野草随想93
ブドウは蛇が守る
23.08.12
袋掛けしたての軒先
8月にはいり、ブドウが軒先で実り始めると、待っていたように鳥が食べに来る。今年は70房ほど袋かけをしたが、もう10房ほど食べられてしまった。紙袋を割いて中をしっかり食べ、きれいに一粒ずつ皮を吐き出して、芯だけが残されている。もちろん袋掛けしてないものは、まっ先にやられてしまった。
おそらくヒヨドリの仕業だろうと、私は考えているが、
いや、この食べ方はハクビシンだ。
という人もいる。
私も以前は、ハクビシン説に傾いて、ブドウの木にセンサー付きのライトをつけた。何かが動けば、それを察知してパッとライトがつく仕掛けで、以後、確かに被害がなくなった。
ただ、木の葉が風に揺れるのも察知してその都度点くものだから、一晩中、ちょこちょこと点灯するので、はずしてしまっていたのだが、昨年あたりからまた、被害がひどい。
いったい誰が犯人なのか、実のところ確認してはいない。
早朝ようやく明るくなる4時過ぎ、そっと覗いてみるが、分からない。が、起きだして調べてみるともうやられている。
仕方ないので防鳥ネットを張ることになるが、これが実に厄介で大仕事なので、なかなか腰が上がらない。先日やっと思い立って作業をした。たった一株なのだが、縦横に枝が伸びていて、全体を覆うのは至難の業である。一本でこの始末だから、ブドウ農家の苦労は察するに余りある。
で、全体の三分の一ほど、特に色づきの早い被害のある部分をすっぽりと覆って、
とりあえずは、いいだろう・・・
などと、安堵していたのだが、翌朝見ると、その覆った部分がしっかり食べられている。ネットの脇や上の隙間、ネットの外からつついたに違いない。
これには頭に来てしまった。まったくバカにされている。
絵の具でちょっと色付け
蛇でおどろかそう。
と、不意に思いついた。蛇は山の神、水の神である。自然を支配し、人に崇められる存在である。これ以外にない、という変な確信がわいてきた。
ということで、蛇のおもちゃを探すことにした。
こうした手のものは、昔風のおもちゃ屋か駄菓子屋だろうと見当をつけて、近所を探してみたが、意外にも小さなおもちゃ屋が近所に全くない。30年ほど前に住んでいた町に駄菓子屋があったのを思い出して、いってみたが、
「誠に勝手ですが、しばらく閉店します」と、張り紙があった。
駄菓子屋も、小さなおもちゃ屋も町から姿を消してしまったのか。
子どもたちはどこで何を買っているのだろう。ゲーム機とテレビのキャラと無菌のおもちゃなのか。私は、改めて時代の流れを感じて、変に取り残されてしまったように気分になった。
大型店には期待しなかったが、それでもトイザラスに行って店員に尋ねると、だいぶ待たされてから、「あつかってません」。
ネットを調べると、意外に少なかったが、それでも2,3は見つかった。だが、これしきのものその辺にあるはずだ、と少しムキになって店舗を探して、下町のお店を探して5店ほど訪ね歩いた。
おもちゃ屋の狭い入口から、暗い奥を覗きこみ眼が慣れるのを待って、店舗に入ると、たいてい、おばあさんが椅子に座ってこちらを見ている。そして、
はい・・・、
と、いぶかしげな顔をして立ってくる。不思議なくらい共通している店舗のイメージである。夏休みなのに子供は一人もいない。どの店舗も、あと数年で店じまいだなと思わせる。
「蛇を探してくるお客さんもいるんですが・・・」
「この頃、中国から輸入しないんでね。」
などと言いながら、あちこち引出しを引っ張りだして探している。ある店で、
「これは大きすぎるかね?」と、見せられたのは、2mほどもある大蛇で、太さがバットほどで、値段も2,3000円する。さすがにそれは無理だと断った。
こんな蛇は、おもちゃというよりは宴会用の、びっくり商品の扱いのようだ。いわばゲテモノであってお母さん方の評価する、健康なおもちゃではないのだろう。でも本当に不要なのか。
今、日本のこどもたちはゲーム機をもって歩き、iPadを自由に繰り、匂いも感触もない画面で世界中の知識に溢れている。加えて病的な清潔さに包まれている。
しかし、湿ってどろどろした草むら、蛇やムカデやカエルやナメクジ、蜂やアブや蚊。都会を一歩出ればこれが自然そのものである。少しも綺麗なものではないし、人間の味方ばかりではない。
10mの津波は想定外にしても、自然と人間の生活空間は踵を接していて、うまく距離を保ちながら共存するほかないのである。
この距離感を伝えてくれるのが、ゴムの蛇が代表するゲテモノおもちゃなのだ。
これがおもちゃ屋の片隅に置かれるだけで、異質な異次元の世界が、生活の直ぐ隣にあることを、子どもたちに向けて強烈にメッセージ発信することができる。世界認識の深さと複雑さに直結するのだ。こうしたびっくり商品を不健全視して、世の中からなくしてしまうことのないよう願いたい。
などと思いながら、5軒目でやっと手に入れることができた。そこは駄菓子に卸しをしているようなおもちゃ屋だった。ここにあるよ、とおばさんが示した箱の中には、黒い蛇がびっしり詰まって、とぐろを巻いている。一匹350円。3匹買った。
蛇は真黒でおもちゃっぽいので、水彩絵具で黄色い点々を入れると、よりリアルになった。濡れれば落ちてしまうが、それでも当座はしのげる。
それを、さっそくブドウのネットにからめて、それらしくセットして、さあ、どうなるか。
3日たったが、今のことろ食べられていない。しめしめ。
*8月30日: お陰さまで我がヘビたちは完璧に敵をシャットアウトしてくれました。その後ピタッと、食害はなくなり全量収穫しました。こんなに効果があるとは正直思いませんでした。
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