こうくん原作作品集 本文へジャンプ
妻の絶頂  


その2


 雪はまだ降っているようだ。
 兄の子供たちは、圭子との遊びに疲れてグッスリと深い眠りに入っているだろう。そうだったな、僕が仕事から帰ってきた時、圭子は彼等と雪合戦をしていた。母がいなくなって、子供たちは圭子にすっかりなついている。
 父や兄は、ふだんからムッツリしている。『北国の春』という歌謡曲の“兄貴もおやじ似で無口な二人が・・・”という歌詞を地でいっている。
 だから、家の中でも僕や圭子はやけに目立った。

「全部脱がせて来た?」母が父に聞く。
「おゝ、全部脱がせて来た」と父。
 祖父は裸のまま、毛布に包まれている。この毛布は、以前僕等がプレゼントしたものだ。人一倍大きな身体が、毛布からはみ出している。
「風邪引かせないようにネ」
 そのまま脱衣所に寝かせて、父と兄が毛布を慎重に剥ぎ取った。まだ上半身は意外にしっかりしている。それに比べて、下半身がやけに痩せていた。それに、肌がとても白くて、そして艶がなかった。
 圭子が、心配そうに浴室の隅から覗き込んでいる。バスタオルから飛び出している二本の足を僕は見ていた。祖父の肌と圭子の肌を対比していた。
 祖父が、「すまんのう」と言いながら、でも「寒い」と言った。
「ほらほら、早く入れてあげて」母が、父と兄に言う。
 父と兄は、裸の祖父をもう一度担ぐと、浴室に入れた。それから、浴槽のヘリに背を立てかけるようにして、洗い場に座らせた。
 父がその身体に浴槽のお湯を掛ける。それから、容赦なく下半身を洗う。
 圭子が、
「私、やりますから・・・」と言うが、
「いいから、いいから」
 と手馴れたもんで、サッサッと洗っていく。 兄が、祖父の身体が倒れないように脇から押さえている。
 その後ろに、圭子が、バスタオルを片手でしっかり押さえるようにして立っている。何をしていいか判らないのだろう。
「これでよしっと。じゃあ入れるか」
「よし」
「じゃあ、圭子さん、先に入ってくれるか?」
 父は圭子に言った。
 圭子は兄の手前、モジモジしている。
「圭子さんお願い。風邪引かしたら大変。バスタオルのままでもいいから、早く入って!」母が指図する。
「・・・はい」
 圭子は、でもバスタオルを外した。
 バスタオルを脱衣室の方に放り投げると、そのまま湯船の中に入った。その動作は、兄の背中で行われたから、兄には見えない。でも、父には、そして僕や母には、圭子の張りのあるお尻が湯船の中に沈んで行くのがしっかり見えた。
「これでいいですか?」
 圭子が湯船の中に、こちらに背を向けるように入った。浴槽から圭子の頭だけが飛び出している。
 父と兄は、祖父を担いだまま、入れる位置を確認する。圭子の全裸の身体は、丸見えになっているに違いない。
「そうじゃなくってね、足を伸ばしてると、じいちゃんの体重で支えきれなくなる。しゃがむようにした方がいい」
 圭子が浴槽の中で動いた。
「こうですか?」その動作を、父と兄はしっかり見ている。
「そうそう。それでいい」
 それから、父と兄が慎重に祖父を入れて行った。
「両手でね。後ろから抱くようにして・・・。そう。首から上がちゃんと出るようにネ」母がこちらからテキパキと指図する。
「うわあ、重たい。大丈夫かな」これは圭子。
風呂の湯がザーッと溢れた。
「両手で、しっかり押さえていれば大丈夫よ。我慢して・・・」母が言う。
「圭子さん。そうじゃなくってね、この手をこうやって、後ろから抱くようにするんだ」これは兄。
「こう?ですか」
「そう。こうしてね。うん。ほっとくとお湯の中に沈んじゃうから・・・。そうそう。うまいうまい」兄が圭子の手を取ってやり方を教えている。
「これでよしっと・・・」
 父と兄は、一仕事を終えたように、フーッと息を吐きながら浴室を出た。ずいぶんと重労働には違いない。
「これでいいだろう。じいちゃん、よかったな、圭子さんに入れてもらって・・・」
「おう、極楽じゃ」
「じいちゃん、長湯だから、よく入るんだぞ」

 僕は、父と兄が出た後に入れ替わるように浴室に入った。
 圭子は浴槽の中で、背筋をピンと伸ばしてしゃがんでいる。その身体に自分の身体を預けるように祖父が足をダランと伸ばして座っている。圭子は後ろから抱っこするようにしている。
 僕を見ると、
「すっかり皆んなに見られちゃったわね」と恥かしそうに笑った。
「いいさ。別に・・・。僕の家族なんだから・・・」
 祖父が、両手で顔を洗っている。洗いながらフーッとため息をつく。さぞ気持ちいいんだろう。
「じいちゃん、よかったな」
「おう」
 圭子の両手は、後ろから祖父の脇の下を通って、祖父の胸の前で組まれている。祖父がズルズルと湯船の中に沈み込まないようにしっかりと押さえている。
 でも、祖父が両手をしっかり下ろして、脇の下を固めているから、圭子は手の自由が利かないんじゃないかな?イヤ、それだけじゃなくて、圭子は身体を動かすことも出来ないんじゃないかな?
「お前、大丈夫か?」
「大丈夫よ」でも、ちょっと重そうな顔をしている。
「おじいちゃん気持ちいい?」圭子が聞く。
「うん、ありがとうな。こんなベッピンさんに風呂に入れてもらって、冥土の土産が出来たようなもんだ」
「あらあら、悪かったですね、いつもは私で・・・」母が言う。
「そりゃそうじゃ、こんな張りのあるおっぱいに触れるなんて何十年ぶりじゃろう?」
 見れば、圭子の上半身は祖父の背中にピッタリと密着している。
「あら、エッチなおじいちゃんだこと」
 圭子が、顔を僕のほうに向けて、ニコッと笑った。
「じゃあ、何かあったら言えよ!」僕がそう言うと、圭子はコックリと頷いた。

 僕が浴室を出る時、うっかりストッパーを外してしまったことに僕は気づかなかった。
 母は気づいた。だから僕に何か言おうとした。僕は母を安心させるように、
「大丈夫だよ。うまくやるよ」と言った。
「違うの。早く・・・」
 その拍子に浴室のドアがバタンと閉まった。
「鍵掛けられないように!」母があわてて言ったが、それと同時に鍵の掛かる音がした。
 え?圭子は手を動かすことが出来ないから、祖父が鍵を掛けたに違いない。
 僕は、あわてて、「おい。大丈夫か?」と圭子に聞いたが、
「大丈夫じゃよ。取り巻きがうるさくっていかん。後で呼ぶから、お前たちは向こうへ行ってなさい」と祖父が言う。
 母が腰の痛いのも忘れて、ドアのところまで来て、
「おじいちゃん。鍵は掛けないで・・・。ね。すぐ外してちょうだい」とドアを叩いたが、
「大丈夫じゃよ。ベッピンさんと二人で入ってるんだ。邪魔しないでくれ・・・」と開けようともしない。
 兄が意味深い目をして笑みを浮かべながらタバコを吸っている。
 お湯の音がチャプチャプと聞こえた。それがだんだん激しくなって・・・、ちょっと争っているような感じがして・・・、そしてすぐ静まった。
 圭子の声は・・・、聞こえなかった。
 イヤ、しばらくして、圭子の「ヒッ!」という押し殺したような叫び声が聞こえたような気がした。続いて祖父の低く笑う声が聞こえた。
 母が、僕の脇で少し涙ぐんでいた。







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