140 Communication Library
2012 ギイ HappyBirthDay♪
5つの指 令
1. まるまる一日君をちょうだい!
「託生。」
ふぃぃ〜と、バイオリンの上を力なく弦が滑る。
調弦のため顎に楽器をはさみ、弦を構えたはいいが、考え事が勝る。
どうやったら「君をちょうだい!」なんてギイに言えるものだろうか・・・。
まして相手はギイだぞ!そこを乗り越えても立山連峰のように山はそびえ続けている。
『立山連峰・・・』
ため息とともにつぶやいた。
「おい。託生!」
『はっ!ごごごごめん。ギイ!』
「立山連峰がどうした!せっかく二人きりなのに。」
ギイに聞かれてた。まあ当然のことだ。
僕はバイオリンを構えていて、何か弾くかと邪魔にならないように
単行本を広げたギイ。温室はしんと静まっていたのだから。
『ごめんね。なんでもない。今日授業で気になっただけ。何か弾こうか?』
「いや。いいけど。弾いてくれるのはうれしいが、何か話があるんだろ?」
ギイと向い合せになるベンチを手で示して座るように促す。
僕は夏休みに入ってすぐのギイの誕生日。
一緒に過ごせるか聞こうと最近ずっとタイミングを計っていた。
そうだよ!三洲君の「指令」がなかったとしても、
この日の予定は絶対に僕から聞こうと思っていたんだ。
そして今が絶好のチャンスじゃないか。
「あのね。ギイ・・・」
僕は迷った末に真正面の席には座らず、ギイの隣に座った。
さすがに顔を見ながらは聞きにくい。
ここのところの挙動不審(顔を見るなり真っ赤になって逃げたりしちゃったんだ)
今日の変な態度(立山連峰とかいっちゃったし)
いつもは向かいに座るのに(急に先生が来たら困るし!)
隣に座って口ごもる(そりゃ口籠りもするだろ…)
そんな僕に不信感を隠さず、ギイが机に肘をついてこちらを見た。
『なんだよ。』
ぶっきらぼうでも焦れた様子でもなく、ギイが続きを促してくれた。
「あのね。ギイ・・・。ギイの誕生日なんだけど。」
ちょっと驚いたように、ギイは机についた手に預けていた頭を少し浮かせる。
「もう、ここにはいないよね。日本にいる?仕事・・・とか?」
これはもう、勢いで言うしかない。ギイが何か答える前に・・・
「あ・・・。その。誕生日の日ね。」
答えようとしつつも、僕の話が続くことに気が付いているギイはじっと僕を見ている。
ううう。もう僕の視線がレーザーだったら目の前の机は穴が開いてるに違いない。
そして、ギイの視線がレーザーだったら僕の顔にも穴が開いているに違いない。
こんなに恥ずかしいことはない。(立山連峰が控えてるけど・・・)
顔が真っ赤なのを自覚しつつ。顔をあげて、口を開いた。
「その日。一日。」
僕は男らしくギイの顔を見つめ・・・
られるはずもなく。
結局、テーブルの向こうできれいに剪定された温室のバラを見つめながら
「その日のギイを、僕に、く・・・。くれない・・・?かな。」
と、呟いた。
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