140 Communication Library
2012 ギイ HappyBirthDay♪
5つの指 令
3.海に連れてって!
ギイと待ち合わせをした東京駅。
自分の誕生日だというのに、浮かれているギイは
宿泊の予約等々俺に任せろ!と、二泊三日のスケジュールを引き受けた。
終業式の後、夜の電話で、
『どこに行きたいんだ〜託生は〜』
よ、だいぶ浮かれた様子で聞いてきた。
「う・・・。海に連れてってほしいんだけど。」
僕は頑張って山を登る。
するとギイは『海ね・・・』といって黙った。
了解。任せろ!といったギイは、じゃあ待ち合わせな!と、
時間と場所を指定して電話を切った。
僕は実家から上京。ギイは東京の自宅から。
東京駅で待ち合わせしたのだ。
迷わないように有名な待ち合わせスポットで約束したのだけど、
待ち合わせ場所のオブジェよりギイのほうが目立っていて、
僕はそのオブジェをまったく見ることなく、笑顔満面のギイに捕獲された。
全く捕獲の名にふさわしい。夏休みの東京駅はお祭りのごとく混んでいて
僕はその人の波にのまれて、ギイと目が合ったままギイの前を通り過ぎたほどだ。
(で、追いかけてきたギイに捕獲された。うん。救助ともいう・・・)
東京駅のホーム密集地からなぜか遠く離れた路線のホーム
長い長い通路には人影がまばらだ。
『託生。この路線。風が強いと止まっちゃうんだぞ。』
「え〜。風だけで?」
『ほら。見てみろよ。荒川の上を通るのと、ずっと海沿いを走ってるだろ。』
ペラリと路線図を指してギイが説明する。
向かうホームから出る電車。海が見たいといったから、
房総半島のほうへ向かうのかな。
電車の旅は慣れてるし。ギイと一緒だし。
路線図を見るために、さりげなく縮まった距離。
ふわりと手が触れる。
一瞬、ぎゅっと握ってすぐに手を放す。そして笑顔。
『託生。今日の夕飯何にする?考えておけよ。』
海沿いを走り、大きな川を越えて、途中で巨大な観覧車が見えた。
「ギイ!みて!大きいね。」
『そうだな。乗ってみたいのか?』
「んー。ちょっと怖いけどなぁ。機会があったら。」
通勤の混雑にはまだ早い時間。
がらんとすいている車内。僕はすっかり景色に夢中。
ほどなくものすごく有名なテーマパークのお城やら山やらが見えてきた。
『おい。託生。降りるぞ。』
「え!?ここで?」
テーマパークが運営するホテル。
一泊いくらするやら、かなりいいお部屋じゃないのかい。ここは・・・。
真正面に・・・。お城見えてるよ?ギイ。
国内どころか世界にグループのホテルがあるギイ。
もちろん。系列のホテルに泊まれば、偉い人がぞろぞろ挨拶にやってくる。
それは以前のスキー合宿に立証済み。
『ここならあり得ないからな。夢の国だぞ。託生。』
「うん・・・。そうだね。ギイ。」
ほかの人から見たらうらやましいかもしれない。ギイの立場。
重くて重くて、逃げたくなるような。ギイの立場。
僕には想像もつかない。
でも、「そういう場」に居合わせてしまえば、目の前に突きつけられるのだ。
僕とギイの間にあるその。太平洋よりも広く大きいかもしれない何かを。
ギイが避けようとしているのは、たくさんの人が押し掛けてくるわずらわしさではなく
プライベートな時間をつぶされることでもなくて、
僕がその現実を目の当たりにしてしまうことなんだ。
僕はテラスに出て遠くから聞こえる歓声やパークに流れる音楽を聴く。
そんないろんなわずらわしいことから、一日だけ。一晩だけでいい。
逃れられる夢の国。
目の前のパークの門をくぐれば、文字通りの夢の国がある。
ギイ。君がいるから、僕にとっては祠堂も夢の国だよ。
つらいことがあっても。一緒にいられなくても。
ギイを感じることができる場所。
★★★★★
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