妻の入院  お試し読みになります
 

第2話


 もちろん、理屈では仕方のないことです。
 妻は一つも悪くありません。
 しかし、理屈と感情は違うのです。
『オレにも見る権利があるぞ』
 もはや、ためらうことなど、思いもよりませんでした。
 ただ、見たいという思いだけが私の身体を動かします。
 あまりの展開で、ついさっきまで、つけることを忘れていたモニタのスイッチを急いで入れました。
 画面が点くまでの間に、音量のマイナスボタンを押し続けます。
 ドア越しに十分聞こえていたし、微妙な時差のある音で、隣に気づかれてはいけないと、とっさに計算したのです。
「大丈夫、患者さんは、医者を信じなきゃ。第一、僕のせいで怪我をしちゃったんだからね、心配しないで、お姫様にでもなったつもりで任せてよ」
 画面には、天井からベッドの上がはっきりと映っていました。
 妻のちょうど股間の上に左側からのしかかるように、白衣の背中が映っています。
 肩越しに、妻の乳房が見えていました。
 無事だった方の左の足先が、シーツに負けないくらい白く、にょっきりと、大きく広げられているのが見えます。
 妻は、素っ裸で脚を広げた姿を、私以外の男の目にさらしているのです。
 さっき、夫に言葉にすら出せなかった、排泄という行為も、全てです。
 おそらくは、オンナとして、誰かに見られるのは、何よりも恥ずかしい行為をしているのに。
 それを、数十センチの距離で男に見つめられている妻でした。
 いくら必要なこととはいえ、妻が辱められている気がしました。
 私にすら、「それ」をしたいと言えなかった妻が、いくら医者だとは言え、男のすぐ目の前で排泄行為をさせられているのです。
「ほら、しっかり。全部出してしまうからね。そうそう。良いよ。上手だ」
 点滴をつけたままの左手で、両目を覆うようにしながら、妻は、しきりにいやいやをするように首を振ります。
 その時、水音までが響いてきました。
「おっと、良いよ、そのまま、全部出してしまって。ダメだよ、止めちゃ、止めたら、導尿しちゃうよ」
「ああ、恥ずかしい、え? どうにょう? って」
「尿道に細い管を通して、無理矢理オシッコさせちゃうってヤツ。これをすると、少しずつだけど、ずっとオシッコが出てくるんで、旦那さんの前で、パックにオシッコがたまることになっちゃうよ」
「あぁ、そんなこといやあ」
「だろ? だから、美穂ちゃんは、ちゃんとオシッコをするんだよ。そう、そのまま。大丈夫、医者の前で、恥ずかしがることなんて何にもないんだからね」
 妻の股間の真上から、覗き込んでいるように見えました。
 いくら医者でも、いえ、まだ卵ですが、だからこそよけいに、いくら何でも、秘所に近づきすぎているように見えます。
 入院以来、シャワーも浴びていない妻の秘所の匂いまでもが分かりそうなほどの距離でした。
『見られちゃった』
 自分だけのもののはずの妻の身体を知られてしまった、それも、これ以上ないほど秘めやかにすべき、恥ずかしい姿を。
 医者と患者の関係だと言ってしまえばそれまでかもしれません。
 しかし、見られたという事実と、妻が、どこか甘えた様子を見せていたことに、私は呆然と立ちすくんでいました。
 静かな病室に、羞恥の水音がほとばしっていました。
 その音が響き始めて、どのくらいの時間が過ぎたのでしょうか。
 かなり我慢していたのでしょう。
 ほとばしる水音が、激しく響、それは永遠に続くように感じます。
 今この瞬間も、妻は私にも見られたことのない恥ずかしいシーンを、誠君に見つめられているのです。
ふと、自分がひどく勃起していることに気づきました。
『いったい、何を考えているんだ。相手は、卵とはいえ、医者だ。正当な医療行為なんだぞ。それに、美穂だって、あんなに恥ずかしがってる。それを興奮するだなんて』
 一生懸命になだめようとしましたが、ゆったりしたスラックスの中で、痛いほどの膨らみが収まる気配はありません。
「よし、これでいいかな」
「はぅ〜」
 ふと見ると、ようやく妻は、恥ずかしい行為が終わったようでした。顔を赤らめながら、横を向きましたが、それでもホッとした表情はよくわかります。
「きゃん」
 犬の悲鳴のような声を小さく上げて妻は下を見ます。
「まこちゃん、それ、ちょっと」
「ちゃんと始末をしないとね。大丈夫、病院実習では結構上手いって言われたんだ」
「あう、あぁ、そんなの、自分で」
 抗議の声を上げますが、なんと言っても身動きままならぬ状態です。その上、羞恥のあまりでしょう、声が震えてしまっていました。
 患者の抗議など、病室では簡単にはねつけられてしまいます。
 病院での白衣姿は、それだけの権威が存在するのも事実なのです。
「無理に決まってるよ。第一、こんな後ろの方まで、身体が動かせないだろ。当分は無理だよ」
「だって、こんなことまで」
「昨日までちゃんとうちのナースがやってたろ?」
「そんなことないもの」
「ああ、確かに、こっちは出なかったようだけど、オシッコは出ていたろ」
 妻は、一瞬答えに詰まります。
 なんと答えて良いのか、否定したいのと、羞恥とが妻の中でせめぎ合ったようです。
 誠君は、手を止めません。
「看護記録っていってね、患者さんのことが全部記録してあるんだ。熱があったとか、眠れなかったとか、食事が出来たとか、残したとかね」
 妻が怪訝な顔をします。何でこんなことを話すのか、という顔です。
「もちろん、トイレのことも記録されてるから、昨夜旦那さんが戻ってから、ずっと我慢してたっていうのも分かるんだ」
 時折、布のようなモノを投げ捨てています。おそらく、汚れを処理しているのでしょうが、ただのティッシュではなさそうでした。
「まあ、これで、やっと内臓が上手く動き始めたんだ、良かった。まあ、これなら順調だよ。ちゃんと出してくれて良かった、なかなか、上手だよ」
「ヘンなこと褒めないで」
「何言ってるんだよ。大事なことなんだよ。美穂ちゃんだって、大勢の医者に囲まれてするより良いだろ」
「そんなあ」
「もし、このまま内臓が動かなかったら、オヤジのことだもの、消化器のスタッフに総動員かけかねないよ。なんと言っても、相手は美穂ちゃんだもの。それでもいいの?」
「ダメぇ、そんなのぉ」
 呟くような声で、弱々しく否定します。
「だから、僕だけにするからね。その方が美穂ちゃんも恥ずかしくないだろ」
「まこちゃんが来たら、同じよ。恥ずかしくて」
「昔、一緒に風呂に入った仲じゃないか」
「そんなの、子どもの時でしょ」
「だけど、約束通り医者になったんだよ。忘れた?」
「え?」
「っと。よし、これで一応OKかな」
 誠君の言葉に、妻が反応した時には、誠君は身体を起こしていました。
 チラリと映ったのは、紛うことなく、あのベッドの下に置いてあったステンレス製の、あれに違いありません。
 しかし、そんなことよりも、突然視界が開けたことに私の視線は動かせなくなっていました。
 白衣の背中がどけば、鮮明なモニタに、ドキリとするほど無防備な妻の白いヌードが映りました。
 ギプスをつけた右脚と右手は、もちろん真っ直ぐに伸ばされていますが、左脚は思っても見ないほど、しどけなく外側に広げられていました。
 あれでは、妻の秘唇が、何もせずとも広がって、奥まで見えてしまうのではないかと、妙な心配をしてしまいます。
 点滴をつないだままの左手は、力なく、身体の脇に伸ばされていました。
 チューブにつながれ、ギプスに固められた身体なのに、痛々しさを感じなければいけないはずでした。夫として、人として、断じて、そのはずです。
 それなのに、久々に見たせいなのか、それとも、他人の前にさらけ出される無防備な姿のせいでしょうか、どんなAV女優のヌードよりも鮮烈なエロティシズムを感じてしまったのです。
 いきり立った私の怒張は、もし、一回でも、こすられたら、即座に暴発してしまいそうなほどでした。
 白いシーツ、白いギプス。
 それに劣らない、白い裸身。
 白が強調された画面の中で、久しぶりに見る妻の薄い茂みが、明るい照明に黒々と映っていました。
 今すぐ、隣に飛び込んで、このまま、妻の、あの柔らかく、強い締め付けを持った美肉の中に入りたい。
 そんな思いをなだめるのに必死にならなければなりませんでした。
 妻はと言えば、ようやく羞恥の時間が終わったのかと、明らかにホッとしている様子でした。
 可愛らしい乳首の乗った胸が、ハアハアと速い呼吸を繰り返しています。
 それは、ようやく終わった、羞恥の激しさを訴えているようでした。
「さ、よく、我慢したね、偉いよ」
 そう言いながら、妻の周りに置いてあるものを次々に片付け始めました。
 視線が時折、何も隠せない妻の胸に向けられている気がします。
 妻も気になるのでしょう、モジモジとチューブをつけたままの手を動かしたそうにしているように見えます。
「って言っても、元はと言えば、僕のせいでこうなっちゃったんだから、あんまり偉そうなこと言えないよね」
「ううん、だって、ホントは私が悪いのに。車があんまり来ないからって、ぼんやり渡ってたんだもの」
『え? 居眠り運転だって言ってたじゃないか?』
「ごめん、ごめん、僕もまさかあそこを渡ってる人がいるなんて考えもしなくてさ」
「ううん、ちゃんと信号を見てれば」
「いくら歩行者が赤で、こっちが青でも、歩行者をよけるのは車の義務だからね。仕方ないよ。美穂ちゃんは悪くない」
『ひょっとして、美穂が信号無視で渡って、そこを誠君の車が、ってことか』
 初めて聞く真実でした。
 だとすると、私が思っていたよりも誠君の責任は少ないのでしょうか。
 ビックリしながらも、視界が開けたモニタから目が離せません。
 妻の周りには、思ったよりもいろいろなものが置いてあります。
 それをテキパキと片付けている手つきは、なかなかに鮮やかです。
「僕がぼんやりしていたのは事実なんだから、ごちゃごちゃ言うより、警察が言うままになった方がいいって、弁護士さんも言ってたからね」
「でも、そのせいで、お父様に」
「どのみち、相手が美穂ちゃんなら、オヤジはきっと同じようにしたと思うんだ。なんと言っても大親友の娘なんだから」
 警察には一切の言い訳もせずに、言われるがままに、一方的に責任を認めたと言うことなのでしょうか。
 もちろん、対人事故を起こせば、運転者はどうあっても責任はありますが、信号無視した妻の責任だって、決して小さくはありません。
 男らしく潔い態度と言ってしまえば簡単ですが、なかなか出来ないことのように思えました。
 唖然として見つめるモニタの中で、誠君は薄手のゴム手を慣れた手つきで外すとベッドの横に投げ捨てています。
『ああ、膿盆を置いてるんだ?』
 現場でよく使われる「のうぼん」呼ばれるソラマメ型のステンレスでできた器は、汚れ物などをポイポイ入れるのに使われています。
 しゃべりながらでも、片付けの手は止まりません。
 細く白い腰の下に左手を滑り込ませながらかがみ込みます。
 妻の身体に顔がくっつきそうなほどの近さです。
「さてと、ちょっとだけ、ごめんね、シートを外すからね」
「すみません」
 下に敷かれたシートをスッと抜き取る時には、妻が自ら腰をわずかに動かして協力したように見えました。
 裸の腰を抱き上げられながら、すみませんと礼を言う妻を見ているのは、ジェラシーともつかない不思議な感情が湧き出します。
 もやもやした気持ちと、硬くなった怒張を持てあましながら、モニタを見ているしかありません。今さら、中に入っても、気まずい思いをするだけだからです。
 ちょうど腰の辺りに、束になった未使用ガーゼの山が見えます。おそらく妻を拭った残りなのでしょう。
 一瞬、そのガーゼの残りが、ラブホテルにあるティッシュを連想させてしまったのは、我ながら、下品な発想に違いありません。
「まあ、こんなことを今さら誰かに言ってもしょうがないもの。美穂ちゃんも今さら、誰にも言いっこなしだよ。後でもめる元になるからね」
「でもぉ……」
 何か言いたそうな妻でしたが、なんと言っても、ギプス以外はオール・ヌードなのです。明るい光の下では、さすがに居心地が悪いのでしょう。
 口ごもるしかありません。
 かといって、今さら身体を隠すのもヘンだと思ったのか、わずかに自由になる左手を、もじもじと動かします。
 妻の目が、枕元にどけられたケットにチラチラと向けられます。
 つい、私の視線も、つられて妻の顔に向けていたので、気がつきませんでした。
「まこちゃん!」
 妻が急に下を向いて気がつきました。
 画面の左側。ちょうど妻の股間の下でした。
 誠君が、妻の股間を覗き込む仕草をしていたのです。
「ま、まこちゃん!」
「黙って」
 膝を立てて広げられている左脚を、急に閉じる間もなく、誠君の手は、妻の茂みに伸びていました。
「動いちゃダメだよ。ちょっと気になっちゃったからね。そのまま、確認するからね」
 誠君の指先は、妻の秘所に伸びています。
 そう言えば、さっきゴム手袋を外していました。
 ということは、彼の指で直に秘所を探られていることになります。
「ね? ちょ、ちょっと、まこちゃんってば」
 やや下から覗き込むその顔は、真剣そのものですが、妻からすれば、いきなり秘所を幼なじみだと思われる男に、しかも、素手で探られるのです。
 こういう時、むしろ、見知らぬ他人の方が、恥ずかしくないと言いますが、妻は、よりにもよって、一番見られたくない相手に見られてしまっているのです。
 せっかく落ち着きかけた顔色が真っ赤になるのも分かります。
「黙って。恥ずかしがると余計にヘンだよ。患者は、医者に、黙って任せる」
 厳しい声で白衣姿の「医者」に宣告されれば、患者はそれ以上抗議も出来ません。
 それでも、よほど恥ずかしいのか、妻は顔を背けるしかありません。
 妻もそうでしょうが、ついさっき、誠君が片付け始めた姿にホッとしていた私です。
 羞恥の時間は、まだ終わってはいなかったことを思い知らされたショックは大きく、画面に吸い寄せられるように目が釘付けになってしまいます。
 細かいことは分かりませんが、その手つきからすると、大きく広げられた両脚の間で、秘唇をさらに、広げられているようでした。
 病室で様々な処置をするためでしょうか、病室の明かりはかなり明るくなっています。
 おまけに、窓から初夏の太陽光が入ってくるのですから、そうやって秘唇を広げれば、誰にも見せたくないはずの秘唇の奥まで十分見えるはずでした。
 夫以外の男、それも幼なじみに、恥ずかしい場所を覗かれているのに、患者と医者の立場では、あらがうことも出来ません。
 もちろん、誠君は、まだ医者ではないのですが、既に、下の世話を受けてしまった妻からすれば、無理でしてでも「相手はお医者様だ」と思いこまないと、恥ずかしさに耐えきれないはずです。
 そうなのです。
 ここまできたら「誠君はお医者様なんだ」と思いこまなければ、妻に残るのは「幼なじみの男に排泄行為を見られた」という、オンナとしてあってはならない羞恥だけになってしまうのです。
 そして、誠君が、医者として何事かをしようとしている以上、妻は、さっきの羞恥をなかったことにするためにも、今度の羞恥にも耐えるしかなかったのです。
 つまりは、明るい場所で秘唇を大きく、くつろげられ、奥まで視線を浴びるのを我慢するしかありません。
『いったい、何をしているんだ』
 顔を背け、羞恥の嵐が過ぎ去るのを待つしかない妻の様子を無視して、熱心に秘所をのぞき込んだまま、何か考えている様子です。
「うちのナース、いけないなあ、親父にあれほど言われてるはずなのに、う〜ん」
あいからず真剣に覗き込んだまま、いかにも嘆かわしげに呟きます。
「どうしたの」
「ちょっと雑だよなあ」
「雑って」
「ここの始末のこと」
「そんなの、どうでもいいじゃない、ね、もう」
 妻からすれば、一刻も早く逃れたいのでしょうが、誠君はそんなことを少しも意に介しません。その両手は、相変わらず妻の秘所に差し込まれていました。
 妻の頬が、これほど紅潮しているのを見たことはありませんでした。
 それは、夫である私にすら、ここまであからさまに見られたことがない、ごく普通の女性なのですから、当然かもしれません。
「あれ、そういえば」
「な、何?」
「今、旦那さん、来ているんだよね」
「ええ」
「旦那さんに会うの、久々なんだろ?」
「そうだけど……」
「なら、よけいに、こっちも綺麗にしないとね。旦那さんだって、都会で、いけてる女の子のを見飽きても、やっぱり、久々に美穂ちゃんのも見たいだろうし」
「彼は、そんなことしないわ」
「まあ、夫が浮気するって思っている女性はほとんどいないからねえ」
「ちょっと、ヘンなこと言わないでよ」
「でも、何、やってたんだろうなあ、うちのナース。まったく、女性に対する清拭の基本がなっとらん、あとできつく叱らなきゃ」
 妻が口を挟もうとすると、さっと話題を変えてしまいます。
「せいしき?」
「ああ、こうやって動けない患者さんの身体を綺麗にすることなんだけどさ、女性患者、特に若い女性の場合は、ここがね」
「あう、ちょっと、そ、そこっ、だめ」
 誠君がどこか、指を動かしたのでしょうか。慌てたように妻が、まさに、手を伸ばされている先を見ます。
 妻の秘所に差しのばされた左手の指が妻の身体の奥へと伸ばされているようでした。
 伸ばした指先が、モニタに映りません。
 きっと、角度として、こちらから見えないだけだと、無理にでも思いこもうとしている私がいます。
 どう見ても、その指先が妻の中に差し入れられているように見えていても、です。
 妻の身体が、ガチガチに緊張しているように見えました。
 モニタでそれを見ている私自身もガチガチになっていましたが、不思議なことに、私の怒張もかつてないほど硬く、大きくなっていたのです。
『美穂のそんなところを……』
 モニタには、秘所がまさぐられている妻の姿が映し出されています。
 明るいベッドの上で、何一つ隠すことも出来ないまま、身体を広げられているのです。
 まだ医者でもなく、しかも、よりにもよって幼なじみの同い年の男に。
 本当は、こうなったら、いえ、こうなるもっと前に止めなくてはいけないのです。
 それなのに、まるで、身体が動きません。
 重たい脂汗だけが、背中をしたたり落ちています。
 エアコンの効いた室内は寒くも暑くもないのに、私の膝はブルブルと震えていました。
 それなのに、怒張だけは、別の生き物のように硬くそそり立ち、ズボンの中で苦しくなっています。
 ズボンの中から解放してしまいたいと思いつつも、もし、ここで音を立てて見つかってしまえば、とてつもなく気まずくなることを恐れて動けずにいました。
『もし見つかったら』
 これほどの辱めを受ける所を、私に見られていたと知った妻が、どう思うのか。
 情けない夫だと軽蔑されてしまうのではないかと思うと、ここに忍び込んだ時の気安い気持ちなど、吹き飛んでしまいました。
『見なければ良かった』
 知らなければ、こんな思いもすることはなかったのです。
 妻自身も、相手が医者なんだから、と思いこむことでなんとか気持ちが保てているはずでした。
 さもなければ、ただでさえ恥ずかしがり屋の妻が、幼なじみの前で排泄行為をしてしまい、その始末までされてしまった自分を許せるはずがないのです。
 その上、そんなシーンを私に見られたと知ったら、どれほどショックでしょうか。
 こうなったら、私がここにいることを最後まで、決して知られてはならないのです。
 私には、この時点で、この後何が起ころうと、決して「見ていた」と妻に知られる自由が吹き飛んでいました。
 脂汗を流しながら、身体を動かせずにいる私の耳には、薄い壁越しの会話が、まるで台本でもあるようにすらすらと進んでいるように聞こえました。
「ここは、ちゃんと清潔にしないとだよ。ここが汚れていると、女性の場合、これから子宮ガンや、子宮頸ガンになる確率が高くなる」
「そんなに汚れてるはずなんて」
「入院以来、シャワーも浴びられなかったでしょ?」
「でも」
「ダメダメ、若いんだから。分泌物は、毎日、洗うのが基本。第一、旦那さんの前では綺麗にしておきたいでしょ?」
「そんなこと、良いってば」
「こういう時でも、基本は守らないとね。大丈夫、美穂ちゃんだもの、大サービス。ちゃんと、丁寧にやるからね。ほら、清拭布もちゃんと温めてあるんだぜ」
「あぁ、そんなこといいから、もう、いいってばあ、あん!」
 なんだか、二人っきりのベッドで出すような声だと感じたのは、気をまわしすぎなのでしょうか。しかし、妻の声には、痛みと言うより、色っぽいものが、明らかに含まれています。
 おそらく、さらに秘唇をグッと広げているに違いありませんでした。
 広げられた、左脚とのすき間の中に、頭を突っ込むようにして覗いている誠君には、秘唇の奥底まで覗かれているはずでした。
 アダルトビデオでは、女優さんの秘所を覗き込むシーンも当たり前ですが、自分の妻が目の前で、こんな風に露骨に覗かれている姿は、衝撃以外の何者でもありません。
 腰が抜けてしまったように動けません。
 その上、認めたくはなくても、羞恥の嵐に浮かぶ妻の姿に、これ以上ないほど、興奮している自分がいます。
 さっと手が伸びて、さっきのガーゼを取ると、すぐさま妻の秘所にあてがい、そっと動かし始めました。
「せいしきふ」と呼んでいましたが、要するに、濡らしたガーゼのことです。
 汚れを拭き取るための、そのやわらかな布を取って、誠君は慎重な手つきで秘所を拭い始めたのです。
 モニターの中では、今度は上を向いたまま痛みを我慢するような顔をして、妻が目を閉じています。
 眉を真ん中に寄せて、何かを我慢する表情でした。
『痛むのか?』
 思わず、心配になります。
「ほい、まず、こうやってっと。ほら、力を抜いて、力を入れると折れたところに肉が巻いて治りが悪くなるよ」
「だって、そんな、の、無理よぉ」
 目を閉じたまま、何かをこらえる表情のまま、わずかに顎を上げながら答えます。
 妻の声にどこか甘えた匂いを感じました。
 規則的に、誠君の左手が上から下へと動きます。
 その度に、妻の肩がヒク、ヒクっと動きます。
 拭き清めているという割には、ソフトにソフトに、動かしているように見えました。
 その動きはまるで愛撫そのものにも見えてしまうから不思議です。
『バカ、何を考えているんだ、オレ! これは清拭なんだぞ?』 
 懸命に自分に言い聞かせようとしています。しかし、誠君の頭の影になって見えない、その部分で行われている行為は、どうしても、愛撫にしか見えなかったのです。
『感じたりしないよな…… いや、美穂が、そんなことあるわけないだろ…… でも、こんな風に、それに、けっこう、さっきから長くやってるし……』
 もし、ベッドの中で、こんな風にじっくりと妻の秘所を触れば、感じやすい妻はきっと、ビショビショになって、私を迎え入れたがるはずでした。
 いえ、そもそも、こんな風にあからさまに覗き込むことなど許してくれそうもないほど、妻は恥ずかしがり屋なのです。
 しかし、もちろん、それがどんなにいやらしい動きに見えても、実際には、拭いているだけですし、触っているのも、夫である私ではないのです。
 妻が知っている男は、生涯で私一人だけでした。それは疑いようもありません。
 そんな、恥ずかしがり屋で、浮気一つするはずもないほど真面目な妻が、私とのベッドの中でのように濡れたりするはずもありません。
 しかし、恐るべき光景が見えたのです。
 モニタに綺麗に映っている、妻の口が、わずかに開くのが見えました。
『え? おい? まさか?』
 誠君の動きに合わせて、ため息のように息を吐き出しては、ヒクッと肩をすくめるような動き。
『そんなはず、ないんだ。美穂が、こんなことで感じるわけなんて。うん、オレの勘違いだよ。ダメだなあ。しばらくしてなかったからって、自分の奥さんをいやらしい女だと見間違えるなんて』
 それでも、妻の頬が蒼白から、急速にピンクに染まり、左手が、わずかにシーツをつかんでいる姿を見ると、まるで感じるのを我慢しているようしか見えません。
『いくら、恥ずかしいのを我慢してるにしても、ほんと、これじゃ、感じてるのを我慢して…… いかん、いかん、そんなはずはないんだ、美穂がこんなことで感じたりなんて、するわけないだろ』
 一生懸命になって、絶えず自分にそう言い聞かせないと、感じているのではと、どうしても疑いたくなるような妻の表情でした。
 突然、妻が顎をクイっとのけぞらせて、枕にグッと頭を沈み込ませます。
 まるで、中学生の女の子が、いけない一人遊びの末に、幼いオーガズムに貫かれた直後のような、そんな、姿に見えてしまいます。
「はぁ〜」
 ため息とも、満足の声ともつかない息を吐き出して、妻がけだるげに、目を開きました。
 その表情が、一瞬、物足りないような、そのくせ安堵したような見えたのに驚くしかありません。
 誠君が身体を起こしていました。
「はい、これでっと。ちょっと、このまま待ってね」
「あの、もう、終わりに」
 あまりの羞恥のためでしょうか。瞳が潤んでいるように見えました。
「終わりじゃないよ、まだまだ。せっかくだからちゃんとしておくからね。大丈夫、痛くないだろ?」
 顔をのぞき込まれるようにすると、やはり恥ずかしさが勝るのでしょう、すっと目を逸らしながら答えます。
「それは、痛くはないけど」
 一度体勢を起こした誠君に、左脚をスッと膝から持ち上げられて、妻の目が不安そうに泳ぎます。
「ね、まこちゃん、こんなカッコ、恥ずかしいよ」
「ちょっとだからね」
「だけど、こんな、いやあ」
「イヤも何もない、治療のために必要なことは、患者さんに我慢してもらわなくてはならない。たとえ相手が美穂ちゃんでも、それは同じだよ」
「でもぉ」
「医者の言うことは聞かないとね。いくら旦那さんがしばらく戻らないと言っても、こんな所を見られたい?」
「そんなのダメよ」
「旦那さんの前で、こんな格好したい?」
「ぜったい嫌!」
 あれ、っと思いました。私がしばらく戻らないことをどうやら妻は話したのでしょう。通りで、私が戻ることを気にする様子がないとは思いました。
 それにしても、現に、誠君に見せている姿を、夫である私が見るのは嫌というのはどういうことでしょうか。
 やはり「相手がお医者様なら、しかたがない」という部分があるのかもしれません。
「ね? 美穂ちゃんも、早いとこ、終わった方が良いはずだよ」
「そりゃ、そうだけど」
「じゃあ、ちゃんと拭きやすいように、我慢、我慢。大丈夫、すぐ終わるからね」
「くっ」
 首を仰け反らせて、声にならない声を出して、目を閉じます。
 持ち上げられた膝は、曲げたまま大きく外側に広げ、抱え込むような位置に持ち上げられています。
 白衣の背中が邪魔して見えませんが、こんなカタチで広げられてしまえば、どうなってしまうかわかりきっています。
 下に吊られているギプスの右脚が真っ直ぐなったままでも、秘所が余すところなく、この明るい照明の下であからさまになってしまうはずでした。
 白衣の影で見えぬ妻の秘所を思い浮かべて、ズボンの中で硬くなりすぎた怒張の角度を、腰を引くようにしてそっと直します。
 それだけで、鈍い痛みにも似た快感が怒張からジーンと響いてきます。
 そんな私の困惑など、もちろん知らず、モニタの向こうでは、白衣の背中が着々と動いています。
 妻は恥ずかしがり屋です。
 人前で脚を広げる姿どころか、ミニスカートは、タイトなもの以外はけっして穿こうとしなません。
 結婚前に、二人でプールに行った時も、ビキニはもってのほか。
 私と一緒にいる間、パレオとかいう、腰回りを覆う布も絶対に外しませんでした。
 結婚以来、処女から、ずいぶんエッチなことを一つずつ教え込んできました。それでも、いまだに明るい場所では、脚を広げる動作などとんでもないと思っている妻でした。
 それが、まさか、人生でこんな目に遭うとは思っても見なかったはずです。
 全裸で、幼なじみの男の前で、夫である私にすら見せたこともないほどあからさまに脚を広げ、秘所をさらけ出しているのです。
 ついさっきは、誰にも見られてはならない、排泄行為までも、見られているのです。
 どちらが恥ずかしいのか、と、比べることもできないほどの羞恥に、妻は曝されているのです。
 こうなっては、誠君を医者と思いこむことで、ようやく、この恥ずかしさに耐えようとしているはずでした。
 しかし、そうは言っても、そこは、幼なじみだという甘えが混ざるのでしょう。
 本来の医者相手なら、黙って従うしかないはずなのに、力を入れて抵抗こそしないものの、甘えの混じった言葉で一生懸命に訴えています。
「あ、そ、そんなっ、ねぇ」
「大丈夫、痛くしないようにするからね」
「あう、だからって、あん、そんなとこ、もう、いいから、ね、まこちゃん」
「大丈夫、ほら、力を抜いて、拭くだけなんだから、心配ないよ」
「だって、そんなに汚れてなんて」
「さっきも言っただろ。今くらいの時が一番分泌物が増えるんだし、奥まできちんと拭かないと、リスクが高くなるって」
「だってぇ、あぁ」
「ああ、こんなことなら、洗浄キットも持ってくれば良かった。今日は、とりあえず、そっと拭くだけだけど」
「恥ずかしいから、もう良いの、ね、もう」
「恥ずかしくても必要なら我慢しないとね。そのために医者がいるんだ。ほら、そっとする分、ちょっと時間がかかるけどさ、痛くないはずだから、ね、そうだろ?」
「あんっ、痛くは、あぁ、ない、けど、ちょっと、あぅ、あぁ、いやぁ」
 身体の陰になって見えませんが、どうやら、持ち上げた膝をそのまま右手でおさえて、左手を微妙に動かしているようでした。
 秘所を拭う手元は見えませんが、白い肩が、その度に、ヒク、ヒクッと震えるので、それと分かります。
 入院以来そのままの秘所をきれいに拭く、という目的を聞かされていなければ、とんでもなく淫らな愛撫に見えます。
 いえ、目的を聞かされていても、それはまさしく愛撫にしか見えませんでした。
 何よりも、妻の表情も、声にも、淫靡な物が含まれていることを認めざるを得ないのです。
 もはや自分すら誤魔化せません。
 妻は、あきらかに感じていました。
 手元が見えない分、誠君の左手がどのように動かされているのか、妄想がムクムクともたげてきます。
「ね、ほら、大丈夫でしょ。痛くない?」 
「それは、はふっ、痛くは、ない…… けど、あう」
 恥ずかしさに頬を紅潮させ、目を閉じています。
「ほら、こっちも、ね」
「そ、そこは、ちょ、ちょっと、あう」
「大丈夫、ほら、痛くない、この部分も意外に、ね」
「あう、そんなとこ、あうぅ、だめぇ」
 まるで睦言を交わすように、だんだんと声が密やかになってきていました。 
「ほら、ここ、旦那さんだって触りたいだろうからさ、こうやって、きれいにしておかないとね。でも、ダメだよ、まだ、足に響くからセックスをしちゃ」
「ちょっと、そんなこと、あう、するわけない、あうう、でしょ」
 目を開けることも出来ないほど恥ずかしそうな様子で、やや顎を上げ、ほんわりと広がった唇から、抗議の言葉と羞恥のため息を交互に吐いていました。
 この「ため息」も、女性が快感を感じて漏らした、嬌声まじりのものだとしか思えません。
『そんなはずはないんだ』
 現実はどうあれ、懸命に、自分に言い聞かせるしかありません。壁一つ隔てただけの場所で、妻が、他人の指に感じて
「あぁ、だめ、あふう」
「まあ、いいから、いいから。さ、じっとして」
「あぁ、でも、そんなとこ……」
「はいはい、さ、ちょっと、こっちの脚、そう、もうちょっと外に、力を抜いて。いいね、柔らかい。身体が柔らかい人は治りも良いものだよ。美穂ちゃん、こんなに柔らかいなんて」
「え、ちょっと、まこちゃん、そんな、だ、ダメだったら、あぁ、いやぁ」
 妻の足はさらに広げられてしまったようです。
 これでは、秘唇をことさらに指で広げなくても、自然と内側の入り口までもが丸見えになってしまうはずでした。
 ひょっとして、クリトリスすら、隠している包皮がめくれ、顔を出しているかもしれません。
 白衣の陰の向こうでは、妻の秘所が、明るい病室の灯の中で、夫である私ですら見たこともないほどあからさまになっているはずだったのです。
 もはや、妻は、抗議の声さえ上げなくなっています。
 あまりの羞恥に、言葉を紡ぐことが不可能になったのでしょう。
「え? ね、ちょ、直接は……」
 ただ、一度だけ、狼狽したように、叫びかけましたが、静かに、と叱りつけた時のきつい調子に、黙ってしまうしかありません。
 点滴のチューブをつけたままの左手をそっと両目の上に横断するように載せ、ほんわりと開いた唇から、いくぶん荒くなった呼吸をするだけの姿勢になったのです。
 誠君は、相変わらず妻の上にのしかかるようにかがみ込んで、大きく広げた妻の秘所を覗き込みながら、じっくりと丁寧に拭き続けているようでした。
 もちろん、きちんときれいにするためには、その対象を見るのは当然ですが、その「熱心」さには、医者という立場以上のものを感じてしまいます。
 妻も、それを感じているに違いありません。
 しかし、妻がどう思おうと、そして、いくら恥ずかしくても、しょせんは身動きできない患者の身です。
 悪いことに、他ならぬ妻自身が「医者だ」と思いこもうとしなくてはなりません。
 患者が「医者のすること」に、どんな文句がつけられるというのでしょう。
 どんなに恥ずかしいことであっても、医療のためという口実があれば、患者が逆らうことは不可能なのです。
 同年齢の男性に排泄する瞬間を見られ、その世話をされる。
 女性にとっては、究極の羞恥とも思える行為です。
 妻のように羞恥心が強い女性にとって、大げさに言えば、そんなことをされて生きていられるはずがないのです。
 それを、やむを得ないものとして、自分の中で「消化」するためには、相手が医者であると思いこむしかありません。
 だから、誠君に医者としての権威を認める必要性は、誰よりも妻にとって必要なことでした。
 相手を医者だと認める必要性が妻自身にあるとなると、何をされても、出来ることは、羞恥の時間が早く過ぎてほしいと、身をすくめて祈ることだけだったのです。
 妻の祈りを無視して、白衣の背中が、いつまでもリズミカルに揺れ、その度にヒク、ヒクッと裸の妻の肩が揺れています。
 妻の顔から、何かをこらえていることが、ありありと伝わってきます。
 それが、単なる「羞恥」に耐えているだけであれば、どれだけいいでしょう。
 もはや、哀願すらもできませんでした。



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