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野草随想87

シロバナタンポポ

23.03.19




シロバナタンポポ

先日、河内国の一の宮であった枚岡神社(ひらおか)神社に初めて詣でた。河内国は今の東大阪市付近に当たるらしい。近鉄奈良線の枚岡駅で降りると、直ぐに鳥居が見えて、なだらかに登っていくと社殿にいたる。

ここは生駒山の西麓で、神社脇の日当たりの良い斜面には立派な梅園が広がっていた。梅のほのかな香りが漂う向こうには、大阪の市街がずっと見渡せる景色の良いところである。

 

梅園を巡っていると、足元の小さい標識に気がついて読んでみたら、カンサイシロバナタンポポを植栽しているので摘まないように、というものだった。そんな種類のタンポポもあるのか、と見回してみたのだが、それらしき花はもちろん、葉も見当たらなかった。

ただ、近くにはカンサイタンポポと思しき花が二つ三つ見られた。


カンサイタンポポらしい

タンポポは黄色いものだと思っていたが、どうやら「シロバナタンポポ」という白い花があり、関西や四国九州では、むしろ白のほうが多い、と書く図鑑もあって、信州生まれの私は長らく訝しく思っていた。

ところが7、8年前になるが、たまたま近くのミカン園(静岡市内)で見つけて、なるほど白いタンポポがあるのだと納得し感激もした。まっ黄色よりも上品なかんじがした。

その後暫く観察に行っていないが、そのまま生えていて欲しいものだ。

 

日本列島の西と東では、言葉にも文化にも違いがあり、よく納豆やうなぎのさばき方の違いは話題になる。

タンポポにもそんな地域性があるらしい。

昭和55年の古い本だが、山本健吉氏の「ことばの歳時記」をめくっていたら、白いタンポポの話をみつけた。山本氏は長崎の生まれであり、長崎のタンポポは東京のものよりもっと白っぽくて、もっと大きかった。家族にそう言っても笑って信用しないというのだ。

それでは長崎の子供はタンポポは白いと認識していたのかというと、やはり黄色だと思っていたという。面白い話である。

その色の感じについて、白というよりクリームに近い乳白色で、芯になるにしたがってぼかしたように次第に黄色味を濃くし、中心部はまさしく黄色なのである。と表現している。まっ黄色より趣がある、とも書いている。

 

白い生物に対し、人は何か神聖な霊威のようなものを感じる傾向があるようだ。白いジャングル大帝レオ、白蛇伝、モビィデックなどが直ぐ浮かぶし、ヤマトタケルは死して白鳥になって飛び去った。いずれも並外れた能力を持ち、神話の神に近い存在である。白い動物は奇瑞として歴史書などに記録されていることもあるが、これはアルビノといわれる突然変異だと教わった記憶がある。

さすがにシロバナタンポポに対し、畏敬を感じることはないが、おやっという感動と品位のようなものを感じることは確かだ。(東日本の人だけだろうが)

黄色いはずのノゲシの白い花、青いはずのムラサキツユクサの白い花を見つけたとときも、やはりある種の感動を覚えた。

 

ノゲシの白い花

シロバナタンポポは、アルビノが種として固定したのかどうかは知らないが、もともとタンポポは容易に変種が広がりやすく、タンポポ属は400種にもおよび、日本では22種が野生するという(「日本の野草」山と渓谷社)。

植物分類学者の大場秀章氏の「道端植物園」によれば、分類学では、区別できるタンポポを次々と区別してきて、今日まで3000に近い種を区別してきた、とご自分でも驚いておられる。信じられない数字である。

分類学は区別するのが仕事だから細かい区別にも意味があるかもしれないが、普通の人にはセイヨウタンポポと在来のカントウタンポポ、カンサイタンポポの違いも判らない。区別しなくても困らないものは区別しないのが、人間の認識方法なのだ。・・・22種など区別できるわけがない、などと、判らない苛立ちを抑えて強がりを言うくらいが、タンポポに関しては実情なのでありました。


(参考)
大場秀章:「道端植物園」(平凡社新書)