野草随想94
北海道東の湿原巡り 1
23.09.19

小雨の根室の草原 道の脇に現れたキタキツネ
9月初旬の1週間、北海道の東部をぐるっと車で走った。
長男が釧路市の近くに転勤したので、それを訪問かたがたのドライブである。
車は、嫁さんのマツダRX−8という真っ赤なロータリーエンジン車を拝借した。湘南ナンバーのおしゃれな車で、どこに行っても周りの人の目を集める。しかしそこから「よいしょ!」と降りてくるのが、田舎びた風采が上がらない老夫婦。車とドライバーがまったくのアンバランスなのだが、運転は快適だった。(だが老人にはピットのシートが深すぎて乗り降りはひと苦労だった。)走行距離は約900キロで思ったより少なかった。
さて、旅行の目的の一つは北海道の大平原の中に身をおくこと。
ついでに湿原とそこに咲く花を楽しむことだった。残念ながら花の季節は既に終わりを迎えていて、やはり10日は遅かったかな、という感じである。
それでも、各地の湿原を歩いてみた。
まず霧多布湿原。
湿原は見渡す限り地平線まで広がっていて、所々にハンノキが小さい林をなし影を落としている。ここでは湿原センターから双眼鏡で草原にいる丹頂鶴2羽を見ることができた。湿原をまっすぐに突っ切るMGロードを走ると、車はまさに大自然の中の小さい点になってしまう。取り囲む湿原の草々は葦の類の地味なイネ科がおおく、ところどころに大きなアキタブキの葉が見え、黄色いのはハンゴンソウと思われる。エゾトリカブトも紫色を点々と見せている。やがて霧が出てきて、一面に隠れてしまった。
「なるほどすごい、これが北海道の湿原なのか。」
と、感激していると、息子が
「北海道は何処へ行ってもこうだよ、直ぐに飽きて同じに見えてくるよ。」
・・・そして確かに三日目には私の目もそうなったのだった。
霧多布岬は名のとおりの深い霧で、花の少ない夏野が海になだれるように落ち込んでいる。霧の中でハマナスが咲いていて、赤い実がたくさん実っている。これをジャムにするのだと聞いて、齧ってみると、なるほどナツメのような味がする。果肉はごくわずかだからジャムを作るのは大変な手間なのだそうだ。
ハマナスの実
つぎは根室半島の北方原生花園。
道を挟んで荒れたオホーツク海が見渡せる荒涼とした平原だ。夏場はポニーが馬車を引くらしく、入り口は馬糞で一杯。それを乗り越えて木道を歩くと、エゾリンドウ、ツリガネニンジン、などが目に飛び込んでくる。
暫く花を見ていて、どうやらこの時期は黄色い花が一番ではないかと思った。
霧が草地を覆ってくると、白い花は見えないし、紫の花も沈んでしまう。しかし黄色い花は直ぐに眼に飛び込んでくるのだ。
黄色の花といえば、代表格はエゾカンゾウだろうが、咲き残ったものがぱらぱらと目に付いただけだった。写真は網走監獄の庭に咲いていたものである。ニッコウキスゲよりやや小ぶりだろうか。
エゾカンゾウ
9月まで咲いている湿原の黄色い花といえばハンゴンソウだろう。キク科の大柄な花で、いつも花には蚊の様な虫が集まって蜜を吸っていた。数年前、この花を私は富士山の周遊道で、珍しい思いで見たことがあった。
オオハンゴンソウという花もある。旅館で9月10日の釧路新聞を読んでいたら、オオハンゴンソウの駆除という記事が載っていた。オオハンゴウソウが特定外来生物に指定されていて、1980年頃から釧路湿原でも群落を作り繁茂し始めたため、それを駆除しようとボランティアが活動をしたというものだった。これも黄色い花で、私は道端で見てキクイモだろうかと思っていた。植物もやすやすと国境を越えてくる。
ほかに黄色い花を挙げると、アラゲハンゴンソウ、トウゲブキ、アキノキリンソウ、キツリフネ、クサレダマ、コウゾリナ、(センダイハギはもう見えない)などで、その他本土とは違う感じのものがあるが、詳しい図鑑がないので判別ができない。また網走のオホーツク流氷館の庭には、どう見てもセイダカアワダチソウではないかという花が、オミナエシの隣の一角に植えられていた。もしかしたらオオアワダチソウなのかもしれない。
ハンゴンソウ
野付半島は、幅100mに満たない砂州がオホーツク海に伸びだしていて、まっすぐな道が一本だけ通っているという奇観。そこを100キロで飛ばす。ここにも植物が多い。本土の亜高山の植生に近いのだろうか。オニユリだけが激しく咲いている。ナガボノシロワレモコウもサラシナショウマもピークを越えている。
雲が垂れ込めて国後島は全く見えなかった。
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