見事なオッパイと、そっとつつましげな黒い茂みまでもがむき出しになっている。
『思った通りのパイオツじゃん。あぁ、服の上から、何度想像したか、このオッパイを』
 学生時代に想像したよりも、幾分柔らかそうに、膨らんでいる。
『これ、これだよ。この身体を抱いてやろうって思ったのに。オレのことを見向きもしやがらなかったからな』
 外見はそこそこでも、金回りの良い並河は、決してモテない方ではない。その並河のプレゼント攻勢をあっさりと無視して、ごく普通の男とつきあい、結婚してしまった女。
 それが目の前で、無防備な裸を晒しているのだ。
 男として反応しないはずがない。 
『おぉ、乳首なんて、まだピンクじゃん。ダンナとそんなにやってないのか? いや、不妊の診察に来るくらいだ、排卵日のたんびに、ひぃひぃ言ってるに違いないぞぉ。
 成美が、顔を背けているのを良いことに、ピンクの乳首をじっくりと鑑賞しながら、並河は、慣れた手つきで、エコー装置の準備をしている。
『さっきだって、反応してたもんな』
 Cカップよりは、少し大きめのDとふんだ、形の良いオッパイの柔らかさを、そうとは知られないように注意しながらも、聴診器でたっぷりとイタズラしておいた。
 一生懸命、反応を隠そうとはしていたが、あの時は、ぜったいに感じていたはずだ。
 そして、背中をサラサラとイタズラしたときも、ヒクンヒクンと姿勢の良い背筋を反応させて、感じまくっていたのだ。
 敏感な体質に決まっていた。
『へへへ。もっともっと、やらせてもらうからな。オレのことを、あっさりと振ってくれた恨みは、ちゃんと果たさせてもらおうか』
 完全に逆恨みではあっても、それが可能な立場に立った並河の思考は暴走しても仕方がなかったのかもしれない。
 さすがに、力尽くでのレイプは考えもしなかったが、羞恥の限りを搾り取ってやろうと、シナリオをとっさに描いたのだ。
 それでも、表面上は、淡々とした医者のスタイルを崩さない。淡々とした動きの並河の手は、女の柔らかさを残しつつも引き締まった腹部に手順通り、ジェルを垂らしていく。
「すみませんね。ちょっと、冷たいでしょうけど」
「え、あ、いえ、大丈夫です」
 相変わらず目を合わせようとしないが、屈辱的な羞恥を感じているのは確かだろうと並河は満足している。
『ここでは、ちゃんと、オレを医者だと認めさせてやるからな。なぁに、時間はたっぷりある。お楽しみはこの後だからね、成美ちゃん』
 もはや、スタッフも帰したし、父親だって、自宅になっているスペースに戻ったはず。いつもなら、そのまま風呂に入って,くつろいいだ時間となる。唯一残っている、新生児担当のスタッフが「診療の終わった」診察室に降りてくるはずもなかった。
 つまりは、これから何をしようと、成美と二人っきり。しかも相手は患者だ。「診察のフリ」をする限り、なんでも思いのままできると言うことだった。
 今もまた、むき出しのままのオッパイの横にイスを置き、成美の横に引き寄せた画面で説明し始める。普通なら、説明をしてから検査の時だけ服を開けるが、ピンクの乳首も、尻も丸出しにまで開いてから、おもむろに説明をはじめたのだ。同じことをするのでも、手順をホンの少し入れ替えるだけで,患者の羞恥を何分の一にもできるし、こうして、何倍にもできるというのが,特に産科系のドクターの「技術」でもあるのだ。とは言え、普段なら,羞恥を減らす方向に気遣いすることしかしないのだが。
 もちろん、古い知り合いに、乳首も,ヘアもさらけ出した状態で説明を受けているのでは、羞恥の極みで、真っ赤になっている。こんな状態で、説明が頭に入るはずもない。
 さらに、道具もモニタも,ワザと成美の身体を挟んだ反対側に置いてある。だから、何かを取ろうとする度、あるいは、モニタを指さす度に、座ったままの並河の白衣の袖が、さりげなく、胸の頂点をサラサラとかすめるのは、計算のウチに入っている。チカンそのもののやり口だが、それを真面目な顔をしながら,しかも医学的な説明を早口で羅列しながらでは、とてもではないが、成美に抗うすべはない。
 かくして、乳首を袖でサラサラこすられ続けてしまう成美は、顔を赤くしながら、次第に、白い身体を、モジモジさせてしまうのだ。
 早くも、ピンと立った,ピンク色の乳首は、敏感な人妻の証拠なのかも知れない。
「さ、ジェルを塗ります。これは、プローブを密着させるためです。滑りも良くなりますけどね。ご夫婦なんかで、ローションとしても使えますよ」
 わざと冗談めかしたが、ローションという言葉には反応がない。
『やはり、そんなのは知らないんだね。きっと大人しい夫婦生活なんだろ』 
 マウスに似た、腹部エコー用のプローブを、軽く手で押さえながら、並河は心の中で嘲笑った。しかし、手の方は、ちゃくちゃくとジェルを塗りながら、エコーの画像をきちんと取りだしはじめた。
 このあたり、それなりに最近は手慣れては来ているのだ。惑う事なき医者の手つきと、ひそかな、怪しげな動きが同居している。左右にプローブを動かしながら、袖が巧みに、乳首をかするようにし続けていた。
『へへへ。意外に、こういうのに弱い女は弱いからな』 
 乳首をサッとかすめる動きの効果をよく知っている並河は、ちゃんと成美が感じてしまっているのを確認しながら、知らぬふりをして、説明する。
「はい、ここが、子宮になります。で、卵巣がこれとこれ。どっちもきれいな形をしてますね。わかります?」
 狭い場所で、折りたたんだ腕は、胸の膨らみの横をかすめるように、ちゃんと計算通りに座ったのだ。
 わずかに身じろぎをして、袖が当たることを気にしながらも、説明を聞く方を優先しなければならない成美だ。微妙に身体をずらして逃げようとしても、エコーのモニターを見ながら説明されている以上、肘の辺りがかすめてくるのから、完全に逃げるのは不可能なのだ。
「えぇ、あ、はい」
「きれいなカタチ、というのは大切でしてね。顔や胸のカタチがきれいというのとは、ワケが違うんです」
「あん、え、あ、ち、違うんですか?」
 ヒット。
 つつつーっと乳首をかすめた袖が、さっきまでよりも、長く,しかも絶妙の接触感で当たったのだろう。思わず反応してしまったのだ。
 なんとか誤魔化そうとしているが、その整った貌がみるみるうちに、真っ赤になっている。
 長い足が、ギュッと重ね合わされたのを、さりげなく見ている並河だ。
「もちろんです。なにか悪いところがあるとかならず、そこでカタチにでます。もちろん、後で細胞を取って確かめますけど、初見では、目立った悪いところはないですよ」
 内心とは裏腹に、真面目な顔で、説明を続ける。もちろん「診断」そのものは,正確に行ってはいる。カルテへの記載も極めて真面目だ。そういう部分が真面目であればあるほど、成美が抵抗できなくなるのを「医者」として並河は,よく知っているのだ。
「はい。このエコー映像は、このままコンピュータに納められますからね。後で親父と総合的に判断する材料になります」
「そうなんですか」
「はい、終了です。よく我慢しましたね。あ、ちょっと待って。そのまま、そのまま」
 終了、の声と同時に、慌てて検査着の前を合わせようとする動きを、そのまま、と止めると、横のティッシュを取る。
 わざと、身体の向こう側に用意しておいたティッシュを取るには、当然、手を伸ばすしかない。自分の白衣の袖が、またもや胸をスッとかすめるのは、仕方がないことなのだ。
「んっ」
 瞬間、息を詰めて、ヒクンと成美の肩が反応するのを横目に、並河はすっ、すっ、すっとジェルを拭い始めるのだ。
「あ、あの、それは、あの、自分で」
 自分でやります、と言う頃には、淡々と円を描くようにしてジェルをかき集める作業に入っていた。
「えっと、これは、後でジェルを粘膜に使って良いのか、検査を兼ねているので、ちょっと、じっとしていてくださいね。はい、ちょっと待ってくださ〜い」
 検査、の一言が混ざれば、それ以上何か言うわけにも行かない、成美は、台の横にするっと落ちている裾を持ったまま、前を閉じるに閉じられないまま、止まっている。
「う〜ん。ちょっと反応が敏感かな」
 思わず「そんなことない」と言おうとしてしまった成美は、さっき自分がエッチに反応してしまったことを言われてるかと思ったのだ。だが、すぐに自分の思い違いに気づかされる。
「ほら、見て。お腹。ちょっと赤くなってるでしょ。時々、過敏症の患者さんがいるんで、こういうのに注意しているんですよ」
「過敏症?」
「そう。こういうのは、99%の人には無害だけど、最近増えてる、化粧品なんかの過敏体質の人なんかもあって、さ。悪い所がないか見に来たのに、医者で、逆に、何か悪いことがあったりするといけないでしょ?」
 ここと、ここと、こっちも、と指さす先で、確かに、皮膚が少しだけ赤くなっている。
「ね? こういう所を見落とさないようにってのが必要なことなんだ」
 言われてみれば、赤くなっている気もするが、正直、成美にはどんな違いがあるか分からないほど微かだ。それでも「医者」に言われれば、ほとんどの素人は「そうかしら」と思ってしまうものだろう。もちろん、成美も、信じたのだ。
「化粧品とか、食べ物、それからホコリとかダニ。そういうのに、たぶん、アレルギーあるでしょ?」
「え? わかるんですか?」
 実は、さっきチェックした問診表には、アレルギー有り「ホコリ」「ダニ」に丸をつけてあったのだ。もちろん、ここに来てからの羞恥の連続で、そんなことはとっくに成美の頭から離れている。
「そりゃ、これだけはっきりと反応しているんだもの。ちょっと注意が必要だね。できれば、ジェルなしの方が、安心かなあ」
「そうなんだ…… なしでも、できるものなのですか?」
「うん。栗本さんも、協力してくれるでしょ? それなら、たぶん大丈夫。できれば、なるべく化学物質は使わない方が良いものね。はい、残りはご自分でお願いします」
 ティッシュの箱を差し出して、まるで、気を遣うように後ろを向いた並河に、少しだけホッとする成美だ。
「ええ、それはそうですね。自然な方が良いと思います」
 そそくさと、並河の拭き残しを拭いながら、答える成美に背中を向けたままの並河は、台の奥のカーテンをサッと開けながら、しゃちほこばった言葉で答えてくる。
「分かりました。じゃあ、患者様のご希望に添うカタチで次の検査に入りますね。それでは、さあ、こちらへ」
「え、あ、は、はい」
慌てて、検査着のひもを結ぶと、胸をかき抱くようにして立ち上がった。
「それじゃあ、一度、こっちのイスに座っていただけますか?」
「はい」
 ちょうど、歯医者のイスのようなカタチだった。
 次の検査、と言われて、強烈な嫌な予感がしていた成美だ。
『よかった。いよいよ、内診されるのかと思っちゃった』
 まだ出産したことがない女性が、産婦人科での羞恥の象徴と言えば、およそ、決まっている。脚をパックリと広げた形で寝そべって、好きでもない男の医者に、秘部をさらけ出し、奥まで、自由にいじくられるのに耐えねばならない内診台だ。恥ずかしがり屋の成美は、夫にすら明るいところではなるべく見せないようにしてきた。
 だが、内診されることは覚悟しなければ、不妊の検査などできないことも確かだ。来るべきものがとうとう、と身構えた成美にとって「歯医者のイス」は、意外に抵抗なく座れる。
「じゃ、念のためね」
 柔らかな青いナイロンベルトを取り出すと、ベリリとマジックテープをはがしながら、はい、っと目の前に見せてくる。
「え?」
「なんか、さ、ちょっと、栗本さんの反応が、激しいようなので、ちょっと止めさせてね」
 にっこり笑う眼鏡の奥に、別に危険を感じなかった。なんと言っても、医者がやるコトなのだ。それをとが目立てる必要など思いも付かない。
「あ、はい」
 成美には、一体何が起こったのか理解できない間に、ベリ、パッ、ベリ、パッパッと手際よく動く手が、次々としなやかなナイロンテープで腕を固定していく。
「あの、これって?」
「大丈夫。普通なら看護師が押さえるんだけど。一人でやる時はね。ヘタに動かれると逆に危険な時もあるから。ま、予防のためだよ」
 声までにこやかなにしながら、あっという間に、アーム部分に腕を止め、しなやかな足も、フットレストのようなそれぞれの支えに止められてしまった。
 気がつけば、手足を動かせぬようにイスに固定されてしまったのだ。
 これが、鎖やヒモで拘束されていたらパニックを起こすところだが、相手が医者で、しかも、一目で、それ用だとわかる道具を使われると、話は別。患者は、医者に何をされても、文句を言いにくいという心理が働いてしまうと言うわけだ。
 それに、固定されているとは言え、たかだかマジックテープで止めたベルト。いつでも外せるように見えるから、余計に、不安を与えないのだ。
 とはいえ、これは拘束するために作られたモノだった。成美は知るよしもないが、一度止められたマジックテープを力任せに剥がすのは、大の男であっても不可能なのだ。
 もちろん「歯医者用のイス」にゆったりと座った成美は、試したりはしなかったのだが。
「はい、じゃあ、これから内診に入りますからね〜」
 努めて淡々とした声の並河。
 まさか、この「歯医者のイス」が内診台だとは思わなかった成美は、ドキンとしたが、一方では「このイスでできるの?」と不思議な思いがしたのは確かなのだ。
 足も広がっていないし、仰向けでもないのだ。
「え、あ、え、あ、あの……」
「はい、背中が倒れます。ゆっくりなので、そのまま楽にしていてくださいね」 
 電動で動いたその背もたれは、どんどん後ろに倒れ、同時に座面が持ち上がる。 
 怖さを感じる速度ではないが、両手両脚をくくられたまま、自分の姿勢が変えられてしまうのを、成美は、声も出せず、両目を見開いて耐えるしかない。
「えっと、このまま内診……って、えっと、栗本さんの大事な部分を検査させていただきますが、やはり、いきなりじゃ抵抗ありますよね?」
 内診と言う言葉に、ズキンとした痛みに似たショックを覚えるのは、覚悟していたとは言え、やはり、当然のことだ。
 第一、今の成美にとっては「医者が知り合いだったから」とは別の理由で「今」内診をされたくないワケがあるのだ。
「あ、あ、えっと、あの」
「やっぱり、ちょっと抵抗あるみたいですね」
 真顔でのぞき込んでくる並河に、幾分ホッとする。
 ひょっとして「今日はやめておきましょう」という言葉が続くのではないかと。しかし、にっこり笑った並河は、口調まで、一転して砕けたものとなって成美のはかない望みを打ち砕いた。 
「さてと。じゃあ、これからゆっくり検査するからね。でも、いきなり内診だと抵抗あるみたいだから、先に乳がんを見るね。これなら、あんま、恥ずかしくないでしょ?」
「え? あ、あ、まあ、ええ」
「OK。じゃあ、先に、乳がんの検査をして。それから内診しようね」
 ともかくも、恥ずかしい所を見られるのを、少しでも遅くしたい一心だった。一度は覚悟したのに、救いがあるように見せて、後回しにする。
 それにすがってしまうのは当然だったのだ。
 言われた言葉の意味を、考えるよりも「後にする」という言葉だけが、この後の羞恥の瞬間を想像して張りつめきった頭には響いてしまったのだ。
「じゃあ、ちょっと、こちら、失礼しま〜す」
「え?」
 あっと思ったときには、腕をくくられたままのアーム部分が、小さなモーター音を響かせて動いていた。
 腕は、すぐ顔の横の位置まで動いて、まるで、手を上げて降伏した兵士のようなポーズになってしまう。
「あの、これって」
 脚が広がってないのは救いだが、手を動かせない不安は、やはり大きいのだ。
「心配しないで。普通は痛くもないんだけど、たまに、痛がったり、あの、ほら、まあ、成美さんは心配ないだろうけど、感じちゃって抵抗する人がいるからね、一応の用心」
「ど、どういうこと?」
「心配しないで。これでも、年間、500人以上のオッパイもアソコも見てる医者だよ。安心して。ちょっと恥ずかしいだろうけど、できる限り丁寧にやるからね」
 言いながら、並河の手は、サッとひもを外して、ふわりと検査着を広げてしまった。
「いやっ」
 小さく声が漏れてしまったが並河は聞かなかったフリ。
「ごめんなさいね、ワキのリンパ腺の方まで見ないといけないから」
 言葉は柔らかいが、開けた検査着を容赦なく外に引っ張って、まるでミカンの皮のように広げてしまった。
 白くてしなやかな人妻の身体は完全にむき出しにされたのだ。
 ぺろんと向かれたピンクの検査着の上で、形の良いバストも、黒い茂みも、丸い尻も、一切を隠せぬまでに広げられているのだ。普通の裸以上にむき出しにされた身体を、声もでないまま、成美は懸命に隠そうとするが、戒められた手足のせいで、はかない抵抗にしかならない。
「はい。じゃあ、ケンサ、入りま〜す」
 台の下のスイッチを入れた瞬間、天井のライトが強力なものに代わる。
「ぃや」
 小さな声が漏れたが、並河は躊躇しない。
「一応、指向性の光で、検査部分だけ照らしてるけど、胸部を照らしているんで、顔に近いでしょ。だから、あんまり明かりは見つめないでね」
 言われなくても、そんなことができないほどのまぶしさだ。
 強力なライトの下で、成美の贅肉一つない身体が浮かび上がるように、隅々まで照らされていた。
『くぅ〜 いやああ』
 目を閉じた成美は、心の中で悲鳴を上げている。
 思わず息が止まるほどの恥ずかしさ。
 手も足もベルトで止められて、全く隠すことのできない丸裸の身体を、大学時代に知っている男の前で照らし出されているのだ。
『いやあ…… 見られてる』
 医者の前で、当たり前と言えば当たり前なのかもしれないが、何もかもむき出しにされて、こんな明るい光に照らされ、見つめられる羞恥は、理屈ではないのだ。
『ああ、見られてる、全部、ああん、動けないのに』
 手足を戒められていることが、成美についついイケナイ想像をさせてしまうのだ。
『こんなの、見たことある。こんなふうにくくられてるの』
 夫にそんな趣味などないから、実際に、されたことがないが、こんな風に拘束されている写真くらいなら、いくら成美だって見たことがある。
『まるで、SMじゃない、これじゃあ』
 強烈な光に照らされた乳房。
 とっさに目をそらしてしまったが、自分の乳首が、すっかり硬く尖ってしまっていることくらい、気が付かないわけにはいかなかった。
 寒くても乳首はこうなることもある。
 だが、適温に調整された診察室で乳首を尖らせてしまっては、自分がさっきの診察で、密かにエッチな思いをしていたのを告白しているのも同じではないか。
『だって、こすれるんだもの。何回もぉ。感じたんじゃないもん。自然よぉ』
 自分に言い訳しても始まらないが、かといって、並河に自分の乳首の反応を「誤解」されるのは、恥ずかしい。かといって「自然と」とわざわざ言い出すのもヘンだった。
 第一、偶然、白衣が乳首をかする度に、感じてはいけない快感の電流が走ってしまったのを、何より、自分がよく知っていたのだ。
 かろうじて感じてしまったことを表に出さないようにはしたはずだが、乳首がキュンと尖ってしまったのは、ウソをつけない身体の真実であるの確かだった。
『いやあ、恥ずかしいよぉ』
 おまけに、両手両脚を動けないように固定されてしまったのは、なぜだか成美に思わぬ影響を与えていた。そうだとは思いたくないのだが、動くに動けぬ状態で、見られてはいけない相手に裸を見つめられると、なぜだか、子宮の奥が、熱くなってくるのだ。
『並河君に見られてるのに……』
 医者に、といくら考えようとしても、やはり大学時代の、成美を何度も口説いてきたあの顔が蘇ってくる。
 沸々と熱い泡が、子宮に生まれてくる気がした。
 恥ずかしさが沸騰して、何かが生まれている。その何かを意識したくなくても、拘束された裸を「男」にじっと見つめられているのを意識しないではいられない。いくら自分に「相手はお医者様よ」と言い聞かせても、無理なものは無理だった。
「う〜ん、なかなか、良い形だよぉ。重森さんのオッパイ。じゃあ、検査をするからね」
 悩乱しそうな成美の羞恥を、十分に知っている並河は、ワザと、旧姓で呼んだ。まるで大学時代を思い出せと、誘導するかのように。
『あぁ、違うぅ、相手は並河君じゃないの。お医者さんなのぉ、あ、あ、だ、け、ど』
 並河の狙ったとおりだ。相手が大学時代の知り合いだと意識してしまえば、意識するほど、恥ずかしさがこみ上げてきて、子宮の奥がキュンとしてしまう。
『いやあん。これじゃあ、SMの変態じゃない、私ったらぁ。動けないのよ、抵抗できない身体を見られて、ああ、でも、お腹の下が熱くなってるぅ。どうしよ……』
 この後自分がどうなってしまうのか。
『だめ、これじゃ、オカシクなっちゃう。違うのよ、ここは病院。相手はお医者さん。ヘンなことをしているんじゃないの。お医者さんにかかっているだけだもん』
 おぼろげに見えてきているものから目を背け、相手は医者だと呪文のように、自分に言い聞かせるしかない。
 そうなのだ。
 こうなってしまえば、医者と患者の関係なんだと言い聞かせる必要は、成美に生まれてしまうのだ。もはや、並河の術中にはまったも同然だった。これでは、並河が多少やり過ぎたとしても、成美自身が、それを否定するしかなくなったのだ。
 自分が医者ではなく、「男」に見られていると思ってしまえば、困るのは、成美本人になってしまうからだ。
 成美の羞恥心の行方を、内心、舌なめずりしながら見つめているが、淡々と「医者」の顔は崩さない。あくまでも「これは検査ですよ」と言わんばかりに。
『まあ、たっぷりと恥ずかしい姿を見せてもらうけどね』
 白衣の下で、叩くと金属音がしそうなほど硬くなってしまった怒張を、あわよくば、女体にねじ込んでやろうと思っている。そのためには、徹底的に追い込む必要があるのだ。マスクで覆った医者の顔の下には、己の欲望のために、獲物を追い込もうとする狩人がいた。
 しかし、そんなことはおくびにも出さずに淡々とした口調は、誠実な医師そのものだ。
「くすぐったかったり、痛いときもあるけど、我慢してくださいね」
 えっ? と言う顔で並河を見た成美は頬がピンク色だ。本来、パッチリしている瞳が快感の予兆で潤み始めているのを並河は素早く見抜いた。
 まるで、それを見抜かれるのを恐れたかのように、慌てて視線をそらす仕草は、大学時代のままに、恥ずかしがり屋なのだとニヤリとさせられた。
 そんな成美の反応に、十分な手応えを感じながら、追い込む計算を着々と立てている。
「たまにね、すっごく、エッチな人だと感じちゃうこともあるけど、まあ、真面目な重森さんだもの、そんな風に、エッチに感じたりはしないよね?」
「そんなことは、大丈夫…… です」
 否定する姿そのものが、既に、成美の内面の告白に等しい。感じ始めているのだ。もちろん、自信はあった。
「安心したよ。そうだよね。重森さんは真面目だもの。ふしだらな女性のように,ちゃんとした診察なのに感じちゃったりするようなことはないって信じてるよ」
 どす黒い心を持ちながらも、その口調は、心から誠実そうな医師の声を出せるのだ。
「あ、でもさ」
「はい?」
「でも、ね、重森さんも人妻でしょ? もしも、診察の最中にエッチになっちゃったら、素直に言ってよね? 僕は医者だから守秘義務があるんで、絶対に,成美ちゃんが,本当はエッチな人だったって、誰にも喋らないから、安心してよ」
「だ、大丈夫です。そんなことは、絶対に、ありませんから」
 心細げに、しかし、懸命に声を出して否定するしかないのだ。
「ごめんごめん。一応、ちゃんと確認しないと,こういうデリケートな診察をする医者としては、心配だからね。重森さんなら,万が一にもそんなことはないって,安心してるから。じゃあ、診察にかかりますね」
 誠実な医師の顔が、ゆっくりと頷いて見せていた。 
『ふふふ。オレのテクで、感じないとしたら、不感症の治療が必要だぜ? だけど、あらかじめ、こう言っておけば、本格的に感じちゃっても、それは自分がエッチなせいだって思ってくれるからな』
 すくなくとも、並河の手が,イヤらしく動いても、それを「エッチだ」と指摘はしにくくなったわけだ。つまり、この会話が布石になるのだ。
『これで、この後、いくら感じても「エッチだから、やめて」とは言えなくなったよな? さもないと、成美ちゃがエッチっだって,オレが信じてしまうわけだから、さ」
 計算通りに進んでいる。
 止める者が来ることもない。
 やめて、と言うこともできない。
『たっぷりとな。オレの気が済むまで、いや、成美ちゃんの気がイクまでか。いや、一度イッてしまえば、後はオレの…… けけけ』
 悪魔の笑い声を心の中で響かせながら、顔は,医師のまま。さりげなく、無駄な肉一つない、しなやか腹に、右手を置く。
 すべすべした肌の奥に、熱いモノが生まれている予感が伝わってくる気がした。
「ところで、重森さんは、自分の身体が分かってるかな? ほら、この辺りが子宮、で卵巣が、ここ。分かる?」
「え、あ、は、はい」
「女性は、意外に自分の大事な臓器の場所を知らないんだよね。卵巣から、こういうカーブを描いて、一つおきに、ほらこの二つの卵巣から、交互に,排卵されてるとかね」
「一月おき?」
「そうだよ。たとえば、先月、こっちからなら、今月はこっち。ほら、そうすると、毎月ってことになるだろ?」
「あ、そうなんですね」
「うん、女性は、意外に、そういう基本的なことも知らないんですよね。こうして子宮に,毎月排卵されているけど、それが交互とか」
 すべすべのお腹の手触りを存分に楽しみながら、内部の位置を説明すれば、もはや、医者の説明を聞く患者としてしか、成美は反応できない。
『よしよし、完璧。これならどう触っても、患者さんだよ〜、成美ちゃんは』
 言葉は淡々としながら、こうやって卵管が、子宮が、そして、膣の奥は、この辺りで、とサラサラと指先で撫で回す。その指先が茂みのすぐそばまで来ても、成美は身じろぎすることしかできないのだ。
 いや、その身じろぎすら,実は指を避けているのではない。ザワザワと胎内に起きかけている反応を,懸命に押し殺しているのだ。
『あん、なに、これぇ、ヘンなことしてるわけじゃないの。説明してくださっているのよ。案、だ、だめぇ、ヘンなこと考えちゃダメぇ』
 だが、どんなに自分の身体を叱りつけても、サラサラとした手が,説明しながらあちこちを辿る度に、腰の奥の方がザワザワしてきてしまうのだ
 もちろん、並河は、そんなことを見抜きながら、既に、愛撫そのものの手つきで触っている。
『へへへ、ちゃんと感じてるね、わかってるよ、成美ちゃん』
 さっき、敏感な乳首が反応してしまっているのだ。そんな身体を、こうしてじっくりとナデナデしていけば、敏感な人妻が感じてしまうのも本当は当たり前なのだ。
「あれ? どうかした? 熱いかな?」
「え、いえ、だ、大丈夫です」
「そう? あ、ここがそけい部のリンパ腺ね。うん、ここも異常は、なさそうだ」
 指先がさりげなく、脚の付け根から、大陰唇のすぐ横まで、サラサラとなで下ろす。
「くっ」
 微妙な場所に触れられて、白い太股にピクンと力が入った。その後も、指先が刷毛で掃くように動くのに合わせて、尻がもじもじと動くのを見逃さなかった。
『くくっ、無理しちゃって、どうだい? オレのテク。さ、ここから本格的だよ』
 両手で、腰を軽く掴むようにしながら、そのまま、スッ,スッと撫で上げていく。いかにも当たり前という表情をしているが、これは愛撫以外の何物でもない。
『ほら? 腰の横、ここを撫で上げたら、これ、どうだ? 』
 スッ、スッ、スッ
 ギュッと目が閉じられたのは、くすぐったさ寸前の快感を、とっさに、こらえたからに違いなかった。
「じゃ、お腹の中の位置は分かったかな? ちゃんと自分のお腹の中の位置、分かっていた方が、今後のためには良いものね」
「え、あ、あ、は、はい。ありがとうございます」
「うん。いやあ、こんなに肌もきれいだし、オッパイも良いし。これじゃ、感じやすくて、大変かもね。じゃ、検査するよ。ね、成美みちゃん」
「あ、は、はい。お願いします」
 とっさに「お願い」してしまった成美だが、既に半ばパニックだった。自分が「成美ちゃん」と呼ばれたことにも気付かないほどだ。
『ダメ、感じたら、絶対に。そうよ、私、エッチじゃないもん、感じたりなんてしないもん』
 必死の思いで、自分に言い聞かせながらも、自分がどこまで「普通」でいられるのか、不安で一杯だ。
「じゃあ、はい、胸からだよ。ほら、乳がんの75%は、この部分に出るからね」
 成美の動転を知らぬフリして、並河は、そろえた指先で、そっと脇のすぐそばから乳房の膨らみを、スッと撫で上げていく。
『うっ』
 成美の身体を電流が突き抜けた。
「あれ? ちょっと、くすぐったいかなぁ?」
「え、いえ、あ、えっと、そう、ちょっと、くすぐったくて」
「ごめんね。乳がんの検査は、これをしないといけないんだ。くすぐったくっても、我慢してね?」
 そう言いながらも、そろえた指先は、脇の下のすぐしたから、乳首のすぐそばまで、サラサラさらっと撫で上げている。
『あぅっ』
 何度も、何度も。何度も。
 指先が、サラサラとなで上げては、少しずつ、乳首を中心に時計と反対方向にずらして、繰り返されている。
 歯を食いしばっていた。
「指先に、しこりが触れないか、少しずつ角度を変えて確かめてるからね。これは、微妙な手触りが頼りなので,ちょっと集中して診察するよ」
「は、あ、うっ、あ、は、はい」
 成美は、もう目を開けていられない。
 肩から乳首にかけての場所は、敏感な乳房の中でも特に敏感な場所だ。
 思わずこみ上げてくる甘い電流は、唇を噛みしめてこらえるしかなかった。
『だめぇ。これ検査なんだからぁ。そんな、こんなの、ああ、だめぇ、しっかりするのよ、私!』
 スッ、スッ、スッ。
「うっ」
「くすぐったいよね、我慢だよぉ、我慢」
 今度は、掌で軽い摩擦を与えるように撫で上げていく。
 サラサラサラ。
 微妙に振動が加わった、その手は、まさに愛撫そのものだ。しかも、なまじ、ギュッと握られるよりも、遙かに焦れったくも、甘い感触なのだ。
『ダメぇ、こんなことしてたら、私、オカシクなっちゃうかも、あぁ、早く、早く終わって』
 心の中で成美が絶叫しているのを、嘲笑うように、その手が何度も、何度も撫で上げてくるのだ。
『ああ、だめぇ、なに、こ、これぇ。ち、違うのよぉ、今、してるの彼じゃないのよ、だめ! ヘンになったら! ダメぇ』
 夫の愛撫を思い起こしている段階で、既に、成美は負けていたのかもしれない。ただの検査なら「これは、夫の手じゃない」などと思う必要すらないのだから。
『こんなに明るい所なのよ? 私、ダメよ、意識しちゃダメなんだから!』
 サラサラとなで上げられる胸を照らしている強い光は、閉じた瞳にすら、明るさを感じさせている。何一つ余すところなく映し出される光の下で、重力に負けず、形の崩れない乳房は、何度も何度も、そろえた指が掃くように、振動する掌がサラサラと、繰り返し、繰り返し、撫で上げ続けている。
 そのたびに、胸から、刃のように尖った電流が、子宮と脳に流れてしまうのだ。 
 電流は、痛みでも、くすぐったさでも、そして、もちろん羞恥だけではない甘やかな香りがするものなのだと思い知らされていた。
 真っ直ぐ伸びた脚は、成美が意識しないうちに、頻りにこすりあわされるように、微妙な動きを始めていた。
 もちろん、並河は、それを見逃すはずがない。
『ふふふ。成美ちゃん、だいぶ、感度が良いじゃん。ま、一応ちゃんと検査もして上げるからね。後は、サービスだよ、サービス、け、け、け』
 心の中で、黒いオオカミの笑いをしながら、淡々と乳房を「検査」し続ける。ゆっくりと、だが、決して手を休めない。その「愛撫」が確実に効果が出ているのを見抜いているのだ。
 角度を少しずつ変えて、今は、鎖骨のすぐ下からになりつつある。サラサラとなで上げ、さささ、と刷毛を動かすようにして撫で下ろす動きは、なめらかだった。
 もちろん、本来の検査なら、こんな動きをするはずもない。場所だって、もう少し下からで十分だ。だが、やせ形で、胸がきっちりと出ているタイプの成美だったら、どの辺りが性感帯か見当がついてしまう以上、ここを外すわけにはいかないのだ。
「くっ、ぅう」
 声が漏れた瞬間も、手を止めない並河だが、わざと、心配な声を作ってみせる。
「あ、ひょっとして、かなりくすぐったいかな? ごめんね〜 でも、もうちょっと我慢してね。すぐ終わるからねえ。くすぐったかったら、声を出していいから、我慢してね」
 並河に知られまいと、成美は、必死の思いで、快感のうめきを我慢しているのだろう。
『へへへ。すっかり感じてるね? そのくらい、わかってるから、さ。かなり感じてるのに、声を我慢してるんだよね〜 く、く、く、でも、ムダだよぉ。だって、成美みちゃんが声を出すまで、ずっと続けるんだから、さ』
 イヤラシい声を出させれば、この後、成美の崩壊はずっと早くなるはずだ。学生時代から、女に不自由してこなかった並河だけに、自分のテクニックは自信があるのだ。むしろ、成美はよく我慢している方だと、感心するほどだ。
「くすぐったいでしょ? 良いんだよ、声を出した方が耐えられるもんね。良いよ、くすぐったいときには声を出して」
「あ、くっ、はぅ」
 微妙に切なさの混じった声が、成美の唇から漏れ始めている。
 心から同情的な声を出しながらも、初めは診察九割だったその手の動きが、もはや、愛撫しかしていない。
 端から見ても、愛撫にしかみえない手つきで、見事な胸を触り続けている。しかし、並河が「うん、この位置ではしこりは見当たらないね」とうそぶき続けている間は「診察」と言うことになるのだ。
「あ、は、はい」
 苦悶の表情に近いものを浮かべながら、白い脚はビミョウにウネウネと動き続けている。
「くすぐったいみたいだね〜 ゴメンね。ちゃんと診察しないと、いくら知り合いでも、診察に手心を加えるわけにはイカないからさ。でも、くすぐったかったら、遠慮泣く声を出して良いからね。仕方ないことなんだから、さ」
「うっ、はっ、ん、だ、大丈夫、です」
 それは、成美にとって「診察」という名の、終わりのない快楽の拷問そのものだった。
『さてと、そろそろかな? なにしろ、一度声を出しちまえば、後は、止まんないんだよね、オンナってのは』
 成美がくすぐったがっているのだと、ワザと誤解した振りを続けている。
していた。「くすぐったくて声を出しているんだ」と思い込んでるフリをしてやれば、安心するはずなのだ。逃げ道を作ってやれば、今は懸命に我慢している声も、安心して漏らしてしまうに違いなかった。一度声を漏らしてしまえば、その後、我慢するのは難しいのだ。
 この辺りの女の心理を読むことくらい、大学時代に遊ぶ相手には不自由しなかった並河にとっては簡単なことだ。まして、成美は、結婚した後も、そしてその前も、どうやら男関係はダンナだけだというのは本当なのだろう。
「問診票」の、男性との性交渉についての項目をしっかりチェックしてある。
 性病の危険性や妊娠の可能性をチェックするための項目だが、成美は「男性経験は特定のパートナー(夫)だけ」に丸をつけていた。
 こういうプライベートな内容も、医者に来れば、普通は本当のことを書いてしまうものなのだ。
『おそらく、ダンナ以外、触れた男もいないってのは本当だろうし、そのダンナも、こんなすばらしい身体を、それほど開発してないみたいだな』
 検査の名の下に、胸への愛撫を、好き放題にしながら、女体の反応を心から楽しんでいる並河だ。
『下手すりゃ、ダンナ以外、直に、このオマンコを、いや、下手すりゃ、このオッパイだって、まともに触ったヤツは、いないんじゃねーか?』 
 懸命に我慢しようとしても、反応してしまう成美は、既にもじもじと脚を組み、頻りにこすり合わせている。
 胸で感じさせられているオンナが、オマンコへの刺激を自分で補っている仕草だった。
「はい、くすぐったくてごめんね〜 でも、丁寧に見てるからね。もうちょっと我慢して。はい。くすぐったかったら声を出して良いんだよぉ、ほら、声を出して」
 サラサラサラ。
 乳房の谷間から、一気に、乳房を撫で上げながら、指をバイブレーションさせた。
「はふっ! あっ」
 深く潜ってから、水面に顔を出した人のように、一気に漏れてしまった。
 ため息と、そして甘い声。
 効いただけで、男の欲望をそそる声だった。
 調子づいたように、指先のバイブレーションは、さらに加速する。
「あ、く、ああぁ」
「大丈夫。くすぐったいよねぇ、我慢しないで良いよぉ。大丈夫、声は外には全く聞こえないから、ね、大丈夫、医者は、患者さんの秘密を守る義務があるからね」
「ああ、あ、あ、はふううぅ、あん、あ、く、くすぐったくてぇ、ああ、くぅう」
「大丈夫、患者さんの秘密は、どんな場合でも、絶対に守るのが医師の務めだよ。安心して。ほら、良いんだよ、安心して声を出して、くすぐったいんだもの、仕方ないんだよ」
 くすぐったさにもだえているのなら、そんなこと、秘密も何もないはずだ。だが、人妻にとって「秘密を守る」と言われ続ければ、それは確実に効果を出すのを並河は知っている。
 そうやって、バイト先の人妻を何人もモノにしてきた並河だ。
「はい、くすぐったいねぇ、大丈夫、誰にも知られないからね。ほら、これ、どう、大丈夫? こっちはどう? 大丈夫? こうしたら、くすぐったい? 大丈夫?」
「はう、あ、あん、あぁう、あ、あ」
 まるで「くすぐったい部分」を探し出しているかのように、あっちを撫で上げ、こっちを撫で上げ、指をバイブレーションさせていく。もちろん、その全ては、女体に克明な快感を刻むための愛撫なのだ。
「あっ、んっ、はぁう、あぅ、あぁあ」
 こうなってしまえば、甘やかな声を一度漏らしてしまった以上、やはり成美の声は止まらなくなっていた。
 催眠でも掛けられてしまったように、大丈夫? くすぐったくない? と囁かれる度に、甘やかな声が素直に出てしまう。しかし、成美は懸命に押し隠しているつもりでも、もはや、それは、誰が聞いても、感じたオンナの嬌声そのものだった。
 ささささっと、そろえた指が、柔らか乳房のカーブに沿って、こすり上げると、つややかな声が、まったく我慢できないのだ。
「あぅ、ひっ、あっ、はうう、あうぃ、あっ、くっ……」
 すそ野から、乳首のすぐそばまで。
 乳首に近づくにつれて、微妙に女体が緊張していくのは、そのまま指先が上がって、乳首への強烈な快感が来るのを、無意識に想像しているに違いない。
『へへへ、まだまだだよ〜、でも、だいぶ、焦らされてるでしょ』
 もはや、撫で上げる場所もランダムになり、時には掌全体の振動で、乳房そのものを震えさせながら、その表面をサラサラと撫で回す動きまでみせている。
 見る者が見れば、こんな「検査」などありえなかった。いや、素直に見れば、その動きは、じっくりと愛撫の反応を楽しんでいる動きにしかみえないだろう。
 指先の微妙な動きのままに、こらえきれない声を漏らしてしまう人妻の裸身を、並河は肉食獣の目で見定めている。
 しなやかな身体を微妙にくねらせるのは、捕食者の手から逃れようとする本能なのか。だが、固定された手足は、しっかりと成美の動きを封じていた。
「はうぅ、あうっ、くぅう」
 くなくなと顔を振り立てながら、それでも成美は必死にこらえていたのだ。
『ダメよ! ぜったいに! 感じちゃダメ! 感じてるのを気づかれちゃダメなの』
 だが夫に育まれてきた人妻の性感は、あまりに豊かすぎる。
 今にも血を流しそうなほどのにかみしめている唇なのに、そろえた指先が、サラサラと乳首そばで撫で上げていく度に、声を漏らしてしまうのを止められない。もはや、無意識の中で、乳首への、くっきりとした快感を人妻の身体が期待してしまているのは、もはや隠せないはずだ。
 いったん手を離すと、まるで、続きをねだるように、身体が震えたのを見逃してない。機は熟したようだ。
「さあ、乳腺周りは、大丈夫そうだね」
 並河は、医者の口調でそう言った。
「え? あ、は、はい」
 まるで、夢遊病患者のように、うつろな返事。
 チャンスだった。
「じゃあ、次は、乳腺分泌物を見ますね」
「あ、はぁい」
「これは、乳腺を絞り上げていって、乳頭から分泌物が出ないかどうかのチェックだよ。痛かったりするかもしれないけど、良いかな? 続けて」
「あぁ、はい」
 もはや、何を拒めるはずもないが、そうやって確認してやることで、並河がしていることは医療なのだと、印象づける作戦だ。
 もちろん、これから何をされるのか、言葉で理解できるはずもない。感じる姿を見せてしまわないようにするだけで精一杯なのを、並河は分かっているのだ。
「あ、そうだ。これって、オッパイを絞り上げちゃうことになるからさ、たまに、エッチな人だと、感じちゃう患者さんもいるけど、心配しないでね」
「え? なに?」
 よく分からぬながらも「感じる」という言葉に反応した成美の心が身構える前に、並河の両手は、形の良いオッパイをすそ野からギュッと絞るようにもみ上げていたのだ。
「あぁあん!」
 白い閃光が成美の頭の中で強烈にきらめいた。
 さんざんに焦らされた人妻が、その動きにこらえられるわけがなかったのだ。
 恥ずかしい、という言葉を思い出す前に、成美の唇は、はっきりと感じてしまったオンナの羞恥の声を噴きこぼしていたのだ。
 焦らしに焦らされて、オリのようにたまった快感が、一気に襲ってきていた。
「あああ!」
 柔らかな乳房を絞り上げ、そのまま一気にピンクの乳首まで絞り上げてきたのだ。
「あぁあん!」
 自分でも、何が起きているのか分からなかった。
 ただ、さんざんにモヤモヤとさせられた胸に、突然、激しくも甘やかな、鋭い快感が与えられたということだけは、頭ではなく、子宮で理解させられていた。
 弾けた。
 そんな感じだ。それが決して小さくはないオーガズムなのだと、理性はわかっているが、羞恥で一杯の感情は、それを決して認めることなどできない。
『これは検査なのよ?』
 それなのに、生まれて初めて、夫以外の他人に見られながら、しかも、胸だけでイッてしまったなどという最悪の羞恥を認めるわけにはいかないのだ。
「あぁ、あうぅ、あぅっ、あうぅう」
 クナクナと頭を振る。身体の中に満たされた快楽を少しでも追い払おうとしているのだ。だが、ついさっきのオーガズムは、成美の羞恥に致命的なダメージを与えテッし待っていた。
 もはや、こみ上げてくる快感を抑えることができそうになかった。
「はい。ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してねぇ、はい、ガマン、我慢だよぉ。分泌物を調べてま〜す。乳頭部、圧迫診断中で〜す」
 喋っている内容こそデタラメだが、並河の声は、優しい医者としての装いを、あくまでも崩さなかった。そのくせ、細かく動くインテリの手は、既に診察の振りをすることを止めて、遠慮のない動きで、成美の快感を一気に燃え上がらせていた。
 ツンと尖っている乳首をコリコリと転がしては、キュッとつまみ、ピンク色をした電流を作り出しては、乳房をギュッと絞り上げて、重い快感の疼きを呼び込んでくる。
「あぁあ、あん、あ、あん、あの、そ、あう、そ、それぇ、ああぁ」
 こらえようとはしているのだ。だが、敏感な乳房をギュッと絞られ、乳首路コリコリと、弄ばれてしまうと、こらえられないのだ。ピンク色をした電流が次々と背中を貫き、子宮を貫く。全身を満たしてくる甘い感覚に、腰も、背中も、白い脚もヒクヒクと蠢いてしまうのだ。
『あぁ、どうしたら。止めなきゃ、あぁ、でも、止まらない、あぁ、動詞よ、ああぁ、ダメなのに、見られてるのにぃ』
 頭の中と子宮にコードがつながって、そこから直接、快楽の電流が流されているみたいだ。快感から自分を閉ざせない。
 だが、こんな感覚に身を委ねて良いはずがない。ここは、夫の腕の中ではない。診察に来たのだから。
「こ、の、けん、あうう、あ、あん、あ、そ、そんな、これぇ、あの、いつまで……」
 かろうじて、いつまで続けるのかと、ついに口にする成美。それは理性が戻ってきたからではない。なんとも皮肉なことに、一歩間違えば、自分の口が「もっと」と言ってしまいそうになっている恐怖が、それを言わせてくれたのだ。
『ああん、これ以上続けられたら、エッチになっちゃう、もう、やめてもらわないとぉ、だめぇ、こんなところでなんて、あぁ、わたし、こんなところで、お医者様なのにぃ』
 懸命に意識しないようにはしていたが「イキたい」という欲望は、既に、言葉の形を取って成美の理性をガンガンと打ち破ろうとしている。
 もはや、耐えられそうになかった。
 診療という名の、長い玩弄を、敏感な人妻の身体は、とっくに受け入れてしまっていた。辛うじて踏みとどまっているのは「こんなところで」という成美に残った真面目さだった。
『成美ちゃん、あと一息だね。本当は、もっと派手にイキたいんだろ?』
 もちろん、陥落寸前の内面など、お見通しの並河だ。
「え? あぁ、この検査? これは、乳腺の中に、悪いモノがあったら、ほら、こうやって」
 グッと乳房全体を両手でもみ上げながら、乳首をコリコリと転がしてやる。完全に乳首への愛撫。
「どう? 痛くないよね? 痛いなら、止めるけど、でも、もう少しだから、我慢してくださいね〜」
 満足にしゃべれないことを良いことに、成美の言葉を誤解したふりをして、さらになぶってみせる。
 コリコリコリコリ
 片手でギュッと絞り上げておいて、乳首を三本の指で優しく転がした。
「はうう」
 慌てて声を抑えるが、ツンと鼻の奥を焦げ臭いニオイをさせたオーガズムが駆け抜けてしまう。
 そこをあざ笑うかのように、今度は、一気に乳首をキュッとつまんでくる指。
「あん、あああ!」
 もはや完全にオンナの声を噴きこぼしてしまうのを止められない。それは貞淑な人妻が、寝室でしか出したことのない声だ。
「ほら、乳頭から悪い分泌物が出ないか、ってことだよ。けっこう痛い検査なんだけどね。まあ、たまに、感じちゃう人もいるから、もし、感じちゃっても、あんまり心配しなくて良いよ」
「そ、ん、な、あっ、感じて、なんて、あん、あ、ああぁ」
「うん、大丈夫だよね? 成美ちゃんは、そんなにエッチじゃないだろうから、うん、大丈夫、大丈夫」
 半ば嘲るように聞こえる声が、辛うじて見せた、最後の抵抗を奪ってしまう。感じてしまったら、エッチだと思われてしまう、という、人妻としての最後の羞恥だ。
 それを、さらに、嘲るように、ギュッと絞り上げた後は、サラサラとなで上げ、乳首をそっと掌でこすってみせる。
「ああああ!」 
 全身を硬直させながら、もはや快感の告白そのものとなった、甘い声をこらえることができない。
「良かったよ。痛いんだと、オレも遠慮しちゃうけど、これなら、ちゃんと検査して大丈夫そうだもんね。良かったぁ。安心して、誰にも言わないからね」
「う、く、あん、あ、いや、あ、くぅ、いた、痛いだ、け、よ、あぁん」
「大丈夫だよ。安心して。医者だから、患者さんの秘密は守るし。それに、別に普通だよ。感じても、ちょっと成美ちゃんがエッチなだけ。痛くない分だけ、良かったじゃん」
「あん、いた、うっ、い、た、い、だ、ああう、け、よぉお、あん!」
 絞り上げる乳房に、全身をザワザワさせ、乳首にちょんと触れられれば、ヒクンと頭を仰け反らして、鋭い声が漏れてしまう。
「そうかなあ。ま、いいや、痛くても必要な検査だからね、指先に引っかからなくても、こうやって絞って、悪い分泌物が出ないかどうか、しっかり見ないと安心できないから」
「はぅ、く、ああっ、くうぅ」
 何かを拒否する表情で、顔を横に振る成美。
 だが、コリコリと乳首を転がされるたびに声が漏れ、キュッとつままれると、全身が仰け反ってしまうのを止められなくなっているのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「よ〜し、OK。よく我慢したね。これで大丈夫だよ」
 一瞬、手が離れた瞬間、まるで、その手を追うように胸の部分を持ち上げてしまったのは、人妻の無意識の反応だろうか。 
 だが、すくなくとも、頭の中にかろうじて残った理性には、やっと終わるという安堵感が、芽生えたのは確かだった。
『終わった。やっと……』
 ハアハアと息も荒く、もはや自分をもだませぬほど、甘やかな切なさに満ちた身体。身もだえするほどの、焦れったさで狂おしいのは確かだ。
『良かった…… これで、良かったのよ。なんとか、終わった……』
 ハァ、ハァ、ハァ
 一方では、貞淑な人妻として、そして、なによりも一人の真面目なオンナとして、ホッとしたのは確かだ。
 ホンの少しの間が、こみ上げていた身体の中の快感に、なんとも残念な物足りなさを感じる余裕を取り戻させていた。だからこそ、次の瞬間の衝撃は、さらに大きくなったのだろう。
「あああん!」
 閃光が弾けた。瞬間、何が起きたのか自分でも分からない、ただ、いきなり快感が爆発したのだ。
 辛うじて意識できたのは、さっきまで放り出されていた「もう一つ」の乳房と言うこと。
『左? あぁあ、うそっ! だめ!』
 そうだった。
 右を終えれば当然、左もあるのだ。
 左の乳首がいきなりキュッとつままれていた。
「あああん!」
 不意を突いた快感が、甘い声を上げさせてきた。だが、成美自身は、それを意識できなかった。
 ただ、快感が爆発していた。
 隠すこともできないくっきりとした声が出て、しなやかな背中が、ブリッジを作る。
ズキーンとした、ピンク色の衝撃が、子宮から頭のてっぺんに直撃した感じだった。
『あぁ、なんなの、これぇ、ああうう、いやあ』
 ゆっくりと左の胸が揉みしだかれている。
 ズゥーンと、重低音が響くような快感が、身体の奥底を振るわせてしまう。うねうねと腰が動いてしまうのを、どうしようもできない。
『あぁ、だめぇ、見られてるのに。こんなに明るいのにぃ。あぁ、だ、めぇ…… あぁ、私、感じちゃってる、こんな明るい、ところ、で、あああ、いやぁあ』
 強烈なライトで、照らされている。
 茂みの奥まで光が届いているはずなのだが、それを意識してしまうと、なぜか、もっと感じてしまうのだ。
 右の胸の時のように、すそ野からの丁寧なサラサラもなく、いきなりのハードな愛撫になっているが、今の成美に、その違いを思い出す余裕などない。
 キュッと絞り上げられた左の乳房は、愛撫を待ち望んでいたように、甘い快楽の電流を全身に送り出してくる。
「あぁ、あううう、は、う、ああ、あん!」
 さっきまで、放っておかれた分を取り戻そうとするかのように、左の胸からの快感は、いきなり大きかった。
 右の胸への「検査」が、左の胸を焦らして、快感の「素」を蓄えてしまったかのように、子宮の奥からわき上がる快感が止まらない。
「あぁ、旦那さん、右利きなんだね」
「あん、え? な、なんで、あうっ、くっ、あぁあっ、くぅうっ」
 歯を食いしばらないと、そのまま、恥ずかしい声がいくらでも出てしまいそうなのだ。
『だめぇ、はずかしい声、でちゃ、だめえ!』
 もはや半ば気づかれているとは思う。
 今さら、とは思う。
 だが、だからといって、恥ずかしい声を、漏らして良い理由になるとも思えなかったのだ。
 無理に無理を重ねながら、淫らな声を漏らすまいと、成美なりに必死になって歯を食いしばろうとしている。
「だって、ほら」
「あん!」
 まるで、弄ぶようにコリコリと乳首を転がされた。どんなに我慢しようとしても、そうやってされると、必死な決意が、簡単に吹き飛ばされてしまうのだ。いやいやと、恥ずかしさを拒否するように頭を振る成美に、並河は冷静な、しかし半ばからかうニュアンスを込めて、説明する。
「さっきよりも、さらに反応が良いだろう? これは、旦那さんが、普段から、成美ちゃんの左ばっかり可愛がっているせいだよ。うん、左の方がちょっと大きいしね」
「あん、いやん、あ、そ、そんなことぉ」
 結婚以来、ということは、夫とのエッチが日常化して以来、と言うことだが、成美の左のオッパイだけがくっきりと大きくなってきたのを自分でも気にしているのだ。
『あぁ、バレちゃってるぅ。感じちゃってるの。分かっちゃったみたい。あ〜ん。もう、あぁ、どうしよ、恥ずかしいのにぃ、だめぇ、感じちゃダメぇ』
 確かに、左側の方が感じるのも確かなのだ。だが、それを言葉にされて、他人に言われるのは、さすがに、恥ずかし過ぎるのだ。
「あ、あう、あふ、ああぁ」
あからさまに、誰にも知られてはならない身体の秘密を口にされ、あげくに、夫の秘め事まで、口にされながら、今の成美は、それを抗議することもできない。思いつく余裕すらないのだ。
 やや尖ったお椀型のオッパイが、くく、く、くく、っとリズムをつけて絞られて、尖った頂点を、トントントンと人差し指がタッピング。
 切ない快感は、脳にダイレクトに届くのに、同時に腰の奥まで、トローンととろかすように甘い切なさが子宮を満たすのはなぜなのか。
「っく、あう、あぁ、あうっ」
 快感を何とか押さえようと、はかない抵抗をするのに精一杯だったのだ。
 ついさっき、左の胸をもみ上げられた瞬間、感じてしまった電流は、オーガズムだった。だが、成美が知っている、どんなオーガズムとも違う種類の電流なのだ。
『あぁあ、何ぃ、これぇ、あああ、なんなのぉ、これぇ、あぁ、オカシク、なっちゃうよぉ』
 パチンと全身が弾けたような、絶妙のオーガズムだが、決して、悦びの満足感は与えてくれないのだ。後を引くような弾け方は、断じて、知っているオーガズムとは違っていた。
 細い腰がヒクンヒクンと震え、腰を突き上げてしまっている。
 はしたない感情が子宮から快感を要求しているのだ。
 子宮の奥が、いや、夫に満たされるべき膣肉が、強烈な快感を無意識のうちに欲しがっているのかもしれない。
「もっと欲しい」と身体が訴えてくるのを、成美は理性で懸命に抑えるしかなかった。だが、どれほどの全力を尽くしても、快楽にあふれてくる声を抑えることはできないのだ。
「あ、あ、あう、は、あの、あ、ま、ま、あああん! あう、ま、だ?」
「え? あっぁ、なんだ。やっぱり、感じてるんだ?」
「違うのぉ、あっ、あう、い、たい……からぁ、あうう、あん!」
 何かを喋ろうとする度に、乳首が違う形で弄られてしまう。まるで、恥ずかしい声のスイッチを押されているように、抑えることができないのだ。
 もちろん、わざとだ。
 抵抗しようとする成美の気持ちを、少しずつ奪いながら、抵抗しようのないほど、追い詰めようとしている。なんといっても、両手をふさがれたまま、じっくりと自由に胸を弄られて、快感をこらえられるオンナなど、そうはいない。
 おまけに、セックスを知っている人妻の身体だ。
 たっぷりとダンナとのセックスをすり込まれた身体は、無意識のうちに、男のモノで、満足する形を自動的に期待してしまうものだ。
 クッと、脚をこすり合わせるようにしては、自然と力が抜け、脚が広がってしまう。
 もちろん、膝と足首で拘束されている脚は、淫らに広がる形にはならずにすむ。
 その分だけ、いつの間にか安心しきった成美の脚が、ベルト一杯に広がる形になるのは当然だったかもしれない。
 崩壊寸前の女体を冷静に見つめている並河は、マスクの中でニヤリと笑った
『よし。そろそろ、いいだろ。はい、ごかいちょ〜 っと』
 胸への快感と戦うのに精一杯の成美にとって、並河の片手がボタンを操作したのに気づくことなどできるはずもなかった。
 鈍いモーター音は、自動的に、プリセットされた内診の形、すなわち、秘部をさらけ出し隠しようもない姿勢へと、動く音だった。
 気が付いたときには、完全に仰向けになった身体から、両脚が刻一刻と無理矢理広げられてしまっていた。
「あああ、いや、あ、いやああ」
 成美は慌てた。取り乱したと言っていい。
『ああ、これがあるの、すっかり忘れてた。だめ。このままじゃ、絶対に、だめ』
 顔を振り立てながら、恥を忘れて叫んでしまうが、必死の声は分厚いカーテンに遮断され、吸収されてしまう。もちろん、それを聞く者とていないのだが。
「いや、いや、いやあ!」
 そこにいるのは、裸同然に剥かれ、手脚の自由を奪われた女体と、かつて、その女にフラれた一匹の男だ。
 胸から引き出されたオーガズムを何度も味わってしまった女は、腕はバンザイのカタチのまま、広げた形で持ち上げられてしまった脚にも力が入らない。
 ただ、クナクナと紅潮した顔を振り立てるしかできなかった。
 しなやかなナイロンベルトは、マジックテープで止まっているだけのはずなのに、ピクリとも持ち上げられなかった。
 身体ごと揺すろうとしても、柔らかな布地の拘束は、成美の自由を全て奪っているのだ。
『ともかく、このままだけは、ダメ!』
 人妻として、いや、オンナとして、さっきからの「診察」で、自分の身体が恥ずかしい反応をしてしまっているのを知られてしまう恐怖が、そこにはある。
「大丈夫だよ。次の診察に移るだけだからね」
「いやいや、あぁ、だめぇ」
「ほらほら、内診するだけだからね、乳がんは、とりあえず大丈夫そうだし」
「あう! あぁ、ダメ、お願い。今はぁ、ダメぇえ、あぁああ!」
 取り乱した成美を、面白がるように、コリコリと乳首を転がしてくる。  
 もしも普段の成美なら、乳がんの検査は終わったはずなのに、何で、まだ、触るのかと、疑問が浮かぶはずなのに。生み出される快感と、脚が刻々と広げられてしまう衝撃が、そんな単純な疑問すら浮かばせてくれなかった。
 何よりも、今、オンナの場所をのぞき込まれるのは、絶対にダメなのだと、そればかりが頭にあったのだ。
「お、お願い、ちょっと、あの、あうう、い、いったん、ああう、あ、お、お願い、その前にぃ、お、お手洗いにぃ、あう、あん、ちょっとでいいからぁ」
トイレに行きたいのではない。
『ダメよ。今はダメ、私、ひどいことになっちゃってるもの』
 このまま秘部を見られては困るのだ。
「トイレ? 大丈夫。気のせいだよ。さっきの腹腔エコーで見たら、まだ尿はたまってないからね。それに、どうしてもなら、このまま漏らしちゃっても良いし」
 努めて、医師の冷静な優しさを装いながら、成美の困惑と悩乱を楽しんですらいる。
『あぁ、だって、私、もう、そこ、ヘンになっちゃってるから、今、見られたら……』
 恥ずかしがり屋の成美だって、いや、恥ずかしがり屋の人妻だからこそ、自分の身体が濡れてしまっていることくらい、分かる。
 だが、自分が感じてしまったのを認めるわけにはいかないのだ。
「感じてない」
 たとえ、バレてしまっても、そう主張し続けるしかないではないか。
 エッチな人が感じることがあると、あらかじめ言われていたせいもある。言われてなくたって、夫以外に触られて、感じる姿を人に見られるわけにはいかないのだ。
「だめぇえ!」 
「大丈夫、濡れちゃったことは、秘密にするからね、いいんだよ、すごくエッチな人だと、たまにこうなるから」
 ワザと冷笑を交えてやると、それだけで成美が身体を縮こまらせるのが分かった。
『いやあ! わかっちゃってるぅ。ああ、私がエッチだって、思われてる!』
 もちろん、これだけの明るさの中で、しかも、脚をばっちりと広げているのだ。のぞき込むまでもない。両脚をこすり合わせるようにしていた分だけ、白く張りつめた太ももの方まで濡らしてしまっていた。
「いやあああ、違うもん、違うぅ」 
「でも、ほら、これ」
「ああう!」
 指がヌルリと大陰唇の外側を撫で上げてきた。
 強烈な快感が、ズンと駆け上ってきた。
 敏感な胸を、じっくりと弄ばれ、焦らされた人妻の身体が、その刺激に耐えられるわけがなかった。手足を戒められた白い身体は、検査台の黒いシートの上で、ブリッジを作り出す。
 またもや、さっきのピンクの電流が身体を貫いたのだ。
 満たされぬ身体をさらに飢えさせるような、今までに知らなかったオーガズムなのだと、思わざるを得ない。
「う〜ん、成美ちゃんが、こんなエッチな身体とは思わなかったけど。大丈夫、誰にも言わないからね。それに、ほら、今、他の人が戻ってきたら困るだろ?」
「え? ど、どういうこと……」
「だって、こんな風にビショビショになってるのを、オレ以外の人間が見たら、成美ちゃん、すっごくスケベなオンナだって、誤解されちゃうよ?」
「いや、いや、それはいやあ」
「だろう? 嫌でしょ? だから、さっさと検査を済ませちゃおうね。続けてもいいかな?」
「ああ、いやあ、見られたらぁ、ダメなのぉ、お願い、見ないでぇ」
「いや、ここを見ないと診察にならないし、もう、とっくに見ちゃってるからね、ヌルヌルだけど気にしないで。大丈夫、誰にも言わないからね」
「あああ、いやあ、いやぁあ、ち、違うのぉ、あぁ、ちがぅ」
 いやいやと、頭を振る成美の拒否が弱々しくなってしまう。決定的な部分を「見られた」と言う事実が、抵抗の意思を奪ってしまったのかも知れない。
 それを、ニヤリと見つめる並河。
 身体に籠もってしまった快楽のうずきと、恥ずかしすぎる羞恥が、既に成美から冷静な判断力を奪ってしまったのを確かめるかのようだ。
「ほら、安心して。誰も来ないから。その方が良いだろ? ここだけの秘密。大丈夫、オレに任せておいて。ちゃんと検査するからね」
 そう言いながらも、すっかりビショビショの入り口を指でヌルヌルとたどる。それは、医師の動きでは、もちろん、ない。
「検査しないとね。少しの我慢だよぉ、さ、検査しようか?」
 指先に触れている美肉が、ヒクンと蠢いて、物欲しげに腰が動き始めていた。
 並河は、肉食獣の笑顔を浮かべながら、ワザと、大きな動作で、成美の股間をのぞき込むそぶりを見せつける。
「ああ、いやあ、み、みないでぇ」
 弱々しい拒絶に、くなくなと頭が揺れる。
「じゃあ、もっと大勢を呼ぶ? 親父や、他の看護師に囲まれて、こうやって? じっくり見られたいのかな?」
「あう!」
 成美の濡らした秘液でヌルヌルの指が、サッと、クリトリスをかすめたのだ。
 その瞬間、美肉が、ヒクンと震えたのを並河が見逃すわけがない。
「どうする? 大勢に見られながら、こんな風になる? それとも、このまま、オレだけの秘密にしておく? どうする? 大勢に見られるんだよ、こんなエッチになっちゃったところを」
「ひっ!」
 声にならない声に、成美は白い身体を硬直させてしまう。またもや、クリトリスをかすめた指に、子宮の奥が、強烈な快感を吐き出したのだ。
「ね、このままなら、ほら、オレだけが黙っていれば誰にも分からない。それとも、みんなに見られた方が良い?」
「ああぁ、いやあ、見られたら、見られたら……」
「ね、じゃあ、このままでいいね? オレだけの秘密にするからね」
 白いモヤがかかったような成美の意識に、看護師達や、並河の父親、嫌、誰とも知らない大勢に、囲まれている姿が浮かんでいた。
『そんなこと、耐えられない』
 恥ずかしさと、恥ずかしいのに、検査の指にもだえてしまう自分を、他人に見られてはならない、それだけが頭に浮かんでいた。
「ね、他の人を呼ばない方が良いだろ? こんなところを、大勢に見られたくないよね?」
「あぁ、あぅ、いやあ」
 ねっとりした声を噴きこぼしながらも、成美はとうとう頷いていた。





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