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| SOS 〜喪われた教室〜 |
「はあ〜」
力の抜けた声が出てしまったのは、どっちだったんだろう。
ドサリと先生の上に崩れてしまう。
胸の下のやわらかな感触。先生の大きなオッパイがうれしい。
「ちょっと!重い。いつまで乗っている気よ」
さっきまでの強気の先生。
「ごめんなさい」
慌てて抜こうとしたら、あれ?
先生、そんな風に背中に手を回されるとどけないのですけど。
退かなきゃイケナイのに、先生の手がガッチリと背中に回されていて、動けない。
一瞬、先生の目がイタズラな表情でこっちを見て、何かを期待する顔だ。俺としては、いったい、退けばいいのか、退かない方が良いのか、目で尋ねるしかない。
ためらっているうちに、先生の顔に剣呑な気配。
「っもう。ほら、初めてのお相手なのよ。何にも言わない気なの」
え?え?え?
「ん、もう!だから、モテないのよ。ヲタ! ほら、キスくらいちゃんとする」
唇をツンと突き出す目が、ねっとりとした何かを含んでいた気がした。
あ、そうだよね、先生だって、初めてだったんだし。
慌てて唇を近づけると、そのまま、深く長いキス。
先生の舌が、ムリヤリ俺の舌を絡め取ってくるから、ついつい、先生の口の中に、舌を入れちまったんだけれど、イヤじゃないのかな?
その途端、先生の腕が、ぐっと、さらに抱きしめてくる。良かった、少なくとも、イヤではないらしい。
調子に乗って、長いキスをしたんだ。
俺の涎が、先生に流れ込んでるはずなのに、先生はちっとも嫌そうじゃない。俺の舌から、時々離れては、コクリと飲み込んで、慌てて、って感じでまた絡んでくる。
長い長いキスだった。
ようやく唇が離れた瞬間、先生が小さな声で、おいしい、って言った気がした。
「先生、うれしいです」
心から、そう思ったんだ。
「そうでしょ。そうでしょ。初めてが、私でよかった?」
「は、はい!」
「そうね、恋人ってわけにはいかないけど。そう、あの、えっと」
「は?」
「横山さんに振られたら、私が、飼って上げても良いわよ」
先生の顔が、急に真っ赤になって。
「ほら、さっさと降りる。探しに行くわよ」
俺を振り落とすように、身体をひねったら、さっきまでの先生の口調に戻っていた。
そう、確かに、ぼやっとしてられない。
でも、どうやって。
「とりあえず、廊下の様子を見ましょ。うまくいけば、やり過ごせたかも」
「先生、そんなこと、わかるんですか?」
「さあね、でも、気配を感じないのだけは確かよ。どっちみちじっとしてても仕方がないのだもの」
そうだ、とにかく、美久を探さないと。
ズボンと、シャツだけ。どのみち、ブレザーは、ぼろ切れになっちまったし。
先生は、素肌に白衣を羽織るだけだから、あっという間だ。
俺は決意を固めて、入り口のバリケードを外し始めた。
「もう、横山さんのことになると顔つきまで変わるのね」
ちゃかすような、セリフ。
「私を捜すときも、そんな顔をしてくれるのかしら」
「ちゃかさないでください」
「あら、結ばれたもの同士、仲良くしましょ。大丈夫、横山さんにはナイショにしといてあげる」
ドキ。そう言えば、そんなことを全然考えてなかった。
「せんせ〜」
「よしよし、大丈夫、ちゃんと、これからも、よき僕(しもべ)でいることね」
「しもべ、っすか〜」
「さてと、で、誓いのキスは?我が騎士(ナイト)よ」
茶目っ気たっぷりに、目を輝かせて、右手を差し出されたら、誰が逆らえるって言うんだ。
恭しく跪くと右手の甲にそっとキスをする。
「ほら、こっちも」
へ?
唇をツッと突き出す仕草。
お〜い、ナイトは、いちいち唇にキスしましたっけぇ?
わけがわからないが、逆らえるはずもない。第一嬉しい。
そのまま、唇に。
チュ。
「好きって言いなさいよ」
耳元に囁き声。誰も聞いてないのに。
ってか、どうして?
「良いから、早く」
わけもわからず、慌てて、先生の耳元で囁き返す。何で、囁いちゃうんだろ?
「好き、です」
「ほんとう?」
一瞬目を下から覗き込んでくる先生と目が合ってしまう。
あれ?この目。
先生の目が、マジ、に見えたんだ。
でも、まさか。
いくらなんでも、そんな。だって、五歳も年下なのに。
「ほら、言いなさいよ。横山さんの次に好きだって」
一瞬何にも言えなくなる。
いくら「鈍」なおれだって、こんな風に目を合わせたら、そんなことを言えるわけがない。
そうか、そうなんだ。
ごめんなさい、先生の気持ち、考えてなかった。だって、まさか、さ。
「先生」
「何」
「好きです。世界中で一番。好きです」
輝いた目。
すっげー、やっぱり美人だよなあ。
胸の奥がとろけるような笑顔を見せてくれる。
「ふふ」
え?嫌な予感。
先生の目に、また、さっきの、あの、いつもの光。
「あ〜ら、私のことが好きになるなんて、一万年早いわよ。どうしてもって言うなら、私の年を追い越してからになさい。あなたにはせいぜい、同級生がお似合いよ。あら、同級生じゃなく、後輩かしら、ほほほ」
そりゃ、ないだろ〜が。
一瞬、気を呑まれて外した俺の唇に、先生の甘い唇がむにゅっと重なってくる。舌まで入ってくる、脳まで溶けてしまいそうなキスだった。
「でも、気持ちだけいただいておくわ。鈍感、さ、ん」
フワッとした甘い匂いだけを残して、先生はクルリと扉に向かう。
「さ、行くわよ」
手を腰に当てた白衣の女王様は、颯爽として扉に歩く。
俺はわけもわからず、ほうけた顔で立ちつくすしかなかった。
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