その1
「もうちょっと時給を上げなきゃダメかなあ。でも、ギリだしなあ」
ため息をつきながら、鳴らない電話をじっと見つめてしまいます。
「だいたい、スタジオってのは、こんな住宅街だと、そもそも怪しげだもんなあ」
祖父の代から続く写真館を改装した「フォトスタジオ・KITAZAWA」は、閑古鳥が常に鳴いています。
名門女子大を取り巻くこの辺りは、高級住宅街であるせいか、子どもが少ないようです。
七五三のシーズンでさえ、お客様は滅多にありません。
かき入れ時は、三月の卒業式シーズンですが、名門女子大のお嬢様達は、こんな名もないスタジオなんて使いません。
そこで、しかたなく、ギャラ仕事の雇われカメラマンをしています。そっちは、すこぶる順調でした。
こう見えても、けっこう腕には自信がありますし、実際、お客様には喜んで頂いています。
ホテルのスタジオで撮影した相手が、実は地元の名門女子大生で、おまけに「やっぱり、ホテルのカメラマンさんは腕が良いですね」などとおだてられると、なかなかに複雑です。
一国一城の主と、雇われカメラマン。
二足のわらじには限界があります。
外で仕事をしているとスタジオのお客様を逃すかもしれず、かといって、スタジオでお客さんを待っていたら干上がってしまうという現実。
そこで、考えたのが、昼間の電話番を置く作戦です。あわよくば、事務所の接客程度もしてくれるといいな、とパートさんを募集して一ヶ月。
いまだ「応募者0」というのは、正直、参りました。
「やっぱりウチ程度だと、ファミレスの待遇でも見劣りしちゃうしなあ。そもそもスタジオでバイトするって言っても、どうせイメージが湧かないんだろうしなあ」
一人つぶやいてみますが、事態は変わりません。そこに一本の電話。
「お忙しいところ、誠に恐れ入ります。フォトスタジオ北澤さまでしょうか」
「はい。ありがとうございます。北澤でございます」
「あの、私、御社の壁に貼ってあったアルバイト募集を見たのですが」
「あ! アルバイトを希望される方ですね? 」
待ちに待った応募者の電話が来た瞬間、嬉しさに心躍りました。
しかも、受け答えだけを見ても礼儀正しい言葉遣いで、声も素敵。しかも女子大生ということですから、会う前から採用を半ば決めていました。
ただ一つ気になったのは「外見は関係しますか」と聞いてきたこと。
もちろん、外見は美人であれば嬉しいですが、そんなことはこの際贅沢言いません。むしろ、電話応対がメインですから、外見なんて気にする方がどうかしているのです。
もちろん「関係ありません」とは答えたものの、相手が明らかにホッとした気配が伝わってきましたから、よほど「ひどい」のかと覚悟します。
まぁ、その辺りは顔にガッカリ感を出さないようにする覚悟を決めれば良いだけ。
『下手に美人が来たら、オレがどうかなっちゃうかもしれないから、人三化け七でちょうど良いんだよ、ウン』
応募してきた子が聞いたら、激怒しそうなコトを考えながら、待つこと一時間。
あ、人三化け七ってのは、七割方化け物のような見てくれのヒドイ子の事をいうんですが、もう、このさい、たとえ、化け十でも、全くかまわない気分になっています。
ピンポーン
チャイムが鳴ったら、もう心が浮き立つのを押さえきれず、勢い込んで事務所側のドアを開けます。
「いらっしゃい! よう……こそ? 」
「あの、こんにちは! 先ほど電話した宮入です」
そこにいたのは、ひときわ知的な瞳を持った明るい美少女でした。
電話で聞いたよりも、さらに透明感のある綺麗な声。
ペコリとしたお辞儀をする「お嬢ちゃん」に私は目が丸くなっています。人三化け七どころか、抜群の美形に驚きます。
しかも、素直で、育ちの良さを感じさるのですが……
固まってしまった私に、宮入さんは、一瞬、泣きそうな顔。
「あ、ど、どうも」
こんな反応はイケナイと分かっていても、とっさに、まともな言葉が出ませんでした。
確かに美形です。美少女です。
しかし目の前の紺のスーツ姿は、どう見ても可愛らしい小学生なのです。
私の胸くらいまでしかないほど小さく、身体そのものが細すぎるほどに華奢な、どう見ても小学生。
『確かに、外見は問題にしないって言ったけど…… 』
絶句する私の目の前で、次の言葉を探して恥ずかしそうに下を向いてモジモジしています。
「あの、さっき電話してくれた宮入さんですよね? 」
「はい! 宮入です。よろしくお願いします! 」
ペコリ。
サララサのセミロングが肩から、さらりと垂れるドストレート。
素直な丸い頭を見ると「挨拶をちゃんとできる良い子だね」と、そのままサラサラヘアをヨシヨシと撫でてあげたくなるような雰囲気なのです。
『まさか…… 女子大生って言ってたよな? 本当に、女子大生か? お姉ちゃんの身分証を使ってるとか? 』
私のドキドキを挑発するかのように、目の前で頭を下げているストレートのショートヘアは、緩やかに揺れています。
「あの、ひょっとしてバイトとか、やったことは……」
ひょいっと頭を上げると、頬に紅が差しています。
「田舎では、やってました! レタス取りとか、あ! 山菜採りもあります! あと、裏の神社で巫女さんも! 」
「あ、地方から出てきたんだね。というと、東京では…… 」
「すみません。まだ…… あの…… どこも、面接で落とされてしまって。あの、私、どうも、童顔で…… あの、若く見えるらしくって」
『若く見えるらしくって…… 幼すぎだろ。どう見ても、小学生だよ、こりゃ。これで雇ったら、確かに普通の店なら苦情が出るだろ、小学生を働かせてるって……』
「あのぉ…… だから、さっき、電話で『外見が問題になりますか』ってお聞きしたんです」
私の戸惑いを正確に見抜いて、鳴きそうに目元を潤ませた宮入さんは、可愛らしい声を控えめに出してきます。
『あ、そういうことか。そりゃ、これだと、普通は落とされるよなあ』
改めて宮入さんを見つめます。
『童顔ってよりも、そこらにいる小学生の方が、まだ大人っぽいんじゃないの?』
百五十にも届きそうにない身長がそう感じさせるのもありますが、何よりも持っている雰囲気でした。
今時珍しい、真っ黒なストレートヘアを、セミロングにしたヘアスタイルが、幼く見せているのか、それとも服装のせいなのか。
イマドキの流行とは正反対。純正統派の「お育ちの良い」美少女がそこにいます。
あくまでも黒く、きちんと整いつつも自然に流れるストレート。で、当然、ピアスも無しなら、マツゲを長く見せる化粧もなし。
メークは、あくまでもナチュラル程度ですが、そのファンデーションですら、どこかしら、背伸びをしている小学生にしか見えない雰囲気。
確かに日本的で「清楚な美人」と言える顔のせいでしょうか。目鼻をクッキリさせる今風の化粧は、どうにも、合わない感じです。
そのくせ、卵形の小さめの顔に載っている全てのパーツは、整った形で、品良く揃っているのです。
モデルさんを見慣れている私でも、欠点を探す方が難しい美少女ぶり。
どこかしら気品すら感じさせる黒いスーツ姿で、両手を品良く前で重ねている立ち姿は「名門小学校の制服モデルです」と言われると通ってしまいそうな感じなのです。
おそらく「小学生向きの雑誌で読者モデルやってます」と言われたら、そのまま信じてしまいそうなほどです。
なんといっても、小さめの艶やかな唇に健康そうなバラ色の頬。なによりもクッキリとした目元は「美形小学生」と言われれば、多くの人が納得してしまうはずでした。
しかし、その幼い顔立ちの女の子が、品の良さが出る、きちんとした姿勢で立って「大学生2年生です」と言われると、見る側の違和感はすさまじいものがありました。
「あのぉ、やっぱりダメでしょうか……」
消え入りたげな小さな声。
『そうだよなあ。これじゃ、あっちこっちで断られてるんだろうな、やっぱり』
美醜の問題ならともかく、どう見ても「小学生」にしか見えないバイトを雇う店は、そうそうあるはずないのです。
どう見ても「小学生を働かせてる」と通報されるレベルですから。
しかし、応募者がまるでなかった現実から、背に腹は代えられなくなっていたのです。
『まあ、どうせ、電話番がメインだし、声は、すばらしく綺麗なんだ。見逃す手はないよな』
もはや贅沢は言ってられません。
むしろ、中身がちゃんとした大人ならと考えると、少し会っただけでも分かる礼儀正しい物腰と、よく響く声を持っているのですから、何の問題もないはずです。
「ま、と、ともかく、中に入ってよ。話をしましょう」
「はい!」
一転して明るい笑顔になった宮入さんは、お邪魔します、と礼儀正しく一礼して入ってきたのが、妙に似合っている子でした。
とはいえ、何だか、よくできる親戚の姪っ子が久々に遊びに来たという印象に近いので、内心苦笑せざるを得ません。
「あの、えっと、失礼かもしれないんですけど、一応、年齢を……」
「はい。えっと、こ、これです、本当に、今度の春、成人式なんです」
「せ、せいじんしき? 」
手回し良く出された履歴書には、確かにそうありました。
しかし、一瞬、耳を疑って、と言うよりも、宮入さんが参加する「セイジンシキ」なる式がこの世に、もう一つ別にあるような錯覚すら起きます。
「それで、大学に通ううちに、ふと、こちらの張り紙を拝見したんです」
「あっ 宮入さん、あそこなんだ? うん、児童文化学科か」
「はい! あっ、これ、学生証です」
勢い込んで出してきたのは、学生証。
『二年生か。確かに、もう、二十歳だよなあ…… うん。お姉ちゃんのモノを借りてってワケじゃなさそうだ』
通学の途中、と言う言葉通り、近所にある日本でも有数の伝統を誇る女子大の学生です。
学生証を目にしても、目の前の「美少女」が、女子大生だというのは、どうにも、目が納得はしなくても、目の前の美少女が「小学生に見えちゃう」ってこと以外は、百点満点の応募者であることだけは確かです。
「ウチのスタジオは、ちょうど、駅から大学までの途中にあるものね」
目に映っている「小学生」の外見と「女子大生」というプロフを一致させようとする努力をする間、少し時間稼ぎが必要でした。
「えぇ。前から、何だかちょっと秘密っぽくって、ちょっと、大人の隠れ家みたいですよね。本当に雰囲気の良いスタジオさんだなって、気になってましたから」
どうやら、性格も良いらしく、さりげなくおだててくれますが、弱小スタジオの我が店は、父の残してくれた古い建物を、私が、それっぽく手直ししただけです。
しかし、素直そうな外見と清楚な語り口のおかげで、宮入さんに言われたとたん、我がスタジオが、とっても素敵な「大人の隠れ家」のように思えて、ちょっとくすぐったくなります。
「ウチのスタジオなら、講義の合間にも、バイトに来てもらえるよね? 」
「ええ! 私、一年生の時に一般教養はあらかた取ってしまいましたから、今年は、だいぶ余裕があるんです」
だいぶ努力家のようです。第一、履歴書に書かれた文字は、きちんと整っていて、性格の几帳面さや真面目さを想像させてくれます。
「あ…… えっと、ずっと、お一人で暮らして? 」
北関東にある、私でも知っているほどの名門女子校の出身で、今の住所は、アパートの二〇一号室でした。
「ええ。一人暮らしなんで、父も仕送りしてくれるんですけど、やっぱり自分で少しでも生活費の一部くらいはと思ったんです」
「あ、なるほど。去年はバイトしてないの? 」
「去年は、大学の授業と、一人暮らしに慣れるのに精一杯で、東京では、バイト探しもしてなかったんです」
「あ、そうなんだ」
「ようやく授業も余裕が出てきたので、今年から、頑張ってみようって思って探し始めたんですけど…… 東京なら、バイト先っていくらでもあるって思ってました」
「あらら。地元でバイトはしてなかったの?」
「高校時代は両親が認めてくれなくて。それに学校も禁止だったんで、去年は夏とか冬、田舎に帰った時にしてました」
「あぁ、で、レタスの収穫と巫女さんなわけね? 」
「はい! 父の知り合いの農場で。巫女さんの方は、あの衣装に憧れて、初詣の時にやったんですけど、すっごく、寒かったです」
「あぁ、なるほど。じゃ、こっちでのバイトは初めて?」
「そうなんです」
「一人暮らしも大変でしょ? 」
「そ、そうなんです! 聞いてくださいますか? 去年、こっちに来た時、アパートの掃除をしてたら大家さんに『お姉ちゃんのお手伝い偉いね』だなんて言われて」
ちょっと口を尖らせる表情は、小学生がすねた表情そのもの。そりゃ無理ないだろうとアパートの大家さんに同意しつつ、私はウンウンと頷きます。
「おまけに、お菓子までいただいちゃったんですよ! ヨシヨシって、頭も撫でられてしまって」
艶やかな光沢を持ったストレートヘアを見てしまうと、私も、その髪の毛を撫でてみたくなってしまいます。
「それに、去年から、警察に補導されかけたの、もう十回以上になるんです。つい先週も、ゼミのコンパに行ったら、お店の人が、私だけ学生証を見せろって…… 」
そりゃ、この子が平日、駅でも歩いていたら、警察官なら呼び止めたくなるでしょう。しかし、その憮然とした表情が、あまりにも可愛らしいのです。
いつの間にか、私はこの子を是非とも雇いたいと心に決めてしまいます。
そこから、面接とも言えないような話をしているウチに、実に素直で真面目な宮入さんがますます気に入ってしまったのです。
それに、いくら幼く見えても、これだけ顔立ちの整った女子大生なのですから、私自身も目の保養になることは間違いありません。
「じゃあ、早速、明日から来てよ。大学の授業の予定を見せてもらって、月単位で予定を立てましょうか。試験も大変そうですしね」
「え〜 そこまで考えていただけるんですか? 」
「ははは。正直、余り高い時給は出せないのですけど。もし良かったら、できる範囲できてくれるだけでも、大助かりですから」
「良かった〜 ありがとうございます」
サッと立ち上がって、深々とお辞儀。
その様子からすると、バイトもずいぶんと断られていたに違いありません。
一方で、フワリと薫ったミルクにも似た匂いは、目の前の「小学生」は、紛うことない美少女であることを感じさせてきて、思わず、ドキッとしてしまったのが不思議です。
「まあ、まあ、こっちが助かるんだから、ね、座ってよ」
ありがとうございます、とちょこんと再び座る仕草は、さっき、一瞬感じさせた少女の色香ではなく、素直な子どものそれであるのが、何とも不思議です。
「本当に。もう、バイトなんて一生できないんじゃないかって、自信喪失してたんです」
「ははは。ま、頭も良いし、こんなに美しいんだから、こっちは願ったり叶ったりですよ。よろしく。宮入さん」
「あん、社長さん、そんなぁ。こちらこそ、です。よろしくお願いします」
こんどは、座ったまま深々と頭を下げるお辞儀。
それは礼儀正しい「お嬢さん」そのものでしたが、再びフワリと薫る空気は、年頃の女子大生らしい華やかで、ひどく甘やかな香りであることに気付いたのです。
翌日から、講義の合間を縫って、店番をしてもらいます。その間、こちらは外回りで仕事ができますから、大助かりでした。
元来、人なつこいというか、明るくて、人に壁を作らない性格なのでしょう。すぐに打ち解けてくれて、今ではクミちゃんと呼んでいます。
「だから、私服で良いんだよ。どうせ、電話だし、来客が急にあるわけもないからさ」
「でも、お仕事ですし」
「ははは。クミちゃんが真面目にやってくれてるのは知ってるさ。でも、スタジオってとこは、堅苦しいのはだめなんだ」
「そうなんですか? 」
「そうだよ。この業界、ネクタイで仕事するわけじゃないからね。大事なのは腕さ」
「あ、だから、社長さんも、デニムでいらっしゃるのですか? 」
「まあ、そんなところ。だから、クミちゃんもリラックスできる格好できてくれないと、こっちも調子でないからね」
「はい。社長さんの調子が出なくなったら大変ですものね。次からは、なるべくリラックスできるカッコウに気をつけます」
まるで、学級会で注意された学級委員のような雰囲気で約束してくれたクミちゃんは、その次から、言ったとおりにしてくれます。
それがまた、ストンとしたシンプルなワンピースだったり、今時の女子大生がよく着るような、ミニスカートだったりするのですが、なんともはや……
いえ、決して似合わないというわけではないのです。
むしろ、地味目のファッションでも、クミちゃんの美少女ぶりは際だってしまうのです。
ところが、クミちゃんの美貌が生きるのはどんな服か、と考えていくウチに、驚くべき結論に(勝手に)達してしまったのです。
こういう時、私にも芸術家の血が流れていたと言うべきか、自分勝手というか、思いつくと試して見ずにはいられないタチなのです。
「後生だから、一度で良いんだ、お願いします! 」
「でも〜 社長、それあんまりですよ。私、二十歳ですよ? そんなの、あんまりですぅ」
「そこをなんとか! お願いします! 代わりにどんなお願いでも聞いちゃうから! 」
「え〜 本当に、どんなお願いでも? 」
クリンとした瞳が、輝きます。
一瞬、どんなお願いを持ち出されるのか、不安になりますが「クミちゃんだったら、無茶なことは言わないだろ」と勝手に決めつけて、お願いしてしまう私です。
「どんなお願いでも聞いちゃう! だから、お願いします! 」
もう、なりふり構ってられません。床に土下座してしまいます。
「わっ、しゃ、社長さん。だめですっ、頭を上げてください、ダメですよっ、こんなことなさっちゃ」
「じゃ、モデルしてくれる? 」
「えっと、あの、ああん、もう! します! しますってば。だから頭を上げてください!
」
床に這いつくばる私を、身体ごと起こそうとするクミちゃんに抱きつかれながら、実は、天国にいます。
なんといっても、クミちゃんの、ミルクっぽい甘い香りを間近に感じられている上に、私の腕を身体で抱き締めてくるおかげで、半袖の二の腕には胸が当たるんです。
『おお! これ、結構あるんじゃないの? 』
小学生体型のクミちゃんだけに、そういう目で見たことはなかったのですが、中身の詰まった胸の膨らみは、弾力性たっぷりに、結構なヴォリュームを感じさせてくれたのです。
「ほら、社長さんてばぁ」
「よかった。じゃ、撮らせてもらうよ」
「むぅ〜 一回だけですからね。それと、約束、守ってくださいね」
「いいよ。どんなお願いを聞けば良いの? 」
「えっと、えっと、あのぉ」
どうやら、何も考えていなかったみたいです。
「じゃ、なんでも良いから。ゆっくり考えて、撮影の後、教えてね」
「え? あ、はい。そ、そうしますね。う〜んとおねだりしちゃいますから、覚悟してくださいね、社長さん」
唇を尖らせて、上目遣いになる表情は、イタズラな小学生そのもの。
おもわず、ヨシヨシと頭を撫でてしまったのは、反射的なモノですが「あ〜ん、子ども扱いされませんか? 私〜 」と、可愛く抗議するクミちゃん。
『案外、嫌がってないんだ? 』
反射的だったとはいえ、年頃の女性のサラサラの髪に触れられたのは、男として、すごくラッキーなことだったかもしれません。
その手触りを、大事に記憶しながら、早速電話。
幸いにも、商売上、衣装を揃えるなんてワケはありません。しかも今回は、地元の運動具店に頼めば一発です。
すぐに、地元の中学校で陸上コーチをやっている、真面目なご主人が、すぐに自ら届けてくれました。
まあ、多少不審に思われたかもしれませんが、古い知り合いだけに、そこは詮索されないのが良いところ。
「じゃ、これ、お願いね」
手に入れたばかりの衣装を渡すと、オドオドしてしまうクミちゃん。どさくさに紛れて、さっきの調子で頭をナデナデ。
「あの〜 本当に、これ、着るんですか? 」
衣装を着る恥ずかしさに頭がいっぱいなのでしょう。撫でられている頭のことなど少しも気にしてない様子。
調子に乗って、柔らかなブラウスの背中をそっと掌で撫で下ろしながら、クッと背中を押して見せます。
「うん。もちろんだよ! さ、早く着替えて、着替えて! 」
いかにも、はしゃぎながらも、私の手は、贅肉一つないしまった背中を味わっています。
一歩間違えば、セクハラと怒られるのでしょうけれど、幸いにもクミちゃんは気にしてない様子。まあ、ひょっとしたら、衣装に気を取られているだけかもしれませんが。
「笑ったら、怒りますからね、社長さんったら」
困惑と羞恥を顔に浮かべてカーテンの向こう側に向かったのです。
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