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野草随想85

エノコログサ

22.10.10



草っ原に寝そべると、エノコロが自分より背が高く見える。それが、秋の陽を背後から受けて、ノギをきらきら光らせる姿は可愛いし美しい。暫くは、ただ見ている。
大きいのも小さいのもある。
ちょっと腰の曲がったのや寸胴なのもある。やけに色の赤っぽいのもある。結実の早いのも、遅いのも見える。
当たり前だが、それぞれちょっとずつ違う。だが、違いを言うほどの違いではない。そうすると、ふと五七五が沸いてくる。

エノコロに夫々相貌(かお)あり人に似て

逆に、ああ人間の生命も同じだなと思う。そしてまた五七五。

 エノコロの一本となりて蒼穹(そら)仰ぎ

「しっかりものを見ないと、俳句にならないね。あなたのは、情緒的、観念的過ぎる」
と、言われる。
そうだと思う。が、耳を貸さない。実は、私はこれらをあんまり俳句だとは思っていない節もある

この夏は、113年の気象庁の観測史上、最も暑い夏だった。けれどエノコロは実に乾燥にも強い。こうしたイネ科の雑草は、なぜこんなに強いのか。

田中修さんの「雑草のはなし」(中公新書)を捲っていたら、C3 植物とC4植物という話が出てきた。
C4植物は、PEPカルボキシラーゼという酵素を持っていて、吸収した空気中の二酸化炭素を取り込んで炭素4個の化合物をつくる。一般の植物は、炭素3個の化合物を作るのでC3植物といわれる。

二酸化炭素の取り込みが効率的なC4植物は、気孔を大きく開ける必要がなく、水の消費量がC3植物の約半分ですむ。だから乾燥に強い。
またC3は、晴天の昼間の太陽光を、その3分の一の強さしか使えないが、C4は二酸化炭素不足が生じないので強い太陽光のすべてを使って光合成を行える。

と、このようにC4植物は「高温」「乾燥」「強光」のいわゆる3kに強い植物なのだという。
地球上の植物の全体の95%がC3 植物で、C4植物は5%。20科1200種が知られていて、身近ではシバ、ススキ、メヒシバ、カヤツリグサなどが上げられている。
エノコログサもその仲間である。と書かれている。

してみると、異常気象の続く地球では、これからC4植物がシェアを伸ばしていく予感がする。しかし一方、二酸化炭素濃度が高まっていることから、PEPカルボキシラーゼがそれほどのアドバンテージにはならず、C3 植物が安泰な状況が続くようにも思える。どっちなのだろう。

花としては、これらC4は、なんとも地味なので、C3の艶やかさに期待したい。

また稲・麦など主要穀物がC4なら心強いのだが、イネはC3なので、遺伝子操作でC4の形質獲得を研究している人も居るらしい。

考古学の重鎮、森浩一さんは「日本の深層」(筑摩新書)に、エノコロのことを書いている。
森さんは、日本史では稲作を中心に見すぎていて、畑作の粟など雑穀の重要性が忘れられている、として様々な話を書いているが、その中で、エノコロについて次のように紹介している。

明治24年刊行の「有用植物図説」には、丹波ではエノコロを畑で栽培して食用にしていたことが書かれていること、
また太平洋戦争期に食糧不足を凌ぐために書かれた「本邦郷土食の研究」(昭和19年)には中国地方の項に、「米麦の補助食として用いる」とある例を挙げている。

エノコロは食べられるものなのか。
著者は驚いているが、わたしも驚いた。しかもつい100年ほど前まで食用にされていたのだという。
考えたこともなかったが、確かにアワに似ている。
粥やご飯に混ぜたり、粉に引いて食べたりしたようだが、たぶん美味くはないだろう。
いずれ時間と興味が合致したら、挑戦してみるのも面白そうだ。

(参考)
森浩一:「日本の深層」(筑摩新書)
田中修:「雑草のはなし」(中公新書)