本文へジャンプ子どもじゃないモン!

その3


 
 ネットに公開した、と言ってもスタジオの宣伝ページの中に見本として置いただけですが、この写真が良かったのかもしれません。
 なぜか、今まで全然かかってこなかった予約の電話が、面白いように増え始めたのです。
 まあ、特に誕生日や七五三の前撮りと言った、女の子の写真が増えたのは、幾分でも、あの写真が役に立ったのでしょう。
 忙しくなるにつれ、クミちゃんには撮影の助手もお願いするようになっていました。
 頭の良い彼女は、よく気が付く上に、人の良さがすぐに伝わるせいか、撮影中のお客さんの笑顔を引き出すのが、とても上手くて助かるのは、計算外のこと。
 特に、さすがなのは子どもの笑顔を作り出すのが本当に上手なのです。成人式のお嬢様達ならともかく、お子様達には手を焼いていただけに、今や欠かせないパートナーと言えます。
 そして、撮りにみえたお客様に「あっ、この人が、お店のホームページに出ていた」と言われることも多くなりました。
 知る人ぞ知る、というネット上のウワサも拡大しています。
 一部のマニアの間で、知る人ぞ知るという一枚になったせいか、ネット上でも年齢を当てるのが論争になり、中には直接電話してくる人まで出る始末。
 その度に「二十歳です」と正直に答えると、ふざけるなと怒鳴られ、悪態をつかれたり、ガチャンと切られたりと言ったケースも増えてきました。
 もちろん、その声はネットに反映されて、私は「嘘つきカメラマン」として非難の対象です。
 そういう外野の声をクミちゃんが知っているのかどうかは、その後一切、話をしてないから分かりません。
 ただ、写真をホームページに載せる時も、そうだったように、ネットで話題になった時にも「このまま載せて良いの」と聞くと、はにかんだ表情をして、コクリと頷いてくれたのです。
 クミちゃんは、その後、あの時のコトは、一切自分からは喋りません。私も、なぜか話題にすることは避けていました。
 ただ、撮影の手伝いをして貰う際に、しばしば「お父さんのお手伝い偉いね」と褒めていただき、そのたびに陰で慰めるのは、定番になってしまったのです。
 まあ、その時に柔らかい背中をそっとさすって上げるのは、堂々とクミちゃんに触れられる機会になって、いつからか、喜びではあるのですが。
 あ、言っておきますが、クミちゃんは、私が背中を撫でるのを一切嫌がらなかったのは事実です。
 むしろ、それを楽しみにして、ワザといじけてるんじゃないかと思う時すらあったことは、付け足しておきたいと思います。
 とは言え、私だって、まだ三十になったばかり。
 しかも独身。
 中年まではまだ間があると自負しているのに「小学生の娘がいる」ように思われるというのは、十分に慰められて良いことのような気がしますが、それは腹に収めるしかありません。
 クミちゃんは働き者です。
 撮影の助手だけでなく、あちこちにホコリが溜まっていたスタジオを、あっちを磨き、こっちを磨き。
 ちょっと手が空けば、私にお茶まで淹れてくれます。そんな一時には必ず『考えてみれば、超ラッキーだったよな』と思わずにいられません。
 なにしろ、外見が小学生である事を除けば、真面目で、優秀な、働き者です。
 しかも外見は、黒髪、卵形の顔、落ち着いた物腰で、文句なしの日本的な美少女なんです。
 小学生ビジュアルにさえ慣れてしまえば、バイトとして最高の子でした。
まあ、そんなこんなで、梅雨時を過ぎる頃には、すっかり「相棒」になってくれたのです。
 そして「田舎育ちのせいか、都会の大人の方と話すのが楽しいんです」と嬉しいことを言ってくれて、バイトの時間を越えてスタジオにいることが多くなってきました。
 ひょっとしたら、一人暮らしの寂しさを埋めるためなのかとも思います。
『あれから、時々、すごく熱い視線になるもんなあ』
 私のことを好きになってくれたのかと自意識過剰になってみたりすることもありますが、まあ、さすがに一回り年上では「ない」に決まってます。
 間違っても、ナルシストにはなるまいと自戒しつつ、クミちゃんが、このスタジオにいて、とりとめのないおしゃべりをするのも、いつの間にかごく自然に感じている私でした。
 そして、珍しく電話も来ない夏枯れの今日。
 締め切りの近づいてきたコンテスト用のモデル探しの愚痴を、ごく自然とこぼしていました。
「やっぱり、社長さんの腕に適うようなモデルさんって、なかなかいないんですね〜 」
 コンテストもいろいろありますが、今年は「人」という美の原点に立ち戻ってヌードを、と思っていたのです。ところが、いざとなると、貧乏スタジオでは、なかなか、モデル探しが大変なのです。
 美大生の練習程度なら、事務所に頼めばすぐ用意できるのでしょうが、コンテストとなると、こちらもいろいろなイメージがあり、なかなかマッチしたモデルさんが見つからないのです。
「そうだなあ。なかなかね〜 いいモデルさんは、それなりにギャラがすごいし、かといって、誰でも良いってわけじゃないものね」
「そうですよね〜 早く見つかると良いですよね〜 」
「う〜ん、いっそ、また、クミちゃんに頼んじゃおうかな、これだけ美人なんだし」
「え? あ、わ、私ですか? び、美人だなんて、そんなぁ。 あぁ…… え〜 どうしよ。でも、私なんて、チビだし、童顔だし…… ちゃんとしたモデルなんて、そんなぁ」
 もちろん、私が望んでいるのがヌードモデルだと知っています。
 素人の女子大生がOKしてくれるはずもありません。いつもの冗談のようなつもりだったのですが、意外にもクミちゃんは、真面目に受け止めてしまったようです。
 なんでも真面目に受け止める所は、彼女の良いところですが、さすがに、まさかヌードだとわかっているモデルを、真面目に考えてくれるとは思いませんでした。
『……ってコトは、あの時の体験はイヤじゃなかったってことかな? 』
 クミちゃんの、あの奇跡の一枚で見せてくれた、あの表情を思い出していました。
 もし、あの表情を撮れれば、コンテストの入賞なんてたやすいことのようにも思えます。
 私の視線は、いつの間にか真剣だったのかもしれません。
 一瞬、視線を合わせたクミちゃんは、真っ赤になって、下を向いて、モジモジし始めます。
 困った顔と、なぜかちょっとだけ嬉しそうに見える表情を、交互に浮かべながら「どうしよ、どうしよ」とつぶやく表情は、まさに、そんじょそこらにはいない美少女モデルです。
 いえ、これ以上の、可憐で、素直で、純粋な可愛らしさを持つ小学生や中学生なんているわけがありません。
『考えてみれば、これだけの美少女のヌードを写せる機会なんて、もう一生無いよなあ』
 しかも、彼氏なんてできたことないと常々言っていましたから、ひょっとすると、いえ、たぶん、処女の裸身を拝めるかもしれないのです。
 一瞬、頭に浮かんだ、その姿は神々しさを感じるまでに美しい姿でした。
 しかし、いくらなんでもクミちゃんのように純粋なお嬢さんが、ヌードをOKしてくれるはずもありません。
 でも、クミちゃんの反応が余りに可愛くて、その困惑顔を見ているだけでも、満足でした。
「どうかなあ? クミちゃんがやってくれたら、本当に嬉しいだけどな。どう? 助けると思って。一度、挑戦してみてくれないかな? 」
「あ…… えっと、どうしよ。そんなこと考えたことないし。あの、でも、社長さんのお役に立てるならですけど…… えっと、あの、でも、あ〜ん、どうたら」
『え? 顔を赤くして、目をクリクリさせて考え込んでる…… こりゃ、案外、交渉する余地もあるかもよ? 』
 まるっきり可能性がないなら、こんな風に考え込むはずがありません。
 クミちゃんの真面目さからくる可愛さを見ていたいのが半分、ついつい出てしまう男の「欲望」が半分で、いつしか私の口調は真剣になっています。
「ね? じゃあさ、初回は、モデルをやってみるだけで、写真は一切公開しないって言うのならどう? 」
「え? 公開しない? コンテストに応募しないんですか? 」
 コンテストには応募しないけど、オレは、ちゃんと全部見ちゃうんだけどさ。
「そうだよ。データは全部渡すから、クミちゃんも、今の姿をずっと残しておくのも良いと思うよ。ホラ、最近はよくあるじゃん。大人になる思い出にって記念ヌードを撮るのも」
「記念ヌードですかぁ」
 黒い大きな瞳をクリッとさせながら、頬が紅潮しています。
 恥ずかしそうにしてはいても、そこに、拒否の表情はありません。経験上、こういう時は「押せる」もの。
「どうかな? クミちゃんみたいな美人は、一度くらい、モデルをやるべきだと思うよ? ね? 絶対に、あの時以上に美しく撮ってみせるからさ」
「えっ…… 」
 突然、頬を両手で押さえたのは、あの時の羞恥を思い出したに違いありません。そして、何よりも、その時にジャージにまで染み出すほど濡れてしまったことも…… 
「でもぉ…… それだと、社長さん、せっかく撮影してもコンテストに応募できなくなっちゃいますし」
 表情は半ば、納得し掛けても、やはり最後の抵抗をするのが、普通の女の子。
「ははは。ありがとう。いや、初回にやってみて、それでクミちゃんが納得できたら、また、撮影させてよ。今度はコンテスト用に。納得できないなら、それでお終いってことで、どう? 」
「あの…… じゃあ、本当に撮影するだけでも? 」
 その顔は、半ばOKと言っているようなものでした。
「そ。クミちゃんのような美人さんがモデルをやってくれるなら、こっちの腕も磨けるしね。純粋に、クミちゃんの記念を形に残すってつもりで撮らせてもらうってのは、どうかな? 」
 一瞬間を切った私は「絶対に、誰にも見せないから」と付け加えます。
「え〜 だけど…… あの、やっぱり、あの、その…… 」
 キュッと身を縮めるようにしたのは、間違いなく、自分のモデル姿を想像したはずです。
 こうなってくれば、後は理由を創るだけ。クミちゃん自身が、自分に言い訳をできる理由があれば良いはずでした。
「どうだろう。一度、思い切ってみるのも良いんじゃないのかな? ほら、クミちゃん子どもっぽく見られるのが悩みでしょ? 」
 瞳に、スッと光が入りました。狙い通り「ツボ」にヒットしたのです。
「えぇ、そうですけど」
「きちんと撮影するのってさ、自分を見つめ直す、またとない機会だと思うんだよね〜 」
「見つめ直す、ですか? 」
「そうだよ。クミちゃんが本当に子どもっぽいのか、それとも、実は大人の魅力を隠していて、それに自分で気が付いてないだけなのか」
「そんなこと、ないでですよぉ、わたし、そんな」
「そんなことないって!」 
 クミちゃん謙遜を断ち切りました。
 いつになく強い調子の私に、えっと言う顔でこっちを見つめ返してきます。
 黒目がちの瞳は純粋な光をたたえて、私の言葉を待っています。
 そうです。間違いなく、クミちゃんは私に「説得」されたがっているのです。
 力を込めて、熱心な声を出していました。
「クミちゃん、この際だから、ハッキリ言わせて貰うよ。君は、すっごい美人だよ。あの写真、業界の中で、大騒動だもの。モデルを紹介しろってね」
 幾分、話を盛っていますが、行く先々で、モデルをどこで見つけたかは聞かれる話なのは事実です。
「え〜 そんなあ。だって、私、男の子に告白されたこともないんですよぉ。そんな社長さん、あの、そんなぁ 」
 下を向いてしまうのは、拒否ではありません。次の言葉を待っている姿です。日本の女の子は、案外、正面から「美人だ」と言われたことなんてないのです。
 まして、男の子と付き合ったことのないクミちゃんには、想像以上に、効き目があったのでしょう。
「君は美人だよ。今まではどうか知らないけど、もし今まで言われたことがないとしたら」
 言葉を切った私に、恐る恐る顔を上げてきます。
 サラリとした黒髪は、素直さを体現するように、まっすぐなのが、なぜか目につきました。
「ね、ひょっとしたら、今まで、魅力を十分に見せてこられなかったんじゃない? 一度、自分の殻を破ってみたら変わるかもしれないよ」
「殻を破る…… 」
 クッと背中が伸びたのは、クミちゃんの心の琴線に触れた証拠です。
「そうだよ。試してみなければ、ずっとこのままだ。でも、挑戦してみたら、さ。うまくいけば変わるかもしれないよ」
「でも、変わらなかったら…… 」
「変わると思うよぉ。たださ、もし、変わらなくても、何のソンもないじゃない? でも、挑戦しない限り変わらないよ。大事なのは挑戦することじゃないかな?」
 我ながら怪しげな理屈を並べ立てていますが、もちろん、いつもの調子で「でも、ダメぇ」ってな感じで冗談にしてくれてもいいのです。
 しかし、どうやら「自分を見つめ直す」という言葉は、クミちゃんの心を大きく揺さぶってしまったようです。
 その瞳には、本気の光がこめられて、明らかにクミちゃんはモデルを務めることを、真剣に考え始めていました。
「じゃあ、さ、こうしようか。明日のバイトの時に、準備だけしておくから」
「え? だって、私やるって、まだ」
「いいの、いいの。クミちゃんみたいな美人を撮れるかもしれないってなったら、一生の宝物だからね。少しだけ夢を見させてよ。断られても、泣くだけだから」
「え〜 社長さん、そんなあ、そんなことで泣いたりなんて」
「そりゃ、泣くさ。クミちゃんのような美人を撮れるってだけで、オレの人生、残り半分バラ色になれるってんだからさ」
「そんな、オーバーですよぉ。それに私、全然美人じゃないです」
「いや、そんなことはない。クミちゃんは自分を知らないだけ。クミちゃんは、本当に美人なんだ、綺麗だよ! オレが保証する」
「あんっ、社長さん、もう〜 今日は、お世辞ばっかりなんだから」
 両手で頬を挟む姿は、まさに年頃の乙女。男になれてないクミちゃんが「褒められる」快感を受け入れている姿です。
 私は慎重に「可愛い」という言葉を使いません。クミちゃんは大人の女として認められたがっているんですから、可愛いではダメなのです。
「お世辞なんかじゃない。君は美人だ。綺麗だよ。どう? この間の写真、気に入ってくれたよね? 」
「え、えぇ、とってもステキに写していただいたと思いますけど」
「ね?ね?ね? そうだろ? 」
 ギュッとクミちゃんの小さな両手を握っていました。
 その手をふりほどこうとはしません。
「オレなら、クミちゃんが本当に盛っている魅力をしっかり引き出せると思うんだ。美のために、そして自分のために挑戦してみないか? 」
「でもぉ…… 」
 もはや自分でも断る理由を見つけられないのです。泣きそうにも見える目をしながら「でもやっぱり」と唇が小さく動きます。
『あと一押しか』
 そりゃあ、他のことならいざ知らず、処女がヌードモデルのお願いに、簡単にウンと言うはずありません。
 でも、ここまできたら、あと一息。
 なんと言っても心は納得しているはずです。あとは、一歩踏み出すための何かがあれば良いはずでした。
 その時、ふっと、思い出しました。
「あ、そうだ」
 机の引き出しから、封筒を抜き出します。
「美のために、挑戦するのは大事だと思うんだけどさ。ね、明日まで、ゆっくり考えてきてよ。それで、ね、これ上げるから使ってよ」
 ウチのように流行らない写真館でも、エステ関係の割引券の類いはいくらでもあります。撮影の前にエステをと言う女性は案外多いのです。逆に、エステで勧められて、写真を撮りにくるお客様も案外多いので、写真館とのなあなあの関係は、よくあることでした。
 差し出したのは、つい先日、リニューアルした高級エステサロンで、かねてから顔見知りの女社長がやっているところ。
 顔見知りにだけ渡してくれる。実に、九割引の「フレンドシップディスカウント」ってやつです。
「あぁあ、これ、有名なところですよね! テレビで見たことあります。私、こういうトコ、行ってみたかったんです」
 いくら、外見が小学生でも、中身は普通の女子大生です。
 テレビでCMまでしている有名サロンの系列で、高級化したこの店に行ってみたくなるのは女ゴコロというモノでしょう。
「お〜 それなら良かった。じゃ、今日、このまま行ってみたら?」
「え、これからですか? 」
「うん、そうだよ。あ、そうだ、こうしよう。クミちゃんの、人生への挑戦を応援しちゃう」
「え? 」
「この券は基本セットだからさ。そこにオプション全部載せで、今から予約しちゃうから。費用は、全部ウチ持ち。任せてよ、ここの社長、知り合いだから、特別待遇を頼んどく」
 そう言いながら頭のどこかで考えています。
『オプションと言えば、全身脱毛もあったよな? これで下の毛もツルツルにしたら、ロリそのものになるかもよ 』
 まあ、今から考えても仕方ありません。
 第一、アソコの脱毛なんてクミちゃんが受けるかどうかもわからないのですから、知らん顔して、ニコニコ笑いながら、チケットを、小さな手に押しつけます。
「え〜 でも、そんなにしていただいくなんて」
 遠慮がちの手にしっかり押しつけた時、フッと触れた掌が、柔らかくて、温かいのを初めて知って、なぜかドキッとします。
「いいのいいの。あ、モデルをやる引き替えじゃないよ。あくまでも、クミちゃんが自分に自信を持てるようにってことさ。その上で、挑戦してくれるなら、期待してるから」
「あの〜 本当に、モデルしなくても? 」
 チケットを持った手を引っ込めることもできないまま、クミちゃんは、ちょっと肩を丸めてて、決断の着かない表情。
「もちろんだよ。ホラ、今、電話するからさ。オープンしたばかりだし、平日の昼間なら、きっと予約できるさ。ほら、今日はもう上がって良いから、さ」
「え? あの、でも、まだ、決めて…… 」
「善は急げってね。じゃ、ちょっと電話するからね」
「でもぉ、あの、だって…… まだ、そのぉ…… 」
 迷いに迷っている表情を尻目に、勝手に電話してしまいます。
「あ、もしもし、あ、どうも、いつもお世話になります。北澤ですが…… 」
 口をパクパクさせて、電話する私を押しとどめる仕草をするクミちゃん。
「はい。フルパックで、えぇ、もう、全部、行っちゃってください、ど〜んと、もう」
 ウィンクする私に、真っ赤な顔はプイッと横を向いてしまいます。
 でも、それは怒ったのではなく恥ずかしかったのだと、なんとなく分かります。 
 ふわっと髪が動いたせいか、フワリと薫る空気は、何かの花の香りでしょうか。爽やかさをたたえた甘い匂い。
 小学生にしか見えないクミちゃんは、その幼い美少女の「殻」の中に大人の男を蕩けさせる香りを潜めているのを、しみじみと感じます。
 見えてないのに、電話を切るときは本当にぺこぺこ頭を下げてしまうのは私のクセ。
 そうやって頭を下げるところを、クスッと笑う「美少女」ぶりを見て、私まで照れ笑い。
「案外、強引なんだからぁ」
 チラッと聞こえた独り言には、なぜか温かい雰囲気を含んでいたように感じます。
「ってコトで、今頼んじゃったからね」
「あの、本当に、あの…… すみません。私なんかのために」
「ううん、良いんだよ、全ては美のためだもん。じゃ、写真は期待するけど、まずは、エステを楽しんでおいで。社長が腕まくりして待っているってさ」
「ふぅ。ほんとうに、あの、もしも、あの…… 」
「ほらほら、まずは楽しんでおいでよ」
「でも、あの…… こんな有名なところ。私、エステなんて初めてだから」
「なあに、ちゃんと頼んだし、大丈夫。ちゃんと、向こうの人の言うことを聞いていれば、バッチリやってくれるから。なあんの心配もないんだよ」
「……は、はい! とにかく、社長さんが、私なんかのために頭を下げてくださったのですもの。思い切って行ってきます! 」
 もはや、あきらめがついたみたいです。
 それに、やはり、クミちゃんも年頃の女の子。不安もあったかもしれませんが「うれしさ」がないって言ったらウソになります。
「行ってきます! 」
 まるで、小学校に出かける躾の良い子のように、キチンとお辞儀をしてから、クミちゃんは出かけます。
 私は、その小さな背中を見送りながら、心の中で、全てを脱がしていたのを、クミちゃんは知るよしもないはずでした。




 目次へ      前へ   次へ